ウマ娘プリティーダービー 〜スタークラウン〜   作:【規制済み】

1 / 1
前書き・注意書き

本作は自身の前作『鬼滅の刃 礎』と同じく、対話型AIを利用し作成したものです。

物語の設定・キャラクター・展開などについて作者自身が考案・構成し、AIとの対話を通して文章化、推敲を行っています。

そのため、AIによる文章表現が含まれます。

また、本作は『ウマ娘 プリティーダービー』を題材とした二次創作であり、原作とは異なる独自設定・展開が多く含まれます。

原作キャラクターについても、本作独自の解釈や役割を持たせていますので、原作と異なる描写があることをご了承ください。

なお、物語の展開上、一部史実・原作設定を参考にしていますが、本作独自の世界観・設定を優先しています。

以上をご理解いただいた上で、お楽しみいただければ幸いです。

それでは。今作もよろしくお願いします!


第一話 星を見た日

 物語には、始まりがある。

 

 誰かが夢を見た日。

 

 誰かと出会った日。

 

 初めて走った日。

 

 あるいは。

 

 その人の人生を変えてしまうほどの何かを見た日。

 

 どれを始まりと呼ぶのかは、きっと人によって違う。

 

 だから私は、この物語の始まりを一つだけ選べと言われたら。

 

 少し困ってしまうかな。

 

 彼女がトレセン学園へ入学した日?

 

 初めてレースを走った日?

 

 初めて勝った日?

 

 それとも。

 

 初めて負けた日?

 

 ……いや。

 

 たぶん、もっと前。

 

 彼女自身がまだ「走る」ということの意味すら知らなかった頃。

 

 観客席の片隅で。

 

 小さな女の子が、一人のウマ娘を見ていた。

 

 その子は、何も知らなかった。

 

 勝つことの難しさも。

 

 負けることの怖さも。

 

 努力が報われないことも。

 

 誰かに必要とされることが、どれほど嬉しくて。

 

 同時に、どれほど危ういことなのかも。

 

 何も知らなかった。

 

 ただ走る姿を見ていた。

 

 そして。

 

 たった一言。

 

 こう言った。

 

 「……綺麗」

 

 それだけ。

 

 

 

 でも。

 

 不思議なものだよね。

 

 人の人生が変わる事なんて。

 

 案外、そんなものなのかもしれない。

 

 本人は覚えていなくても。

 

 言った本人でさえ忘れていても。

 

 聞いた誰かの中には、ずっと残っている。

 

 私は、その子のことを覚えている。

 

 ……うん。

 

 覚えているとも。

 

 だって。

 

 あの子がこの先、どんな走りをするのか。

 

 私は少しだけ知っているから。

 

 笑って。ふざけて。怒られて。

 

 そしてまた笑って。

 

 誰かに必要とされようとして。

 

 誰かのために走って。

 

 何度も転んで。

 

 それでも。

 

 また立ち上がる。

 

 まるで道化師みたいに。

 

 けれど、その胸の奥には。

 

 誰よりも不器用な騎士の心を抱えて。

 

 ……ああ。

 

 ごめん。

 

 少し先の話をしすぎたかな。

 

 まだ彼女は知らない。

 

 自分がどんなウマ娘になるのか。

 

 私だって知らない。

 

 物語というものは、最後まで書き終わるまで結末が決まらないものだからね。

 

 だから。

 

 今はまだ。

 

 このくらいにしておこう。

 

 これは。

 

 一人のウマ娘が。

 

 星を見つけたところから始まる物語。

 

 そしていつか。

 

 その星へ手を伸ばした少女が。

 

 自分自身もまた、誰かの星になっていく。

 

 そんな。

 

 少しばかり長いお話だ。

 

 それじゃあ始めようか。

 

 彼女がまだ何者でもなかった頃から。

 

 ――『ウマ娘 スタークラウン』

 

 第一話。

 

 星を見た日。

 

 

 

 

 歓声というものには、いくつか種類がある。

 

 期待。興奮。不安。

 

 そして、畏敬。

 

 その日、G1 朝日杯フューチュリティステークス

 大レースを包んでいた歓声は、そのどれとも少し違っていた。

 

 観客席を埋め尽くす人々の視線。

 

 

 幼いナイトクラウンは、父親に手を引かれながら観客席を歩いていた。

 

「お父さん、どこ座るの?」

 

「もう少し先だ。ほら、あそこ」

 

「人いっぱいだね」

 

「今日はG1だからね。強いウマ娘たちが走るんだ」

 

「それに今日は、フジキセキが走る」

 

「フジキセキ?」

 

「知らないか。最近すごく人気なんだぞ」

 

 その名前を聞いて、ナイトクラウンは首を傾げた。

 

 まだ幼い彼女にとって、他のウマ娘の名前などほとんど意味を持たなかった。

 

 勝つとか。

 

 負けるとか。

 

 何勝したとか。

 

 そんなものは知らない。

 

 ただ、父親が楽しそうにしていることだけは分かった。

 

「すごいウマ娘なんだぞ」

 

「そんなに?」

 

「ああ。すごい」

 

「どのくらい?」

 

 父親は少し考えてから笑った。

 

「見れば分かる」

 

「分かるの?」

 

「分かるよ」

 

 ずいぶん雑な説明だった。

 

 ナイトクラウンは頬を膨らませる。

 

「お父さん、説明するの面倒になったでしょ」

 

「……なんで分かった?」

 

「顔」

 

「そんなに分かりやすいか?」

 

「うん」

 

 母親が横から笑った。

 

「この子、妙なところだけよく見てるのよ」

 

「誰に似たんだかな」

 

「あなたでしょう」

 

「俺か?」

 

「あなたよ」

 

 そんな会話をしながら、三人は席へ着いた。

 

 ナイトクラウンは身を乗り出した。

 

 広い。

 

 ただ、それだけだった。

 

 競バ場。

 

 芝。

 

 ゲート。

 

 そして、その先にあるゴール。

 

 テレビで見るのとは違う。

 

 実際に見ると、何もかもが大きかった。

 

 周囲の観客が騒いでいる。

 

 新聞を広げる人。

 

 予想を語る人。

 

 双眼鏡を覗く人。

 

 応援旗を掲げる人。

 

 その熱気の中で、ナイトクラウンはただ黙ってコースを見つめていた。

 

「ナイト」

 

「なに?」

 

「眠くない?」

 

「全然」

 

「本当か?」

 

「うん」

 

 父親が少し意外そうな顔をした。

 

 いつもなら、長時間じっとしているのが苦手な娘だった。

 

 ところが今日は違う。

 

 何かを待っている。

 

 そんな顔をしていた。

 

 そして、ゲートの方からウマ娘たちが姿を現す。

 

 歓声が一段高くなる。

 

 ナイトクラウンも、自然と立ち上がった。

 

「……あれ?」

 

 その瞬間だった。

 

 視線が止まった。

 

 一人のウマ娘が歩いている。

 

 観客に手を振りながら。

 

 落ち着いた表情で。

 

 堂々と。

 

 なのに、どこか楽しそうに。

 

「フジキセキよ」

 

 母親が教えてくれた。

 

「……あの人?」

 

「そう」

 

 ナイトクラウンは何も言わなかった。

 

 ただ見ていた。

 

 白と黒。

 

 光を受ける髪。

 

 歩くだけで、周囲の空気が変わっていく。

 

 歓声が大きくなる。

 

 期待が膨らむ。

 

 彼女自身が、それを背負っている。

 

 そんなことを幼いナイトクラウンは理解していなかった。

 

 ただ。

 

 綺麗だと思った。

 

 やがてフジキセキたちがゲートへ入っていく。

 

 そして開幕のファンファーレ。

 

 観客席が静かになっていく。

 

 さっきまでの騒がしさが嘘のようだった。

 

 ナイトクラウンも息が止まる。

 

 ゲートが閉じる。

 

 係員が離れる。

 

 そして。

 

 ――スタート。

 

 一斉に飛び出した。

 

「うわっ!」

 

 ナイトクラウンの身体が跳ねた。

 

 凄い。

 

 テレビで見ていた時とは全く違う。

 

 地面を蹴る音。

 

 芝を切り裂く音。

 

 観客の声。

 

 全部が一つになって押し寄せてくる。

 

「いいスタートだ!」

 

「フジキセキ!」

 

「そのまま!」

 

 フジキセキは先団。

 

 焦らない。

 

 前を走るウマ娘たちの動きを見ながら、じっと脚を溜めている。

 

 ナイトクラウンには、それが不思議だった。

 

 もっと走ればいいのに。

 

 もっと前に行けばいいのに。

 

 そう思った。

 

 そして。

 

 最後の直線。

 

 フジキセキが動いた。

 

「……!」

 

「さぁ、夢の舞台の開幕だ!!」

 

 世界が変わった。

 

 それまで走っていたウマ娘たちが、一瞬で遠ざかっていく。

 

 いや。

 

 違う。

 

 フジキセキが抜き去って行く。

 

 前へ。

 

 前へ。

 

 さらに前へ。

 

 その走りには迷いがなかった。

 

 まるで最初からゴールまでの道が見えているかのように。

 

 ナイトクラウンは、声を出すことを忘れていた。

 

 観客席の誰かが叫ぶ。

 

「行けぇぇぇぇ!」

 

 その声に呼応するように、スタンド全体が揺れた。

 

 フジキセキが先頭へ。

 そして、そのまま。

 

 ゴール。

 

 大歓声。

 

 ナイトクラウンの小さな身体まで震えるほどの歓声だった。

 

 父親も立ち上がっている。

 

 母親も拍手している。

 

 周囲の誰もが喜んでいる。

 

 けれど。

 

 ナイトクラウンは。

 

 ただ、フジキセキを見ていた。

 

 ゴールした彼女が、観客席へ顔を向ける。

 

 笑っている。

 

 汗を流しながら。

 

 息を切らしながら。

 

 それでも笑っている。

 

 その姿が、幼いナイトクラウンには。

 

 どうしようもなく眩しかった。

 

 そんな星の輝きに目を灼かれる程に。

 

「……綺麗」

 

 ぽつり。

 

 それだけだった。

 

 父親が聞き返す。

 

「ん?」

 

「……綺麗」

 

 もう一度。

 

 ナイトクラウンは言った。

 

 速いからでもない。

 

 勝ったからでもない。

 

 強いからでもない。

 

 ただ。

 

 走っている姿が。

 

 綺麗だった。

 

 それが。

 

 始まりだった。

 

 ◆

 

 数年後。

 

「遅い!」

 

「申し訳ございません!」

 

 トレセン学園。

 

 朝の教室。

 

 一人のウマ娘が、教師に向かって直立していた。

 

 黒と白を基調とした勝負服を思わせる髪色。

 

 身長は同年代の中でも高い。

 

 そして頭には、トランプを思わせる意匠のアクセサリー。

 

 彼女の名は。

 

 ナイトクラウン。

 

「入学式の日から遅刻する奴があるか!」

 

「いやぁ、人生には予期せぬアクシデントというものがありまして」

 

「何があった」

 

「布団です!」

 

「寝坊じゃないか!」

 

「正確には、布団からの脱出に失敗しまして…」

 

「寝坊だろ!」

 

 周囲から笑い声が漏れる。

 

 ナイトクラウンは胸を張った。

 

「皆様、これが私の初めての授業です」

 

「お前は授業を受ける側だ!」

 

「おぉーなるほど」

 

「なるほどじゃない!」

 

 また笑いが起きた。

 

 教官は頭を抱えた。

 

「……お前、本当に大丈夫か」

 

「もちろんです」

 

「その自信はどこから来る」

 

「根拠はありません!」

 

「ないんかい!」

 

 ナイトクラウンは笑った。

 

 明るく。

 

 何でもないように。

 

 その場の空気が少し軽くなる。

 

 教師も、最後にはため息をついた。

 

「……次は遅れるな」

 

「了解しました!」

 

「あと、授業中に寝るな」

 

「善処します!」

 

「寝る気満々じゃないか!」

 

 再び笑いが起きた。

 

 ナイトクラウンは満足そうに頷いた。

 

 これでいい。

 

 笑ってもらえた。

 

 そう思っていた。

 

 ◆

 

 レースの授業の時間。

 

 ナイトクラウン達が走る番。

 

 トラックへ入った瞬間。

 

 その顔からいつもの笑みが消える。

 

「位置について!」

 

 空気が変わる。

 

 普段ふざけているウマ娘と同じ人物には見えない。

 

 視線。

 

 呼吸。

 

 足の位置。

 

 身体の角度。

 

 全てが研ぎ澄まされていく。

 

 スタート。

 

 ナイトクラウンは先行集団へ飛び込む。

 

 速い。

 

 しかし、最初から飛ばすわけではない。

 

 前のウマ娘の背後につき。

 

 脚を合わせ。

 

 相手の動きを読む。

 

 必要なら外へ出る。

 

 必要なら内へ潜る。

 

 綺麗な走りではない。

 

 だが。

 

 しぶとく、粘る。

 

 前を走るウマ娘がペースを上げる。

 

 ナイトクラウンも食らいつく。

 

「まだ」

 

 さらに上がる。

 

「まだまだ」

 

 最後の直線。

 

 身体が悲鳴を上げる。

 

 肺が熱い。

 

 脚が重い。

 

 それでも。

 

 前を見る。

 

 先頭がいる。

 

 届かない。

 

 それでも。

 

「……行っくぞ!」

 

 自分自身へ叫ぶ。

 

 一歩。

 

 もう一歩。

 

 そして。

 

 ゴール。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 膝に手をつく。

 

 タイムを見る。

 

 教師は無言だった。

 

「ふぅ……どうでした?」

 

「普段から真面目にやれ」

 

「できません!」

 

「即答するな」

 

「だって疲れますし」

 

「お前は何をしに来たんだ」…

 

 ナイトクラウンは顔を上げる。

 

 そして笑った。

 

「もちろん、走るためです!」

 

「なら真面目にやれ」

 

「それとこれとはまた事情がありまして…」

 

「お前なぁ…!」

 

 また怒られた。

 

 ◆

 

 その日の放課後。

 

 ナイトクラウンは一人で校舎を歩いていた。

 

「ぬわぁ〜…疲れた……」

 

 廊下の窓から外を見る。

 

 夕暮れ。

 

 グラウンドにはまだ何人かのウマ娘がいる。

 

 自主トレをしている。

 

 ナイトクラウンは少しだけ眺めた。

 

 そして。

 

 ふと。

 

 その姿を見つけた。

 

「……え?」

 

 遠く。

 

 トラックを走っているウマ娘。

 

 一人。

 

 誰もいない。

 

 夕暮れの中。

 

 一定の速度で。

 

 淡々と。

 

 ただ走っている。

 

 ナイトクラウンは窓際に立った。

 

 その横顔。

 

 髪。

 

 走り方。

 

 記憶の中の光景と重なる。

 

「……まさか」

 

 彼女は足を止めた。

 

 目を凝らす。

 

 そのウマ娘がこちらを向いた。

 

 目が合う。

 

 そしてウインク。

 

 ナイトクラウンの心臓が跳ねた。

 

「……フジキセキさん!?」

 

 幼い頃。

 

 観客席から見た星。

 

 あの日。

 

 人生を変えた走り。

 

 その本人が。

 

 今。

 

 目の前にいる。

 

「……嘘」

 

 思わず隠れる。

 

「何してるんだ、私」

 

 誰も見ていない。

 

 なのに隠れた。

 

 もう一度だけ覗く。

 

 フジキセキはこちらを見ていた。

 

 そして。

 

 笑った。

 

「……!」

 

 ナイトクラウンは慌てて窓から離れた。

 

「無理無理無理」

 

 壁に背中を預ける。

 

「本人じゃん……」

 

 憧れ。

 

 尊敬。

 

 そして。

 

 幼い頃から心に残っている存在。

 

 それが突然、手の届く距離にいる。

 

 声をかければいい。

 

 たったそれだけ。

 

 なのに。

 

「絶対無理……」

 

 いつもの自分なら。

 

 知らない相手でも平気で話しかける。

 

 冗談も言える。

 

 人を笑わせることだってできる。

 

 なのに。

 

 フジキセキだけには。

 

 できなかった。

 

 ◆

 

「君」

 

「ひゃい!」

 

 背後から声がした。

 

 振り返る。

 

 そこにいたのは。

 

「フジキセキさん!?!?」

 

「あはは、そんなに驚かなくても」

 

 彼女は笑った。

 

 あの日と変わらない笑顔。

 

 いや。

 

 昔よりずっと近い。

 

「さっきから、ずっとこっちを見ていただろう?」

 

「見てません」

 

「見てたよ」

 

「……ちょっとだけ」

 

「ふふ」

 

 ナイトクラウンは頭を掻いた。

 

「すみません」

 

「何が?」

 

「勝手に見てて」

 

「それくらいなら構わないさ」

 

 フジキセキは窓の外へ視線を向けた。

 

「君、新入生だろう?」

 

「はい」

 

「名前は?」

 

「ナイトクラウンです」

 

「ナイトクラウン」

 

 フジキセキがその名前を口にする。

 

 それだけで妙に緊張した。

 

「面白い名前だね」

 

「よく言われます」

 

「やっぱりね」

 

 フジキセキは笑った。

 

「君、面白いね」

 

「それが取り柄です」

 

「走りは?」

 

 ナイトクラウンは黙った。

 

「……普通です」

 

「そうかな?」

 

「普通ですよ」

 

「さっき走っていたよね」

 

「見てたんですか?」

 

「少しだけ」

 

 ナイトクラウンは困った。

 

「……どうでした?」

 

「綺麗だったよ」

 

 心臓が止まりそうになった。

 

「え」

 

「走り方」

 

「あ、ああ……」

 

 ナイトクラウンは目を逸らした。

 

「ありがとうございます」

 

「君は、自分の走りが好き?」

 

 突然だった。

 

「……分かりません」

 

「そう」

 

「ただ」

 

 ナイトクラウンはトラックを見る。

 

「走るのは好きです」

 

「どうして?」

 

 答えられなかった。

 

 幼い頃に見たレース。

 

 あの日の光景。

 

 あの時感じたもの。

 

 それを上手く言葉にできない。

 

「……昔」

 

 ナイトクラウンはゆっくり口を開いた。

 

「昔、あなたのレースを見たんです」

 

 フジキセキの目が少しだけ開く。

 

「私の?」

 

「はい」

 

「いつ頃?」

 

「かなり前です。まだ子供だった頃」

 

「そっか」

 

「その時」

 

 ナイトクラウンは笑った。

 

「あなたが走ってるのを見て」

 

 少しだけ恥ずかしそうに。

 

「……綺麗だと思ったんです」

 

 フジキセキは黙った。

 

「それで、走りたいって思いました」

 

「それは嬉しいね」

 

「だから」

 

 ナイトクラウンは拳を握る。

 

「いつか、あなたみたいになれたらいいなって」

 

 フジキセキはしばらく何も言わなかった。

 

 やがて。

 

「それは困ったな」

 

「え?」

 

「私を目標にされると、追い越される楽しみがなくなってしまう」

 

 ナイトクラウンが目を丸くする。

 

 そして。

 

 笑った。

 

「じゃあ、追い越します」

 

「うん」

 

 フジキセキも笑う。

 

「楽しみにしてるよ、ポニーちゃん」

 

 その言葉を。

 

 ナイトクラウンは。

 

 一生忘れない。

 

 ◆

 

 その夜。

 

 寮の部屋。

 

 ナイトクラウンはベッドに寝転がっていた。

 

「……追い越す」

 

 天井を見る。

 

 今日。

 

 自分の憧れだった人と話した。

 

 たった数分。

 

 それだけなのに。

 

 胸の奥が熱かった。

 

「よっし」

 

 起き上がる。

 

 机の上にノートを広げる。

 

 そして。

 

 大きく書いた。

 

『目標』

 

 少し考える。

 

『フジキセキさんを超える』

 

 その下に。

 

『あと、寝坊しない』

 

 さらに。

 

『授業中寝ない』

 

 ペンを止める。

 

「……三つ目は無理かも」

 

 ノートを閉じる。

 

 笑う。

 

 その笑顔の奥には。

 

 まだ誰にも見せていないものがあった。

 

 ◆

 

 夜。

 

 トレセン学園。

 

 誰もいないトラック。

 

 一人のウマ娘が走っている。

 

 フジキセキ。

 

 さっきまでの笑顔はない。

 

 静かに。

 

 一定のリズムで。

 

 夜のトラックを駆ける。

 

 何周目かも分からない。

 

 けれど。

 

 ふと。

 

 彼女は足を止めた。

 

 今日の新入生。

 

 ナイトクラウン。

 

 あの子の顔を思い出す。

 

「……綺麗、か」

 

 フジキセキは小さく笑った。

 

 あの日。

 

 観客席。

 

 まだ幼いウマ娘がいた。

 

 大勢の観客に囲まれながら。

 

 誰よりも真っ直ぐに。

 

 自分の走りを見つめていた。

 

 目を輝かせて。

 

 ただ。

 

 見ていた。

 

 フジキセキは。

 

 覚えていた。

 

 もちろん。

 

 本人には言わなかった。

 

 言う必要もないと思った。

 

 あの子はまだ。

 

 自分が何を求めて走るのか。

 

 何のために強くなりたいのか。

 

 何も知らない。

 

 だから。

 

 今はそれでいい。

 

 ただ走ればいい。

 

 笑えばいい。

 

 転べばいい。

 

 負ければいい。

 

 悔しがればいい。

 

 そして。

 

 また立てばいい。

 

 フジキセキは夜空を見上げた。

 

 星が一つ。

 

 また一つ。

 

 輝いている。

 

「さて」

 

 彼女はトラックへ戻る。

 

「君は、どこまで来るのかな」

 

 まだ誰も知らない。

 

 ナイトクラウン自身さえ知らない。

 

 彼女がいつか。

 

 誰かにとっての憧れになることを。

 

 誰かに必要とされることでしか、自分の価値を測れなくなることも。

 

 そのために。

 

 何度も笑って。

 

 何度も誤魔化して。

 

 何度も負けて。

 

 何度も立ち上がることも。

 

 そして。

 

 いつか。

 

 あの日見上げた星へ。

 

 自分自身の足で。

 

 手を伸ばすことも。

 

 まだ。

 

 誰も知らない。

 

 けれど。

 

 物語は。

 

 もう始まっている。

 

 星を見上げていた少女は。

 

 まだ知らない。

 

 いつか自分自身が。

 

 誰かにとっての星になることを。

 

――第一話 了

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。