崩壊したこの世界に取り残されて、それでも君と共に永えるためにできることを 作:霧島 高
その後、いくつかの
ほとんどの場所は、
その考えは、やはりよくわからない。
どうしてか、次に施設を訪れるであろうヒトのためにと、設備へと電源を供給し続けていた。
そして実際に、遅れてやってきたヒトビトを保護していた。
だがポッドにて全員が眠ったわけではない。
ならば、生産施設を稼働しなければならない。
そしてそのせいで電源を喪失していた。
当然のことながら、施設を管理するAIはそう命じられ、それに従っていただけだ。
つまりどの施設も、管理者は残っていなかったということだ。
なぜなら自らをポッドに入れて播種船へ送り込んでいたから。彼らもまたヒトであるがゆえに。
その例外は、シャトル発射後に稼働し始めた最初の施設と、管理者が地上へと赴き未帰還となった二番目の施設のみ。
結局、俺はほぼ成果を得ることなく、出立してから十八日後に、最終目的地に辿り着いてしまった。
そこは俺のよく知る、俺の生まれた場所だ。
ただし、幼いころを過ごした場所ではない。
自衛陸軍技術研究所、地下秘密実験施設。
本来の名称は前半部分のみ。後半部分は俺が勝手にそう呼んでいただけだ。
つまり、張りぼてというには立派な地上施設を伴っていたはずだったが。
敵国からの攻撃により、その地上施設は木っ端みじんになっていた。軍事関係施設なのだから、恰好の
本体そのものは無事だった。地下深くにあったのが功を奏したのだ。
そしてそれは実験施設であり、当然大量のエネルギーを必要とする。大切な研究成果を保存するためにも、電池が残されている、と俺は期待していた。
記憶を頼りに、いくつかある出入口を探しだし、その一つから地下へと降りていく。もちろん記憶と寸分違わぬ位置にあった。
長い螺旋階段だ。今まで訪れた施設と変わらない。
この地下空間は表向き、研究所の研究者や職員のための
もちろん本来の役割は、合法と胸を張ることはできない実験のための施設だ。
階段を下りた先にあったセキュリティ付きの扉は、俺がその前に立てば認証され勝手に開いた。電源は生きていて、俺の情報もまだ生きていた。
しかし中は真っ暗だ。誰もいないということだろう。セキュリティだけが生きていた。
「懐かしい気分だな」
主観的な時間でいうなら一年半ほど来ていなかっただけだが、なんとなくそう口に出していた。
この場所で俺は、無くなってしまった身体の代わりに、新たな身体を手に入れた。
それを当時の役に立たない頭にくっつけて。
そしてその頭も結局
とても感謝している。
この施設が、この実験が、この計画がなければ、俺が生き続けることはできず。
彼女を悲しみの淵から救うこともできなかっただろう。
だが……。
もし、あのとき、俺が中途半端に生きることなく命を落としていれば……。
彼女はどう――。
「稼働している、のか?」
視界センサーが光を捉えたことで、俺はどうしてか浮かんできた訳の分からない思考を中断できた。
それは薄く、微弱な光だ。
ただし、部屋自体が発光しているわけではない。
そう、あの部屋を俺は知っている。
「装置が動いているのか? どうしてここだけ?」
そこは俺の身体が生まれた場所だ。
機械の身体を製造するための装置が鎮座している。
鎮座とは、すなわち動作しているのはそれではないということ。
『調べますか?』
「ああ、もちろんだ」
アムリタの提案に、俺は迷うことなく即座に頷いた。すぐにアムリタは肩から飛び立ち、例のごとく脚の端子を端末に繋ぐ。
俺は稼働している装置を見る。
機械の身体が、その中に閉じ込められていた。
特殊な液体で満たされた保存装置に浮かぶその身体は、俺のよりもずっと洗練されているように見えた。
少しだけ、コンパクトになっているか?
もちろん、そのほうが良いに決まっている。
同じことができるのならば、小さいほうが良い。狭い場所を通るたびに、そう思っていた。
保存装置は五台。その全てが稼働していて、だから身体も五体。
どれも身体としては、すべてが揃っている。
しかし完成ではない。そこにパーツが一つ足りない。
後頭部が縦半分にぱかりと割れて開いていた。その中身は空っぽだ。
それはそうだ。その部分はここでは造れない。
これを動かすための、人工頭脳は別の研究なのだ。だからそれはここではなく、別の研究施設で製造されていた。
しかし残念ながら向こうは地上施設であり、破壊されているに違いない。となれば、人工頭脳を新たに製造することは無理だろう。
例えそのために必要な、ヒトを用意できたとしても。
やがてアムリタが戻ってきた。
『マスターでの実験を元に、実用化段階に進んだ身体ですね。製造が終わり、最後のパーツである人工頭脳を待つ段階になったものの、戦争により中断を余儀なくされました。製造はともかく、保管するだけなら電力消費も抑えられます。専用のAIが管理しており、問題も発生していません』
「なるほど。あとどれぐらい維持できる?」
『千年以上は確実に』
「……なら、ここのバッテリーは持ちだせないな」
この保存された新しい身体は重要だ。
もし万が一、俺の身体に深刻な不具合が起きた際の
まったく、こいつは良いものが残っていたじゃないか。
だが、もしこれを必要としたならば、不具合を抱えたままの状態で、俺はここまで取りに来られるだろうか。
『一つ、提案があります』
「聞こう」
『一体、持ち帰りましょう。一体だけなら、あちらの施設にあるマスターの保存容器が使えます』
アムリタの言うそれは、俺がつい先日まで眠っていた、特別製の睡眠ポッドのことだ。
「俺もそう考えたが、持ち帰る方法がないな。さすがに大きすぎる」
もちろん担ぐことは可能だ。その重量は、せいぜい俺自身と同じ程度なのだから。
だが運んでいる間、その分だけ身体機能が制限される。瓦礫まみれの地上を進むのに、バックパックに入らないサイズの荷物は、さすがに邪魔でしかない。
『いえ、方法ならあります』
「どんな方法だ?」
『はい。それは――』
俺はアムリタの説明を聞き、そして考え、ならばと決断した。
その方法は単純だった。
持ち運ぶのが無理なら、自ら動いてもらえばいい。
梟型偵察機を分解し、中からアムリタ本体であるAIチップを取り出して、それを人工頭脳の代わりとする。身体と頭脳を繋ぐ接続回路は、AIチップの持つそれと同じ規格だ。
要するにそれは、元よりそういった運用が考えられていた、ということだ。
こうして探索の供に、
とはいえ、この実験施設は最終目的地であり、あとは帰るだけだ。
ただし帰り道については、上空からの偵察は不可能となったわけだが。
『動作はスムーズですね』
アムリタは口を開かずに、しかし声を発した。
端子を繋がなくても意思疎通ができるようになったことは、喜ばしい。
保存液に満たされていた身体は、当然何も着用していなかった。
施設内のロッカーに軍標準の作業服が置いてあったので、拝借して着せておいた。それは要するに俺が着ているものと同じであり、こういった施設の職員にとっては制服のようなもので、特殊繊維で出来たそれは耐久性も高い。
せっかく新品の身体なのだ。
傷がついてはもったいないだろう?
「さて、帰ろうか」
この施設のバッテリーはそのままにしておいた。
残り四体の身体を、着実に保存しておいてもらわねばならない。
そうして俺は帰途についた。
彼女の待つ、あの施設へと戻ろう。
成果は芳しくなかったが、とりあえずこの人形を持ち帰らなければならない。
新たな探索はそれからだ――。