ポケットの中の毎日 作:GPTに書かせてみた
アブソルが町へやってくると、誰かが嫌な顔をした。
露骨に避ける人もいる。
子どもを家の中へ入れる人もいる。
「あれが来た」
そんな声が聞こえる。
「何か起きるんじゃないか」
アブソルは、それを聞いている。
聞こえないふりをしているのかもしれない。
けれど、耳は少しだけ下がる。
私は町の郵便配達をしている。
毎朝、自転車に郵便を積んで、町を回る。
そしてアブソルは、いつの頃からか私の配達についてくるようになった。
最初は困った。
何しろ、アブソルが後ろを歩いているだけで、郵便を受け取る人が妙な顔をするからだ。
「今日は何かあるんですか?」
そんなことを聞かれる。
「さあ」
私は答える。
「天気予報には何も書いてませんでしたよ」
もちろん、冗談のつもりだった。
けれど、誰も笑わなかった。
アブソルは、私の少し後ろを歩いている。
一定の距離を保って。
近づきすぎない。
誰かの家の前では、私が郵便受けに手紙を入れるのを待っている。
仕事が終われば、町の外れまで一緒に歩く。
そこで、いつも別れる。
ある日。
アブソルが、町の入り口で立ち止まった。
空を見ている。
いつもと違った。
身体が強張っている。
「どうした?」
呼びかけても、動かない。
しばらくして。
アブソルは、突然走り出した。
町の方へ。
「おい!」
私は自転車を置いて追いかけた。
アブソルは、町の中心を通り過ぎる。
広場を抜ける。
坂道を駆け上がる。
そして。
山の麓にある古い集会所の前で止まった。
そこには、数人の人がいた。
翌日の祭りの準備をしている。
「アブソルだ!」
誰かが叫んだ。
人がざわつく。
「何か起きるぞ」
「祭りを中止したほうがいいんじゃないか?」
「だから嫌なんだ、あのポケモンは」
アブソルは何もしていない。
ただ、建物を見ているだけだった。
けれど。
誰もそのことを気にしなかった。
みんな、アブソルを見ていた。
「追い払え!」
その言葉に、アブソルが一歩後ろへ下がった。
私は、思わず声を上げた。
「待ってください!」
みんながこちらを見る。
「この子が何かしたわけじゃない」
「でも、アブソルが来たんだぞ」
「だからって、災いを起こすわけじゃないでしょう」
少しの沈黙。
アブソルは建物を見つめたままだった。
そのとき。
小さな音がした。
ぱき。
最初は誰も気づかなかった。
ぱき、ぱき、と。
古い集会所の壁に亀裂が走る。
「……なんだ?」
次の瞬間。
山の斜面が大きく揺れた。
地面が震える。
「地震だ!」
誰かが叫ぶ。
古い建物の屋根から、瓦が落ちてきた。
「外へ!」
人々が走る。
アブソルが吠えた。
ひとり。
まだ中にいた。
祭りの飾りを取りに戻っていたらしい。
アブソルはためらわず、建物の中へ飛び込んだ。
「危ない!」
私は叫んだ。
しばらくして。
アブソルが、その人を出口まで導いてきた。
直後。
古い梁が落ちた。
あと少し遅ければ。
どうなっていたか分からない。
揺れが収まったあと。
町は静かだった。
誰も、すぐには何も言わなかった。
アブソルは、集会所の前に立っていた。
身体には埃がついている。
前足には、小さな傷。
それでも。
町の人たちを見ていた。
まるで。
全員が無事かどうか、確かめているようだった。
最初に近づいたのは。
さっき「追い払え」と言った人だった。
「……悪かった」
アブソルは顔を上げる。
「お前が、災いを連れてきたんじゃなかったんだな」
その人は、少し苦しそうに笑った。
「災いを、知らせに来たんだな」
アブソルは答えない。
ただ、少しだけ尻尾を動かした。
翌日。
祭りは中止になった。
集会所は使えなくなった。
町の人たちは、少し落ち込んでいた。
楽しみにしていた祭りだった。
屋台も準備していた。
遠くから帰ってくる予定だった人もいる。
けれど。
「じゃあ、広場でやればいい」
誰かが言った。
「建物がなくても、祭りはできる」
別の誰かが机を運び出した。
屋台の人が、テントを持ってきた。
近所の人が椅子を出した。
いつの間にか。
町の広場に、小さな祭りができていた。
予定とはまったく違う。
立派な飾りもない。
集会所の舞台もない。
それでも。
みんな、前より近くにいた。
隣の人と一緒に椅子を運ぶ。
知らなかった人と話す。
子どもたちが走り回る。
「昔は、こうだったよな」
年配の人が笑った。
「みんなで準備して」
「みんなで片付けて」
「誰かの家で休んでた」
私はそれを聞いていた。
そういえば。
最近の祭りは、ずいぶん立派になっていた。
準備は業者に任せて。
役割も細かく決めて。
みんなは、当日を楽しむだけだった。
それは悪いことではない。
でも。
少しだけ。
何かを忘れていたのかもしれない。
夕方。
広場の端に、アブソルがいた。
祭りの中には入らない。
少し離れた場所から見ている。
私はジュースを二つ持って近づいた。
「お疲れさま」
アブソルの前に一つ置く。
アブソルは不思議そうにそれを見る。
「飲めないか」
アブソルは私を見る。
「まあ、いいか」
私が自分の分を飲んでいると。
子どもがひとり、アブソルのところへ来た。
以前なら、親が止めていただろう。
でも今日は、誰も止めなかった。
「触っていい?」
アブソルは少し迷った。
それから。
ゆっくり頭を下げた。
子どもが、そっと背中を撫でる。
「ふわふわだ」
その声に、周りの人たちが笑った。
アブソルは少しだけ目を細めた。
私は思った。
災いは。
誰にとっても、嫌なものだ。
起きないほうがいい。
なくせるなら、なくしたほうがいい。
でも。
起きてしまったあと。
そこから何をするかは、選べる。
失ったものばかりを見るのか。
それとも。
まだ残っているものを見つけるのか。
壊れた集会所は、しばらく使えない。
祭りも予定通りにはできなかった。
それでも。
町の人たちは、久しぶりに一緒に何かを作った。
それは、きっと。
災いがくれた福ではない。
災いを受け取ったあと。
人々が、自分たちで見つけた福なのだ。
夜。
祭りが終わる。
提灯の明かりが、一つずつ消えていく。
アブソルが町の外へ歩き出した。
「帰るのか?」
呼ぶと、振り返る。
「また来いよ」
アブソルは、少しだけ尻尾を揺らした。
町を歩く。
以前のように、誰も避けなかった。
「気をつけてな」
誰かが言う。
アブソルが足を止める。
振り返る。
そして。
静かに町の外へ消えていった。
その背中を見送りながら。
私は思った。
アブソルがいるから、災いが起きるわけじゃない。
災いが近づいたとき。
誰よりも先に、それを知っているだけだ。
知らせてくれる者を恐れるのは。
知らせそのものを恐れているからなのかもしれない。
それでも。
次にあの子が町へ来たら。
今度は、きっと。
「何か起きるぞ」
ではなく。
「教えてくれてありがとう」
そう言えるだろう。
アブソルの白い姿が、夜の向こうへ消えていく。
災いは、できれば来ないほうがいい。
けれど。
もし、来てしまったなら。
そのあとで。
少しでも誰かと支え合えるのなら。
転んだ先にも。
小さな福は、きっと見つけられる。
そんなことを思いながら。
私は、静かな町へ帰っていった。