ウマ娘 〜スタークラウン〜   作:【規制済み】

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第四話 始動

トレセン学園の朝。

 

トレーニング用、芝レースコース。

 

「……んーっし」

 

ナイトクラウンは、スタート地点に立っていた。

 

隣には。

 

「準備できたっすか?」

 

ウインバリアシオン。

 

「もちろんさぁ」

 

「…なんすかその独特のイントネーション」

 

ナイトクラウンは胸を張る。

 

「今日は勝つよ」

 

「昨日もそう言ってたっす」

 

「昨日は基礎練習だったからノーカン」

 

「そういうところっすよ…」

 

「何が?」

 

「いやなんでも」

 

少し離れた場所では。

 

シンボリクリスエスが二人を見ている。

 

「……」

 

その隣。

 

ヒシミラクルは。

 

「朝から元気ですね〜」

 

大きく欠伸をした。

 

「私は眠いです」

 

「……ミラクル、朝だ」

 

「だから眠いんですよ〜」

 

「……?」

 

シンボリクリスエスは本気でわからない。

とでも言うように眉を顰める。

 

「そんな事より始めるみたいですね」

 

新城が手を叩く。

 

「二人とも」

 

「「はい!」」

 

「今日はメイクデビューを想定する」

 

ナイトクラウンの耳が立つ。

 

「メイクデビュー……」

 

「そうだ」

 

新城は二人を見る。

 

「実際のレースを想定して、一定距離を走る」

 

「勝負ですか?」

 

「ああ。クラウンとシオンと」

 

「!」

 

ナイトクラウンが笑う。

 

「任せてください!」

 

ウインバリアシオンも頷く。

 

「勝つっす」

 

「おっ」

 

ナイトクラウンが横を見る。

 

「やる気じゃん」

 

「そっちこそ」

 

二人がスタート地点へ並ぶ。

 

「アップはもう出来てるみたいだな」

 

「それじゃあ行くぞ」

 

揃ってスタートラインへと並び立つ。

 

「位置について」

 

二人とも姿勢を落とす。

 

「よーい」

 

静寂。

 

「スタート!」

 

二人が飛び出した。

 

◆

 

先頭に出たのはナイトクラウンだった。

 

「……!」

 

ウインバリアシオンが追う。

 

ナイトクラウンは無理に速度を上げない。

 

一定のリズム。

 

前を見る。

 

そして。

 

耳を立て音を拾う。

 

「……」

 

ウインバリアシオン。

 

少し後ろ。

 

距離。

 

二バ身程か。

 

「……」

 

ナイトクラウンは前を見る。

 

このまま逃げる…という走り方ではない。

 

先頭を取っているだけ。

 

自分の走りやすい位置を想定。

 

第一コーナー。

 

ナイトクラウンは内へ。

 

ウインバリアシオンも続く。

 

「……well」

 

シンボリクリスエスが呟いた。

 

ヒシミラクルが首を傾げる。

 

「なんて言いました?」

 

「上手い。位置、コースに無駄がない」

 

「なるほど〜」

 

「……分かるか?」

 

「ぜんぜんです」

 

「そうか」

 

二人の前では。

 

レースが続いている。

 

◆

 

第二コーナー。

 

ウインバリアシオンが少し差を詰める。

 

「……!」

 

ナイトクラウンが気付く。

 

まだ仕掛けない。

 

第三コーナー。

 

さらに近づく。

 

一馬身。

 

半馬身。

 

「ここ……」

 

ナイトクラウンが前を見る。

 

直線まで。

 

まだある。

 

なら。

 

「っじゃない」

 

さらに我慢する。

 

ウインバリアシオンも仕掛けない。

 

「……」

 

互いに。

 

相手を見ている。

 

駆引。

 

そして、最後のコーナー。

 

ウインバリアシオンが動いた。

 

「ここだ!」

 

一気に加速。

 

ナイトクラウンの横へ。

 

「ッッ来た!」

 

ナイトクラウンも反応する。

 

しかし。

 

すぐには加速しない。

 

半馬身。

 

並ぶ。

 

一馬身。

 

いや。

 

ほぼ横。

 

「……」

 

ナイトクラウンは。

 

前を見る。

 

残り。

 

二百。

 

「まだ」

 

ウインバリアシオンが前へ出る。

 

「……!」

 

ナイトクラウンの目が変わった。

 

「今ッ!」

 

一気に踏み込む。

 

二人が並ぶ。

 

速度が上がる。

 

風が強くなる。

 

「おおおおっ!」

 

「負けない!」

 

残り百。

 

ナイトクラウンが僅かに前へ。

 

しかし。

 

ウインバリアシオンも食らいつく。

 

「……!」

 

残り五十。

 

ナイトクラウンが。

 

さらに一歩。

 

【ダンッ!】

 

踏み込む。

 

………。

 

ゴール。

 

先着はナイトクラウン。

 

クビ差。

 

「……」

 

二人とも。

 

しばらく動かなかった。

 

やがて。

 

ウインバリアシオンが息を整える。

 

「…………負けたっす」

 

ナイトクラウンは。

 

笑った。

 

「っっ!」

 

拳を握る。

 

「勝った!」

 

ウインバリアシオンも笑う。

 

「……次は勝つっすから」

 

「受けて立つさ」

 

二人の間に。

 

小さな火花が散った。

 

◆

 

「今のレース」

 

新城が言う。

 

二人が振り返る。

 

「悪くなかった」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

ナイトクラウンの顔が明るくなる。

 

「ただ」

 

「はい」

 

「クラウン」

 

新城は彼女を見る。

 

「最後の加速は良かった」

 

「はい!」

 

「でも、あれは身体能力だけじゃない」

 

「……?」

 

「シオンが仕掛けるタイミングを読んだな」

 

「……」

 

ナイトクラウンは少し笑う。

 

「分かりました?」

 

「分かる」

 

新城は苦笑する。

 

「クラウンはレース中、ずっと相手を見ている」

 

「加えて他のウマがいる事も想定しつつか」

 

ナイトクラウンは首を傾げる。

 

「相手が何するか分からないと、怖いですし」

 

「…今の時期、普通はそこで自分の走りで精一杯だ」

 

「私は嫌です」

 

「どうして?」

 

「だって」

 

ナイトクラウンは笑う。

 

「勝ちたいですから」

 

新城は黙った。

 

そして。

 

「それが武器だな」

 

「……!」

 

「視野の広さ」

 

「……」

 

「相手を見る」

 

「位置を見る」

 

「展開を見る」

 

「その上で、自分の力を使う」

 

ナイトクラウンは。

 

少しだけ胸を張った。

 

「私、結構すごい?」

 

「まぁすごい。だが上には上がいる」

 

「調子に乗るな」

 

「はい」

 

即答だった。

 

「素直だな」

 

「そこには定評があります」

 

「昨日聞いた」

 

「覚えてたんですか!?」

 

ウインバリアシオンが少し目を細める。

 

「シオン」

 

「あ!はい!」

 

「最後の直線、良かったぞ」

 

「でもクラウンには負けたっすよ」

 

「シオンの武器は脚力とどこまでも喰らいつける根性だ」

 

「周りを使うクラウンと少し相性が良くなかった」

 

「だからこれで決まった訳じゃない」

 

「っす!」

 

「次は絶対勝ちます」

 

「にしても…クラウンとトレーナーさん」

 

ウインバリアシオンがニヤリと笑う。

 

「仲良いっすね」

 

「どこが!?」

 

「どこがっすかねー?」

 

「なんで疑問形!?」

 

トラックに笑い声が響く。

 

その様子をフジキセキが校舎の窓から見ていた。

 

「来年のクラシックも楽しみだね」

 

◆

 

その日の午後。

 

ナイトクラウンは。

 

一人で校舎の廊下を歩いていた。

 

「……」

 

手には。

 

一枚の紙。

 

メイクデビューの出走登録の予定。

 

まだ正式決定ではない。

 

けれど。

 

もう。

 

すぐそこまで来ている。

 

「……デビューかぁ」

 

ナイトクラウンは。

 

紙を見つめる。

 

初めて。

 

大勢の前で走る。

 

初めて。

 

自分の名前が呼ばれる。

 

初めて。

 

勝つために走る。

 

「……」

 

胸が。

 

少しだけ高鳴る。

 

その時。

 

「クラウン」

 

「ん?」

 

振り返る。

 

ベルフルールだった。

 

「何見てるの?」

 

「フルール」

 

「これ」

 

紙を見せる。

 

「メイクデビュー?」

 

「うん」

 

ベルフルールが目を丸くする。

 

「もう決まったんだ」

 

「まだ予定だけどね」

 

「緊張してる?」

 

「してない」

 

即答。

 

「本当に?」

 

「……」

 

「してる?」

 

「……ちょっとだけ」

 

「やっぱり」

 

ナイトクラウンは。

 

紙を胸に抱える。

 

「だってさ」

 

少しだけ。

 

声が小さくなる。

 

「私が走るんだよ?」

 

「うん」

 

「今まで模擬レースだったけど」

 

「うん」

 

「今度は」

 

顔を上げる。

 

「本物だから」

 

ベルフルールは。

 

少しだけ笑った。

 

「クラウンなら大丈夫じゃない?」

 

「……」

 

「模擬レース、一着だったし」

 

「まあ」

 

「トレーナーも決まった」

 

「うん」

 

「チームにも入った」

 

「うん」

 

「私はまだ、これからだし」

 

「だから」

 

ベルフルールは。

 

ナイトクラウンの肩を軽く叩く。

 

「いつも通りでいいんじゃない?」

 

「……」

 

ナイトクラウンは。

 

少し考えて。

 

「いつも通り……」

 

そして。

 

ニヤッと笑う。

 

「じゃあ、勝つしかないね!」

 

「…そういうところ」

 

「え?」

 

「なんでもないよ」

 

ベルフルールは先に歩いていく。

 

「頑張ってね」

 

「ありがとう!」

 

ナイトクラウンは。

 

その背中を見送った。

 

◆

 

夕方。

 

新城のトレーナー室。

 

「ナイトクラウン」

 

「はい」

 

「デビュー戦について」

 

新城が資料を広げる。

 

「距離はマイルでいく」

 

「マイル……」

 

「クラウンには合っている」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

「短距離以外はいけるだろう」

 

新城は頷く。

 

「まず君は先行タイプ」

 

「はい」

 

「無理に先頭を取りに行く必要はない」

 

「……」

 

「前に出る相手がいるなら行かせればいい」

 

「はい」

 

「君は周囲を見て、空いた場所を使える」

 

「……」

 

「位置取りが上手い」

 

「だから」

 

新城は資料を指で叩く。

 

「焦るな」

 

「分かりました」

 

「それと」

 

「はい?」

 

「勝つぞ」

 

ナイトクラウンの目が変わった。

 

「……はい!」

 

新城は少し笑う。

 

「期待してる」

 

「任せてください!」

 

ナイトクラウンは立ち上がる。

 

「絶対勝ちます!」

 

扉へ向かう。

 

そして。

 

「……」

 

一度だけ振り返る。

 

「新城さん」

 

「なんだ?」

 

「私」

 

拳を握る。

 

「デビュー戦、勝ったら」

 

「うん」

 

「フジさんに報告してもいいですか?」

 

新城は。

 

少しだけ笑った。

 

「フジは観に行くつもりだぞ」

 

「えっ!?」

 

「同じチームの可愛いポニーちゃんのメイクデビューだって」

 

「楽しみなようで耳開いてた」

 

「〜〜っっ!」

 

そのままナイトクラウンは勢いよく扉を開ける。

 

ガンッッ!!

 

「私絶対勝ちます!!」

 

ドンッッ!!

 

扉が閉まる。

 

新城は。

 

一人になった部屋で。

 

小さく笑う。

 

「……賑やかな子だ」

 

机の上にある。

 

一枚の写真を見る。

 

そこには。

 

かつてのフジキセキ。

 

「でも」

 

新城は。

 

窓の外を見る。

 

「道化となるか…王となるか」

 

「……気合い入れてやらなきゃな」

 

◆

 

夜。

 

ナイトクラウンは。

 

自室のベッドに寝転んでいた。

 

眠れない。

 

「……」

 

天井を見る。

 

「メイクデビュー……」

 

目を閉じる。

 

歓声。

 

ゲート。

 

スタート。

 

ゴール。

 

そして。

 

フジキセキ。

 

「……」

 

ナイトクラウンは。

 

ゆっくり起き上がる。

 

机の上に置いてあるノートを開く。

 

最初のページ。

 

そこには。

 

昔書いた文字。

 

『フジキセキさんを超える』

 

その下に。

 

『寝坊しない』

 

『授業中寝ない』

 

「……」

 

ナイトクラウンは笑った。

 

「これは……」

 

少し考える。

 

「まだ努力中です」

 

ペンを持つ。

 

新しいページを開く。

 

そこに。

 

一文字ずつ。

 

書いていく。

 

『デビュー戦』

 

一拍。

 

その下に。

 

『誰よりも目立つ』

 

『勝つ』

 

「……」

 

そして。

 

さらに。

 

『フジキセキのように輝く』

 

ペンを置く。

 

ナイトクラウンは。

 

ノートを閉じた。

 

「……よし」

 

窓の外を見る。

 

今日は。

 

星が見えなかった。

 

それでも。

 

「明日も走る」

 

布団に入る。

 

目を閉じる。

 

今度は。

 

少しだけ。

 

眠れそうだった。

 

翌朝。

 

トレーニングコース。

 

ナイトクラウンは。

 

一人。

 

スタート地点に立つ。

 

「……」

 

前を見る。

 

まだ。

 

レースは始まっていない。

 

それでも。

 

彼女は。

 

一歩。

 

前へ出た。

 

最初の一歩は。

 

もう。

 

踏み出されている。

 

第四話 了




今回は少し短め。

UA増えたりお気に入りの数が増えてると凄く嬉しいです!よろしくお願いします!

次回は水曜日。
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