合宿編を書きたかっただけなんです。
どうしてこうなった?
ファザー(俺)は激怒した
「あのバカ、どこ行きやがった!!」
原住民の存在しない無人世界・カルナージの移住民、メガーヌ女史に食糧を届けることになったシスターセイン。
……そうか。
そのお目付け役として俺も同行する事になった。
……なぜだ。
俺は全く関係ないはずだ。
セインがカゴをひとつ背負ってるのに対し、俺は箱2つ運ぶ事になった。
……それはいい。
魔法で浮かせりゃ制御するだけで良いし、いくら力が強くてもコイツも一応女だ。肌に傷でもついたら大変だからな。
メガーヌ女史に荷物を渡し、検品作業をした。
……コイツにしては良くやっていた。
1時間ほど休憩をとった。
……こんなリゾート地まで来て、Uターンするのも無いなと思ったし、絶対セインが駄々をこねるからだ。
俺としても、ちょっとくらいならこの世界を見て回るのも悪くないと思ったし、良い出会いもあった。
なんかメガーヌ女史の家の近くは『ドッタンバッタンスッテンドーン』とうるさかったので、少し離れたところをふらふら歩いていたら、カッコイイ、フルプレートの従業員君と、可愛らしく『キュクルー』と鳴く小竜君に出会えた事だ。
カルナージには、こういうのもいるのか。
で、
だ。
セインが帰って来ないんだが⁉︎
今日中に帰る予定だった。
そう約束したはずだ。
「セイン! どこだ!」
「セイン帰るぞ!」
「おいセイン!」
…………
……
大声で探すも一向に見当たらない。
これは逃げたな。
あいつならやりかねない。
あいつの固有魔法は、無機物に潜行する事ができる。
壁や地面、水中をすり抜け、自由自在に動き回れる「ディープダイバー」とかいうやつだ。
だからあいつが本気で逃げたら、似た能力を持ったシャッハくらいしか捕まえられない。
やばい、薄暗くなってきた。もうすぐ帰る時間だ。
船に乗り遅れたら、今日中に戻れなくなる。
一旦メガーヌ女史の家に戻ろう。
これ俺の責任になるんかなぁ。
あいつまだシスター見習いだしなぁ。
……なるんだろうなぁ。
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無人世界・カルナージ
メガーヌのところにオフトレに来ていたヴィヴィオ、アインハルト、リオ、コロナ、ティアナ、スバル、ノーヴェ、そしてメガーヌの娘であるルーテシアとその友人キャロ。
4日間のオフトレということで、彼女たちはこの場所に滞在していた。
セインは温泉に入っていた彼女たちにいつもの調子でイタズラを仕掛け、当然怒られた。
それでもでも最終的には一緒に温泉に入って騒いでいた。
そして今は、コテージへ戻ってきたところだった。
「そういえばセインって、ひとりで来たの?」
スバルが何気なく尋ねる。
「いや~、実はお目付け役の神父が一緒に来てるんだよね……」
「神父?」
「うん。本当は今日中に帰るって言われてたんだ」
セインが頬をかく。
「今日中に?」
ティアナが眉をひそめる。
「それ、大丈夫なの?」
ミッドチルダまで4時間半かかり、時差は7時間もある。
もう、今日中に帰れる便は出てしまったはずだ。
「大丈夫っしょ……たぶん」
「たぶんって……」
ティアナが呆れたように息を吐く。
「女に甘い神父だから」
セインは悪びれもせず続けた。
「え?」
「でも明日の仕事には、もう間に合わないよね……」
セインは少し考える。
「まあ、いつも仕事サボってる人だし、大丈夫だよ」
「……」
ティアナの顔が引きつる。
「おい、まさか……」
ノーヴェも嫌な予感を覚えた。
「一応お目付け役って立場だから、怒るかなぁ?」
セインは腕を組んで考える。
だが、本人にあまり危機感がない。
「……あっ!」
そして、突然ティアナを見る。
「ティアナ、その神父の好みのタイプっぽいから、一緒に謝ってよ」
「……もしかして、その神父って」
ティアナの脳裏に、知り合ってからというもの、いやというほど口説いてくる人物の顔が浮かぶ。
スバルも同じように思い至ったらしい。
「まさか……」
ノーヴェも頭を抱える。
「……あいつか」
瞬間、何人かの頭の中に同じ人物の顔が浮かんだ。
ヴィヴィオとアインハルトも顔を見合わせる。
最近知り合った不良神父。
聖王教会の神父でありながら、妙に軽く、妙に馴れ馴れしく、そして妙に聖王オリヴィエについて詳しい男。
その時だった。
「……ようやく見つけたぞ」
「あっ」
それが目の前に現れた。
「セイン! 何やってんだお前ェっ!!!」
「アガガガガガッ!!」
ファザーがセインにアイアンクローを喰らわせる。
「「「「「「「ファザー(さん)!?」」」」」」」
「ランスターさん、このようなところでまたお会いするなんて、これはもう運命としか言いようがありませんね」
「えっと……」
「割れる割れる割れる! 割ちゃうよ!!」
「割れちゃうじゃねぇ、割るんだよ!」
「たーすーけーてー!」
ファザーはアイアンクローを喰らわせたセインと話を続けながら、何事も無いようにティアナを口説き続ける。
「湯上がりの貴女はいつもにも増して煽情的で美しい。このファザー、目を奪われてしまいました」
「ギ、ギブ……」
「風呂や脱衣所に隠れるとは考えたな、それなら俺じゃ絶対見つけられないはずだ」
「……ごべんなさいでじた」
「ランスターさん、後ほど」
「後ほどはありません」
「やはりあなたは素敵だ」
「どうも」
ティアナはだんだん慣れてきていた。
セインの顔からようやくファザーの手が離れる。
「痛い……」
「今日中に帰るって言ったよな?」
「……言った」
「乗り遅れたぞ」
「でもさー」
「でもじゃない」
ファザーとセインがそんなやり取りをしているところへ、ヴィヴィオが近づいてきた。
「ファザーさん」
「おう、お兄ちゃんだぞヴィヴィオちゃん」
「あはは……」
ヴィヴィオは苦笑する。
「お目付け役はファザーさんだったんですね」
アインハルトもやってくる。
「ああ……しかし、アインハルトちゃん達のオフトレ先がここだったとはな」
「そう言えば、4日間オフトレとして別の世界に行くとしか伝えませんでしたね」
「びっくりしました」
「ねー!」
コロナとリオもファザーに笑いかけた。
「いや、俺も驚いたよ」
ファザーは、まさかここでアインハルトたちのオフトレと鉢合わせするとは思ってもいなかったらしい。
「で、どうするんだ? 今からじゃあ今日中に帰る便に間に合わんぞ」
「お嬢が、料理手伝うなら泊まっていけばって。教会にも連絡してくれるって」
セインがルーテシアを指を指しなが答える。
メガーヌに似た、小さな少女。
「ルーテシア・アルピーノです」
「初めまして、ルーテシアちゃん。神父のファザーだ」
ファザーは神父らしく頭を下げた。
「……メガーヌ女史の娘さんか」
「はい」
「そうか、可愛らしいな」
「えっ⁉︎」
ルーテシアが照れ、セインが目を丸くする。
「お嬢まで口説くの?」
「んな訳ないだろ、守備範囲外だ。それより……」
ファザーがセインに向き直す。
「カリムやシャッハにはとっくに伝えたに決まってんだろ」
「誰の責任で?」
「…………」
セインが恐る恐るファザーを見る。
「……あたし?」
「俺の監督不行き届きだ」
ファザーは即答した。
「え?」
セインが信じられないものを見る目でファザーを見る。
「お前の監督役として来てるんだ、しょうがないだろ」
そう言いながら、ファザーはため息をつく。
「……ありがと」
「で、どうするんだ?」
「あら、2人とも泊まっていきなさいな。部屋は余ってるんだから」
騒ぎを聞きつけたのか、優しい笑顔と共に、メガーヌがやって来て言った。
「ほんと⁉︎ なんとかなったよファザー!」
ファザーは無言でセインにゲンコツを落とした。
「ギャン!」
「あまりこれを甘やかさないでくださいメガーヌ女史。我々はどこか倉庫でも使わせていただければ十分です……このようなリゾート地に泊まるお金もないですし、教会から経費も出ませんので」
「良いのよお金なんて」
「我々としてはそういうわけには……一応教会からきていますので」
「お堅いのね、なら、特別大割引としてこのくらいで……」
「食事込みで?」
「ええ」
「二人分?」
「もちろん」
「いやしかし……よろしいので?」
「もちろん、私がセインを煽っちゃった責任も、ちょっとあるから」
ファザーは少し考えた後、頷いた。
「では、お言葉に甘えます」
デバイスの電卓を叩きながらファザーとメガーヌが料金の話をつける。
こうして、ファザーとセインは一泊だけカルナージに泊まる事になった。
「ファザーさんがまともです」
アインハルトがぽつりと言った。
「人間、自分よりおかしなやつを見るとマトモになるもんだ」
ファザーはセインを見る。
「勉強になったか?」
「ならない」
「そうか」
「でも泊まれてよかった」
「反省しろ」
「はーい」
セインは全く反省していない顔で返事をした。
その様子を見て、ヴィヴィオたちは笑っていた。
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そんな訳で、俺たちは夕食の手伝いをしている。
もうすぐ完成というところで、女性が2人帰って来た。
「なのはママ、フェイトママ!」
「ただいま、ヴィヴィオ」
「うわぁ、良い匂い」
「……美女が2人増えた」
「あら、お上手だね」
金髪の女性がいう。
「にゃはは、ありがとう」
サイドテールの女性も苦笑する。
「なのはママとフェイトママです」
謎の美女2人をヴィヴィオちゃんが紹介してくれる。
「なるほど」
頷く。
「初めまして。ファザーです。聖王教会の神父をやっています」
「高町なのはです」
「フェイト・T・ハラオウンです」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
金髪でスタイル抜群の女性はフェイトさん。サイドテールが特徴の可愛らしさが残る女性はなのはさんと言うらしい。
2人ともヴィヴィオちゃんのお母さんだという。
……まぁ、ヴィヴィオちゃんの生い立ちを考えたら、そういうこともある……のか?
「手伝うよ?」
なのはさんが手伝いを申し出てくれるが、そういうわけにもいかない。
「いえ、これが宿泊の条件でもあるので我々にお任せを。席でお待ちください」
「なら、そうさせてもらおうかな」
俺は美女2人を見送って、料理を仕上げていった。
うーん、残念。なんでもっと早く出逢えなかったんだ。
——————
「なのはさんもフェイトさんも、口説かれて無い!?」
ティアナが小声で言う。
「どういうことなの!?フェイトさんになんて真っ先に飛びつきそうなのに……」
スバルも驚いている。
「あの女好きが、まさかあの2人はタイプじゃないってのか……?」
ヒソヒソと話すティアナとスバルとノーヴェの横を、ファザーが皿を持って通りかかる。
「俺をなんだと思ってんだ」
「不良」
「変態」
「女好き」
「の神父」
「よせよ……へへっ、照れるじゃないか」
「褒めてないよ!」
手が塞がってなければ、鼻の下を擦っていそうな顔だ。
「ってかセイン、サボるな」
「はーい」
ファザーはいつのまにかティアナ達の会話に加わっていたセインを咎め、去り際に一言言って行った。
「ったく、大体俺は人妻には手は出さん」
そう言ってファザーは4人の元をあとにして、テーブルへ料理を運ぶ。
「人妻? だれが?」
「もしかして、さっきヴィヴィオがママって呼んだからじゃない?」
「勘違いしてんのか……なのはさん達のためにも訂正しとくか?」
「そうしたら口説き出すと思うよー」
「……やめときましょ」
「でもティア、相手がいればもう口説かれなくなるんじゃない?」
「……良い相手がいたらとっくに恋人つくってるわよ」
「……そうだね、私もいたことないや……」
「……やめようぜ、この話は」
「みんな仕事人間だと行き遅れちゃうよ……あたしもいないけど」
————————
なんかまたなんかヒソヒソと話してたと思ったらいきなりへこみ出したんだけど……
大丈夫かな?
てか。
「……落ち込んでるランスターさんも素敵だ」
「……最悪あの人でいいのかしら」
「ティア! 気を確かに!」
「そうだ! 最終手段だぞそれは!」
「落ち着いて! 深呼吸!」
……えっ⁉︎
ランスターさん今、最悪俺でいいって……
最悪…………
…………
……
これって0が1になったって事だよな⁉︎
口説き続けた成果が出たぞ!
わっしょい!
我が世の春が来たー!!!
————————
なんだかんだあったが、料理も揃ったので食事だ。
「せっかく本職の方がいるんだし、ファザー君に祈ってもらいましょうか」
メガーヌ女史から挨拶を任せられてしまう。
ふふ……面倒……
「本格的なものだと5分くらいかかりますよ?」
「……簡単にお願いね」
「オーキードーキー」
席を立ち、軽く手を合わせる。
「それでは今日という日と、かけらほど聖王へ感謝を込めて」
「いやかけらほどって……」
誰かがツッコむが気にしない。
「ファザー、そこはちゃんと感謝しようよ」
「してるだろ。かけらほど」
「少なすぎるよ!」
「ゼロじゃないだけありがたいと思え」
「聖王様に失礼じゃない?」
「聖王なら今頃俺に祈られて嬉し泣きしてるよ、いただきます」
「「「いただきます!」」」
ワイワイと食事が始まる。
俺もひと口。
うん、うまい。
セインのやつ料理だけは本当に上手だよな。
「セイン、また料理上手になったんじゃないのー?」
スバルちゃんが料理を頬張りながら、嬉しそうに褒める。
「そう? ……へへへ」
セインも満更でもなさそうに笑った。
「ファザーさんも料理ができるなんて意外でした」
「まぁ、一人暮らし長いからな、それに教会の炊き出しとかで作るし」
「へぇー、一人暮らしなんですね……」
ヴィヴィオちゃんは何気なく頷いたあと、何かを考えるように少しだけ視線を落とし、それから俺を見た。
「あの……ご両親も教会の方なんですか?」
特に深く考えることもなく、俺は答える。
「とっくにくたばったぞ……この味付けいいな、セイン」
「でしょ?」
「今回の件を水に流すから3日間くらい俺に作って献上しろ」
「ヤダーッ」
セインが即答する。
「あの……ごめんなさい」
「…………? 何がだ?」
俺が尋ねると、ヴィヴィオちゃんは少し困ったように笑った。
「いえ……なんでも」
ヴィヴィオちゃんは申し訳なさそうな、ほんの少しだけ寂しそうな顔をしている。
……大天使の情緒が不安定だな。
さてと、そろそろいいだろ。
「メガーヌ女史、お酒を一本……」
「もう、またお酒ですかファザーさん」
「『売って』いただけますか?」
「別にお金はいいのよ?」
「あれだけ値引きして頂いたんですから、それくらい払わせてください」
「……そういうことね」
メガーヌ女史が少し笑う。
「真面目なのねぇ」
そう言って、女史がお酒をとりに向かう。
美味いのがくるといいな。
「ん?」
そんなことを考えながら周囲を見る。
「……? どうしたみんな、だまりこくって」
「……今日のファザーさんはずっと変です!」
アインハルトちゃんが不思議なことを言う。
「そうか?」
首を傾げる。
「いつものチャランポランな方がいいです!」
「ブッ!!」
言うようになったな、いや、遠慮がなくなったのか?
その言葉にセインやノーヴェちゃんが爆笑しているし。
「じゃあいつも通りにするか?」
「え?」
「ランスターさん、どうです一杯」
「結構です」
「んー、残念」
「じゃああたしがもらう!」
セインが俺の酒を奪い去っていく。
「セイン! テメェ!」
「んぐ、んぐ……あっ、美味しい」
「返せコラ!」
セインから酒を奪い返す。
「結構飲みやがって……」
「おかわり!」
「ざけんな……ったく」
奪い返した酒をひと口。
「うん、うまい……エリオ君も飲むか?」
隣の席の赤毛の少年に声をかける。
エリオ君というらしい。さっき紹介されたばかりで、今が初対面だ。
「あはは、僕、未成年なので……」
「真面目だねぇ、俺が君くらいの時は、もう酒もタバコもやってたけどなぁ……」
「ファザーくん、エリオに変なこと教えないで!」
フェイト女史が咎めてくる。
「はーい」
酒瓶を持って席から離れる。
そして距離を取り、タバコを咥える。
肴はこの綺麗な景色と美女たちで十分だし、空気が綺麗でタバコも美味い。
どうせ明日怒られるんだ。
今日は英気を養って、覚悟を決めておかないとな。
「ファザー君、食事中は禁煙です」
「はい……」
責任者であるメガーヌ女史に言われては、とても続けられない。泣く泣くタバコを箱へ戻す。
そんな中、アインハルトちゃんが苦笑しながらポツリとこぼした。
「ふふっ、やっぱりいつもの方がいいですね」
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翌日
アインハルトちゃんたちは、2組にわかれてチーム同士の練習試合を行うようだ。
で、俺たちはそれを見学している。
……いやいやいや。
「帰るって言ったよな、セイン」
「いいじゃんいいじゃん、こんな楽しそうな試合なかなか見られないよ」
「ダメだ!」
即答する。
「この1試合だけでいいから!」
「……何試合もやる予定なのか? それを全部見ていくつもりだったのか?」
「うん」
反省の色もなく、あっけらかんと言うセインにゲンコツを落とした。
「いっ、たぁー!」
「……この試合が終わったらダッシュだ」
「……うん!」
我ながら甘いことを言っている。
「ところでファザー、ダッシュで船のとこまで行けるの?」
「何言ってるんだ、お前が俺を背負ってダッシュに決まってんだろ」
「やっぱりダッシュ続かないんだね」
「ウルセェ」
ここから船のとこまで走ってみろ、爆発します!(肺が)
で、試合内容だが。
俺はこの試合を見るためにここに来たのだろう。
具体的にいうと。
フェイト女史が途中でとんでもない姿になり。
エリオ君の攻撃でバリアジャケットがとんでもないことになり。
最後は集束砲同士が激突して、さらにとんでもないことになり。
おかげでとんでもないものを拝めた。
今とんでもないって何回言った?
とりあえずセイン。
よくやった。
セインの頭を撫で回す。
「な、急になに? ファザー……? 痛い痛い! ハゲる、ハゲちゃうって!」
「遠慮すんな」
「やっぱ怒って……にぎゃー!!」
こうして俺たちのカルナージの旅行は終わった。
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それから、どうなったかというと――。
聖王教会の一室。
その中央で、ファザーとセインは揃って床に正座していた。
二人の傍らにはシャッハが控えている。
正面に座るカリムは、いつもの穏やかな笑顔を浮かべていた。
ただし、その目は笑っていない。
「ファザー。なんのために、あなたをセインに同行させたと思っているんですか」
「俺が監督するためです」
「それなのに彼女を見失い、予定していた時間内に帰れなくなった……と」
「……俺の監督不行き届きです」
ファザーは素直に認めた。
カルナージでセインを見失ったことについて、反論できる余地が無かった。
確かにセイン本人が勝手に遊び回ったことが原因ではある。しかし、今回ファザーは彼女の監督役として同行していた以上、最終的な責任を負うべきなのは監督役であるファザーだっだ。
「その通りです」
カリムは静かに頷いた。
「これでは、あなたを同行させた意味がありません」
「はい」
「あなた自身の監督者としての能力にも、考え直す必要があるでしょう」
「はい」
「それに伴って、後進の指導についても問題視する声が上がっています」
「もっともだ」
普段の軽薄な態度からは想像できないほど、ファザーは大人しく叱責を受けていた。
その横で、セインが申し訳なさそうに口を開く。
「でも、今回の件はあたしが――」
「セイン、黙ってろ」
ファザーが、低い声で静した。
「でも……!」
「今は俺とカリムが話してる。黙れ」
「……うん」
叱られたセインは、しゅんと肩を落とした。
その様子を見て、カリムはほんの少しだけ目を細める。
そして改めてファザーへと視線を戻した。
「今回、聖王教会としても問題を軽く扱うつもりはありません」
「だろうな」
「ファザーには反省文を書いてもらいます。それから、監督者として必要な講習を改めて受けてもらいます」
「了解」
「さらに明日から一週間、神父としての通常業務をあなたが行ってください」
「具体的には?」
「礼拝、懺悔聴聞、洗礼の儀、聖王像や教会施設の清掃などです」
「……つまり」
ファザーは小さく息を吐いた。
「しばらく真面目な神父をやれ、と」
「その通りです」
「了解した」
観念したようにファザーは立ち上がる。
「では、すぐに清掃を始めてください。反省文は明日までに」
「はいよ」
軽い返事だけを残して、ファザーは部屋を出ていった。
扉が閉まる。
残されたセインは、しばらくその扉を見つめていた。
「ねえっ! ファザーは帰るって言ってたの。あたしがワガママ言ったから……」
「セイン」
カリムの声は穏やかだった。
「確かに今回の件、ファザーだけに責任がある訳ではありません。ですが、貴方はまだ見習いです。責任を取れる立場ではありません」
「でも……」
セインは俯く。
自分が悪かった。
それは分かっている。
けれど、自分のせいでファザーだけが罰を受けているように思えて、どうしても納得できなかった。
「……なぜファザーが自ら責任を被ったか、わかりませんか?」
「え……?」
カリムの問いに、セインが顔を上げる。
カリムは穏やかな表情を崩さないまま、静かに問いかけた。
「あなたたち戦闘機人を快く思わない者がいることは、知っていますね?」
セインの表情が曇った。
「……うん」
セインは、自分が戦闘機人であることを嫌っているわけではない。
それでも、戦闘機人という言葉だけで自分たちを見る人間がいることは知っている。
そこに込められた偏見も。
自分自身を見てもらえない、あの感覚も。
「だからこそ、問題行動を繰り返せば、あなたたちを否定しようとする者に、それを理由に余計な隙を与えることになります」
「……」
「生まれは選べません」
「うん……」
「ですから、生まれだけで人を判断してはいけない。ファザーも、よく言っているでしょう?」
セインは小さく頷いた。
「あなたたちが戦闘機人だからという理由だけで、聖王教会のシスターになれない。そんなことがあってはならない。そう思っているから、今回の件を、自分の監督責任として引き受けたのです」
セインは目を伏せたまま、唇を噛んだ。
ファザーは、自分を庇ったのだと思っていた。
けれど、それだけではなかった。
自分を庇うことで、ディードやオットーまで守ろうとしていた。
自分たちが教会にいることを、誰かに否定させないために。
自分たちがここにいていいのだと、誰かに証明するために。
そのために、ファザーは自分の立場を差し出した。
「……ファザー」
「彼の配慮を無駄にしないことです」
カリムの声は優しかった。
これまで、シスターになるということを、セインはどこか単純に考えていた。
教会の服を着る。
礼拝に参加する。
困っている人を助ける。
そして、ファザーやディード、オットーと一緒にいられる。
それがシスターになることだと思っていた。
けれど、今は違う。
シスターになるということは、ただ教会に受け入れてもらうことではない。
自分たちを受け入れようとしてくれている人たちの思いを、無駄にしないこと。
自分の行動が、自分一人だけのものではないと理解すること。
そして、いつか自分も、誰かを守る側に立つこと。
その重さが、初めて実感を伴って胸に落ちてきた。
「彼のことを思うなら、一刻も早く正式なシスターになれるように精進なさい」
「はいッ!」
ただ勢いに任せたものではない。
胸の奥に生まれた熱を、どうにか言葉にしようとするような声だった。
「では、あなたも行って良いです」
「カリム、シャッハ、あたし頑張るよ! ちゃんとシスターになるから!」
「ええ。期待しています」
カリムが微笑む。
セインは大きく頷くと、勢いよく部屋を飛び出していった。
扉が閉まる。
部屋にはカリムとシャッハが残される。
静寂が戻った室内で、シャッハが小さく息を吐いた。
「少し厳しかったのでは?」
シャッハが苦笑しながら尋ねる。
「ふふ、いつもとは役割が逆ですね」
カリムも苦笑して返す。
「私は怒りたくて怒っている訳では……」
「本当?」
「もう、カリム」
シャッハが少しだけ頬を膨らませる。
カリムは楽しそうに笑った。
「ええ。あの子には少々、重かったかもしれません」
「……ただ、あの子には必要だったと思います」
「……ファザーにも、ですね」
「ええ」
シャッハは先ほど閉じた扉へ視線を向けた。
「しかし、今回、本当にファザーを同行させて正解だったのでしょうか」
「どういう意味です?」
「彼ならセインを監督できると思っていたのですが……結局、見失いました」
「セインが本気で逃げれば、ファザーでも難しいでしょう」
「私なら捕まえられましたが」
「ええ。でも今回は、あなたに別の仕事を任せる必要がありました」
「監査の対応ですか」
カリムが頷く。
「抜き打ちで来る可能性が高いと考えていましたから。あなたに付いてもらわなければなりませんでした」
「予想通りでしたね」
「ええ」
そこでシャッハは、ふと思いついたように尋ねる。
「ですが、ファザーでもよかったのでは?」
「ファザーでも?」
「彼はああ見えて、そういうことには妙に優秀ですから」
「確かに」
カリムも認める。
「突然旅に出る時でさえ、必要な手続きは済ませますし、もっともらしい理由も用意する。書類仕事と、その場を切り抜けるための言い訳だけなら、教会でもかなり優秀な部類でしょう」
「ですよね」
そこまで言って、カリムの表情があきらかに曇った。
「……ですがシャッハ」
「はい?」
「一日中、まともなファザーがあなたの隣にいたら、どうです?」
「……」
シャッハは無言になった。
想像する。
朝から礼拝。
真面目に仕事。
女性を口説かない。
酒も飲まない。
煙草も吸わない。
文句も言わない。
「……鳥肌ものです」
「そういうわけです」
「なるほど」
シャッハは納得したように頷いた。
「なら、仕方ありませんね」
「ええ。全く」
二人は顔を見合わせ、苦笑した。
―その頃。
教会の礼拝堂では、言いつけ通り、ファザーが黙々と聖王像を磨いていた。
「……」
文句も言わず、雑巾を動かす。
罰として命じられた仕事とはいえ、手を抜くつもりはないらしい。
「ねぇ、ファザー……」
背後から声がした。
振り返らなくても誰か分かる。
「セインか。どうした?」
「謝らないとって思って」
ファザーの手が止まる。
「……そうか」
少しだけ間を置いて、ファザーは再び雑巾を動かした。
「なら、謝る相手が違うだろ?」
「え?」
「なんで今回カリムが、俺にだけ責任を負わせたかわかるか?」
「……それは、あたしが見習いだから……」
「そうだ」
ファザーは聖王像を磨きながら答えた。
「今回の件だけ見れば、お前の性格的な問題だ。だが、それをそのまま表に出したらどうなる?」
「……?」
「お前らをまとめて『戦闘機人』として見る奴らからすれば、格好の材料になる」
セインの表情が固まった。
「『戦闘機人は制御できない』」
ファザーは淡々と続ける。
「そんな風に思われる隙を作りたくなかったんだろうよ」
「……」
「だから、『神父が見習いをちゃんと監督できていなかった』って形にした」
セインは黙ってファザーの背中を見る。
カリムから聞いた話が、今度はファザーの口から語られた。
同じ内容のはずなのに、胸に刺さる場所が違った。
ファザーは、いつものように軽い調子で話している。
けれど、その言葉の一つ一つが、自分たちを守るために選ばれていることが分かった。
「カリムもシャッハも、お前たちにはちゃんとシスターになってほしいのさ」
「……!」
「あいつらは、お前たちが教会で受け入れられるように、いろんなところで説明してきたはずだ。それこそ頭を下げたことだってあるだろうよ」
「カリムやシャッハが……」
「ああ」
ファザーは雑巾を置き、振り返った。
「なんでそこまですると思う?」
「同情……とか?」
「違う」
「聖職者だから?」
「それも違う」
ファザーは短く答えた。
「期待してるからだ」
「あたしに?」
「お前に。ディードちゃんにも、オットーちゃんにもな」
セインは何も言えなかった。
期待。
その言葉は、これまで自分が思っていたよりもずっと重かった。
「確かに、お前たちは普通の人間とは違う部分がある」
「……うん」
「だからこそ、人一倍、他人の痛みに寄り添えるシスターになれる。あの二人はそう考えてんだろ」
「そんなこと、一言も……」
「言ったらお前、調子に乗るからな」
「……否定できない」
セインは苦笑した。
ファザーも肩をすくめる。
「まあ、今さら態度を変えろなんて言わねぇよ」
「え?」
「お前らしさがなくなるしな」
その言葉に、セインの胸がまた熱くなる。
ちゃんとしろと言われた。
シスターになれと言われた。
けれど、別人になれとは誰も言わなかった。
「ただ覚えておけ」
ファザーはセインの目をしっかりと見て言った。
「お前たちは、あの二人に期待されている。それだけは忘れるな」
「……うん」
「隠れて聞いてる二人もな」
「えっ」
セインが振り返る。
物陰から、そっと二人の姿が現れた。
「バレてましたか」
「完璧な盗み聞きだと思ったのですが」
ディードとオットーが悪びれた様子もなく言った
「ふ、残念だったな」
ファザーは困ったような笑みを浮かべながら言った。
セインは二人を見る。
ディードもオットーも、いつもの落ち着いた表情を浮かべていた。
「セイン姉様」
ディードが穏やかに声をかける。
「ようやく、いつもの調子に戻りましたね」
「はい。姉様は、やはり笑っているほうが似合います」
オットーも静かに微笑む。
「……ありがとう、二人とも」
セインの目に、再び涙が浮かんだ。
それを見たファザーは、少しだけ困った顔をする。
「おいおい。泣くなよ」
「だって……」
「いつもみたいに笑っとけ、それがお前らしさだ」
「うんっ!」
セインは袖で涙を拭った。
そして、いつものように笑った。
「えへへ……」
その笑顔を見て、ディードとオットーも穏やかに微笑む。
「……ねえ、ファザー」
「なんだ」
「ファザーは、あたしたちのこと好き?」
「調子に乗るな」
「えー!」
「ディードちゃんくらいだ」
「なんでディードだけ⁉︎」
「お前はうるさい」
「ひどい!」
「じゃあオットーは⁉︎」
「普通」
「あたしが一番下⁉︎」
教会の中に、いつもの騒がしい空気が戻ってくる。
ファザーは呆れたように息を吐きながらも、どこか安心したような表情を浮かべて、再び聖王像に向き直った。
「ちなみに、俺は聖王像の掃除は嫌いじゃ無い」
「意外ですね」
「どうしてですか?」
ディードとオットーが尋ねる。
ファザーは聖王像の顔を眺めた。
「聖王の顔に雑巾を塗りたくってるってことになるからだ」
「あたしの感動返せ!」
セインが叫ぶ。
ディードとオットーも、とうとう堪えきれずに笑った。
今回の一件で、セインが突然別人のように真面目になったわけではない。
次の日には、また余計なことをして怒られるかもしれない。
それでも――。
自分が何者なのか。
教会にいることに、どんな意味があるのか。
そして、自分を受け入れてくれた人たちが何を望んでいるのか。
ほんの少しだけ、それを考えるようになった。
それだけでも、今は十分だった。
こうして――。
カルナージからの騒動は、ようやく幕を閉じた。
そして、この日を境に。
セインはほんの少しだけ――本当にほんの少しだけ、シスター見習いらしく仕事をするようになった。
……たぶん。
Q,シャッハの案で良かったんじゃないの?
A,本来ならそうです。本人もそれをなんとなくわかってるので、今回おとなしく罰を受けてます。つまり、大体ファザーのせいです。