ポケットの中の毎日 作:GPTに書かせてみた
町外れの森には、ゾロアークが一匹いる。
そう聞いたのは、僕がこの町へ引っ越してきたばかりのころだった。
「近づいちゃいけないよ」
八百屋のおばさんが言った。
「人の姿に化けるんだから」
パン屋のおじさんは言った。
「嘘をつくポケモンなんだ」
子どもたちはもっと怖い話をした。
森に入ったら、死んだ人に化けたゾロアークに呼ばれる。
振り返ったら、知らない家に立っている。
自分とそっくりな姿になって、町を歩いている。
そんな話ばかりだった。
僕は信じていなかった。
けれど、森へ行く用事もなかった。
その日までは。
祖父が亡くなった。
長い病気だった。
最後の数週間は、ほとんど眠っていた。
だから、僕の中に残っている祖父の声は少ない。
代わりに残っているのは、庭の匂いと、古い作業台と、いつも使っていた椅子だった。
葬式が終わった夜。
僕は眠れなかった。
家の中にいると、祖父がいた場所ばかり目につく。
だから、外へ出た。
気がつくと、町外れの森まで来ていた。
月明かりの下で、木々が揺れている。
その奥から声がした。
「……おい」
僕は立ち止まった。
聞き覚えのある声だった。
「こんなところで何してる」
祖父の声。
そんなはずがない。
分かっている。
それでも、足が勝手に動いた。
「じいちゃん?」
森の奥に、誰かが立っていた。
背中を丸めた老人。
古い帽子。
作業着。
僕が知っている祖父だった。
「遅いぞ」
祖父が言った。
僕は何も言えなかった。
「庭の松、見てきたか?」
「……まだ」
「明日、見てやれ」
「うん」
「水をやりすぎるなよ」
「うん」
「それから……」
そこで、祖父が笑った。
「ちゃんと飯を食え」
僕は泣いた。
声を上げて泣いた。
祖父は何も言わず、ただそこにいた。
しばらくして。
「もう帰れ」
そう言った。
「寒いからな」
「じいちゃんは?」
「俺はもう少しここにいる」
「一緒に帰ろうよ」
祖父は首を横に振った。
「帰る場所が違うんだ」
その言葉を聞いた瞬間。
僕は全部分かった。
目の前にいるのは祖父じゃない。
祖父の姿をした、誰かだ。
「……ゾロアーク?」
老人の姿が揺れた。
毛並みが現れ、長い爪が月明かりを反射する。
赤いたてがみ。
鋭い目。
ゾロアークが立っていた。
僕は泣きながら笑った。
「ずるいよ」
「……ゾロ」
「こんなの、ずるい」
ゾロアークは何も言わなかった。
ただ、少しだけ目を伏せた。
僕は聞いた。
「どうして、こんなことしたの?」
ゾロアークは森の奥を見る。
そこには小さな洞窟があった。
洞窟の入口には、古びた木の椅子が置かれている。
祖父が昔、森へ来るときに使っていたものだった。
ゾロアークは、その椅子のそばへ歩いていった。
そして振り返る。
「……ゾロ」
意味は分からない。
けれど、なぜか分かった。
祖父は、この森でゾロアークに会っていたのだ。
怪我をしたとき。
冬の寒い日。
雨の日。
祖父はこのポケモンに食べ物を分けていた。
ゾロアークは、祖父のことを覚えていた。
だから僕が一人で森へ来たとき。
泣いている僕を見つけたとき。
祖父の姿になった。
それだけだった。
「……優しい嘘だね」
僕が言うと、ゾロアークは少し困ったような顔をした。
「でも」
僕は涙を拭った。
「もう一回だけ、お願いしていい?」
ゾロアークが首を傾げる。
「もう一回だけ、じいちゃんになって」
しばらく沈黙があった。
やがて、赤いたてがみが光に包まれる。
そこに祖父が立っていた。
「何だ、また来たのか」
「うん」
「しょうがない奴だな」
「うん」
「明日は松を見ろよ」
「分かってる」
「水をやりすぎるな」
「分かってるって」
「飯も食え」
「それも分かってる」
祖父は笑った。
僕も笑った。
ほんの少しだけ。
その夜、僕は森を出た。
振り返ると、ゾロアークが木々の間に立っていた。
もう祖父の姿ではなかった。
赤いたてがみを揺らしながら、こちらを見ている。
僕は頭を下げた。
「ありがとう」
ゾロアークは答えなかった。
ただ、森の奥へ消えていった。
翌朝。
僕は庭へ出た。
祖父の松の前にしゃがむ。
土を触る。
少し乾いている。
僕はじょうろを持った。
そして、ほんの少しだけ水をやった。
祖父なら、これくらいでいいと言うだろう。
そんな気がした。
それから僕は、朝飯を食べた。
味噌汁が少し塩辛かった。
でも、ちゃんと食べた。
人は、嘘をつく。
ポケモンも、嘘をつく。
けれど嘘には、誰かを騙して傷つけるためのものだけじゃない。
ほんの少しだけ現実を遠ざけて。
立ち上がる時間をくれる嘘もある。
あの夜、ゾロアークが僕についた嘘は。
たぶん、そんな嘘だった。
それから何年か経った。
僕はときどき森へ行く。
ゾロアークに会うことはない。
でも、森の奥にある古い椅子だけは、今も残っている。
たまに、その椅子の隣に赤い毛が一本落ちている。
僕はそれを拾わない。
そのままにしておく。
誰かの優しい嘘が、そこにあった証だから。