それではどうぞご覧ください。
「カナタさん、またアブゾウルの奴が出たらしいな」
「全く昨日に引き続き懲りない奴らだよ」
冴月とカナタは今朝のニュースを見て家を飛び出していた。
天報市に再び"怪人"が現れたというニュース。人々が怪人と思っているそれは未来人。
あの醜悪な見た目で未来から来た人間だと誰も思いもしなければ、話したとて信じはしないだろう。
「ん……?」
現場に着いた彼らは倒壊したビルの中から現れたアブゾウルの姿を見て驚いた。
昨日の戦いで処刑された筈の蜘蛛のアブゾウルだったからだ。
「あんたどうしてここに……」
「………………ッ!!」
蜘蛛のアブゾウルは憎き声が聞こえた途端、全身の毛が逆立ち、その毛はスーツを突き破り鋭く硬い棘へと変化する。まるで怒りを体現したかの様だ。
赤くなった目を血走らせ、彼らに向かって獣の様に6本の腕を使って飛び掛かる。
「カナタさん、危ないッ!」
瞬時に冴月はカナタを押して横に避けさせ、腰にボルテクスドライバーを装着し、同時に人差し指にサンダーツキサックを嵌め込む。
左手でボルテクスドライバー上部のボタンを押し、画面をタップ。
《ライディング!》
《サンダー!》
ドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッ、ドドッ──────。
心臓の鼓動の様な待機音が鳴り響く。
左手を開いて前に突き出し、それからその手を握って胸に当てる。心臓をナイフで突き刺す様な動作を取って叫ぶ。
「変身ッ!!」
サンダーツキサックを嵌めた指で画面をスワイプ。
画面中央に現れた線が激しく波打つ。心電図の様に規則的に並び、最後に中央部が稲妻のマークを形成。
赤い角と肩の装甲、青い仮面とボディに装甲。稲妻の様な黄色い瞳。胸の稲妻状の装甲が最後に形成される。
《仮面ライダー!サンダー!ゴー!ゴー!ボルテクス!》
仮面ライダーボルテクス サンダーマーク。
「貴様……貴様だけはァッ!!」
飛び掛かるアブゾウルにボルテクスは身体を捻って回避。
肩に強烈なパンチを浴びせようとするが、その手がピタリと止まった。
「あぶなッ」
すんでの所ではあった。先ほど蜘蛛のアブゾウルの身体は変化していた。
全身の毛が棘に変化し、迂闊に近づけない状態となっており、もし殴っていれば拳を棘が貫通していただろう。
ボルテクスは様子を見ようと一定の距離を取る。
「逃さんぞ!」
だが、それを怒り狂うアブゾウルが許す筈もなく、彼は口から糸を噴射してボルテクスを捉える。
その糸を引っ張って徐々に自分の方へジワジワと近づけさせる。
「くっ、カナタさん!雷なら電気ショックみたいなことはできないのか!?今相当なチャンスだろ!」
それを聞いたカナタは首を横に振る。
「できない」
「できない!?」
「できないと言っては語弊があるな……できるが必殺技くらいじゃないと出せないが正解だね」
「なんで必殺技オンリーなんだよ!」
「奥の手感があるだろう!!?」
すると、急にボルテクスの身体が宙へと浮かぶ。
黙って聞く筈もないアブゾウルが、力の限り引っ張り一気に自分の元へと近づかせた。
「串刺しになれッ!!過去の異物がァッ!!」
「うっ……!!」
眼前に迫る鋭い棘。この体勢で突き刺されば致命傷となる。
空中で回避しようがないのなら、と彼は腕を伸ばす。
「うおおおおおおおおッ!」
ボルテクスは両手で肩の1番大きな棘を掴み、間一髪で串刺しなる所を回避する。
そのまま身体を捻ってアブゾウルを回転させ地面に伏せる。
「はぁ……はぁ……ギリギリだった……」
「身体能力や感覚が向上しているからね。これくらいは朝飯前なんだよ」
「……全く調子の良い事を言ってくれるな」
そしてボルテクスは倒れたアブゾウルの頭を掴み、無理やり立たせ、棘のない顔面に強烈なパンチを喰らわせる。
「ぷぎゃッ……!!」
また距離を取れたが、先程と同様に蜘蛛の糸による拘束が行われるだろう。
「カナタさん。なんか策はないのか」
「一応ボルテクスの装甲であれば棘が貫通する事はないが……奴の毒による攻撃が来たら厄介だろう」
「毒か……そういえばそんな攻撃してきたな」
「糸に棘に毒。多くの武器を使用すると言うなら、こちらもこれを使うしかない様だね」
カナタはノートパソコンを取り出し、何かを入力すると彼女の目の前に両側が打撃部分となったハンマーが現れる。
彼女はそれを重そうに持ち上げると、ボルテクスに手渡した。
「これは……」
「"ファイブニルハンマー"。要はボルテクスの専用武器だよ」
ファイブニルハンマーと呼ばれるそれは持ち手に対して頭部分が大きい以外の特徴がないと思っていたが、裏返すとボルテクスドライバーと同様の液晶画面がついていた。
「なるほど……そういうことか」
「これなら棘を怖がる必要ないだろう?もっとも私の開発したボルテクスが負けるはずがないがねぇ!」
「それじゃあ……今が攻め時か」
ボルテクスがハンマーを構えた時、アブゾウルは口から糸を噴射。
それを屈んで回避し、一気に近づく。
「過去人の分際でぇッ!!」
雄叫びを上げるアブゾウルは口から緑色の毒液を弾丸の様に放ってきた。
1番厄介な毒液だ。
「冴月!ファイブニルハンマーの画面をタップしてスワイプしたまえ!」
「こうか!」
攻撃を避けつつ、カナタの言う通りファイブニルハンマーを操作すると、ハンマーがバチバチと音を立てて電気を放出する。
「うおっと!」
その雷を纏ったハンマーを振るい、飛んできた毒液に当てると跡形もなく吹き飛んだ。
「……よし、これなら心配無用か!」
もう既に恐れるものは無くなった。
ボルテクスは臆することなく突き進み、やがてアブゾウルに辿り着く。
そして容赦なく腹部にハンマーの一撃を浴びせると、奴はくの字に身体を曲げて吹き飛んだ。
「はぁッ!!」
ボルテクスは雷の様な速度で近づき、アブゾウルに繰り返しハンマーを叩きつける。
それにより飛び出した棘はみるみるうちに砕け散り、いつしか元の姿と遜色ない姿となった。
勝機と見たボルテクスはハンマーの液晶画面を2回タップし、スワイプ。
「ボルテクスドライバーと一緒なら音声認識なんだろ!?」
「勿論だとも」
「なんて言う?」
「『ブットバースト』」
「くそおおおおおおおおおおおッ!!」
顔を真っ赤にしながら「ブットバーストッ!!」とヤケクソになりながら叫ぶと、ハンマーが激しく雷のエネルギーを放出。
天高くハンマーを振り上げ、アブゾウルに強烈な一撃を喰らわせる──────筈だった。
《サンダー!ブットバースト!》
「────────っ!!」
だが、その一撃がアブゾウルを捉える事はなかった。
何故ならボルテクスがアブゾウル、ではなくその横の地面に向けて必殺技を放ったからだ。
これには思わずカナタも叫んだ。
「ど、どうしてなんだ冴月!」
「悪いなカナタさん……こんな土壇場でビビったよ」
もし今、必殺技を食らわせ様ものなら、目の前にいるアブゾウルは未来へと返されてしまい処刑される。
本人は覚悟していたつもりではあるが、いざとなると手が出なかった。今を大事にする彼にとって、他人の今を奪う事はどうしてもできなかった。
「畜生の集まりみたいな奴らなのに……くそっ」
「冴月……」
これに対してアブゾウルは安堵の表情を浮かべそうになったが、逆に穢れた過去人から情けを掛けれた事がたまらなく悔しかった。
そしてそれは怒りへと変化し、鋭い爪をボルテクスの首元目掛けて突き出した。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
「しまったッ……!!」
だが、その攻撃は彼の前でピタリと止まった。
蜘蛛のアブゾウルは身体を激しく震わせる。何かに怯えている様だ。
「そ、そんな……私はっ……まだぁ……ッ!!」
「ど、どうしたんだ?」
「ああッ……!!」
彼の頭に恐ろしく澄んだ声が響く。
────────全生命とは一体何を指していたんだ?お前には未来人としての誇りはない様だ。
────────無様に散るがいい。
謎の声が言い終わったタイミングで彼の身体は崩壊を始める。
「いだっ、あ"ぁッ……!!ゆ、ゆる……っし、でえ"ッ……!!」
「お、おい!どうしたッ!?」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッッッ!!!─────────」
そしてアブゾウルはこの世の何よりも苦痛な死を遂げて消滅した。
何事もなかったかの様な静寂は訪れる。
「カナタさん……これは……?」
「………君は私に聞いたね。未来に強制的に返す事は実質的に自分たちが殺していることにならないかと言う事を」
「あ、ああ……」
「都合のいい事を言う様だが、あれは……慈悲でもあるんだ」
「慈悲?」
「そうさ。未来へと返されたアブゾウルは処刑が待っている。一瞬で終わる様な呆気ないものさ。あまり苦しまずに逝く事ができる……ただ抵抗や2度の失敗は普通に死ぬよりも苦痛な死を遂げる。これはまだ序の口で死ぬ事が救いと言える程、地獄の様な所業を奴らは平気でやるんだ」
「……カナタさん、あんた未来人とは言えど、やけにアブゾウル内部に詳しいが……」
「また今度話すとしよう。君には知る権利があるからね……それといつまでもここにいると厄介な事になってしまうよ」
そう言ってカナタが指をさすと、警察や消防などが集まってきていた。
「はぁ……わかった。また今度聞かせてもらう」
死は救い。と、都合が良く聞こえるが、アブゾウルにとっては誇りであり救済。
彼らにとっての救いは、冴月にとっての本当の救いと呼べるのだろうか。
覚悟を持つ事は容易い事ではない。だが、待たなければならない。
この先、数えられない程の未来人と戦わなければならないのだから────。
皆にとっての明るい未来は来るのでしょうか。
次回、第5話「アメ模様」
次回もよろしくお願いします!!