ポケットの中の毎日 作:GPTに書かせてみた
図書館には、いろいろな人が来る。
本を借りに来る人。
新聞を読む人。
勉強をする人。
待ち合わせまでの時間を過ごす人。
雨宿りをする人。
そして、ときどき。
何をするでもなく、ただ座りに来る人もいる。
私は、この町の図書館で司書をしている。
相棒はモクローだ。
昼間は受付の隅にある止まり木で眠っている。
本が好きなのかと聞かれることがある。
たぶん、そうでもない。
モクローは本よりも、本棚の上に積もった小さな埃や、窓から入ってくる鳥の声や、閉館後の静かな館内のほうが好きなのだと思う。
それでも。
この図書館には、よく似合っている。
モクローがいると、本棚の間の静けさが少しだけ柔らかくなる。
ある日。
毎週水曜日に来る男の子がいた。
いつも同じ席に座る。
窓際の、一番奥。
でも、本を読むことはほとんどない。
机の上に鉛筆を置いて、しばらく窓の外を見る。
それから帰る。
最初のころは、私は気にしていなかった。
図書館では、静かにしてくれていればいい。
何を読むかも。
どれだけいるかも。
利用する人の自由だ。
けれど、何週間経っても、その子は本を一冊も借りなかった。
ある水曜日。
私は思い切って声をかけた。
「今日は何か探してる?」
男の子は少し驚いて、首を横に振った。
「本、読まないの?」
「……読むの、苦手だから」
そう言って、俯いた。
私は少し考えた。
「じゃあ、読まなくてもいいよ」
「え?」
「ここは図書館だけど、本を読まないと入っちゃいけない場所じゃないから」
男の子は私を見る。
モクローも見る。
そして、モクローが突然、棚の上から飛び降りた。
男の子の机の上に、ぽすんと着地する。
「わっ」
モクローは何事もなかったように羽を整えた。
「こいつも、あんまり本読まないよ」
「……そうなの?」
「うん」
モクローがこちらを見る。
少し不満そうだった。
男の子が笑った。
それからだった。
毎週水曜日。
男の子は図書館に来るようになった。
本は、ほとんど読まない。
でも、モクローの隣で絵を描いたり。
窓の外を眺めたり。
たまに私のところへ来て、鉛筆を借りたりする。
ある日。
「司書さん」
「なに?」
「図書館って、何冊本があるの?」
「さあ……数えたことはないなあ」
「じゃあ、全部数えてみたい」
私は笑った。
「それは大変だよ」
「やってみたい」
モクローも鳴いた。
こうして、妙な仕事が始まった。
男の子は本棚の前に立って、本の背表紙を一冊ずつ数えていった。
一段。
また一段。
モクローはその後をついていく。
ときどき本を落とす。
私が拾う。
「モクロー、邪魔しちゃだめ」
モクローは知らん顔をする。
それでも、二人は楽しそうだった。
何日もかけて数えた。
途中で分からなくなった。
最初からやり直した。
別の棚を数えた。
そして、ようやく。
「全部で、これくらい」
男の子がノートを見せてくれた。
正確な数ではなかった。
途中で数え間違えている。
それでも。
「すごいね」
私は言った。
「全部の本を見たんだ」
男の子は少し誇らしそうだった。
「うん」
その日。
帰る前に、男の子が一冊の本を手に取った。
「これ、借りてもいい?」
「もちろん」
初めての貸し出しだった。
本は、動物の写真集だった。
男の子は大事そうに抱えて帰っていった。
私は受付から、その背中を見送った。
モクローも窓辺から見送っている。
その夜。
閉館後の図書館を見回った。
誰もいない。
椅子が並んでいる。
本棚が静かに立っている。
机の上には、昼間の小さな鉛筆の跡。
私はそれを拭きながら思った。
図書館は、本を読むためだけの場所ではない。
本を探すための場所。
誰かを待つ場所。
少し休む場所。
何かを知りたいと思う場所。
そして。
何もしたくない日に、何もしないでいていい場所。
モクローが棚の上を飛ぶ。
ぱたぱた、と小さな羽音が響く。
「そろそろ帰ろうか」
そう言うと、モクローは返事をしなかった。
お気に入りの棚の上で丸くなる。
「……まだいたいの?」
モクローは目を閉じる。
私は笑った。
「じゃあ、もう少しだけ」
電気を一つ消す。
また一つ。
本棚の間に、薄暗い明かりだけが残る。
たくさんの本が並んでいる。
誰かが書いた物語。
誰かが残した記録。
遠い国の話。
ずっと昔の話。
まだ誰にも読まれていない本もある。
何度も借りられた本もある。
それぞれに、誰かの時間が詰まっている。
でも、本は自分から誰かを呼ぶことはできない。
だから私は、ここにいる。
その人が必要とする一冊を見つけられるように。
あるいは。
必要な一冊が見つからない日でも。
ただ、この場所にいられるように。
翌週。
男の子がやってきた。
借りた写真集を返しに来た。
「面白かった?」
「うん」
「じゃあ、次は何にする?」
男の子は本棚を見る。
少し迷う。
そして、一冊を取り出した。
「これ」
今度は、鳥の本だった。
モクローが隣から覗き込む。
「モクローの本?」
「違うよ」
「でも、鳥だよ」
「モクローも鳥じゃん」
モクローが胸を張った。
男の子が笑う。
私は貸し出しカードを受け取った。
窓の外から、午後の光が差し込んでいる。
本棚のあいだを、モクローが飛んでいく。
その後ろを、男の子が追いかける。
「走らないでね」
私は声をかける。
二人が振り返る。
そして笑う。
今日も図書館には、いろいろな人が来る。
本を読む人。
本を探す人。
何も読まない人。
そして。
いつか本を読んでみようと思う人。
私は受付に座りながら、その全部を静かに見ている。
ここでは、急がなくていい。
一冊目に出会うまで。
好きな一冊を見つけるまで。
あるいは。
何も見つからない日でさえ。
本棚のあいだに、座っていていい。
それもまた。
図書館の大切な仕事なのだと思う。