崩壊したこの世界に取り残されて、それでも君と共に永えるためにできることを 作:霧島 高
Cluster-A4:錯誤 Sector-01:復路の起点
今回の探索の主目的は、核融合電池を集めることだった。
しかし訪れた施設にそれは充分残っておらず、その成果は芳しくなかったが、代わりに別のものを手に入れた。
俺の機械の身体の、予備となるもの。
代替の成果としては充分だろう。
そうして俺は、偵察機から機械の身体へ乗り換えたアムリタと共に、帰路に着いた。
だが、やってきたルートを逆に辿ればいいだけ、というわけにはいかなかった。
そこそこの高さを飛び降りた場所などはそのまま戻ることができず、別のルートを見つけなければならなかったのだ。
上空からの偵察という機能を失ったが、大半は同じルートを戻ればいいだけなのだから、それほど問題ではないだろう。
アムリタの動きは、乗せ換えた直後はぎこちなかった。ヒトの四肢を模したその身体は、AIであってもすぐには慣れないようだ。
といってもそれはほんの少しの間で、外を歩き始めた頃にはもう解消していた。
かつて俺が
そもそもあのとき、有機質な頭脳と無機質な身体を無理にくっつけたこと自体が、間違いだったのだ。
最初から無機質であるアムリタなら、問題など起きようはずがない。
ぎこちなさは、あくまでヒトという身体構造が、AIにとって最適とは言い難いというだけなのだろう。
『少し遠回りになりますが、別の
アムリタから発せられたのは、まさしく機械合成音だ。
俺と同じ機能をもった身体なのだから、もっとヒトらしき声を出せるはずなのに、それは施設で待つソーマと同じ音色だった。
もちろん、それでいい。
AIであるアムリタには、ヒトの声を再現する必要性などない。まして俺のように、声の記憶があるわけでもない。
「いや、やめておこう。最優先はその身体を無事に持ち帰ることだ。電池は次の探索で集めればいい」
判断を間違えてはいけない。
大量の核融合電池は、確かに必要だ。
しかしそれは、眠りから覚めた彼女が、人として生活するために必要なものだ。
彼女が眠っている限り、必要ではない。
――そこまでして起こさなければならないのか?
当然だ。
俺は彼女に会いたい。
きっと、彼女もまた俺に会いたいはずだ。
でなければ、なぜ、彼女がここに残ったというのか。
「帰るぞ」
『はい』
帰還ルートにて。
瓦礫のない、だだっ広い場所に、立ち寄った。
草原が広がっていた。
と称するには、不揃いな雑草ばかりだが。
そこは、俺と彼女の思い出の場所だ。
――
『ここはどういった場所でしょうか?』
どうやらアムリタには、この場所の情報がないらしい。
当然だ。大して意味のある場所ではない。
「俺が、この俺になった、そのきっかけとなった場所だ。あの日ここで爆破テロ事件が起きて、俺は元の脆弱な身体を失った」
『なにも、ありませんね』
「ああ、なにもないんだ」
表向きは事故として処理されたあの事件後、商業施設とその爆破の煽りを受けた周辺の建物は、すべて解体された。
跡地は国有地となり、そのまま放置された。
実のところ、同じようなことが起きたのは、ここだけではない。
ほとんどのヒトには事故として認識され、発生直後は覚えていても、時が経てば次第に忘れていった。
水面下の戦争が、最悪な形で明るみになったとしても、それと関連付けるなんてこともできないほどに。
どちらにせよ、その頃には最早どうにもならない事態だったのだから、それらが事件だろうと事故だろうと、その真実などどうでもよかったのだ。
「ここにいても、何も感じないな」
あの事件の後、俺は今日までここに来たことはなかった。
来ようと思ったこともなかった。
けれど、きっとそれは何かを避けていたのかもしれない。おそらく感情にまつわる何かを。
だが、こうやって実際に目にしたところで、避けるべきだった何かが、俺の中では起きなかった。
もはや俺の中では、あの事件自体、どうでもいい過去の出来事となっていたのか。
それともこの機械の身体が、あるいは人工頭脳が、そうさせているのか。
何も感じていないことは正しいのか。あるいは正しくないのか。
しかし、もしかすると。
もしかすると。
もしここに彼女と来れば、何か変わるのかもしれない。
その感情の正体を知ることができれば、何かわかるのかもしれない。
――だけど、連れてきてはいけない。
どうしてそう思うのだろうか。
それはおそらく。
彼女ならば、俺の感じなかった何かに、心を動かされてしまうからだ。
――だから、連れてきてはいけない。
俺の視界の中で、ただの人形に過ぎないアムリタが、雑草の生えた草原を感情なく眺め、