猫、拾いました   作:ぽこちー

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⑤

 

 

 

 六分街にある築1年の一軒家。

 その1階には、猫の、猫による、猫のための空間が広がっています。

 

 つい数分前までは、1匹の猫が甘い声を漏らすだけの閑静な一室でした。

 しかし今では、その面影すらありません。

 

「にゃにゃっ、にゃーにゃー!」

 

「にゃあ? にゃあ、にゃあー」

 

「うにゃにゃ、うにゃにゃにゃー……」

 

『ピー、ガシャガシャ!! ピーピー、ビィィィ!!!!』

 

「「「にゃあ!!」」」

 

『ビィィィ、ガシャン……』

 

 ご覧の通り、ニャーニャーニャーニャー、ビービーガーガーと鳴り響いています。

 

「いや、うっせえなおい」

 

 俺が思わず呟くと、怒られたル◯バがしゅん、としながらこちらへ移動してきた。

 

『ビー……ビー……ガシャン』

 

「……ごめん。俺に何か伝えたいんだろうけど、全く分からん」

 

『ビガガガガッ……』

 

 私、傷つきました……と言わんばかりに、電源ランプが青く点滅している。

 

 なぜル◯バに意思があるのか。

 なぜ会話ができるのか。

 そんな疑問は、とうの昔に捨て去っている。

 

 人間の言葉が分かる猫がいるんだ。

 なら、人間のことを理解するル◯バがいたっていい。

 

 というか、ボンプや知能構造体が普通に存在しているのだから、そういうル◯バがいても何もおかしくない。

 むしろ、猫の方がおかしいのだ。

 

「というか君たち、何当たり前のように家の中に入ってるの? もしかして飼ってもらう気満々なの?」

 

「にゃあ? にゃあ」

 

「にゃあー!」

 

「にゃん」

 

 新たにやってきた2匹の猫は、おそらく『ニコ』の友達なのだろう。

 息ぴったりに俺へ鳴いているのが、その証拠……だと思いたい。

 

 というか、『当たり前でしょ? 何言ってるのよアンタ』みたいに鳴くな。

 

 『よろしく頼むぞっ!』みたいに元気よく鳴くな。可愛いからやめろ。

 

 あと、お腹が空いたのか知らんが、勝手に部屋を漁るのもやめろ。

 

『ビー、ガシャンガシャン!!』

 

「お前も勝手に俺のコレクションを漁るな」

 

 ……いや、でもスターライトに興味を示しているとは、このル◯バ、なかなか分かってるじゃないか。

 

 良いだろう。

 お前には同じファンとして、この限定スターライトシールを貼り付けてやる。

 

『ビビビッ!? ビー!!』

 

「ははっ、喜んでらぁ」

 

 軽い現実逃避をしながら、俺は乾いた笑いをこぼした。

 

 この流れからすると、この2匹と1台も飼わなければならないようだ。

 現に猫共は、エンジンでも組むように3匹で固まっている。

 

「餌代、どうすっかなぁ……」

 

 『ニコ』1匹だったからこそ、高級ペットフードを買えていた。

 だが、それが3匹となると話は変わってくる。

 

 買えないというわけではない。

 ただ、生活に余裕がなくなるのは確実だ。

 俺は無理を承知で『ニコ』へと問いかける。

 

「なぁ『ニコ』。お前の友達を飼うのは構わないんだが、それ相応の費用がかかるんだ。分かるだろう? だから、お前の餌をだな……」

 

「にゃあ!? にゃにゃにゃっ、ニャー!!!!」

 

「ですよね。分かってました。ならさ、お前の稼ぎをほんの少しだけ……」

 

「にゃあ? ……にゃー」

 

 すると、『ニコ』は『仕方ないわねぇ、全く』と言わんばかりに鳴き、キャットタワーの裏へと歩いていく。

 

 キャットタワーの裏は、『ニコ』の完全なるテリトリーだ。

 カーテンで仕切られたその奥には当然『ニコ』が稼いだ大量のディニーが隠されている。

 

「にゃ」

 

 やれやれと言わんばかりに、『ニコ』はディニーを咥えながら現れた。

 そして俺の方へと、そのディニーを放り投げる。

 

 チリン。

 

 コインの良い音が鳴り響いた。

 

「にゃあ!?」

 

『ビビビッ!?』

 

「……にゃあ」

 

 その行動に、2匹と1台が驚きの声(?)を上げた。

 

 確かに、あの『ニコ』が他人にディニーを渡すなど、ありえないことだ。

 だが、どこかの自販機乞食とは違い、『ニコ』には人の心——いや、猫の心がある。

 本気で頼み込めば、『ニコ』も分かってくれる。

 

 そう。

 分かってくれるんだろうけどさ……。

 

「……100ディニー?」

 

「にゃ」

 

「……100万じゃなくて?」

 

「にゃあ!? にゃにゃにゃっ!!」

 

「……0が2つ足りなくない?」

 

「にゃあ? にゃあ……。にゃ」

 

 『今回だけ特別よ?』と言わんばかりに、『ニコ』はもう1枚コインを差し出してきた。

 合わせて200ディニー。

 

 あのさ。

 これで何を買えと?

 ガチャガチャで餌が買えると思ってんのか?

 

「まぁ、分かってはいたけどさ……」

 

 俺はため息をつきながら、『ニコ』が差し出したディニーを掴んだ。

 そして、そのままソファへと倒れ込むように腰を下ろす。

 

「あぁー……。どうすっかな、これ……」

 

 2枚のコインを指で弾きながら、俺は天を仰いだ。

 

 そんな間にも、猫たちは各々好き勝手に部屋の中で過ごしている。

 

 1匹はキャットタワーを登り、もう1匹は俺のクッションを占領し、残りの1匹はル◯バに乗って部屋を爆走している。

 

 ……どうしてこうなった。

 

「こうなったら、あれしかないよなー……」

 

 ため息をつきながら、壁に立てかけてある弓へと視線を向ける。

 

 フリンツ合金で造られた特製の弓。

 光が当たるたびにギラリと美しく反射するその弓は、誰が見ても目を引く特別なものだ。

 

 これを売れば、相応のディニーが手に入るだろう。

 ただ、それは一時凌ぎにしかならない。

 長い目で見れば、この弓を使って稼いだ方がいい。

 

 ……まぁ、そもそも大事な道具だから売る気なんてないのだが。

 それに仮に売ったとしても、絶対にあのツンデレパツキン吸血鬼女にバレる。

 

 そして、

 

『あれはアンタのために作った特別製なのよっ!? それを売るなんてほんっと信じらんないっ!! こうなったら、その身体で弁償してもらうんだからねっ!!』

 

 とかなんとか、ものすごい勢いで怒られるに決まっている。

 

「……はぁ」

 

 俺は大きくため息をついた。

 

「怪我するのは嫌だけど……これしかないよなー……」

 

 できれば、やりたくない。

 本当にやりたくない。

 だが、猫たちのためだと思えば仕方がない。

 

 俺はゆっくりと重い腰を上げる。

 そして、壁に立てかけられていた弓へと手を伸ばした。

 

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