ポケットの中の毎日   作:GPTに書かせてみた

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ラッキーと治らない傷

 ラッキーは、傷を治すのが得意だった。

 

 転んで膝を擦りむいた子。

 

 料理中に指を切ったおばさん。

 

 木から落ちて足を痛めたポッポ。

 

 ラッキーがそっと手を当てると、痛みは少しずつ引いていく。

 

 だから、町の診療所では。

 

「ラッキーがいてくれて助かるよ」

 

 いつもそう言われていた。

 

 ラッキーも、その言葉が好きだった。

 

 誰かが痛がっている。

 

 自分が近づく。

 

 傷が治る。

 

 最後に笑ってもらえる。

 

 それは、とても分かりやすいことだった。

 

 ある冬の日。

 

 診療所に、一人の少年が来た。

 

 怪我はしていなかった。

 

 熱もない。

 

 咳もない。

 

 どこも痛くないらしい。

 

 けれど。

 

 椅子に座ったまま、ずっと下を向いていた。

 

「どうしたの?」

 

 ラッキーが近づく。

 

 少年は答えない。

 

 医者が話しかけても、黙っている。

 

 やがて少年は、小さな声で言った。

 

「……友達と、喧嘩した」

 

「うん」

 

「ひどいこと言った」

 

 ラッキーは首を傾げる。

 

「仲直りしたい?」

 

 少年は頷いた。

 

「でも、もう無理かもしれない」

 

 ラッキーは少年の胸に手を当てた。

 

 いつものように。

 

 そっと。

 

 少しだけ力を込める。

 

 少年は驚いて顔を上げた。

 

「……何してるの?」

 

 ラッキーは困った。

 

 いつもなら。

 

 ここから痛みが消えていく。

 

 でも。

 

 何も起きなかった。

 

 少年の胸にあるものは、傷口が見えない。

 

 血も出ていない。

 

 腫れてもいない。

 

 なのに。

 

 確かに、痛がっている。

 

 ラッキーはもう一度、手を当てた。

 

 やっぱり。

 

 何も変わらない。

 

 少年は少し笑った。

 

「ラッキーでも、治せないんだね」

 

 その言葉が。

 

 ラッキーには、なんだか寂しく聞こえた。

 

 その日から。

 

 ラッキーは少し気にするようになった。

 

 怪我をした人が来れば、すぐに治せる。

 

 けれど。

 

 怪我をしていないのに苦しそうな人には。

 

 何もできない。

 

 ある女性は、毎週同じ時間に診療所へ来た。

 

 身体はどこも悪くない。

 

 けれど、いつも疲れた顔をしている。

 

 ある老人は、薬を受け取ると必ず「もう少し長く生きられたらな」と呟いた。

 

 ある男の人は、腕の傷は治ったのに、その傷を何度も撫でていた。

 

 ラッキーは、そのたびに手を伸ばした。

 

 でも。

 

 治らない。

 

 治せない。

 

 自分には何もできない。

 

 そう思うたび。

 

 ラッキーは少しずつ、自信をなくしていった。

 

 そんなある日。

 

 あの少年が、また診療所に来た。

 

 前より元気そうだった。

 

 けれど、やっぱり少しだけ寂しそうだった。

 

「友達とは、どう?」

 

 少年は首を横に振った。

 

「まだ、話してない」

 

 ラッキーは俯いた。

 

 すると少年が言った。

 

「でもね」

 

「……?」

 

「昨日、友達が僕の机に消しゴム置いていった」

 

 少年が笑った。

 

「たぶん、仲直りしたいんだと思う」

 

 ラッキーも笑った。

 

 けれど。

 

 そのとき、ふと思った。

 

 あれ?

 

 まだ傷は治っていない。

 

 なのに。

 

 少し、嬉しそうだ。

 

 少年が帰ったあと。

 

 ラッキーは医者のところへ行った。

 

「どうした?」

 

 ラッキーは、自分の胸を指差した。

 

 それから。

 

 少年が座っていた椅子を指差した。

 

「心の傷のこと?」

 

 ラッキーが頷く。

 

「治せないことが、そんなに気になる?」

 

 また頷く。

 

 医者は少し考えてから言った。

 

「ラッキー」

 

「ラッキーは、怪我を治せる」

 

「でも、人の心を治すことはできない」

 

 ラッキーの耳が下がる。

 

「それは、悪いことじゃないよ」

 

 医者は続けた。

 

「心の傷っていうのはね」

 

「誰かに治してもらうものじゃないこともあるんだ」

 

「時間が必要だったり」

 

「自分で向き合う必要があったり」

 

「誰かと話して、少しずつ変わっていくこともある」

 

 ラッキーはじっと聞いている。

 

「だから、何もできないわけじゃない」

 

「そばにいることはできるだろ?」

 

 ラッキーは顔を上げた。

 

「治せなくても」

 

「痛いときに、隣にいてあげることはできる」

 

 その日。

 

 ラッキーは初めて。

 

 誰かの傷を治そうとせずに。

 

 隣に座ってみた。

 

 待合室の隅。

 

 さっきの女性が座っていた。

 

 ラッキーは何もせず、その隣に座る。

 

 女性は少し驚いた。

 

「……どうしたの?」

 

 ラッキーは答えない。

 

 ただ、そこにいる。

 

 しばらくして。

 

 女性がぽつりと言った。

 

「最近ね、眠れないの」

 

 ラッキーは聞いている。

 

「昔のことを思い出しちゃって」

 

 ラッキーは何も言わない。

 

「誰にも言えなくてね」

 

 ラッキーは、そっと女性の手に自分の手を重ねた。

 

 治すためじゃない。

 

 ただ。

 

 ここにいると伝えるために。

 

 女性はしばらく黙っていた。

 

 それから。

 

「……ありがとう」

 

 そう言った。

 

 傷は。

 

 治っていない。

 

 けれど。

 

 女性の顔は、ほんの少しだけ柔らかくなった。

 

 それでいいのかもしれない。

 

 ラッキーは、そう思い始めていた。

 

 数日後。

 

 あの少年が、また診療所に来た。

 

 今度は一人じゃなかった。

 

 友達と一緒だった。

 

 二人とも気まずそうにしている。

 

「……ごめん」

 

 少年が言った。

 

「僕も、ごめん」

 

 友達が答える。

 

 それだけだった。

 

 大げさな仲直りではない。

 

 抱き合ったりもしない。

 

 ただ。

 

 二人は一緒に帰っていった。

 

 ラッキーは、その背中を見送った。

 

 きっと。

 

 あの心の傷も。

 

 すぐには消えない。

 

 何度も思い出すかもしれない。

 

 また痛くなる日もあるだろう。

 

 でも。

 

 それでもいい。

 

 傷が残っていても。

 

 その上から、新しい時間を重ねていくことはできる。

 

 治らない傷がある。

 

 ラッキーは、それを知った。

 

 けれど。

 

 治せないからといって。

 

 何もできないわけではなかった。

 

 痛みを消せなくても。

 

 一緒にいることはできる。

 

 答えを出せなくても。

 

 話を聞くことはできる。

 

 立ち上がれない日には。

 

 隣で待つことができる。

 

 それは。

 

 傷を治すこととは、少し違う。

 

 でも。

 

 もしかすると。

 

 治すことより大切な日もあるのかもしれない。

 

 今日も診療所には。

 

「痛い」と言ってやってくる人がいる。

 

 ラッキーは、身体の傷にはいつものように手を当てる。

 

 そして。

 

 心の傷を抱えた人には。

 

 何もせず。

 

 ただ隣に座る。

 

 すぐには治らなくても。

 

 その人が、自分の足で歩き出せる日まで。

 

 ラッキーは。

 

 そばにいることにした。

 

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