魔法を持たない幼なじみがいた   作:曇り時々曇り

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第十六話 始まる場所

 朝の光が、真新しい隊舎の窓から差し込んでいた。

 

 磨かれた床。

 

 まだ使われた跡の少ない机。

 

 廊下を行き交う制服も、交わされる挨拶も、どこか新しい。

 

 古代遺物管理部、機動六課。

 

 八神はやてが長い時間をかけて準備してきた部隊は、この日、正式な稼働を迎えた。

 

 隊舎の一室に、所属する者たちが集まっている。

 

 前に立つはやては、いつもの柔らかな笑顔を浮かべていた。

 

 けれど、その背筋は真っすぐ伸びている。

 

「本日より、古代遺物管理部機動六課は正式に活動を開始します」

 

 室内の視線が、一斉にはやてへ集まった。

 

「うちらが担当するんは、ロストロギアの捜索、確保、それに関連する事件への対応。とくに、レリックと呼ばれる古代遺物が主な対象になります」

 

 レリック。

 

 それが何を引き起こすのか。

 

 誰が、何のために集めているのか。

 

 まだ分かっていないことは多い。

 

「新設部隊やから、最初はうまくいかへんこともあると思います。せやけど、一人で全部できる人を集めたつもりはありません」

 

 はやては、一人ずつ顔を見る。

 

「できへんことを、できる誰かへ渡せる人。渡されたものを、次へつなげられる人。そういう人たちと一緒に、ここを始めたいと思っています」

 

 高町なのは。

 

 フェイト・T・ハラオウン。

 

 ヴィータ、シグナム、シャマル、リインフォースⅡ。

 

 それぞれが、言葉を受け取るように頷いた。

 

 列の後方では、スバル・ナカジマが緊張で肩を固くしている。

 

 隣のティアナ・ランスターは前だけを見ていたが、右手が何度も制服の裾を直していた。

 

 少し離れたところには、エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエが並んでいる。

 

 二人とも、まだ周囲の誰とどれほど近くに立てばいいのか分からないようだった。

 

「部隊長、長いぞ」

 

 ヴィータが小さく言った。

 

「今ええところなんやけど」

 

「新人が息止めてる」

 

 指摘され、はやてが列を見る。

 

 スバルが慌てて息を吸った。

 

「す、すみません!」

 

「謝らんでええよ。緊張させてもうたんは、うちの方やし」

 

 室内に小さな笑いが起こる。

 

 張り詰めていた空気が、少しだけほどけた。

 

「ほんなら最後に一つだけ」

 

 はやてが改めて全員を見る。

 

「必ず、帰ってきてください」

 

 冗談ではなかった。

 

 短い言葉を残し、はやては一礼した。

 

「機動六課、始動です」

 

     ◇

 

 初日の訓練場には、四人の新人が並んでいた。

 

 スバルとティアナ。

 

 エリオとキャロ。

 

 同じ部隊へ配属されたフォワード陣だが、四人全員が顔を合わせるのは、これが初めてだった。

 

「スバル・ナカジマです!」

 

 スバルが勢いよく手を差し出す。

 

「近代ベルカ式で、拳とローラーが武器。前で殴るのが得意です!」

 

「説明が雑すぎる」

 

 ティアナがすぐに訂正した。

 

「ティアナ・ランスター。射撃と幻術を使うわ。こっちは放っておくと一人で突っ込むから、巻き込まれそうになったら遠慮なく止めて」

 

「ティア、初対面でそれ言う?」

 

「事実でしょ」

 

「否定はできないけど……」

 

 エリオが二人のやり取りを見て、わずかに笑った。

 

 そのことに気づいたキャロも、肩の力を抜く。

 

「エリオ・モンディアルです。近接戦闘と、槍を使います。よろしくお願いします」

 

「キャロ・ル・ルシエです。召喚と、補助魔法を使います。あの、私にできることがあったら、言ってください」

 

 最後の声は少し小さかった。

 

 スバルは差し出したままだった手を、今度はキャロの前へ持っていく。

 

「じゃあ、最初に握手しよう」

 

「握手、ですか?」

 

「同じチームになるんだから」

 

 キャロがおそるおそる手を重ねる。

 

 スバルが強く握りすぎる前に、ティアナがその手首を叩いた。

 

「痛がらせない」

 

「まだ何もしてないよ!」

 

「これからする顔だった」

 

 エリオも手を重ねる。

 

 最後にティアナが、仕方なさそうな顔で加わった。

 

「仲良くなるのが早いね」

 

 聞こえた声に、四人が振り返る。

 

 訓練用の防護服をまとったなのはが、少し離れた場所に立っていた。

 

 その隣では、シャリオ・フィニーノが端末を抱えている。

 

「今日は、四人が一緒に動くための最初の訓練です」

 

 なのはが訓練区画の中央へ進む。

 

「一人ずつの得意なことは、資料で確認しています。でも、資料に書いてあることと、実際に一緒に動けることは別だから」

 

「私も、みんなのデバイスを調整するためのデータを取らせてもらうね」

 

 シャリオが端末を操作する。

 

 遮蔽物。

 

 狭い通路。

 

 足場の悪い区画。

 

 訓練場が、簡易的な市街地へ姿を変えていく。

 

 その各所へ、八体の機械型ターゲットが放たれた。

 

 円筒形の身体。

 

 宙を漂うための小さな翼。

 

 実戦で確認されているガジェット・ドローンを模した訓練機だった。

 

「私たちがロストロギアを追うとき、戦う可能性が高い相手です。自律行動型の魔導機械で、近づけば攻撃してきます」

 

 なのはの説明に合わせ、ターゲットの一体が光弾を発射する。

 

 光弾は離れた標識へ当たり、訓練用の障壁に吸収された。

 

「攻撃精度は訓練用に落としてあります。でも、当たれば痛いから気をつけてね」

 

 四人の表情が引き締まった。

 

「第一回模擬戦訓練。逃走するターゲット八体を、破壊または捕獲してください。制限時間は十五分」

 

「八体を、十五分……」

 

 ティアナが配置を確認する。

 

「質問は?」

 

「ありません!」

 

 四人の声が重なった。

 

「それでは――ミッション、スタート!」

 

     ◇

 

 開始の合図から十秒後。

 

 スバルとエリオは、別々のターゲットを追っていた。

 

 右へ逃げた一体をスバルが追う。

 

 左の建物の隙間へ入った一体には、エリオが向かう。

 

 どちらも速い。

 

 しかしターゲットは、一定の軌道を持たず、風に流されるように進路を変える。

 

 スバルの拳が空を切った。

 

 エリオの槍も、機体の下を通り過ぎる。

 

「だめだ、動きが読めない!」

 

「二人とも離れすぎ!」

 

 ティアナが通信で叫ぶ。

 

「追うだけじゃ散らばる! こっちへ追い込んで!」

 

「了解!」

 

 返事をしたスバルの前で、ターゲットが急上昇した。

 

 ウイングロードを展開し、その後を追う。

 

 青い道が空中へ伸びる。

 

 だが、ターゲットの周囲へ近づいた瞬間、道を構成していた魔力が乱れた。

 

「うわっ!」

 

 足場を失ったスバルが、建物の壁へ肩からぶつかる。

 

 転落する前にローラーを壁へ当て、どうにか姿勢を戻した。

 

「スバル、大丈夫?」

 

 なのはの声が通信へ入る。

 

「はい! ちょっとぶつけただけです!」

 

 同じ頃、ティアナの射撃が一体を正確に捉えていた。

 

 着弾する。

 

 その直前、ターゲットを覆う不可視の領域が弾丸を削り取った。

 

 橙色の光が、何もない空間で消える。

 

「バリア?」

 

「違います」

 

 キャロが杖を握ったまま答えた。

 

「フィールド系です。攻撃が当たる前に、魔力そのものを消しています」

 

『そのとおり』

 

 なのはの声が聞こえる。

 

『ガジェットが持つアンチ・マギリングフィールド。普通の射撃だけじゃなく、近くでは足場や飛行用の魔法も維持しにくくなるよ』

 

「先に教えてくださいよ!」

 

 壁へぶつけた肩を押さえながら、スバルが叫ぶ。

 

『知らない相手に、知っている方法だけで挑まない。今ので覚えたね』

 

 穏やかな声だった。

 

 しかし、時間は止まってくれない。

 

 八体のターゲットは、それぞれ別の方向へ逃げ続けている。

 

「残り十二分!」

 

 シャリオの声が響いた。

 

「ティアナさん」

 

 キャロが消えた弾丸の場所を見つめている。

 

「試してみたいことがあります」

 

「私も。まず、できることを全部出す」

 

 ティアナは前方の二人へ通信をつないだ。

 

「スバル、エリオ。倒そうとしなくていい。八体を逃がさないように、同じ区画へ追い込んで!」

 

「やってみます!」

 

「了解!」

 

 一人で倒せないなら、倒せる場所へ集める。

 

 四人は、そこで初めて同じ目標へ向かって動き始めた。

 

     ◇

 

 同じ映像を、遠い研究施設でも誰かが見ていた。

 

 正規の訓練記録ではない。

 

 外部から拾われた断片的な観測映像だった。

 

 音声には雑音が混じり、映像もところどころ欠けている。

 

 それでもクオンは、画面から目を離さなかった。

 

「正式に始まったようだね」

 

 スカリエッティが椅子に座ったまま言う。

 

「はい」

 

「八神はやての機動六課。君が見ていた四人も、無事に集まった」

 

「無事ではありません」

 

「おや?」

 

「スバル・ナカジマが、右肩を壁へぶつけました」

 

 映像だけでは、本人たちも気にしていない程度のものだった。

 

「怪我と呼ぶほどではないと思うが」

 

「怪我かどうかは、痛くない人が決めることではありません」

 

「なるほど」

 

 スカリエッティが楽しそうに笑う。

 

 その後ろで、何かが床へ落ちた。

 

 鈍い音。

 

「くそっ!」

 

 ノーヴェが仰向けのまま天井を睨んでいる。

 

 訓練用の柔らかい床には、何度も身体を打ちつけた跡が残っていた。

 

「今のは右手をついていません」

 

 クオンは画面を見たまま告げた。

 

「見てねえだろ!」

 

「見ています」

 

「ずっとそっち向いてたじゃねえか!」

 

「音と魔力の動きで分かります」

 

「腹立つな、お前!」

 

 ノーヴェが跳ね起きる。

 

 右手首の痛みは、もう残っていない。

 

 それでもクオンは、その日の訓練を受け身だけに限定していた。

 

 倒れる。

 

 受ける力を肩から背中へ流す。

 

 頭を守り、手首をつかず、次に動ける姿勢で止まる。

 

 繰り返しているのは、それだけだった。

 

「もうできてんだろ」

 

「できることと、失敗しないことは違います」

 

「あの白仮面にも同じこと言われた」

 

「ストライクですか?」

 

「名前はどうでもいい。あいつに言われたからやってるんじゃねえぞ」

 

「はい」

 

「次に会ったとき、同じやられ方をしないためだ」

 

「はい」

 

「分かってんのか?」

 

「次は、倒されたあとも戦えるようにするのですね」

 

 ノーヴェは返事をしなかった。

 

 代わりに、床を蹴る。

 

 ローラーを使わない、短い踏み込み。

 

 クオンの肩を狙って拳を伸ばす。

 

 クオンは一歩だけ横へ動き、手首へ触れた。

 

 力の向きが変わる。

 

 ノーヴェの身体が前へ投げ出された。

 

 顎を引く。

 

 右手を引く。

 

 肩から入り、背中へ衝撃を流す。

 

 床を一度転がり、片膝を立てて止まった。

 

 すぐに顔を上げる。

 

 クオンは、もう追撃できる距離にいなかった。

 

「遅い!」

 

「はい」

 

「そこは褒めろよ!」

 

「綺麗に転べました」

 

「その言い方はやめろ!」

 

 スカリエッティの笑い声が、研究室に響いた。

 

     ◇

 

 訓練場では、スバルとエリオが散らばったターゲットの進路を絞っていた。

 

 エリオが橋の上へ回り込み、ストラーダを床へ突き立てる。

 

 砕けた足場を避け、二体のターゲットが上昇した。

 

「スバルさん、そちらへ行きます!」

 

「任せて!」

 

 スバルが壁を蹴り、上空の一体へ飛びつく。

 

 周囲のAMFが、拳に集めた魔力を削っていく。

 

 それでも、リボルバーナックルの回転と身体の重さまでは消せない。

 

「だったら――直接!」

 

 拳が機体を地面へ叩き落とした。

 

 一体目が停止する。

 

「物理攻撃なら通る!」

 

 ティアナが叫ぶ。

 

 別方向へ逃げようとした二体を、エリオが槍の柄で押し戻す。

 

 仕留めようとはしない。

 

 ティアナとキャロが待つ区画へ、逃げ道を限定していく。

 

「フリード、お願い!」

 

 キャロの肩から、小さな竜が飛び立った。

 

 放たれた炎が、ターゲットを直接焼くのではなく、その進路を塞ぐ。

 

 機体が散る前に、キャロの足元へ召喚陣が開いた。

 

 地面から伸びた鋼の鎖が、複数の機体へ絡みつく。

 

 AMFに触れた部分から魔力が削られる。

 

 それでも鎖はすぐには消えない。

 

 動きを止めるには、充分だった。

 

「捕まえました!」

 

「そのまま押さえて!」

 

 ティアナはアンカーガンを構えている。

 

 橙色の魔力弾。

 

 その外側を、もう一層の弾殻が覆っていた。

 

 AMFへ触れれば、外側から削られる。

 

 ならば、中心へ届くまで壊れない厚みを作る。

 

「射撃型が、射撃を消されたくらいで――」

 

 照準の先で、ターゲットが鎖を振りほどこうとしている。

 

「諦められるわけないでしょ!」

 

 引き金を引く。

 

 放たれた弾丸は、不可視の領域へ触れた。

 

 外殻が砕ける。

 

 その内側から、無傷の魔力弾が飛び出した。

 

 一体。

 

 軌道を変えて二体。

 

 逃げた機体も追い、連続して撃ち抜いていく。

 

「多重弾殻射撃……」

 

 観測していたシャリオが目を見開いた。

 

「あのデバイスで、もう使えるんだ」

 

 最後の一体が高度を上げる。

 

 エリオがその下へ走り込み、逃げる方向を変えた。

 

 スバルが正面へ回る。

 

 キャロが二人の動きを補助する。

 

 ティアナの照準が、進路の先へ置かれた。

 

 橙色の弾丸がAMFを抜ける。

 

 八体目が停止した。

 

『全ターゲットの停止を確認』

 

 シャリオの声が訓練場へ響く。

 

『ミッション、コンプリート!』

 

 終了を告げる音が鳴った。

 

 ティアナがその場へ膝をつく。

 

 キャロも息を切らしながら、隣へ座った。

 

「やった……」

 

「やりましたね」

 

 遠くからスバルが駆けてくる。

 

 エリオも続いた。

 

 四人は疲れ切っていた。

 

 それでも、誰も途中で欠けていない。

 

「みんな、お疲れさま」

 

 なのはが四人の前へ降りる。

 

「最初はどうなるかと思ったけど、自分たちで方法を見つけられたね」

 

「先にAMFのことを教えてくれてもよかったと思います……」

 

 肩を押さえたスバルが、不満そうに言う。

 

「ごめんね。でも、次に会う相手が、先に能力を教えてくれるとは限らないから」

 

「それは、そうですけど」

 

「それより、肩を見せて」

 

「平気です!」

 

「平気かどうかじゃなくて、痛いところ」

 

 スバルが一瞬、言葉を止めた。

 

「……少しだけです」

 

「うん。あとでシャマル先生に見てもらおう」

 

 なのはは残る三人にも、順番に痛む場所がないか尋ねた。

 

 大きな怪我はない。

 

 魔力の消耗と、小さな打撲だけ。

 

「十五分休んだら、今の動きを最初から確認します」

 

「まだやるんですか!?」

 

 スバルの声が裏返る。

 

「初日だから、軽めにね」

 

「これで軽め……」

 

 ティアナが呟く。

 

 四人は顔を見合わせた。

 

 それから、誰からともなく笑った。

 

     ◇

 

 同じ頃。

 

 はやてとフェイトは、中央議事センターにいた。

 

 説明するのは、第一種捜索指定を受けたロストロギア――レリック。

 

 高密度のエネルギーを内包する結晶体。

 

 発見例の多くが、大規模な災害や違法研究の痕跡と結びついている。

 

 そして事件の後には、足跡を消すように放棄された研究施設が残される。

 

「機動六課は、レリックの確保と関連事件への即応を目的にしています」

 

 はやてが説明を終える。

 

 質問へ答え、資料を示し、必要性を一つずつ言葉にする。

 

 自分たちの部隊が動くためには、戦場以外でも戦わなければならない。

 

 隣に立つフェイトは、そのすべてを支えた。

 

 長い説明を終えて外へ出たときには、空が夕方の色へ変わっていた。

 

「初日から遅うなってもうたな」

 

「でも、伝えることは伝えられたと思うよ」

 

「せやな。あとは、みんなが無事に初日を終えてくれたら満点や」

 

 その願いは叶った。

 

     ◇

 

 説明に使われた資料は、会議の終了と同時に中央保管領域へ送られた。

 

 参加者。

 部隊編成。

 指揮系統。

 緊急出動時の承認経路。

 

 新設部隊を監査するため、複数の部署へ共有される情報だった。

 

 その一つが、地上本部監察部門の端末で開かれる。

 

 認証は有効。

 閲覧理由は、定期監察。

 閲覧者欄には、監察部門の共有権限だけが記されている。

 

 戦力評価の項目は開かれなかった。

 

 代わりに、人員配置と補給経路、指揮権限だけが複製され、監察部門のさらに内側へ送られる。

 

 報告欄には、短い文が残された。

 

 機動六課の正式稼働を確認。

 部隊構成および指揮系統の監察を継続する。

 

 資料は閉じられた。

 

 中央保管領域には、定期監察が一件行われたという、正規の記録だけが残った。

 

 夜。

 

 八神家の食卓には、いつもの顔が揃っていた。

 

 シグナム。

 

 ヴィータ。

 

 シャマル。

 

 ザフィーラ。

 

 リインフォースⅡ。

 

 遅く帰ったはやての分まで、夕食は温かいまま残されていた。

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい、はやてちゃん」

 

 シャマルが椅子を引く。

 

「新人どもも、なんとか初日を終えたぞ」

 

 ヴィータが言う。

 

「なのはの訓練で立って帰れたなら、上出来だ」

 

 シグナムが真顔で頷いた。

 

「二人とも、なのはちゃんを何やと思ってるん?」

 

「優秀な教導官だ」

 

「訓練好きの教導官」

 

「だいたい同じやな」

 

 はやてが笑う。

 

 新しい部隊が始まった日も、帰ればいつもの食卓があった。

 

 リインフォースⅡが、自分の身体ほどもあるミニトマトを両手で抱える。

 

「リイン、それ一個でお腹いっぱいになるんと違う?」

 

「大丈夫です。今日はお祝いなので食べます!」

 

 家族の笑い声が、食卓へ広がった。

 

     ◇

 

 遠い研究施設では、訓練記録の再生が終わった。

 

 クオンは、暗くなった画面を見つめていた。

 

「どうだった?」

 

 スカリエッティが尋ねる。

 

「治療を必要とする負傷者はいません。全員、帰りました」

 

「訓練なのだから、当然では?」

 

「当然かどうかを確認しました」

 

「あれは、彼らの帰る場所になりそうかい?」

 

 クオンはすぐに答えなかった。

 

 痛む場所を確認する大人がいた。

 

 無理を続けさせず、休ませる者がいた。

 

 最初に失敗した方法を責めず、次の方法を考えさせた。

 

 訓練を終えた四人は、誰一人欠けずに戻っていった。

 

「まだ、始まったばかりです」

 

「慎重だね」

 

「確認が足りません」

 

 訓練場の隅では、ノーヴェがもう一度立ち上がっていた。

 

「次、やるぞ」

 

「休憩が必要です」

 

「まだ動ける」

 

「動けることと、休まなくていいことは違います」

 

「面倒くせえ!」

 

 そのとき、研究室の画面が一斉に切り替わった。

 

 複数の警告表示。

 

 市街地付近で確認された、機械型の反応。

 

 その中心には、小さな赤い光が示されている。

 

 スカリエッティの笑みが深くなった。

 

「どうやら、彼らの次が始まるようだ」

 

 クオンは赤い光を見る。

 

 機動六課は始まった。

 

 そこが帰る場所になるのかは、まだ分からない。

 

 だから。

 

「確認を続けます」

 

 九歳の少年は、静かに告げた。

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