崩壊したこの世界に取り残されて、それでも君と共に永えるためにできることを   作:霧島 高

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Cluster-A3:無謬 Sector-04:機械の身体

 その後、いくつかの避難施設(シェルター)を巡ったが、良い収穫は得られなかった。

 ほとんどの場所は、冷凍睡眠(コールドスリープ)ポッドを送り出した後も稼働を続けていたのだ。

 その考えは、やはりよくわからない。

 どうしてか、次に施設を訪れるであろうヒトのためにと、設備へと電源を供給し続けていた。

 そして実際に、遅れてやってきたヒトビトを保護していた。

 だがポッドにて全員が眠ったわけではない。

 ならば、生産施設を稼働しなければならない。

 そしてそのせいで電源を喪失していた。

 当然のことながら、施設を管理するAIはそう命じられ、それに従っていただけだ。

 つまりどの施設も、管理者は残っていなかったということだ。

 なぜなら自らをポッドに入れて播種船へ送り込んでいたから。彼らもまたヒトであるがゆえに。

 その例外は、シャトル発射後に稼働し始めた最初の施設と、管理者が地上へと赴き未帰還となった二番目の施設のみ。

 結局、俺はほぼ成果を得ることなく、出立してから十八日後に、最終目的地に辿り着いてしまった。

 

 そこは俺のよく知る、俺の生まれた場所だ。

 ただし、幼いころを過ごした場所ではない。

 自衛陸軍技術研究所、地下秘密実験施設。

 本来の名称は前半部分のみ。後半部分は俺が勝手にそう呼んでいただけだ。

 つまり、張りぼてというには立派な地上施設を伴っていたはずだったが。

 敵国からの攻撃により、その地上施設は木っ端みじんになっていた。軍事関係施設なのだから、恰好の(まと)だっただろう。

 本体そのものは無事だった。地下深くにあったのが功を奏したのだ。

 そしてそれは実験施設であり、当然大量のエネルギーを必要とする。大切な研究成果を保存するためにも、電池が残されている、と俺は期待していた。

 記憶を頼りに、いくつかある出入口を探しだし、その一つから地下へと降りていく。もちろん記憶と寸分違わぬ位置にあった。

 長い螺旋階段だ。今まで訪れた施設と変わらない。

 この地下空間は表向き、研究所の研究者や職員のための避難施設(シェルター)とされていたのだから、そこへ至るまでの道筋は似ている。

 もちろん本来の役割は、合法と胸を張ることはできない実験のための施設だ。

 階段を下りた先にあったセキュリティ付きの扉は、俺がその前に立てば認証され勝手に開いた。電源は生きていて、俺の情報もまだ生きていた。

 しかし中は真っ暗だ。誰もいないということだろう。セキュリティだけが生きていた。

「懐かしい気分だな」

 主観的な時間でいうなら一年半ほど来ていなかっただけだが、なんとなくそう口に出していた。

 この場所で俺は、無くなってしまった身体の代わりに、新たな身体を手に入れた。

 それを当時の役に立たない頭にくっつけて。

 そしてその頭も結局()げ替えて、そしていまここに至ったのだ。

 とても感謝している。

 この施設が、この実験が、この計画がなければ、俺が生き続けることはできず。

 彼女を悲しみの淵から救うこともできなかっただろう。

 だが……。

 もし、あのとき、俺が中途半端に生きることなく命を落としていれば……。

 彼女はどう――。

「稼働している、のか?」

 視界センサーが光を捉えたことで、俺はどうしてか浮かんできた訳の分からない思考を中断できた。

 それは薄く、微弱な光だ。

 ただし、部屋自体が発光しているわけではない。

 そう、あの部屋を俺は知っている。

「装置が動いているのか? どうしてここだけ?」

 そこは俺の身体が生まれた場所だ。

 機械の身体を製造するための装置が鎮座している。

 鎮座とは、すなわち動作しているのはそれではないということ。

『調べますか?』

「ああ、もちろんだ」

 アムリタの提案に、俺は迷うことなく即座に頷いた。すぐにアムリタは肩から飛び立ち、例のごとく脚の端子を端末に繋ぐ。

 俺は稼働している装置を見る。

 機械の身体が、その中に閉じ込められていた。

 特殊な液体で満たされた保存装置に浮かぶその身体は、俺のよりもずっと洗練されているように見えた。

 少しだけ、コンパクトになっているか?

 もちろん、そのほうが良いに決まっている。

 同じことができるのならば、小さいほうが良い。狭い場所を通るたびに、そう思っていた。

 保存装置は五台。その全てが稼働していて、だから身体も五体。

 どれも身体としては、すべてが揃っている。

 しかし完成ではない。そこにパーツが一つ足りない。

 後頭部が縦半分にぱかりと割れて開いていた。その中身は空っぽだ。

 それはそうだ。その部分はここでは造れない。

 これを動かすための、人工頭脳は別の研究なのだ。だからそれはここではなく、別の研究施設で製造されていた。

 しかし残念ながら向こうは地上施設であり、破壊されているに違いない。となれば、人工頭脳を新たに製造することは無理だろう。

 例えそのために必要な、ヒトを用意できたとしても。

 やがてアムリタが戻ってきた。

『マスターでの実験を元に、実用化段階に進んだ身体ですね。製造が終わり、最後のパーツである人工頭脳を待つ段階になったものの、戦争により中断を余儀なくされました。製造はともかく、保管するだけなら電力消費も抑えられます。専用のAIが管理しており、問題も発生していません』

「なるほど。あとどれぐらい維持できる?」

『千年以上は確実に』

「……なら、ここのバッテリーは持ちだせないな」

 この保存された新しい身体は重要だ。

 もし万が一、俺の身体に深刻な不具合が起きた際の予備(スペア)となるのだから。

 まったく、こいつは良いものが残っていたじゃないか。

 だが、もしこれを必要としたならば、不具合を抱えたままの状態で、俺はここまで取りに来られるだろうか。

『一つ、提案があります』

「聞こう」

『一体、持ち帰りましょう。一体だけなら、あちらの施設にあるマスターの保存容器が使えます』

 アムリタの言うそれは、俺がつい先日まで眠っていた、特別製の睡眠ポッドのことだ。

「俺もそう考えたが、持ち帰る方法がないな。さすがに大きすぎる」

 もちろん担ぐことは可能だ。その重量は、せいぜい俺自身と同じ程度なのだから。

 だが運んでいる間、その分だけ身体機能が制限される。瓦礫まみれの地上を進むのに、バックパックに入らないサイズの荷物は、さすがに邪魔でしかない。

『いえ、方法ならあります』

「どんな方法だ?」

『はい。それは――』

 俺はアムリタの説明を聞き、そして考え、ならばと決断した。

 その方法は単純だった。

 持ち運ぶのが無理なら、自ら動いてもらえばいい。

 梟型偵察機を分解し、中からアムリタ本体であるAIチップを取り出して、それを人工頭脳の代わりとする。身体と頭脳を繋ぐ接続回路は、AIチップの持つそれと同じ規格だ。

 要するにそれは、元よりそういった運用が考えられていた、ということだ。

 こうして探索の供に、自動人形(オートマトン)が一体、追加された。

 とはいえ、この実験施設は最終目的地であり、あとは帰るだけだ。

 ただし帰り道については、上空からの偵察は不可能となったわけだが。

『動作はスムーズですね』

 アムリタは口を開かずに、しかし声を発した。

 端子を繋がなくても意思疎通ができるようになったことは、喜ばしい。

 保存液に満たされていた身体は、当然何も着用していなかった。

 施設内のロッカーに軍標準の作業服が置いてあったので、拝借して着せておいた。それは要するに俺が着ているものと同じであり、こういった施設の職員にとっては制服のようなもので、特殊繊維で出来たそれは耐久性も高い。

 せっかく新品の身体なのだ。

 傷がついてはもったいないだろう?

「さて、帰ろうか」

 この施設のバッテリーはそのままにしておいた。

 残り四体の身体を、着実に保存しておいてもらわねばならない。

 そうして俺は帰途についた。

 彼女の待つ、あの施設へと戻ろう。

 成果は芳しくなかったが、とりあえずこの人形を持ち帰らなければならない。

 新たな探索はそれからだ――。

 

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