魔法を持たない幼なじみがいた   作:曇り時々曇り

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第16話 家の名前

 車が止まっても、久遠はすぐには降りられなかった。

 

 山の中に、大きな家が建っている。門から玄関まで灯りが続き、二階の窓にも明かりがついていた。誰かが待っている家の明るさなのに、その誰かを久遠はまだ知らない。

 

「どうかされましたか」

 

 クェーサーが尋ねる。

 

「どこから入るのかなと思って」

 

「正面からです。久遠様のために開けておりますから」

 

 大きな門の前で、久遠は自分の靴を見た。病院を出る時に渡された、新しい靴だった。

 

 自分のために開いた玄関へ、自分の足で入る。それだけのことに、少し時間がかかった。

 

 ヴェロシティが先に降り、車から久遠の荷物を出す。荷物といっても、病院で受け取った診察の書類と着替えだけだ。

 

「ここ、遠いでしょう。みんな毎日、街まで行くの?」

 

「行く日もあれば、いない日もある。俺は走りたいから行く日が多い」

 

 門の脇には、車とは別に大きなバイクの影があった。革の上着とヘルメットは、この人が自分で選んだものなのだと分かる。

 

「ここまで、それで来たかった?」

 

「今日は病院から君を乗せて来る車を選んだ。俺の趣味は、明日もできる」

 

 ヴェロシティは肩をすくめる。

 

「乗りたい日があれば教えて。でも今夜は、まず中だ。山は冷える」

 

 オーダーが扉を開ける。久遠が足を踏み入れると、床がかすかに鳴った。

 

 広い玄関には靴が三足、揃いきらずに置かれている。壁に掛けられた鍵のひとつには、ヴェロシティが使っているのと同じ形の小さな飾りがついていた。

 

 見せるための屋敷というより、誰かが出入りしてきた家だった。

 

「靴、どこに置けばいい?」

 

「好きなところへ」

 

 オーダーの答えに、久遠は困った。三人の靴と少し離して、自分の靴を置く。

 

 クェーサーはそれを直さず、奥の灯りを一つ増やした。

 

     ◇

 

 久遠の部屋は二階にあった。

 

 ベッドと机、小さな椅子。棚は空いている。窓の下に、街から買ってきたらしい水差しが置かれていた。

 

「昨日までは、何の部屋だったの?」

 

「使っていない客間です」

 

 クェーサーが答える。

 

「久遠様がお好きなように使えるよう、棚には何も入れておりません」

 

「ボクの部屋にしていいの?」

 

「もちろんです」

 

「いつまで?」

 

 クェーサーが返事を探すより先に、オーダーが開いた戸口から言った。

 

「久遠様が使いたい間です。滞在の期限は設けておりません」

 

 久遠は空の本棚を見た。何も持っていない自分には、広すぎる棚だった。

 

「本、置いてもいい?」

 

「ええ。近くの店も図書館もご案内します」

 

 図書館、と聞いて、久遠は一瞬だけ右手を握る。クェーサーは水差しの置き場所を確かめていて、気づかなかった。

 

「じゃあ、明日、まず本を見たい」

 

「承知しました」

 

 クェーサーは衣服をベッドの上に並べた。袖の長さが異なる上着を二枚。久遠は片方を持ち上げる。

 

「ボクの大きさ、分からなかったでしょう」

 

「お会いした時に、どちらも必要ないかもしれないとは思いました」

 

「どうして二枚も?」

 

「選べるように、です」

 

「ほかの人は男の人なのに、クェーサーだけ女の人なんだね」

 

「ええ。私も初めは、久遠様に似た少年の姿でした。あなたにお仕えすることばかり考えていたら、いつの間にかこの姿に。理由は、私にも分かりません」

 

「そうなんだ」

 

「髪を伸ばして、この服を選んだのは私です」

 

 久遠はクェーサーの長い髪を見る。理由が分からないのは彼女も同じなのに、今の姿を気に入っているようだった。

 

 久遠は薄い色の上着を選んだ。クェーサーが着せようと手を伸ばす。

 

「自分でできるよ」

 

「はい」

 

 彼女は手を引いた。だが、久遠が袖を通し終えるまで、そばでじっと待っている。

 

「見られてると、ちょっと恥ずかしい」

 

「では、扉の外でお待ちします。お呼びください」

 

「うん。ありがとう」

 

 戸が閉まる。久遠は一人で上着の裾を整えた。

 

 新しい服には、誰かの匂いがついていない。鏡に映る大人の姿へ合わせて選ばれた服だ。子供の頃なら手が届かなかった高い棚にも、今は楽に届く。

 

 けれど、棚へ置く自分のものは一つもなかった。

 

     ◇

 

 夕食には四人が揃った。

 

 クェーサーが皿を出し、ヴェロシティが水を運ぶ。オーダーは仕事の端末を伏せてから、久遠の向かいへ座った。

 

「辛いものは大丈夫ですか」

 

「たぶん」

 

「今の身体で召し上がるのは初めてですね。少しずつにしましょう」

 

 クェーサーが料理を取り分ける。久遠の皿だけ、熱い汁物が小さな器に入っていた。

 

「みんなは食べられるの?」

 

「必要はありませんが、食べることはできます」

 

 オーダーが答える。

 

「この家で食事を始めたのはクェーサーです。私が仕事を食卓へ持ち込む回数を減らしたい、と」

 

「減りましたか?」

 

 クェーサーが問う。

 

「ご覧の通り、今夜は伏せている」

 

「それは久遠様がいらしたからです」

 

「手厳しいね」

 

 オーダーは少し楽しそうに笑った。

 

 久遠は温かい汁を口に運ぶ。思ったよりも熱く、舌を引っ込めた。

 

「大丈夫ですか」

 

「大丈夫。少し待てばいいから」

 

 クェーサーの手が水差しへ伸びる。久遠は首を振り、ふう、と一口分を冷ました。

 

 ヴェロシティがその様子を見て、笑いをこらえている。

 

「何?」

 

「クェーサーが、どこまで世話を焼けるか試してるのかと思った」

 

「試してないよ」

 

「本人は放っておくと、料理を食べやすい順に全部並べるぞ」

 

「並べます」

 

「並べるんだ」

 

 久遠が笑った。クェーサーは真面目な顔のまま、久遠の皿の向きを少しだけ直した。

 

「食べやすい方はこちらです」

 

「ありがとう。でも、次からはボクが決めるね」

 

「はい」

 

 彼女は抵抗しなかった。それでも翌日には別の世話を考えていそうだった。

 

 夕食が終わる頃、久遠はもう一つの席に気づいた。食器は置かれていないが、四人の椅子と同じように、卓の端へ寄せられている。

 

「ここには、ほかの人も来るの?」

 

 ヴェロシティが椅子を見た。

 

「ヌメロンが寄ることはある。この席には、前はよくストライクが座ってた」

 

 クェーサーの手が止まる。

 

 オーダーは二人の反応を見てから、久遠へ向き直った。

 

「その話も、今夜しておいた方がよさそうです」

 

     ◇

 

 夕食のあと、オーダーは久遠を居間へ案内した。

 

 机には紙と筆記具を置く。端末もあるが、最初から画面を向けなかった。

 

「あなたが知らない年月を、すべて今夜話そうとすれば、どこから始めたかったのかさえ見失います」

 

「何から聞けばいいのかも、分からないよ」

 

「では、私から質問します。今、一番知りたいのは、誰のことですか」

 

 久遠は夕食の席を思い出した。

 

「ここのみんな」

 

「承知しました」

 

 オーダーは紙へ五つの名前を書いた。

 

 オーダー。クェーサー。ヴェロシティ。ヌメロン。そして、ストライク。

 

「最初にお伝えした通り、我々は写本から生まれました。初めからこの五人だけだったわけではありません。名を持たず、写本の働きを支えていた身体も多くありました」

 

「あの本から?」

 

「ええ。けれど名を持った五人は、同じ指示に従って動く身体ではなくなりました。互いに異なる人を大切にし、別の生き方を選んだ。それぞれの名はその後に得たものです」

 

 久遠は紙の上の文字を追う。

 

「ヌメロンには、待ってる女の子がいた」

 

「アインハルトさんです。彼は今、彼女と同じ家で暮らしています」

 

 少女の涙を思い出す。帰ってきたと知った時、彼女はどんな顔をしただろう。久遠にはその顔を想像しきれなかった。

 

「あなたたちは、さっきみたいに一緒に食べるんだね」

 

「ええ。ただ、私が家を空ける夜も、ヴェロシティが外へ出る夜もあります。クェーサーも彼女の用事があります。我々は同じ顔でも、四六時中一緒にはおりません」

 

「昔は、離れていても話せたの?」

 

「頭の中で、互いの記憶を受け取ることができました。あなたがお目覚めになった日、そのつながりは途切れています。私に分からないことをヴェロシティが見ている場合は、今は本人に聞かなければなりません」

 

「ボクのことも、頭の中で分かるの?」

 

「いいえ。あなたが話さないことを、我々が知ったふりはできません」

 

 久遠は自分の膝に手を置いた。図書館でなくした小さな手が痛む感覚は残っている。いま隣にいる相手へ伝わっていないなら、少しだけ息がしやすい。

 

「名前のない子たちは?」

 

 オーダーの筆が止まった。

 

「写本が消えたあと、彼らの身体は確認できなくなりました。ヌメロンは残っていた別の身体で目を覚ました。私とクェーサー、ヴェロシティは、以前から持っていた身体でここにいます」

 

「この紙にある、もう一人は」

 

「ストライクは、あなたが戻るより前に亡くなりました」

 

 オーダーは紙の最後の名前を隠さなかった。

 

「最後の戦いで、ナンバーズを助けるために消滅しました。道場へも、この家へも、彼は帰ってきていません」

 

「その子たちは、助かった?」

 

「ええ。今も生きています。ヌメロンと親しくしている者もいます」

 

 久遠は紙を見た。オーダーはストライクの名を消さない。

 

「でも、名前はここにあるんだね」

 

「失ったからといって、五人目を数えなくなるわけではありません」

 

「ヌメロンは、ストライクのことを覚えてる?」

 

「彼の最後の記憶と、戦い方を受け取りました。道場を継いだのもヌメロンです。しかし記憶を持つ者がいても、ストライク本人が戻ったことにはなりません」

 

 久遠は最後の名前を見た。会ったこともない人なのに、目の前の三人には、その人と過ごした時間がある。

 

「どういう人だった?」

 

 オーダーは眼鏡の位置を直す。

 

「道場を作り、そこで人を鍛えていました。まず身体の使い方を教える。口は悪いが、誰かを置いて帰ることが嫌いな男でした」

 

「怖い?」

 

「初めて会えば、そう思ったかもしれません。子供たちへの稽古は、驚くほど根気強かった」

 

 もう会えない人の話をしている。久遠は、オーダーが過去形を使うたびにそのことを確かめた。

 

「この紙、もらっていい?」

 

「もちろんです」

 

 久遠は五つの名前が書かれた紙を、折らずに両手で持った。

 

     ◇

 

 その夜、ヴェロシティはガレージでバイクを整備していた。

 

 久遠は戸の前で、油の匂いに気づく。奥には別の乗り物が二台あり、棚には地図が重ねて置かれていた。

 

「入ってもいい?」

 

「もちろん。そこ、工具が散らばってるから足元だけ気をつけて」

 

 ヴェロシティが手袋を外した。久遠はバイクの横へしゃがみ込む。車輪は、近くで見るとずっと大きかった。

 

「これで遠くまで行くの?」

 

「行くよ。行きたい方へ行けるから好きなんだ」

 

「迷わない?」

 

「迷っても、道を聞けば戻れる」

 

 彼は棚から地図を一枚引き出す。

 

「今日、君を迎える前に通った道。ここが医療区画、こっちが山の入口」

 

「ストライクの道場は、どこ?」

 

 ヴェロシティは久遠を見た。

 

「オーダーが話した?」

 

「うん」

 

「この道の先。今はヌメロンがノーヴェと一緒に開けてる」

 

 ヴェロシティが指した先に、丸がひとつあった。

 

「あなたも行くの?」

 

「用ができればね。ほかにも行く場所はある。今は誰かの目や記憶を借りられないから、自分で確かめたい場所には自分で行く」

 

「ストライクがいた道場のこと、また教えてくれる?」

 

「俺が見たことなら」

 

「聞きたい」

 

 久遠は即答した。ヴェロシティが少しだけ目を細める。

 

「分かった。あいつに教わった子たちのことも話すよ」

 

「ありがとう」

 

「知っていることと、知らないことは分けて話す。ヌメロンが受け取った記憶も、ストライク本人の続きじゃないから」

 

「うん。それでいい」

 

 ヴェロシティは工具を片づけ始めた。久遠も地図を戻し、手伝おうと箱へ手を伸ばす。

 

「どれがどこに入るか、分かる?」

 

「分からない」

 

「じゃあ、見てて。覚えたら頼む」

 

「うん」

 

 二人で棚を見上げた。久遠は初めて、ここで覚えることが一つできたと思った。

 

     ◇

 

 久遠が部屋に戻ると、廊下にクェーサーがいた。

 

「お水を替えました。夜、何か必要でしたらお呼びください」

 

「眠らないの?」

 

「休むことはできます。ただ、今夜はまだ起きています」

 

「ボクのため?」

 

「そうです」

 

 久遠は上着の袖を握った。

 

「クェーサーのやりたいこと、なくならない?」

 

 彼女は少し驚いたように目を瞬いた。

 

「私があなたのお世話をしたいのも、私の望みです」

 

「そっか。でも、明日眠かったら休んで」

 

「……はい。お言葉に甘えます」

 

 クェーサーは嬉しそうに頭を下げた。久遠には、どうしてそんなに嬉しそうなのか、まだ分からない。

 

「ねえ。この家のこと、何て呼ぶの?」

 

「皆は山の家と呼ぶことが多いです。オーダーは住所で伝えることもありますが」

 

「山の家」

 

 久遠は窓の外を見た。暗くて山の形は分からないが、玄関までの灯りは見える。

 

「ボクも、そう呼んでいい?」

 

「もちろんです。いつか、別の呼び方をなさっても」

 

「今は、それが分かりやすい」

 

 久遠は部屋へ入った。机に、五人の名前が書かれた紙を広げる。上着を選んだのも、バイクの地図を見せてもらったのも、今日のことだ。昨日はこの家の存在さえ知らなかった。

 

 空の本棚の一段へ、紙を置いた。折れてしまわないよう、端をまっすぐにする。

 

 五つの名前のうち、まだ会っていない人が一人いる。

 

 久遠はその名を読んだ。

 

「ストライク」

 

 廊下の向こうから、クェーサーが食器を片づける音がする。外では、ヴェロシティが明日のためにバイクへ覆いを掛けた。

 

 今夜この家にいる三人も、帰ってきたヌメロンも、彼の帰りを待っていた。

 

 久遠は紙を本棚に残し、灯りを消した。

 

 山の家には、まだ使われていない席がある。

     ◇

 

 翌朝、道場では稽古表が書き直されていた。

 

 ヌメロンの新しい身体は、以前と同じくらいの背丈だ。それでも重心や指先の感覚がわずかに違い、道場の鍵を回すにも一度つまずいた。

 

「師範、まず受け身からやりましょう」

 

 リオが畳を叩く。

 

「ずいぶん張り切ってるね」

 

「昨日の稽古を途中で止めたぶんです」

 

「リオ。今日は強く投げない方が」

 

 コロナが心配そうに言う。

 

「もちろん。最初は転び方」

 

 ヌメロンは袖をまくった。足を開き、いつもの位置へ立つ。そこにアインハルトが横から進み出た。

 

「私が最初の相手です」

 

「そうだったね。昨日決めた」

 

「忘れたのですか」

 

「忘れてない。順番を間違えただけ」

 

 アインハルトが手を差し出す。ヌメロンが取ると、彼女はゆっくり力をかけた。足を引くタイミングが少しずれる。

 

「昨日までなら、ここで先に回り込んでいました」

 

「うん。身体が先に覚えてるつもりで動くと、遅れる」

 

「急ぎません。今の身体で覚え直してください」

 

「アインハルト先生の授業は長そう」

 

「あなたが覚えるまでです」

 

 ヴィヴィオが笑った。ヌメロンはもう一度、同じ動きを試す。今度は転んだが、受け身は取れた。

 

 それを見たリオが肩の力を抜く。コロナが記録端末を開き、今の動きの違いを書きとめた。

 

 稽古を終えると、リオは持ってきた鞄を持ち上げた。

 

「写真の道具、まだ置いてあるんです」

 

「昨日見たよ」

 

 ヌメロンは道場の戸口を振り返る。元の身体で帰ったら、ここでみんなと撮るはずだった。

 

「やめなくていいと思う」

 

「もちろん、やめません」

 

 アインハルトが答えた。

 

「ヌメロンも帰ってきました。全員の都合が合う日を決めましょう」

 

「次の休みは?」

 

 ヴィヴィオが聞く。

 

「私は空いてます」

 

「私も。三脚の位置、明るいうちに決めたいです」

 

 コロナが鞄の留め金を確かめる。

 

「ストライク師範の古い稽古表も、一緒に写したいです」

 

 リオは壁に掛かった表を見る。道場を作った人の字は、今の稽古表の字よりずっと荒い。

 

「うん。ストライクがここを作ったんだ」

 

「ヌメロンさんが書いている表も、並べて写しましょう」

 

 コロナが言うと、ヌメロンは頷いた。

 

「二枚とも、この道場のものだからね」

 

「じゃあ、次の休みにしましょう」

 

「うん。ボクも空けるよ」

 

 ヌメロンは新しい稽古表の余白に、小さく「写真」と書いた。古い表の位置は、リオとコロナが相談して決める。

 

     ◇

 

 道場の夜は、いつも通りに終わらなかった。

 

 ヌメロンが夕食の皿を洗おうとすると、アインハルトが隣に並んだ。

 

「今日は私がやります」

 

「昨日は一緒に野菜を切ったのに」

 

「昨日はあなたに台所に立ってほしかったんです。今日は、あなたの手が疲れているでしょう」

 

「少しだけね」

 

 新しい指では力加減を探しながら稽古をした。彼女は横で見ていたから、隠しても分かる。

 

 ヌメロンは布巾を持ち、洗い終えた皿を拭く役へ回った。

 

「写真、リオが楽しみにしてた」

 

「コロナもです」

 

「アインハルトも?」

 

「もちろん」

 

 彼女の返事は短い。昨日、久遠へ「ヌメロンを返して」と叫んだことを思い出したのかもしれない。ヌメロンは、言葉を急がせずに待った。

 

「ストライクがいたら、今日の受け身で叱られてたかな」

 

「自分の身体の違いを確かめずに投げられたんです。叱られると思います」

 

「アインハルトにも叱られたから、もう覚えたよ」

 

「ええ」

 

 アインハルトが皿をすすぐ。ヌメロンは伏せて乾かす。ここで彼が今日何をしたか、彼女は見ていた。久遠がどんな夜を過ごしているかは、二人とも知らない。

 

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