ポケットの中の毎日 作:GPTに書かせてみた
夏休みの宿題で、一番嫌いだったのは自由研究だ。
何を研究してもいい。
それが一番困る。
「好きなことを調べればいいじゃない」
母さんは簡単に言う。
でも、好きなことなんてそう簡単に見つからない。
昆虫は苦手。
植物はよく分からない。
星は夜遅くまで起きていられない。
ポケモンなら少し興味がある。
けれど、図鑑を写すだけでは自由研究にならないらしい。
八月二日。
僕はまだ何も決められずにいた。
そんな僕の前に、ナカヌチャンが現れた。
「ナカ!」
ドン。
手に持ったハンマーで、道端の空き缶を叩いた。
「……何してるの?」
「ナカヌ」
ドン。
「それ、僕の空き缶なんだけど」
ドン。
「聞いてる?」
ドン。
ナカヌチャンは夢中だった。
叩いている。
ひたすら叩いている。
空き缶は、ぺしゃんこになった。
「……研究しようかな」
「ナカ?」
「ナカヌチャンが何を叩くのか」
ナカヌチャンは嬉しそうに笑った。
「ナカ!」
それが、僕の自由研究の始まりだった。
*
最初に調べたのは、石だった。
小石。
大きな石。
丸い石。
尖った石。
ナカヌチャンは全部叩いた。
結果。
小石は飛んだ。
大きな石は飛ばなかった。
丸い石は転がった。
尖った石は割れた。
「なるほど」
僕はノートに書いた。
次に木。
細い枝。
太い枝。
枯れ枝。
生きている枝。
ナカヌチャンは全部叩いた。
僕は慌てて止めた。
「それは木だから! 叩いちゃだめ!」
「ナカ……」
ナカヌチャンは不満そうだった。
「木はポケモンじゃないから、壊れたら元に戻らないんだよ」
「……ナカ」
ハンマーを下ろす。
少しだけ悲しそうだった。
僕はノートに書いた。
――生きているものは、叩かない。
これは研究というより、約束だった。
*
次は金属。
スプーン。
鍋。
古いバケツ。
自転車のベル。
ナカヌチャンは大喜びだった。
カン。
カン。
カン。
音が町中に響く。
「ちょっと待って!」
八百屋のおじさんが飛んできた。
「何をしてるんだ!」
「自由研究です!」
「研究なら家でやれ!」
怒られた。
僕とナカヌチャンは二人で頭を下げた。
「ごめんなさい」
「ナカ……」
けれど、僕は気づいた。
ナカヌチャンは、叩いたものによって音を変えている。
金属の種類。
大きさ。
厚さ。
中が空洞かどうか。
それぞれ音が違う。
「もしかして……」
僕はナカヌチャンを見る。
「叩いて調べてるの?」
「ナカ!」
元気な返事。
ナカヌチャンにとって、ハンマーは壊すためだけの道具じゃなかった。
触って。
叩いて。
音を聞いて。
硬さを確かめる。
目で見るだけでは分からないことを、ハンマーで知ろうとしている。
僕はノートを書き直した。
――ナカヌチャンは、ハンマーで世界を調べている。
*
研究は、それから一週間続いた。
先生に相談した。
町の鍛冶屋さんにも話を聞いた。
音を録音した。
叩いた場所を測った。
最後には、ナカヌチャン自身にも協力してもらった。
僕が物を見せる。
ナカヌチャンが叩く。
僕が音を記録する。
ナカヌチャンが頷く。
ときどき、勝手に別のものを叩く。
そのたびに怒る。
でも、研究は少しずつ形になっていった。
そして八月三十一日。
僕の自由研究は完成した。
タイトルは、
**『ナカヌチャンは何を叩くのか――ハンマーから見る世界』**
だった。
*
発表の日。
教室には、みんなの自由研究が並んでいた。
昆虫標本。
星の観察。
植物の成長記録。
水の蒸発実験。
僕の隣には、ナカヌチャンの絵が貼ってある。
先生が言った。
「この研究で、一番面白かったことは何?」
僕は少し考えた。
「最初は、ナカヌチャンが何でも叩くから、その理由を調べようと思いました」
みんなが笑う。
「でも、調べていくうちに分かりました」
僕はナカヌチャンを見る。
ナカヌチャンは教室の後ろで、ハンマーを抱えて座っている。
「ナカヌチャンは、叩いて壊したいんじゃなくて、叩いて知りたいんだと思います」
教室が静かになる。
「同じものでも、叩く場所や強さで音が違う。硬いものと柔らかいものでも違う。たぶんナカヌチャンには、僕たちとは違う世界の見え方があるんだと思います」
先生が頷いた。
「いい研究だね」
僕は少し嬉しくなった。
「でも、一つだけ大変なことがありました」
「何?」
「ナカヌチャンは研究中、何度も僕の机を叩きました」
ドン。
教室の全員が振り返る。
ナカヌチャンが、僕の机を叩いていた。
「ナカヌチャン!」
「ナカ!」
「今は発表中!」
教室中が笑った。
ナカヌチャンも笑っている。
僕はため息をついた。
でも、そのハンマーを見ていると、少しだけ分かる気がした。
知らないものがあったら、触ってみる。
音がしたら、聞いてみる。
分からなかったら、もう一度試してみる。
そうやって世界を知っていく。
それは、僕が自由研究でやっていたことと、あまり変わらない。
「ねえ、ナカヌチャン」
「ナカ?」
「来年は何を研究しようか」
ナカヌチャンはハンマーを持ち上げた。
そして、僕の机を見た。
「……それはダメ」
「ナカ」
「絶対ダメ」
「ナカヌ!」
ハンマーが振り上げられる。
「ダメ!」
僕は慌てて机を抱えた。
教室に、また笑い声が響いた。
自由研究は終わった。
けれど、たぶん研究というものは、宿題の紙を提出したら終わるものじゃない。
知らないものを見つける。
触ってみる。
失敗する。
怒られる。
もう一度試す。
そして少しだけ、昨日より世界を知る。
ナカヌチャンは今日もハンマーを振っている。
たぶん明日も。
その音が何を意味しているのか。
僕にはまだ、全部は分からない。
だから来年も、きっと研究することになる。
ただし。
来年はもう少し、壊れないものにしようと思う。