魔法を持たない幼なじみがいた   作:曇り時々曇り

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第三十四話 通さない理由

 地下水路の最初の扉を開けると、向こう側の灯りが一列に点いた。

 

 誰かが侵入を知らせるために点けた灯りだった。

 

「待ち伏せはあると思う」

 

 フェイトの後ろでシャッハが剣を構える。ヴェロッサの猟犬が床に鼻を寄せ、先の曲がり角へ消えた。

 

「右の通路に熱源が二つ。片方は動かない」

 

 猟犬を追って角を曲がる。壁に小さな観測窓が並び、その奥には空の寝台が見えた。床には、運び出したばかりの機材の跡がある。

 

 シャッハが観測窓の鍵を調べる。

 

「研究区画へ続く通路は、ここだけですか」

 

「図の上ではね」

 

 フェイトは窓の向こうにある寝台の高さを見た。背の低い人間を固定するための位置に、細い跡が二本残っている。

 

 誰が使った寝台か、まだ分からない。フェイトは記録を取ろうとした。入口の扉が勝手に閉じる音がして、手を止める。

 

「私達が来ると分かって、ここを空けたのかもしれない」

 

「だったら、先には人がいる」

 

 シャッハが剣の切っ先を上げる。フェイトもバルディッシュの柄を握った。

 

 その時、壁が鳴った。

 

 シャッハが振り向く。壁の内側から伸びた手が、彼女の剣の腕を掴んだ。もう一方の手に握った刃が、肩口を裂く。

 

「シャッハ!」

 

 フェイトが駆け戻るより早く、シャッハは自分で手を振りほどいた。壁から現れたセインは床へ沈む。攻撃を受けた肩に、赤い線が広がっていた。

 

 斬りつけようとした先には、もう姿がない。セインは壁の向こうで移動し、反対側の観測窓から再び手を伸ばした。

 

 ヴェロッサの猟犬がその腕を追う。シャッハは血のついた肩をかばいながら、窓と扉の両方を睨んだ。

 

「動けます」

 

「止血が先だ」

 

 ヴェロッサがシャッハの前へ猟犬を並べた。セインは壁のどこからでも出られる。二人で周囲を見なければ、負傷した腕をかばいながら奥へ進めない。

 

「フェイト、先へ」

 

「でも――」

 

「入口を押さえる。ここを空けたら、帰る道もなくなるよ」

 

 フェイトはシャッハを見る。彼女は剣を持ち直し、頷いた。

 

 フェイトは一人で通路を進んだ。

 

 背後に残した二人を心配して戻れば、奥へ運ばれた人の位置を見失う。奥へ行けば、二人の傷が増えるかもしれない。

 

 ヴェロッサは入口を守ると言った。フェイトはその言葉を信じて、足を速めた。

 

 その背後で、ヴェロッサの猟犬がもう一度壁へ吠えた。

 

     ◇

 

 地上では、スバル達の前にギンガが立っていた。

 

 襲撃の映像で見たのと同じ、十三番の表示が胸元にある。

 

「ギン姉」

 

 呼んでも、返事がない。

 

 ティアナが通信を開こうとする。スバルが走り出すより先に、隊の位置を知らせるためだった。

 

「待って、スバル。四人の位置を――」

 

 地面に光の線が走った。

 

 オットーの攻撃が二人の間を裂く。スバルは片足で踏みとどまったが、ティアナのいる側へは戻れなかった。

 

「ティア!」

 

「私は平気! そっちを見て!」

 

 ティアナが叫ぶ。ギンガは、スバルとの間合いをもう詰めていた。

 

 マッハキャリバーが足元を支える。

 

『単独での交戦になります』

 

「うん。ギン姉を、もう一度呼ぶ」

 

 スバルは拳を上げた。返事がない相手でも、姉を番号で呼びたくなかった。

 

 離れた廃ビルには、ティアナを追い込む結界が張られる。出口を探す彼女の前へ、ノーヴェ、ウェンディ、ディードが姿を見せた。

 

「スバルのところへ行かせて」

 

「ここから先は、あたしらの持ち場だ」

 

 ノーヴェが前に出る。ティアナは彼女の手首に新しい留め具があるのを見た。地下の補給区画でヌメロンが渡したものだと、知るはずもない。

 

 ノーヴェは肩をかばっていない。痛みを見せず、戦闘の構えを取った。

 

 ティアナが初弾を撃った。

 

 幻像を一つ、窓際に置く。ノーヴェがそちらへ踏み込むより前に、ウェンディの砲撃が幻像の足元を抜いた。

 

 見破られている。

 

 ティアナは二つ目を作らなかった。実弾を撃つ位置を変え、結界の継ぎ目へ端末を向ける。スバルの位置だけでもつかまなければならない。

 

「こっち見ろよ」

 

 ノーヴェが間合いを詰める。肩を傷めているとは思えない踏み込みだった。ティアナは足を動かし、狭い廊下の柱を挟む。

 

 スバルなら、この距離で相手の動きを止められる。今ここにいるのは自分一人だ。

 

 ティアナは息を整え、結界の外へ向けて短い位置情報を送った。

 

     ◇

 

 地下中央通路には、扉が三つあった。

 

 真ん中の扉の前に、少年が立っている。

 

 白と黒の騎士甲冑。仮面はない。

 

 フェイトは足を止めた。六課の隊舎でヴィヴィオを抱いていた、あの少年だった。

 

「クオン?」

 

 少年の目がフェイトへ向く。

 

「……ボクは、クオン・ヌメロン」

 

 クオンという名の後に続いたものを、フェイトは胸の内で繰り返した。

 

「ヌメロン。ヴィヴィオを助けようとしてくれたのは、あなたでしょう」

 

「うん」

 

「なのはが迎えに行ってる。私は、ここにいる子達を助けたい。通して」

 

 ヌメロンは首を横に振った。

 

「ここからは通せない」

 

 少年の後ろには、研究区画へ続く扉がある。ヴェロッサ達が見つけた地図と、位置が一致する。

 

「なぜ?」

 

「ボクの役目だから」

 

「あなたが選んだの?」

 

 ヌメロンは答えなかった。

 

 フェイトは少年の手を見る。ヴィヴィオを抱いていた手だ。今は黒い頁が指の間に浮かび、扉の前で薄い障壁になっている。

 

 以前、久遠が手を差し出した時のことを思い出す。十年前に会えなくなった幼なじみと、目の前の少年を同じ人だと言い切ることはできない。だからこそ、今ここにいる彼へ聞きたかった。

 

 記録に残った血の写真を見た時も、はやてが話せなかった夜のことを聞いた時も、フェイトには自分の知らなかった久遠の時間があった。

 

 今また、その顔に似た少年が、知らない場所に一人で立っている。

 

 似ているからといって久遠として扱えば、この少年が自分で名乗った名前を聞き落としてしまう。フェイトは「ヌメロン」と呼んだ。

 

「ここを守らないと、誰かが困るの?」

 

 ヌメロンはフェイトを見た。口が動きかけ、止まる。

 

 通路の監視装置には、スカリエッティの接続表示が残っていた。

 

「答えられない?」

 

 ヌメロンは頁を広げた。

 

「止まって」

 

 警告の直後、床を走った黒い文字がフェイトの足元へ届いた。フェイトは跳んでかわす。立っていた場所の床が、折り畳まれるように塞がった。

 

 フェイトが一歩下がれば、文字の動きも止まる。

 

 奥へ進めば、また動く。

 

 ヌメロンは彼女を倒そうとしているのではない。ここで留めている。

 

「聞きたいことがある。あなたの名前だけじゃない」

 

「ボクにも、聞きたいことはある」

 

「じゃあ――」

 

「でも、今は話せない」

 

 フェイトの視線が監視装置へ向かった。

 

 ヌメロンも見た。しまった、という顔ではなかった。見られていることを、最初から知っている顔だった。

 

 フェイトが一歩踏み出す。

 

 黒い障壁が道を塞いだ。

 

 フェイトは肩を下げ、バルディッシュを構える。ヌメロンの目は彼女の武器へ移った。

 

「私を傷つけたくないなら、道を開けて」

 

「君が戻るなら、攻撃しない」

 

 どちらも、相手の求める答えではなかった。

 

 フェイトは速度を上げる。ヌメロンの頁が背後まで回り、通路の幅を狭めた。速さだけで抜けようとすれば、彼が張った刃に肩から飛び込むことになる。

 

 フェイトがバルディッシュで受ける。刃は身体へ向かって伸びず、足を止めたところで壁へ戻った。

 

 傷つけずに止めようとしている。

 

 そう分かるから、フェイトも強く斬り返せなかった。

 

 彼女は刃を伏せ、障壁の端へ柄を打ち込む。黒い頁が二枚裂けた。生まれた隙間へ踏み込むと、ヌメロンが身体ごと押し戻してくる。

 

 ぶつかった腕は、映像で見た少年の腕より細かった。

 

 フェイトが力を緩めた一瞬に、ヌメロンは裂けた頁を繋ぎ直す。新しい頁は、さっきより薄い。彼の呼吸も速くなっていた。

 

「下がって」

 

「あなたこそ」

 

 ヌメロンはもう一枚広げた。出口だけでなく、左右の整備路まで塞ぐ。その分だけ自分の足元を守る頁が減る。

 

 フェイトが見つけた隙を、彼は身体で埋めた。

 

     ◇

 

 なのはとヴィータがゆりかごの外壁を抜くと、内部の通路は複数の層に分かれていた。

 

 中枢へ向かう道と、艦を動かしている駆動路。両方を放っておくことはできない。

 

「あたしが駆動路へ行く」

 

 ヴィータが言った。

 

「一緒に止められる方法を探そう」

 

「そんな時間ねえ。ヴィヴィオが待ってるだろ」

 

 なのはは返せなかった。

 

 ヴィヴィオを一人にしている時間が延びるほど、何をされるか分からない。駆動路を止めなければ、艦ごと遠くへ行ってしまう。

 

「戻ったら連絡して」

 

「お前もな」

 

 ヴィータはグラーフアイゼンを肩へ担ぎ、枝分かれした通路へ入った。

 

 なのはは姿が見えなくなるまで待った。それから中枢へ向かう。

 

 通信には、フェイトの位置も表示されていた。地下施設の内部で、ひとつの区画から動かなくなっている。

 

『フェイトちゃん?』

 

 すぐには返事がなかった。

 

 なのはは足を止める。フェイトの反応は消えていない。けれど、これだけ長く同じ区画に留まる理由は何だろう。

 

『今、答えられなくてもいいから。怪我だけ、しないでね』

 

 送った言葉に、返事はない。

 

 なのはは通信を切らずに進んだ。自分がここで戻ってもフェイトのいる地下施設には届かない。その間、ヴィヴィオは艦の中枢に繋がれたままだった。

 

 ゆりかごの奥から、幼い声が聞こえた気がした。

 

 なのはは中枢の印を見て、走った。

 

     ◇

 

 フェイトが障壁の右を抜こうとすると、ヌメロンは新しい頁をそこへ重ねた。

 

 左へ跳べば、床に残った文字が足を取りに来る。フェイトは速度を落とさない。捕まる前に刃で術式を断つと、ヌメロンがその切れ目を身体で塞いだ。

 

 フェイトの肩が彼の胸元へ当たる。細い身体が壁にぶつかった。それでもヌメロンは倒れない。フェイトが距離を取ると、彼も壁から背を離す。肩当ての下で、呼吸するたび胸が動いていた。

 

「ここでずっと立っているつもり?」

 

「君が戻るまで」

 

「戻らない。救助を待っている人がいる」

 

「知ってる」

 

 フェイトの胸へ、その一言が重く落ちた。彼は奥に誰がいるか知っている。助けを求めていることも知りながら、ここに立っている。

 

 フェイトはバルディッシュの切っ先を伏せたまま、一歩踏み込んだ。ヌメロンの頁がすぐに刃へ変わる。

 

 二度、三度、打ち合う。

 

 黒い頁の端がフェイトの頬をかすめた。熱いものが一筋流れる。ヌメロンの目がそこへ向いた。

 

「このくらいで止まれない」

 

「分かってる」

 

 次の頁を作りながら、ヌメロンは膝を折った。踏み込みのためではない。傷ついた足が一度、身体を支えられなくなった。

 

 フェイトは手を止める。止めた分だけ、ヌメロンは立て直し、後ろの扉に新しい障壁を足す。

 

 壁には、壊された頁の跡が残っていた。ひとつ破るごとに彼は作り直す。左右の整備路、正面の扉、フェイトの足元。同じ身体で幾つも支えれば、次の頁を広げる手が少しずつ遅れる。

 

「ヴィヴィオは、あなたに助けてって言った」

 

 フェイトが言う。

 

「なのはが迎えに行ってる。でも、ここにいる子達も同じだよ」

 

「……分かってる」

 

「なら、どうして」

 

 ヌメロンは答えかけ、歯を噛んだ。監視装置の灯は消えていない。これ以上、何を守っているかも言えなかった。

 

「……通さない」

 

 フェイトは、同じ言葉しか返ってこない理由をまだ知らない。

 

 フェイトがさらに踏み込む。ヌメロンは止めようとし、肩から彼女の前へ出た。

 

 バルディッシュの柄が障壁へ当たる。黒い頁が砕け、その衝撃がヌメロンの腕まで伝わった。鈍い音がして、片腕が垂れる。まだ動く方の手で、彼はもう一枚、扉へ押しつけた。

 

 フェイトは彼の前から離れる。

 

 倒せば通れる。それが分かっていても、十年前の久遠に似た少年が自分を見上げる目を、見ないふりはできなかった。

 

 そのためらいの間に、ヌメロンは呼吸を整えないまま頁を増やした。使った力を取り戻せるわけではない。床に落ちた頁の端が、黒い光の粉となって消える。

 

 フェイトは気づいた。彼が立ち続ける限り、この戦いは彼の身体から削られていく。

 

「ヌメロン。もう立てないでしょう」

 

「まだ、通してない」

 

 少年が名を呼ばれて顔を上げる。その隙にフェイトは奥へ跳ばなかった。

 

「あなたがそこを守る理由、いつか聞く。今は、私が通る」

 

「通さない」

 

 ヌメロンは扉の前へ戻る。フェイトが一撃を避ければ、その背に頁が回る。逃げ道を塞ぐ動きに迷いはない。

 

 魔力を通路いっぱいに広げれば、彼も施設の奥にいる人達も巻き込む。フェイトは正面の障壁だけを狙った。

 

 金色の光が、厚く重ねた頁へぶつかる。

 

 一枚目が砕ける。二枚目が裂ける。ヌメロンは肩を壁に預け、垂れた腕まで持ち上げて三枚目を重ねた。

 

 フェイトが力を緩めたら、また道を塞ぐ。彼が倒れるまで続くと分かった。

 

 フェイトは金色の光を収めなかった。最後の障壁が壊れるまで押し切る。

 

 砕けた黒い頁の向こうで、ヌメロンが膝をついた。まだ手を伸ばす。その指先から生まれた細い頁が、形になる前に消えた。

 

 フェイトは彼の背後へ回った。ヌメロンも振り向こうとするが、足が滑る。倒れかけた身体をフェイトが受け止め、床へ下ろした。

 

 手首だけを短い拘束の光で留める。拘束がなくても、彼は起き上がれなかった。

 

「……行かせたくなかった」

 

 ヌメロンの声が掠れる。

 

「分かってる」

 

 フェイトの頬に血が残っている。ヌメロンの肩当ては割れ、片腕は力なく床へ落ちていた。刃を向けずに抜けようとして、彼をここまで傷つけたのは自分だった。

 

「手当てを呼ぶ」

 

「ここには、呼ばないで」

 

 監視装置の灯が残っている。フェイトには拒まれる理由が分からない。入口ではまだシャッハ達が戦っている。誰かを今すぐ寄越せる状況でもなかった。

 

 ヌメロンの呼吸と脈を確かめる。意識はある。すぐに危険な状態ではないと分かっても、そこに寝かせて行くことが正しいとは思えなかった。

 

「あとで戻る。あなたの話を聞きたい」

 

 返事はない。

 

 フェイトは扉を開け、奥へ進んだ。

 

 ヌメロンは追おうとして肘をついた。身体は床から離れない。拘束が消えても、立てないことは分かっていた。

 

 閉まりかけた扉の向こうへ、もう一度、指を伸ばす。黒い頁は出なかった。

 

 監視装置からスカリエッティの声がした。

 

『よく持たせてくれたね』

 

 ヌメロンは顔を上げられなかった。垂れた腕を動かそうとしても、指先しか動かない。

 

「……命令、は」

 

『君を攻撃する指令なら、まだ出していない。最後まで止めようとしたのを見ていたよ』

 

「……十二人、とも?」

 

『ああ』

 

 ヌメロンは息を吸った。うまく入らず、次の言葉が出るまで時間がかかる。

 

「……みんな、は」

 

『それぞれの任務を続けているよ』

 

 それ以上を聞こうとして、咳が出た。あの子達の声が聞きたかった。スカリエッティから、もう返事は来ない。

 

 十二人への指令は今は出ていない。それしか確かめられなかった。

 

 フェイトの足音が遠ざかる。ヴィヴィオのいる艦へは行けない。十二人の誰のところへも行けない。肘をつき直すと、腕が折れて、床へ戻った。

 

 施設の管制回線に、地上からの短い戦況報告が入る。銃声に混じってノーヴェの声が聞こえた。ほかの声も続いた。帰還の報告は、まだない。

 

 もう一度、身体を起こそうとする。掌が滑り、また同じ場所に倒れた。扉まで這う力も残っていない。

 

 ノーヴェの壊れた留め具を直しかけたまま、補給区画に置いてきた。彼女が帰ったら渡すつもりだった。

 

 その部屋へも、今は戻れない。

 

 通路の奥で、別の二人の足音がフェイトを迎えた。

 

     ◇

 

 廃ビルの結界の中で、ティアナが膝をついた。

 

 ディードの刃が足をかすめた。走れば痛む。撃つ姿勢を取り直す間に、ノーヴェとウェンディが位置を変える。

 

「まだやるのか」

 

 ノーヴェが尋ねる。

 

「スバルに連絡するまでは」

 

 ティアナは端末へ手を伸ばした。結界の外へ声が届くまで、撃ち続けるしかない。

 

 別の場所では、ギンガの拳をスバルが受けていた。

 

「ギン姉、私だよ」

 

 押し返す腕に、ためらいはない。

 

 エリオとキャロの前にも、ルーテシアとガリューがいる。キャロが名前を呼んでも、ルーテシアは顔を上げなかった。

 

 誰もまだ、連れて帰りたい相手へ手を伸ばせていない。

 

 アースラに届く報告は、分断された位置と負傷者の数ばかり増えていった。

 

     ◇

 

 ヴィータは駆動路の奥で、グラーフアイゼンを振り下ろした。

 

 硬い外殻が割れ、内部の駆動音が一つ止まる。隣の機構はまだ動いている。彼女は次の支柱へ向かった。

 

 なのはからの通信が一度入る。

 

『ヴィータちゃん、そっちは?』

 

「進んでる。お前は奥へ行け」

 

『うん。気をつけて』

 

「分かってるよ」

 

 短く切った。なのはの声はヴィヴィオに近づくにつれ、静かになっていた。

 

 ヴィータは自分の胸元に残る古い傷へ手を当てかけ、やめる。見上げた駆動路の天井には、まだ動いている機構がいくつもあった。

 

「ここを止めりゃ、あいつらが帰れる」

 

 もう一度、槌を構える。

 

 暗がりから伸びた細い影に気づいたのは、振り下ろす直前だった。

 

 身体を捻る。避けきれない。硬いものが、彼女の脇腹を貫いた。

 

 グラーフアイゼンが床へ落ちる音が、駆動音の間に響く。

 

『ヴィータちゃん?』

 

 なのはの声が通信から漏れた。

 

 ヴィータは応えようとした。口を開いても、息だけが出る。

 

 少し離れた通路で、なのはが足を止めた。

 

『ヴィータちゃん。返事して』

 

 中枢へ向かう印は、まだ前にある。

 

 なのはは通信を切らず、もう一度、ヴィータの名前を呼んだ。

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