ウマ娘 〜スタークラウン〜   作:【規制済み】

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第五話 開幕

ようこそお客様。

 

ここから少しだけ私、フジキセキが進めるよ。

 

――さて。

 

ここまで読んでくれた君なら。

 

もう分かってくれたかな?

 

ナイトクラウンがどんな子なのか。

 

明るくて。

 

うるさくて。

 

ちょっと変……。

 

いや、

 

……かなり変わってて。

 

それでいて。

 

妙なところで真面目な子。

 

……うん。

 

これは、本人が聞いたらきっと怒るね。

 

でも。

 

そんな彼女にも。

 

とうとう。

 

この時が来た。

 

「メイクデビュー」

 

模擬レースじゃなく。

 

本番。

 

実戦。

 

大勢の観客の前で。

 

自分の名前を背負って。

 

初めて。

 

一人のウマ娘として走る。

 

さて。

 

あの子は、どんなレースをするのかな。

 

……なんて。

 

私が全部話してしまったら。

 

つまらないね?

 

だからここから先は。

 

君自身の目で。

 

見届けてあげて。

 

それじゃあ、

 

ナイトクラウンの

 

最初の一歩。

 

幕開けだ。

 

第五話 開幕

 

◆

 

メイクデビュー当日。

 

ナイトクラウンは、出走表を眺めていた。

 

「……結構いるなー」

 

「当然だな」

 

隣から新城が答える。

 

「メイクデビューだからな」

 

「全てのウマ娘が通る道」

 

「まず1勝出来なきゃその先の道がなくなる」

 

「1勝も出来ずに去っていく子も多い」

 

ナイトクラウンの目が鋭くなる。

 

「…そうでしたね」

 

今回出走するのは芝1600メートル。

 

出走数は十二人。

 

もちろんまだ名前の知られていないウマ娘たちばかりだ。

 

ナイトクラウンもその一人。

 

「……トレーナーさん」

 

「ん?」

 

「勝てますかね」

 

「走ってみないと分からん」

 

「ですよね」

 

「と、言いたいが」

 

「?」

 

「クラウンとシオン、お前達は正直同世代より頭一つは抜けてる」

 

「おお」

 

「落ち着いてトレーニング通りに走れば勝てる」

 

「初めてのレースでかかってしまう子が多い」

 

「クラウンはその状況…使えるだろう?」

 

ナイトクラウンは出走表へ視線を戻した。

 

一人ずつ。

 

脚質。

 

これまでの模擬レース。

 

持ちタイム。

 

できる限り頭に入れる。

 

新城がそれを見ていた。

 

「全部覚えるつもりか?」

 

「一応」

 

「そんなに気にしなくてもいいぞ」

 

「でも、走るなら知ってた方がいいじゃないですか」

 

そう言って。

 

ナイトクラウンは出走表を閉じた。

 

「行ってきます」

 

「ああ」

 

今日は。

 

初めての本番だ。

 

「こういうところだよなぁ…ホントにデビュー戦かと疑いたくなる」

 

◆

 

パドック。

 

ナイトクラウンは、レースウェア姿で歩いていた。

 

観客席からは、まだ大きな声援はない。

 

知名度がないのだから当然だ。

 

それでも。

 

何人かの観客が名前を確認している。

 

「ナイトクラウン……?」

 

「新入生だね」

 

そんな声が聞こえる。

 

ナイトクラウンは、少しだけ耳を動かした。

 

けれど。

 

それ以上は気にしない。

 

「……いつも通り」

 

そう呟いて。

 

息を深く吸う。

 

そして。

 

「観客のみなさまー!ナイトクラウンでっす!」

 

声を張り上げる。

 

「私の舞台!どうぞご覧あれー!」

 

右脚を軽く引き、左手を胸に添え。

 

右手は後ろ、腰へ。

 

そのままゆっくりとお辞儀。

 

観客席が少しざわつく。

 

「なんだあの子」

 

「オペラオーみたい」

 

「面白そうだな」

 

ナイトクラウンは頭を上げると

 

コースへ向かった。

 

(みんなが私を観てくれた!)

 

◆

 

スタート地点。

 

十二人のウマ娘がそれぞれ準備している。

 

ナイトクラウンは五番枠。

 

やや内枠。

 

周りのウマ娘達はかなり緊張している様子。

 

先程大きな声を出したからだろうか。

 

比較的周りを見る余裕が生まれた気がする。

 

そして。

 

ゲートへ入る。

 

静か。

 

まだG1のような大きな舞台ではない。

 

派手なファンファーレもない。

 

観客のざわめきだけが聞こえる。

 

だんだんと静かになっていく。

 

「……」

 

ナイトクラウンは左右を見る。

 

先頭に行きそうなウマ娘。

 

中団につけそうなウマ娘。

 

後ろから来そうなウマ娘。

 

一人ずつ。

 

位置を確認する。

 

「大丈夫。頭に入ってる」

 

そして。

 

ゲートが開いた。

 

◆

 

――スタート。

 

一斉に飛び出す。

 

ナイトクラウン好スタート。

 

だが。

 

無理に前へは行かない。

 

一番前には二人。

 

その後ろに三人。

 

ナイトクラウンは、そのさらに後ろ。

 

六番手付近につけた。

 

「いいスタートだ」

 

新城が呟く。

 

「そうだね、ひとまず安心だ」

 

隣に居るフジキセキも少し胸を撫で下ろす。

 

序盤。

 

先頭はやや速い。

 

更にスピードを上げている。

 

「……?ああ、これか。トレーナーさんの言ってたかかりって」

 

ナイトクラウンは前を見ながら走る。

 

<<かなりペースが早いぞ、かかってしまっている様子!>>

 

前との差。

 

後ろとの差。

 

内側。

 

外側。

 

視線が細かく動いている。

 

前の二人が並んでいる。

 

その後ろには一人。

 

差が少しずつ開いていく。

 

さらにその外に一人。

 

内側にはスペースがある。

 

だが。

 

まだ入らない。

 

「……まだ早い」

 

ナイトクラウンは判断する。

 

ここで動けば。

 

余計な脚を使う。

 

なら。

 

このまま。

 

最初のコーナー。

 

隊列が少しずつ固まっていく。

 

ナイトクラウンは五、六番手。

 

内側から一人。

 

前へ入ってくる。

 

ナイトクラウンは一歩下げた。

 

無理に抵抗しない。

 

その代わり。

 

外側を見る。

 

一人分。

 

空いている。

 

「……いける」

 

ほんの少し外へ。

 

前のウマ娘の後ろにつく。

 

位置を一つ落としたように見える。

 

だが。

 

実際には。

 

視界が大きく開いた。

 

「……」

 

ナイトクラウンは前を見る。

 

先頭との差。

 

約7バ身。

 

まだ慌てない。

 

◆

 

向正面。

 

ペースは落ち着いた。

 

先頭。

 

二番手。

 

三番手。

 

その後ろにナイトクラウン。

 

今度は四番手まで上がっている。

 

理由は簡単だった。

 

前の二人が互いに牽制している間。

 

その後ろで余計な動きをせず。

 

自然に位置が上がった。

 

<<5番ナイトクラウン、いい位置だ!>>

 

実況。

 

ナイトクラウンは。

 

周囲を見る。

 

内側。

 

外側。

 

前。

 

視界に入る情報を拾っていく。

 

そして音。後方の状況は周囲の音を聴く。

 

前のウマ娘が少し外へ膨れた。

 

内が空く。

 

だが。

 

すぐには入らない。

 

後ろから一頭が上がってきている。

 

「……今はダメ」

 

そのウマ娘が外から前へ出る。

 

内側が完全に空いた。

 

「今だ」

 

ナイトクラウンが一歩内へ入る。

 

進路が開いた。

 

一人分。

 

「……よし」

 

無理なく。

 

前との距離を詰める。

 

先頭が飛ばした反動で、隊列が少しずつ詰まり始めていた。

 

残り800メートル。

 

ナイトクラウンは四番手。

 

先頭との差は2バ身。

 

まだ余裕がある。

 

先頭の二人は垂れて来ている。

 

だが。

 

後ろから一人。

 

一気に上がってきた。

 

「……速い、けどシオン程じゃない」

 

ナイトクラウンは一瞬だけ振り返る。

 

脚を使っている。

 

なら。

 

今は追わない。

 

そのウマ娘が外から上がっていく。

 

ナイトクラウンは内側をキープ。

 

順位は五番手へ下がる。

 

けれど。

 

焦らない。

 

「……まだ」

 

第三コーナーへ。

 

◆

 

残り600。

 

先頭が逃げ切ろうと更に少しペースを上げる。

 

後ろからも追い上げて来ているようだ。

 

ナイトクラウンは四番手。

 

前との差。

 

1バ身。

 

外を見る。

 

少し後ろ。

 

三人。

 

内側。

 

二人。

 

進路は確保できている。

 

「……行ける」

 

関係者席の新城トレーナーとフジキセキ

 

「……やっぱあの子才能あるな」

 

新城が感心した様子で呟く。

 

「私でもあの時期にあそこまで周りを見れてはいなかったかな」

 

フジキセキも同じ様に頷く。

 

最終コーナー。

 

先頭が外へ。

 

二番手も外。

 

その後ろが少し詰まる。

 

ナイトクラウンの前。

 

一瞬。

 

進路が狭くなる。

 

「……」

 

判断。

 

外へ出すか。

 

内へ入るか。

 

外には二人。

 

内には一人。

 

内の方が近い。

 

ナイトクラウンは。

 

一瞬だけ減速。

 

そして。

 

来た。

 

内へ。

 

<<ナイトクラウン、内を突いた!>>

 

開いた。

 

ほんのわずかなスペース。

 

ナイトクラウンはそこへ入った。

 

直線。

 

前には三人。

 

残り400。

 

「行ける!」

 

一人抜く。

 

そのまま二人目。

 

残り300。

 

外から一人。

 

一気に伸びてくる。

 

ナイトクラウンは。

 

一瞬だけその音を聴く。

 

「……速い」

 

だけど。

 

「やっぱり、シオン程じゃない!」

 

内側からもう一人。

 

外には伸びてくるウマ娘。

 

中央。

 

前。

 

先頭の子は完全にバテている。

 

ナイトクラウンは。

 

躱す。

 

「ここだ!」

 

身体を滑り込ませる。

 

残り200。

 

そのまま先頭へ

 

後ろとの差は2バ身半。

 

ナイトクラウンの脚も。

 

ここで本格的に伸びる。

 

<<ナイトクラウン、完全に抜けた!!>>

 

残り150。

 

先頭。

 

「――っ!」

 

ナイトクラウンが一歩前へ出る。

 

しかし。

 

外から一人。

 

<<外から一人突っ込んでくる!!>>

 

<<内か!外か!その差1バ身半だ!>>

 

さらに伸びる。

 

「まだ来る!」

 

ナイトクラウンは。

 

それを見ていた。

 

脚色。

 

残り距離。

 

自分との差。

 

「……あと少し」

 

残り100。

 

僅かにナイトクラウンが優勢

 

ナイトクラウンは。

 

最後の最後まで相手を見ていた。

 

そして。

 

ゴール直前。

 

踏み込み、

 

前へ。

 

<<ゴール!>>

 

ナイトクラウンが駆け抜けた。

 

<<勝ったのは5番ナイトクラウン!激しい競り合いを制した!!>>

 

◆

 

「……」

 

ナイトクラウンは。

 

しばらく走ったまま。

 

止まらなかった。

 

呼吸を整える。

 

そして。

 

掲示板を見る。

 

一着。

 

ナイトクラウン。

 

「……勝った」

 

初めてのレース。

 

初めての本番。

 

一着。

 

「……勝った!」

 

拳を握る。

 

大きくガッツポーズをするほどではない。

 

けれど。

 

顔には。

 

はっきりと笑みが浮かんでいた。

 

観客席へ向かい恭しく一礼。

 

手を振りつつコースを去っていく。

 

(フジさんに少し近づけたかな?)

 

◆

 

「おめでとう」

 

「おめでとう、ポニーちゃん」

 

戻ってきたナイトクラウンへ。

 

新城とフジキセキが声をかける。

 

「ありがとうございます!」

 

「最後、よく見てたな」

 

「はい」

 

フジキセキが聞く。

 

「外から一人来てたのも分かってた?」

 

「もちろんです!」

 

ナイトクラウンは胸を張る。

 

「私、結構見えてますから」

 

「ああ、そうだな」

 

新城は頷いた。

 

「そこは武器になる」

 

ナイトクラウンは。

 

嬉しそうに笑った。

 

「じゃあ、私才能って」

 

「まだ分からん」

 

「即答……」

 

「でも」

 

新城は続けた。

 

「レースを見る力はある」

 

その言葉に。

 

ナイトクラウンは頷いた。

 

「……はい」

 

今日。

 

一つ目の結果が出た。

 

◆

 

そして。

 

同じ日。

 

ウインバリアシオンのメイクデビュー。

 

こちらも。

 

メイクデビュー。

 

観客席は先ほどのレースからの熱気が収まらず、騒ついている。

 

次のレース。

 

まだ、

 

誰も彼女の名前を知らない。

 

ウインバリアシオンは。

 

淡々と準備を終える。

 

距離は1800メートル。

 

ナイトクラウンより長い。

 

だからこそ。

 

彼女には。

 

自分の武器を使う余地があった。

 

脚力。

 

特に。

 

長く使える末脚。

 

「……」

 

ゲート。

 

入る。

 

スタート。

 

◆

 

ウインバリアシオン。

 

スタートは悪くない。

 

だが。

 

前には行かない。

 

五番手。

 

六番手。

 

七番手。

 

そのまま。

 

一周目のコーナーへ入る。

 

<<ウインバリアシオンは現在七番手>>

 

先頭との差。

 

五バ身ほど。

 

前はゆったり。

 

ウインバリアシオンも。

 

じっと脚を溜める。

 

向正面。

 

ペースが上がり始める。

 

前のウマ娘たちが動く。

 

一人。

 

また一人。

 

ポジションを上げていく。

 

ウインバリアシオンは。

 

まだ動かない。

 

「……クラウン相手なら、もっと嫌な位置取られたっすね」

 

そこを思えば。

 

今は脚を溜める。

 

残り1000。

 

先頭との差。

 

約6バ身。

 

残り800。

 

5バ身。

 

ここで。

 

前の一頭が外へよれた。

 

ウインバリアシオンの前が開く。

 

だが。

 

まだ行かない。

 

残り600。

 

先頭がペースを上げる。

 

ここで。

 

ウインバリアシオンが動いた。

 

「行くっすよ…!」

 

<<ウインバリアシオン、外から進出!>>

 

一気に。

 

脚を使う。

 

五番手。

 

四番手。

 

三番手。

 

そのスピードは。

 

明らかに。

 

周囲より速かった。

 

コーナーを回りながら。

 

一気に前へ。

 

「速い!」

 

残り400。

 

二番手。

 

先頭との差。

 

1バ身半。

 

ウインバリアシオンの脚は。

 

まだ止まらない。

 

更にキレる。

 

「……!」

 

最終直線。

 

先頭が逃げる。

 

ウインバリアシオンが追う。

 

残り300。

 

1バ身。

 

残り200。

 

半バ身。

 

ここから。

 

脚力の勝負。

 

<<ウインバリアシオン、並んだ!>>

 

先頭も粘る。

 

<<3番粘る!だが苦しいか!?>>

 

しかし。

 

ウインバリアシオンの脚色が違う。

 

残り100。

 

一気に抜ける。

 

<<抜けた!ウインバリアシオン!>>

 

さらに伸びる。

 

後ろとの差を広げる。

 

ゴール。

 

◆

 

一着。

 

ウインバリアシオン。

 

二着との差。

 

4バ身。

 

初戦としては。

 

十分すぎる内容だった。

 

ウインバリアシオンは。

 

ゴール後。

 

すぐには喜ばなかった。

 

息を整える。

 

そして。

 

掲示板を見る。

 

「……一着」

 

小さく呟く。

 

その直後。

 

ようやく。

 

口元が少し緩んだ。

 

「……よし」

 

自分の脚で。

 

勝ち取った。

 

それが。

 

何より嬉しかった。

 

◆

 

レースを終えたナイトクラウンは。

 

控室へ戻る途中。

 

「……あれ?」

 

スタッフに呼び止められる。

 

「ナイトクラウンさん。ライブの準備をお願いします」

 

「……ライブ?」

 

「はい。ウイニングライブです」

 

「…………そうだ!」

 

ナイトクラウンは固まった。

 

「……今からですよね」

 

「今からです」

 

「レース終わったばっかりですけど」

 

「はい」

 

「汗だくですけど」

 

「はい」

 

「……歌うんですか?」

 

「はい」

 

◆

 

そして。

 

ステージ。

 

まだ大きな人気を持たないメイクデビュー。

 

観客も、それほど多くはない。

 

それでも。

 

ナイトクラウンにとっては。

 

初めて立つステージだった。

 

「……」

 

舞台袖。

 

ナイトクラウンは客席を覗く。

 

さっきまで走っていた場所とは。

 

まるで違う緊張感。

 

「クラウン」

 

後ろからフジキセキの声。

 

「大丈夫?」

 

「……レースより緊張します」

 

「そう?」

 

「だって、走るだけなら自分との勝負ですけど」

 

ナイトクラウンはステージを見る。

 

「こっちは……みんな見てますから」

 

フジキセキが少し笑う。

 

「ふふ…」

 

ナイトクラウンの背中を軽く押す。

 

「みんなに見てもらえるね?」

 

「……」

 

「行っておいで」

 

ナイトクラウンは。

 

一度だけ深呼吸した。

 

「……よし」

 

そして。

 

ステージへ飛び出した。

 

観客席から拍手。

 

ナイトクラウンは。

 

いつもの調子を取り戻す。

 

「本日はメイクデビュー」

 

一拍。

 

「そして!」

 

胸を張る。

 

「初めてのライブでーす!」

 

少しだけ。

 

笑い声が起こる。

 

「最後まで楽しんでいってくださいね!」

 

音楽が始まる。

 

「響けファンファーレー、届けゴールまでー♪」

 

ナイトクラウンは。

 

走るように。

 

ステージを駆ける。

 

右へ。

 

左へ。

 

観客へ手を振る。

 

まだ歌も踊りも。

 

完璧ではない。

 

それでも。

 

一生懸命だった。

 

「I believe…夢の先まで!♪」

 

最後のポーズ。

 

息を切らしながら。

 

ナイトクラウンは笑った。

 

「ありがとうございました!」

 

拍手。

 

歓声。

 

その中で。

 

ナイトクラウンは。

 

少しだけ目を丸くした。

 

――自分を見てくれている。

 

レースだけじゃない。

 

今。

 

自分の姿を。

 

声を。

 

ちゃんと見てくれている。

 

「……」

 

ナイトクラウンは。

 

もう一度。

 

深く頭を下げた。

 

そして。

 

舞台袖へ戻る。

 

「……疲れたぁぁぁ!」

 

「お疲れ様、ポニーちゃん」

 

フジキセキが笑う。

 

「ライブって……大変ですね……」

 

「でも楽しそうだったね」

 

「……はい!」

 

ナイトクラウンは。

 

少しだけ嬉しそうに笑った。

 

「またやりたいかも」

 

「ふふっ」

 

その言葉を残して。

 

二人は控室へ戻っていった。

 

◆

 

ライブが開始した頃。

 

ナイトクラウンの実家。

 

テレビには。

 

今日行われたメイクデビューのウイニングライブが映っていた。

 

ステージの中央。

 

少し息を切らしながら、それでも楽しそうに踊るナイトクラウン。

 

「……」

 

母親は。

 

テレビを見ながら、少しだけ目を細める。

 

「本当に出ちゃったわね」

 

隣では父親が腕を組んでいる。

 

「ああ」

 

「昔は、あんなに小さかったのに」

 

「大きくなったもんだ」

 

「身長の話じゃないわよ」

 

「分かってる」

 

二人の視線がテレビへ戻る。

 

『ありがとうございましたー!』

 

画面の中で。

 

ナイトクラウンが深々と頭を下げる。

 

そして。

 

顔を上げた瞬間。

 

いつものように。

 

にっと笑った。

 

「……あの顔」

 

母親が呟く。

 

「昔から変わらないわね」

 

父親も小さく笑う。

 

「レース場でフジキセキを見た時も、あんな顔してたな」

 

「そうだったわね」

 

まだ小さかった頃。

 

家族で見に行ったレース。

 

目の前を駆け抜けていった、一人のウマ娘。

 

その姿を見て。

 

娘は。

 

『……綺麗』

 

そう呟いた。

 

あの日から。

 

ずっと追いかけてきた。

 

「……とうとう、自分が走る側になったのね」

 

母親がそう言う。

 

父親は。

 

少しだけ黙って。

 

「そうだな」

 

テレビの中では。

 

ナイトクラウンがスタッフに何か話しかけている。

 

どうやら。

 

また何か変なことをしているらしい。

 

「……何してるのかしら」

 

「さあ」

 

「あなた、あの子のお父さんでしょ?」

 

「君だって母親だろう」

 

二人で顔を見合わせる。

 

そして。

 

笑った。

 

「でも」

 

母親がテレビを見る。

 

「楽しそうね」

 

「……ああ」

 

父親も頷く。

 

「なら、いいじゃないか」

 

テレビの中。

 

ナイトクラウンは。

 

今日も笑っていた。

 

◆

 

同じ日に。

 

ナイトクラウンも。

 

ウインバリアシオンも。

 

メイクデビューを見事に勝利で終えた。

 

ただし。

 

二人のレースはまったく違った。

 

ナイトクラウンは。

 

周囲を見て。

 

進路を選び。

 

無駄な動きを減らし。

 

最後に抜け出す。

 

ウインバリアシオンは。

 

前半で脚を溜め。

 

勝負どころから。

 

純粋な脚力で。

 

一気に前を捕らえた。

 

二人とも。

 

一着。

 

けれど。

 

その一着へ至る道は。

 

まるで違っていた。

 

◆

 

そして。

 

もう一つ。

 

次の日に。

 

新聞に名前が載ったウマ娘がいた。

 

クロノレター。

 

彼女も。

 

メイクデビューを勝利。

 

レース内容は。

 

ほとんど危なげがなかった。

 

道中は好位。

 

最後の直線で。

 

一気に抜け出す。

 

二着以下を寄せ付けず。

 

そのままゴール。

 

圧勝。

 

ただ。

 

本人にとっては。

 

それもまた。

 

一つのレースに過ぎなかった。

 

「次も走ります」

 

それだけ。

 

淡々と。

 

次へ進んでいく。

 

◆

 

夕方。

 

チームの部屋。

 

ナイトクラウンが。

 

机に突っ伏していた。

 

「疲れた……」

 

「クラウン、まだそんな時間じゃないぞ」

 

新城が言う。

 

「でも初レースですよ?」

 

「そうだな」

 

「もっと褒めてもいいんですよ?」

 

「一着だったな」

 

「はい!」

 

「じゃあ今日はそれで十分だ」

 

「えー」

 

「まぁまぁ、トレーナーさん初勝利なんだからもう少し祝ってあげて?」

 

フジキセキが笑いながら話す。

 

「フジさん最高!ありがとう!!」

 

フジキセキがニコリと微笑み、その後ウインバリアシオンの方を見る。

 

「それに、シオンもお疲れ様。すごい末脚だったね。」

 

クラウンの横で静かに座っているシオン。

 

「シオンも一着だったんだよね!」

 

「うん」

 

「何バ身?」

 

「4バ身くらい」

 

「すご!」

 

ナイトクラウンが身を乗り出す。

 

「私はクビ差!」

 

「……接戦だったっすね」

 

「そう!」

 

ナイトクラウンは楽しそうに笑う。

 

「シオンは最後すごかったんだろうな」

 

「……まあ」

 

ウインバリアシオンは少しだけ照れた様子で。

 

「脚には自信があるっすから」

 

「いいなぁ」

 

ナイトクラウンが言った。

 

「私にももうちょっと脚力があればなぁ」

 

「でも」

 

ウインバリアシオンが答える。

 

「クラウンは周りが凄く見えてる」

 

「……見てた?」

 

「レース映像さっき見たっす」

 

新城が口を挟む。

 

「クラウンらしい、良いレースだったぞ」

 

ナイトクラウンは。

 

少し考えて。

 

「……じゃあ」

 

笑った。

 

「これが私の走り方なのかな」

 

まだ。

 

分からない。

 

今日一回走っただけ。

 

これから。

 

何度も走って。

 

勝って。

 

負けて。

 

その中で。

 

自分の走り方を見つけていく。

 

それでいい。

 

「次も勝つぞー!」

 

ナイトクラウンが拳を上げる。

 

「……うっさいっす」

 

ウインバリアシオンが呟く。

 

「よし!」

 

「聞いてないし」

 

新城とフジキセキは

 

そんな二人を見ながら。

 

小さく笑いあった。

 

◆

 

その夜。

 

ナイトクラウンは。

 

窓の外を見た。

 

星が出ている。

 

今日。

 

一歩進んだ。

 

まだ。

 

フジキセキにはまだ遠い。

 

けれど。

 

確かに。

 

昨日とは違う場所にいる。

 

「……一歩」

 

呟く。

 

そして。

 

明日もまた。

 

練習が始まる。

 

◆

 

ウインバリアシオンも。

 

ナイトクラウンも。

 

また走る。

 

今日、始まったのは。

 

これから先。

 

何度も交わることになる。

 

それぞれの道が。

 

今日。

 

初めて。

 

競走の舞台へ伸びた。

 

まだ。

 

誰も知らない。

 

この先。

 

どこまで行くのか。

 

何度負けるのか。

 

何度勝つのか。

 

どんな相手と出会うのか。

 

ただ。

 

一つだけ。

 

確かなことがある。

 

ナイトクラウンは。

 

走り始めた。

 

ウインバリアシオンも。

 

走り始めた。

 

そして。

 

物語は。

 

ここから。

 

本当の意味で動き始める。

 

 

第五話 了




無事にメイクデビューを勝利で飾れたナイトクラウンとウインバリアシオン。
彼女達の舞台がいよいよ幕開けしました。

次回はまた水曜、もしくは火曜日に。
お楽しみに!
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