ポケットの中の毎日 作:GPTに書かせてみた
海の近くに、小さな坂道がある。
港へ向かう道で、車が通るほど広くはない。
けれど、朝になると魚を運ぶ人が通り、昼には近所の子どもたちが歩き、夕方には犬の散歩をする人が通る。
その坂道を、毎朝ころころ転がってくるものがいた。
「ころころ、ころころ」
白くて丸い。
タマザラシである。
最初に見つけたのは、坂の途中にある花屋のおばさんだった。
「まあ。また来たのかい」
タマザラシは返事をしない。
返事をする代わりに、
「ころん」
と横に一回転した。
そして、
「ころころころころ」
坂を下っていった。
「危ないよ!」
おばさんが声をかける。
けれどタマザラシは止まらない。
坂を転がりきると、道の端でぴたりと止まった。
「……おはよう」
今度はちゃんと、こちらを見た。
「おはよう」
そう言うと、タマザラシは満足そうに、
「ころん」
ともう一度転がった。
それが、毎朝のことだった。
ある朝、坂の途中に大きな段ボール箱が置いてあった。
花屋に届いた鉢植えを入れていた箱だ。
おばさんが店の奥へ運ぼうとしていたのだが、少し目を離した隙に、
「ころころころ」
と音がした。
「えっ?」
振り向く。
タマザラシが、段ボール箱にぶつかっていた。
「ころん」
箱が少し動く。
「ころん」
もう一度ぶつかる。
箱が、坂を少し下る。
「ちょっと、ちょっと!」
おばさんが慌てて追いかける。
けれどタマザラシは、
「ころころころころ」
と箱を追いかけている。
どうやら、自分が転がった勢いで箱が動くのが面白いらしい。
「遊んでる場合じゃないよ!」
おばさんが箱を押さえる。
タマザラシは箱の前で止まった。
そして首をかしげる。
「……ころん?」
「ころんじゃないの」
おばさんは笑った。
それから数日後。
今度は港の倉庫の前で、タマザラシが立ち往生していた。
立っている、といっても、タマザラシはほとんど丸い。
だから、
「ころころ」
と動いているうちに、倉庫の壁へ行ってしまった。
そこから先へ進めない。
「どうした?」
近くにいた漁師のおじさんが声をかける。
タマザラシは振り返った。
「ころん」
「そっちは壁だぞ」
「ころん」
「こっちだ」
おじさんが反対側を指す。
タマザラシはそちらを見る。
そして、
「ころころころ」
と進んだ。
ところが三歩ほど進んだところで、
「ころん」
と転がって、また壁へ戻った。
「……おまえ、わざとか?」
「ころん」
おじさんは大笑いした。
「まあいい。ゆっくり行け」
タマザラシはもう一度向きを変えた。
今度は少しずつ進む。
ころん。
ころん。
ころん。
転がっては止まり、止まってはまた転がる。
急ぐ様子はない。
おじさんも急かさなかった。
その日の夕方。
僕が港へ行くと、タマザラシが防波堤の手前で昼寝をしていた。
丸い体を砂の上に置いて、
すう。
すう。
と寝息を立てている。
「今日も転がったの?」
そう聞くと、タマザラシは目を開けた。
「……ころん」
寝ぼけた声だった。
「いっぱい転がった?」
「ころん」
「楽しかった?」
少し考えてから、
「ころん」
と答えた。
たぶん、そういう意味だった。
僕はそのころ、何をしても上手くいかない日が続いていた。
仕事で失敗した。
予定も崩れた。
頑張っているつもりなのに、前へ進んでいる感じがしない。
そんな日だった。
だから、丸いタマザラシが転がっているのを見ると、少しだけおかしくなった。
転がって。
止まって。
また転がる。
まっすぐ進めなくても、何度も向きを変える。
ときどき壁にぶつかる。
それでも、
「ころん」
と起き上がる。
「……いいな、おまえ」
僕がそう言うと、タマザラシがこちらを見た。
「僕なんか、転がってばっかりでさ」
するとタマザラシは、
「ころん」
と僕の足元まで転がってきた。
そして、そのまま僕の靴に頭をくっつけた。
「……慰めてくれてるの?」
「ころん」
僕は笑った。
「ありがとう」
するとタマザラシは、満足したように体を起こした。
そして海のほうへ向かって、
「ころころころ」
と転がっていった。
次の日の朝。
花屋のおばさんが坂の上から叫んでいた。
「こらー! タマザラシ! そっちは下りすぎ!」
見ると、タマザラシがいつもより勢いよく転がっている。
「ころころころころころ!」
「止まりなさい!」
「ころころころころ!」
坂の下では、港のおじさんが待っている。
「おーい! こっちだぞ!」
タマザラシは、
「ころん!」
と鳴いて、
最後のところでぴょんと跳ねた。
そして、
「ぽすん」
と砂浜に着地した。
みんなが笑った。
タマザラシも、笑っているように見えた。
僕も笑った。
昨日までなら、転がっているだけのタマザラシを見て、
「何をしているんだろう」
と思ったかもしれない。
けれど今は、少し違う。
転がることしかできない日もある。
思った方向へ進めない日もある。
途中で止まってしまうことだってある。
それでも、またころんと転がればいい。
少しくらい遠回りしてもいい。
そうしているうちに、いつの間にか誰かのところへたどり着くこともある。
「タマザラシ」
呼ぶと、
「ころん」
と返事がした。
今日も坂道を、
ころころ。
ころころ。
白くて丸い背中が、海へ向かって転がっていく。
僕はその後ろ姿を見ながら、ゆっくり歩き出した。
今日は僕も、
少しくらいゆっくりでいい気がした。