ようこそお客様。
ここから少しだけ私、フジキセキが進めるよ。
――さて。
ここまで読んでくれた君なら。
もう分かってくれたかな?
ナイトクラウンがどんな子なのか。
明るくて。
うるさくて。
ちょっと変……。
いや、
……かなり変わってて。
それでいて。
妙なところで真面目な子。
……うん。
これは、本人が聞いたらきっと怒るね。
でも。
そんな彼女にも。
とうとう。
この時が来た。
「メイクデビュー」
模擬レースじゃなく。
本番。
実戦。
大勢の観客の前で。
自分の名前を背負って。
初めて。
一人のウマ娘として走る。
さて。
あの子は、どんなレースをするのかな。
……なんて。
私が全部話してしまったら。
つまらないね?
だからここから先は。
君自身の目で。
見届けてあげて。
それじゃあ、
ナイトクラウンの
最初の一歩。
幕開けだ。
第五話 開幕
◆
メイクデビュー当日。
ナイトクラウンは、出走表を眺めていた。
「……結構いるなー」
「当然だな」
隣から新城が答える。
「メイクデビューだからな」
「全てのウマ娘が通る道」
「まず1勝出来なきゃその先の道がなくなる」
「1勝も出来ずに去っていく子も多い」
ナイトクラウンの目が鋭くなる。
「…そうでしたね」
今回出走するのは芝1600メートル。
出走数は十二人。
もちろんまだ名前の知られていないウマ娘たちばかりだ。
ナイトクラウンもその一人。
「……トレーナーさん」
「ん?」
「勝てますかね」
「走ってみないと分からん」
「ですよね」
「と、言いたいが」
「?」
「クラウンとシオン、お前達は正直同世代より頭一つは抜けてる」
「おお」
「落ち着いてトレーニング通りに走れば勝てる」
「初めてのレースでかかってしまう子が多い」
「クラウンはその状況…使えるだろう?」
ナイトクラウンは出走表へ視線を戻した。
一人ずつ。
脚質。
これまでの模擬レース。
持ちタイム。
できる限り頭に入れる。
新城がそれを見ていた。
「全部覚えるつもりか?」
「一応」
「そんなに気にしなくてもいいぞ」
「でも、走るなら知ってた方がいいじゃないですか」
そう言って。
ナイトクラウンは出走表を閉じた。
「行ってきます」
「ああ」
今日は。
初めての本番だ。
「こういうところだよなぁ…ホントにデビュー戦かと疑いたくなる」
◆
パドック。
ナイトクラウンは、レースウェア姿で歩いていた。
観客席からは、まだ大きな声援はない。
知名度がないのだから当然だ。
それでも。
何人かの観客が名前を確認している。
「ナイトクラウン……?」
「新入生だね」
そんな声が聞こえる。
ナイトクラウンは、少しだけ耳を動かした。
けれど。
それ以上は気にしない。
「……いつも通り」
そう呟いて。
息を深く吸う。
そして。
「観客のみなさまー!ナイトクラウンでっす!」
声を張り上げる。
「私の舞台!どうぞご覧あれー!」
右脚を軽く引き、左手を胸に添え。
右手は後ろ、腰へ。
そのままゆっくりとお辞儀。
観客席が少しざわつく。
「なんだあの子」
「オペラオーみたい」
「面白そうだな」
ナイトクラウンは頭を上げると
コースへ向かった。
(みんなが私を観てくれた!)
◆
スタート地点。
十二人のウマ娘がそれぞれ準備している。
ナイトクラウンは五番枠。
やや内枠。
周りのウマ娘達はかなり緊張している様子。
先程大きな声を出したからだろうか。
比較的周りを見る余裕が生まれた気がする。
そして。
ゲートへ入る。
静か。
まだG1のような大きな舞台ではない。
派手なファンファーレもない。
観客のざわめきだけが聞こえる。
だんだんと静かになっていく。
「……」
ナイトクラウンは左右を見る。
先頭に行きそうなウマ娘。
中団につけそうなウマ娘。
後ろから来そうなウマ娘。
一人ずつ。
位置を確認する。
「大丈夫。頭に入ってる」
そして。
ゲートが開いた。
◆
――スタート。
一斉に飛び出す。
ナイトクラウン好スタート。
だが。
無理に前へは行かない。
一番前には二人。
その後ろに三人。
ナイトクラウンは、そのさらに後ろ。
六番手付近につけた。
「いいスタートだ」
新城が呟く。
「そうだね、ひとまず安心だ」
隣に居るフジキセキも少し胸を撫で下ろす。
序盤。
先頭はやや速い。
更にスピードを上げている。
「……?ああ、これか。トレーナーさんの言ってたかかりって」
ナイトクラウンは前を見ながら走る。
<<かなりペースが早いぞ、かかってしまっている様子!>>
前との差。
後ろとの差。
内側。
外側。
視線が細かく動いている。
前の二人が並んでいる。
その後ろには一人。
差が少しずつ開いていく。
さらにその外に一人。
内側にはスペースがある。
だが。
まだ入らない。
「……まだ早い」
ナイトクラウンは判断する。
ここで動けば。
余計な脚を使う。
なら。
このまま。
最初のコーナー。
隊列が少しずつ固まっていく。
ナイトクラウンは五、六番手。
内側から一人。
前へ入ってくる。
ナイトクラウンは一歩下げた。
無理に抵抗しない。
その代わり。
外側を見る。
一人分。
空いている。
「……いける」
ほんの少し外へ。
前のウマ娘の後ろにつく。
位置を一つ落としたように見える。
だが。
実際には。
視界が大きく開いた。
「……」
ナイトクラウンは前を見る。
先頭との差。
約7バ身。
まだ慌てない。
◆
向正面。
ペースは落ち着いた。
先頭。
二番手。
三番手。
その後ろにナイトクラウン。
今度は四番手まで上がっている。
理由は簡単だった。
前の二人が互いに牽制している間。
その後ろで余計な動きをせず。
自然に位置が上がった。
<<5番ナイトクラウン、いい位置だ!>>
実況。
ナイトクラウンは。
周囲を見る。
内側。
外側。
前。
視界に入る情報を拾っていく。
そして音。後方の状況は周囲の音を聴く。
前のウマ娘が少し外へ膨れた。
内が空く。
だが。
すぐには入らない。
後ろから一頭が上がってきている。
「……今はダメ」
そのウマ娘が外から前へ出る。
内側が完全に空いた。
「今だ」
ナイトクラウンが一歩内へ入る。
進路が開いた。
一人分。
「……よし」
無理なく。
前との距離を詰める。
先頭が飛ばした反動で、隊列が少しずつ詰まり始めていた。
残り800メートル。
ナイトクラウンは四番手。
先頭との差は2バ身。
まだ余裕がある。
先頭の二人は垂れて来ている。
だが。
後ろから一人。
一気に上がってきた。
「……速い、けどシオン程じゃない」
ナイトクラウンは一瞬だけ振り返る。
脚を使っている。
なら。
今は追わない。
そのウマ娘が外から上がっていく。
ナイトクラウンは内側をキープ。
順位は五番手へ下がる。
けれど。
焦らない。
「……まだ」
第三コーナーへ。
◆
残り600。
先頭が逃げ切ろうと更に少しペースを上げる。
後ろからも追い上げて来ているようだ。
ナイトクラウンは四番手。
前との差。
1バ身。
外を見る。
少し後ろ。
三人。
内側。
二人。
進路は確保できている。
「……行ける」
関係者席の新城トレーナーとフジキセキ
「……やっぱあの子才能あるな」
新城が感心した様子で呟く。
「私でもあの時期にあそこまで周りを見れてはいなかったかな」
フジキセキも同じ様に頷く。
最終コーナー。
先頭が外へ。
二番手も外。
その後ろが少し詰まる。
ナイトクラウンの前。
一瞬。
進路が狭くなる。
「……」
判断。
外へ出すか。
内へ入るか。
外には二人。
内には一人。
内の方が近い。
ナイトクラウンは。
一瞬だけ減速。
そして。
来た。
内へ。
<<ナイトクラウン、内を突いた!>>
開いた。
ほんのわずかなスペース。
ナイトクラウンはそこへ入った。
直線。
前には三人。
残り400。
「行ける!」
一人抜く。
そのまま二人目。
残り300。
外から一人。
一気に伸びてくる。
ナイトクラウンは。
一瞬だけその音を聴く。
「……速い」
だけど。
「やっぱり、シオン程じゃない!」
内側からもう一人。
外には伸びてくるウマ娘。
中央。
前。
先頭の子は完全にバテている。
ナイトクラウンは。
躱す。
「ここだ!」
身体を滑り込ませる。
残り200。
そのまま先頭へ
後ろとの差は2バ身半。
ナイトクラウンの脚も。
ここで本格的に伸びる。
<<ナイトクラウン、完全に抜けた!!>>
残り150。
先頭。
「――っ!」
ナイトクラウンが一歩前へ出る。
しかし。
外から一人。
<<外から一人突っ込んでくる!!>>
<<内か!外か!その差1バ身半だ!>>
さらに伸びる。
「まだ来る!」
ナイトクラウンは。
それを見ていた。
脚色。
残り距離。
自分との差。
「……あと少し」
残り100。
僅かにナイトクラウンが優勢
ナイトクラウンは。
最後の最後まで相手を見ていた。
そして。
ゴール直前。
踏み込み、
前へ。
<<ゴール!>>
ナイトクラウンが駆け抜けた。
<<勝ったのは5番ナイトクラウン!激しい競り合いを制した!!>>
◆
「……」
ナイトクラウンは。
しばらく走ったまま。
止まらなかった。
呼吸を整える。
そして。
掲示板を見る。
一着。
ナイトクラウン。
「……勝った」
初めてのレース。
初めての本番。
一着。
「……勝った!」
拳を握る。
大きくガッツポーズをするほどではない。
けれど。
顔には。
はっきりと笑みが浮かんでいた。
観客席へ向かい恭しく一礼。
手を振りつつコースを去っていく。
(フジさんに少し近づけたかな?)
◆
「おめでとう」
「おめでとう、ポニーちゃん」
戻ってきたナイトクラウンへ。
新城とフジキセキが声をかける。
「ありがとうございます!」
「最後、よく見てたな」
「はい」
フジキセキが聞く。
「外から一人来てたのも分かってた?」
「もちろんです!」
ナイトクラウンは胸を張る。
「私、結構見えてますから」
「ああ、そうだな」
新城は頷いた。
「そこは武器になる」
ナイトクラウンは。
嬉しそうに笑った。
「じゃあ、私才能って」
「まだ分からん」
「即答……」
「でも」
新城は続けた。
「レースを見る力はある」
その言葉に。
ナイトクラウンは頷いた。
「……はい」
今日。
一つ目の結果が出た。
◆
そして。
同じ日。
ウインバリアシオンのメイクデビュー。
こちらも。
メイクデビュー。
観客席は先ほどのレースからの熱気が収まらず、騒ついている。
次のレース。
まだ、
誰も彼女の名前を知らない。
ウインバリアシオンは。
淡々と準備を終える。
距離は1800メートル。
ナイトクラウンより長い。
だからこそ。
彼女には。
自分の武器を使う余地があった。
脚力。
特に。
長く使える末脚。
「……」
ゲート。
入る。
スタート。
◆
ウインバリアシオン。
スタートは悪くない。
だが。
前には行かない。
五番手。
六番手。
七番手。
そのまま。
一周目のコーナーへ入る。
<<ウインバリアシオンは現在七番手>>
先頭との差。
五バ身ほど。
前はゆったり。
ウインバリアシオンも。
じっと脚を溜める。
向正面。
ペースが上がり始める。
前のウマ娘たちが動く。
一人。
また一人。
ポジションを上げていく。
ウインバリアシオンは。
まだ動かない。
「……クラウン相手なら、もっと嫌な位置取られたっすね」
そこを思えば。
今は脚を溜める。
残り1000。
先頭との差。
約6バ身。
残り800。
5バ身。
ここで。
前の一頭が外へよれた。
ウインバリアシオンの前が開く。
だが。
まだ行かない。
残り600。
先頭がペースを上げる。
ここで。
ウインバリアシオンが動いた。
「行くっすよ…!」
<<ウインバリアシオン、外から進出!>>
一気に。
脚を使う。
五番手。
四番手。
三番手。
そのスピードは。
明らかに。
周囲より速かった。
コーナーを回りながら。
一気に前へ。
「速い!」
残り400。
二番手。
先頭との差。
1バ身半。
ウインバリアシオンの脚は。
まだ止まらない。
更にキレる。
「……!」
最終直線。
先頭が逃げる。
ウインバリアシオンが追う。
残り300。
1バ身。
残り200。
半バ身。
ここから。
脚力の勝負。
<<ウインバリアシオン、並んだ!>>
先頭も粘る。
<<3番粘る!だが苦しいか!?>>
しかし。
ウインバリアシオンの脚色が違う。
残り100。
一気に抜ける。
<<抜けた!ウインバリアシオン!>>
さらに伸びる。
後ろとの差を広げる。
ゴール。
◆
一着。
ウインバリアシオン。
二着との差。
4バ身。
初戦としては。
十分すぎる内容だった。
ウインバリアシオンは。
ゴール後。
すぐには喜ばなかった。
息を整える。
そして。
掲示板を見る。
「……一着」
小さく呟く。
その直後。
ようやく。
口元が少し緩んだ。
「……よし」
自分の脚で。
勝ち取った。
それが。
何より嬉しかった。
◆
レースを終えたナイトクラウンは。
控室へ戻る途中。
「……あれ?」
スタッフに呼び止められる。
「ナイトクラウンさん。ライブの準備をお願いします」
「……ライブ?」
「はい。ウイニングライブです」
「…………そうだ!」
ナイトクラウンは固まった。
「……今からですよね」
「今からです」
「レース終わったばっかりですけど」
「はい」
「汗だくですけど」
「はい」
「……歌うんですか?」
「はい」
◆
そして。
ステージ。
まだ大きな人気を持たないメイクデビュー。
観客も、それほど多くはない。
それでも。
ナイトクラウンにとっては。
初めて立つステージだった。
「……」
舞台袖。
ナイトクラウンは客席を覗く。
さっきまで走っていた場所とは。
まるで違う緊張感。
「クラウン」
後ろからフジキセキの声。
「大丈夫?」
「……レースより緊張します」
「そう?」
「だって、走るだけなら自分との勝負ですけど」
ナイトクラウンはステージを見る。
「こっちは……みんな見てますから」
フジキセキが少し笑う。
「ふふ…」
ナイトクラウンの背中を軽く押す。
「みんなに見てもらえるね?」
「……」
「行っておいで」
ナイトクラウンは。
一度だけ深呼吸した。
「……よし」
そして。
ステージへ飛び出した。
観客席から拍手。
ナイトクラウンは。
いつもの調子を取り戻す。
「本日はメイクデビュー」
一拍。
「そして!」
胸を張る。
「初めてのライブでーす!」
少しだけ。
笑い声が起こる。
「最後まで楽しんでいってくださいね!」
音楽が始まる。
「響けファンファーレー、届けゴールまでー♪」
ナイトクラウンは。
走るように。
ステージを駆ける。
右へ。
左へ。
観客へ手を振る。
まだ歌も踊りも。
完璧ではない。
それでも。
一生懸命だった。
「I believe…夢の先まで!♪」
最後のポーズ。
息を切らしながら。
ナイトクラウンは笑った。
「ありがとうございました!」
拍手。
歓声。
その中で。
ナイトクラウンは。
少しだけ目を丸くした。
――自分を見てくれている。
レースだけじゃない。
今。
自分の姿を。
声を。
ちゃんと見てくれている。
「……」
ナイトクラウンは。
もう一度。
深く頭を下げた。
そして。
舞台袖へ戻る。
「……疲れたぁぁぁ!」
「お疲れ様、ポニーちゃん」
フジキセキが笑う。
「ライブって……大変ですね……」
「でも楽しそうだったね」
「……はい!」
ナイトクラウンは。
少しだけ嬉しそうに笑った。
「またやりたいかも」
「ふふっ」
その言葉を残して。
二人は控室へ戻っていった。
◆
ライブが開始した頃。
ナイトクラウンの実家。
テレビには。
今日行われたメイクデビューのウイニングライブが映っていた。
ステージの中央。
少し息を切らしながら、それでも楽しそうに踊るナイトクラウン。
「……」
母親は。
テレビを見ながら、少しだけ目を細める。
「本当に出ちゃったわね」
隣では父親が腕を組んでいる。
「ああ」
「昔は、あんなに小さかったのに」
「大きくなったもんだ」
「身長の話じゃないわよ」
「分かってる」
二人の視線がテレビへ戻る。
『ありがとうございましたー!』
画面の中で。
ナイトクラウンが深々と頭を下げる。
そして。
顔を上げた瞬間。
いつものように。
にっと笑った。
「……あの顔」
母親が呟く。
「昔から変わらないわね」
父親も小さく笑う。
「レース場でフジキセキを見た時も、あんな顔してたな」
「そうだったわね」
まだ小さかった頃。
家族で見に行ったレース。
目の前を駆け抜けていった、一人のウマ娘。
その姿を見て。
娘は。
『……綺麗』
そう呟いた。
あの日から。
ずっと追いかけてきた。
「……とうとう、自分が走る側になったのね」
母親がそう言う。
父親は。
少しだけ黙って。
「そうだな」
テレビの中では。
ナイトクラウンがスタッフに何か話しかけている。
どうやら。
また何か変なことをしているらしい。
「……何してるのかしら」
「さあ」
「あなた、あの子のお父さんでしょ?」
「君だって母親だろう」
二人で顔を見合わせる。
そして。
笑った。
「でも」
母親がテレビを見る。
「楽しそうね」
「……ああ」
父親も頷く。
「なら、いいじゃないか」
テレビの中。
ナイトクラウンは。
今日も笑っていた。
◆
同じ日に。
ナイトクラウンも。
ウインバリアシオンも。
メイクデビューを見事に勝利で終えた。
ただし。
二人のレースはまったく違った。
ナイトクラウンは。
周囲を見て。
進路を選び。
無駄な動きを減らし。
最後に抜け出す。
ウインバリアシオンは。
前半で脚を溜め。
勝負どころから。
純粋な脚力で。
一気に前を捕らえた。
二人とも。
一着。
けれど。
その一着へ至る道は。
まるで違っていた。
◆
そして。
もう一つ。
次の日に。
新聞に名前が載ったウマ娘がいた。
クロノレター。
彼女も。
メイクデビューを勝利。
レース内容は。
ほとんど危なげがなかった。
道中は好位。
最後の直線で。
一気に抜け出す。
二着以下を寄せ付けず。
そのままゴール。
圧勝。
ただ。
本人にとっては。
それもまた。
一つのレースに過ぎなかった。
「次も走ります」
それだけ。
淡々と。
次へ進んでいく。
◆
夕方。
チームの部屋。
ナイトクラウンが。
机に突っ伏していた。
「疲れた……」
「クラウン、まだそんな時間じゃないぞ」
新城が言う。
「でも初レースですよ?」
「そうだな」
「もっと褒めてもいいんですよ?」
「一着だったな」
「はい!」
「じゃあ今日はそれで十分だ」
「えー」
「まぁまぁ、トレーナーさん初勝利なんだからもう少し祝ってあげて?」
フジキセキが笑いながら話す。
「フジさん最高!ありがとう!!」
フジキセキがニコリと微笑み、その後ウインバリアシオンの方を見る。
「それに、シオンもお疲れ様。すごい末脚だったね。」
クラウンの横で静かに座っているシオン。
「シオンも一着だったんだよね!」
「うん」
「何バ身?」
「4バ身くらい」
「すご!」
ナイトクラウンが身を乗り出す。
「私はクビ差!」
「……接戦だったっすね」
「そう!」
ナイトクラウンは楽しそうに笑う。
「シオンは最後すごかったんだろうな」
「……まあ」
ウインバリアシオンは少しだけ照れた様子で。
「脚には自信があるっすから」
「いいなぁ」
ナイトクラウンが言った。
「私にももうちょっと脚力があればなぁ」
「でも」
ウインバリアシオンが答える。
「クラウンは周りが凄く見えてる」
「……見てた?」
「レース映像さっき見たっす」
新城が口を挟む。
「クラウンらしい、良いレースだったぞ」
ナイトクラウンは。
少し考えて。
「……じゃあ」
笑った。
「これが私の走り方なのかな」
まだ。
分からない。
今日一回走っただけ。
これから。
何度も走って。
勝って。
負けて。
その中で。
自分の走り方を見つけていく。
それでいい。
「次も勝つぞー!」
ナイトクラウンが拳を上げる。
「……うっさいっす」
ウインバリアシオンが呟く。
「よし!」
「聞いてないし」
新城とフジキセキは
そんな二人を見ながら。
小さく笑いあった。
◆
その夜。
ナイトクラウンは。
窓の外を見た。
星が出ている。
今日。
一歩進んだ。
まだ。
フジキセキにはまだ遠い。
けれど。
確かに。
昨日とは違う場所にいる。
「……一歩」
呟く。
そして。
明日もまた。
練習が始まる。
◆
ウインバリアシオンも。
ナイトクラウンも。
また走る。
今日、始まったのは。
これから先。
何度も交わることになる。
それぞれの道が。
今日。
初めて。
競走の舞台へ伸びた。
まだ。
誰も知らない。
この先。
どこまで行くのか。
何度負けるのか。
何度勝つのか。
どんな相手と出会うのか。
ただ。
一つだけ。
確かなことがある。
ナイトクラウンは。
走り始めた。
ウインバリアシオンも。
走り始めた。
そして。
物語は。
ここから。
本当の意味で動き始める。
第五話 了
無事にメイクデビューを勝利で飾れたナイトクラウンとウインバリアシオン。
彼女達の舞台がいよいよ幕開けしました。
次回はまた水曜、もしくは火曜日に。
お楽しみに!