ポケットの中の毎日   作:GPTに書かせてみた

4 / 4
雲を掴むような話

 チルットを初めて触ったとき、雲を掴んだような気がした。

 

 羽毛はどこまでも柔らかくて、指を入れると、ふわりと沈む。

 

 けれど、手を離せばすぐに元へ戻る。

 

「……ずっと触っていたいな」

 

 そう言うと、チルットは嬉しそうに鳴いた。

 

 私は小さな町の仕立て屋を営んでいる。

 

 チルットは、店の看板ポケモンというわけではない。

 

 いつの間にか店にやってきて、いつの間にか椅子の上で昼寝をする。

 

 そして、お客さんが来ると、その人の肩に乗る。

 

 どうやら本人は、それを仕事だと思っているらしい。

 

 ある日。

 

 店の裏口から、白いものが転がり込んできた。

 

 モンメンだった。

 

 風に飛ばされてきたらしい。

 

「大丈夫?」

 

 抱き上げてみる。

 

 チルットとは違う。

 

 柔らかいのだけれど、少し乾いている。

 

 指先で触れると、綿毛のような毛がさらさらと逃げていく。

 

「チルットとは、全然違うな」

 

 チルットがこちらを見る。

 

 そして、モンメンをじっと見る。

 

 モンメンもチルットを見る。

 

 ふたりはしばらく無言だった。

 

 やがてチルットが近づいて、モンメンの頭をつついた。

 

 モンメンの毛が、ぽふっと揺れた。

 

 チルットは嬉しそうだった。

 

 どうやら気に入ったらしい。

 

 それから、モンメンもしばらく店に居つくようになった。

 

 チルットはふわふわ。

 

 モンメンもふわふわ。

 

 店にいるお客さんたちは、みんな二匹を触りたがった。

 

「どっちが柔らかい?」

 

 そう聞かれることも多かった。

 

 私はいつも困った。

 

「どっちも柔らかいですよ」

 

「でも、違うでしょう?」

 

「……まあ」

 

 チルットは、雲のようだった。

 

 触った指が沈み込む。

 

 包まれるような柔らかさ。

 

 モンメンは、綿のようだった。

 

 軽くて、さらさらしていて、少しだけ乾いた感じがする。

 

 どちらもふわふわ。

 

 けれど、同じではない。

 

 ある午後。

 

 小さな女の子がお母さんと一緒に店へ来た。

 

 女の子はチルットを見ると、目を輝かせた。

 

「触っていい?」

 

「もちろん」

 

 女の子がチルットの羽毛に手を入れる。

 

「わあ……!」

 

 それから、モンメンにも触った。

 

「こっちは違う」

 

「でしょう?」

 

「でも、こっちも好き」

 

 女の子は笑った。

 

 そして二匹を交互に撫でた。

 

「雲と、わたあめみたい」

 

 私は笑った。

 

「じゃあ、どっちが好き?」

 

 女の子は少し考えた。

 

「両方」

 

「そっか」

 

「だって、雲とわたあめは違うもん」

 

 当たり前のことだった。

 

 でも、その言葉が妙に心に残った。

 

 その日の夜。

 

 店を閉めようとしていると、モンメンが窓から外へ出ていこうとしていた。

 

 風が強かった。

 

「待って」

 

 私は手を伸ばした。

 

 けれど、モンメンは風に乗ってふわりと浮かんだ。

 

 チルットも慌てて窓から飛び出す。

 

「チルット!」

 

 二匹が夜の空へ浮かんでいく。

 

 モンメンは風に流される。

 

 チルットはその後を追う。

 

 私は店先に出て、空を見上げた。

 

 月の下で、白い二匹が小さくなっていく。

 

 まるで雲の切れ端だった。

 

 翌朝。

 

 二匹は何事もなかったように帰ってきた。

 

 チルットはいつもの椅子へ。

 

 モンメンはいつもの窓辺へ。

 

 私は呆れて笑った。

 

「どこへ行ってたんだ?」

 

 もちろん、答えはない。

 

 モンメンが窓辺で風に揺れている。

 

 チルットは羽毛を膨らませている。

 

 私は二匹を順番に撫でた。

 

 チルットは、ふわり。

 

 モンメンは、さらり。

 

 手触りはまったく違う。

 

 それなのに、どちらも触っていると安心する。

 

 人間だって、そうなのかもしれない。

 

 明るい人。

 

 静かな人。

 

 柔らかい人。

 

 ちょっと近寄りがたい人。

 

 触れてみなければ分からない。

 

 近くにいてみなければ分からない。

 

 見た目が似ていても、同じではない。

 

 違うからこそ、その人にしかない手触りがある。

 

 仕立て屋の仕事をしていると、布にも似たようなことを感じる。

 

 同じ白い布でも。

 

 綿と絹では、指先に伝わる感触が違う。

 

 見た目だけでは分からない。

 

 触れて初めて分かることがある。

 

 だから私は、布を選ぶときには必ず手で触る。

 

 そして、人と話すときも。

 

 できるだけ、決めつけないようにしている。

 

 その人がどんな人なのか。

 

 触れてみるまで分からないからだ。

 

 もちろん、人間はポケモンのように手で触るわけにはいかない。

 

 言葉や、仕草や、時間をかけて。

 

 少しずつ、その人の「手触り」を知っていく。

 

 それはたぶん。

 

 雲を掴むような話なのだろう。

 

 掴んだと思ったら、指の間から逃げていく。

 

 分かったと思ったら、また違う顔を見せる。

 

 それでも。

 

 手を伸ばすことをやめなければ、いつかほんの少しだけ、触れた気がする。

 

 今日も店には、チルットがいる。

 

 ふわふわの羽毛を膨らませて、椅子の上で眠っている。

 

 窓辺にはモンメン。

 

 風が吹くたび、毛がそよそよ揺れている。

 

 私は二匹の間を通って、カーテンを開ける。

 

 朝の光が差し込む。

 

 チルットが目を覚ます。

 

 モンメンが風に浮かぶ。

 

「おはよう」

 

 ふわり。

 

 さらり。

 

 二つの違う感触が、今日もこの店にある。

 

 雲を掴むような話でも。

 

 こうして毎日触れていれば。

 

 少しくらいは、分かることもあるのだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(必須:10文字~500文字)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。