崩壊したこの世界に取り残されて、それでも君と共に永えるためにできることを 作:霧島 高
認めよう。
俺は無駄な寄り道をしている。
アムリタは、それに対して何も言わなかった。
その
あるいは、それもまた必要な損失と認識しているから、というわけではないだろう。
単に俺の決定に反対できず、従うことしかできないからだ。
「そこそこ残っているものだな」
都心を離れた、閑静な住宅街だった。
かつては、だが。
生活音が皆無となったこの状況は、
『ここはなんでしょうか?』
あの広場と同じく、ここをアムリタは知らない。知るわけがない。
「この身体になる前は、ここに住んでいた。こっちが俺、隣がココロだ」
道路沿いにいくつも並んでいた住宅のうち、その一つに俺は住んでいた。向かって左隣に、彼女が住んでいた。
どちらも両親と過ごし、そして兄弟姉妹はいなかった。
『昔から知っておられたのですね』
「ああ、そうだ」
このあたりは敵軍の攻撃を受けることはなかったようだ。ただの住宅地を攻撃する意味はないからだろう。
木造二階建ての住宅はどちらとも、二階部分が陥没するかのように崩れ落ちていた。
外から中の様子が窺える。
もちろんぐちゃぐちゃだ。
『潰れていますね』
「そうだな」
あの日以来、そう、元の身体を失って以来、俺はここに帰ってきたことがない。
病室を最後に、両親とも会うことはなかった。
なぜか?
わかるだろう。
俺は歩く軍事機密だった。行動を制限されるのは当然だ。
だが、彼女とは会えた。
彼女は頻繁に、新たな身体を得た俺の元を訪れていた。
……それは、なぜだったのだろう。
いや、だからこそ俺は実験に協力したのだ。
だからそれは、実験を円滑に進めるために必要だと判断されたのだろう。
『中を探しますか?』
「いいや、不要だ」
俺の両親も、彼女の両親も、どうなったのだろうか。
ここにいたのだろうか。
それとも、どこかで物言わぬ
いずれにしても、もう会うことはない。
彼女だけが、俺に残された……そう、家族だ。
かつての自身の家、何度も訪れた彼女の家。
殺風景な俺の部屋、可愛らしく飾られた彼女の部屋。
それらの光景を記憶から取り出し、現実の光景に重ね合わせながら。
しばらく眺めてから、その場を去った。
その足で、近くの別の場所へ赴いた。
コンクリートでできた三階建ての広い建物だ。
木造ではないからだろう。崩れ落ちることなく、形はそのまま残っていた。
ここも攻撃を受けてはいない。
けれど当然ながら、建物の周囲にガラスの破片が散らばり、窓から風が吹き込んでいた。
『通われていた高校ですね』
アムリタは俺に尋ねることなくそう断定した。
「たった四か月だけだがな」
入学し、そして夏休みに入るまでの短い間だった。
中学との違いに戸惑いながらも、新たな友人と出会った。
そして何より彼女と、恋人として初めて通っていた。
本来ならば。
ここで三年間を過ごすはずだった。
様々なことがあったはずだ。
体育祭、学園祭。それらを仲間たちと、彼女と共に楽しんだはずだ。
中間考査や期末考査の結果に一喜一憂し、そして進路に悩み。
林間学校や修学旅行なんてものもあったはずだ。
もしかすれば、時には言い争いとなることもあったかもしれない。
でも彼女とは幼馴染なのだ。
幼いころからずっと仲良く過ごしてきた。
けれどもちろん些細な行き違いで喧嘩になることもあって、それでもいつも仲直りしていた。
そこまで含めて、いつまでも覚えていたい思い出になったはずだ。
俺は敷地内に入り、建物の外周をぐるりと歩いた。アムリタもついてきた。
――気になるものは何もなかった。
当たり前だ。
ここには誰もいないのだから。
学生たちのふざけ合う声も、野球部やサッカー部の掛け声も、軽音楽部や吹奏楽部の音色も、何もかもが聞こえない。
建物だけがあっても仕方がない。
すべて、そう、すべては幻でしかない。
俺が生身の身体を失ったときから、その可能性はなくなったのだ。
俺がその幻想の中に入ることは、なかったのだ。
そして入りたいとも思わなかった。
俺は、もはやその
だが、それでいい。
彼女さえいてくれれば、それでいい。
最優先だ。
それ以外は、ごみ
ただの残骸だ。
思い出の地を巡り、俺はそれを再認識した。
もうここを訪れることは、あるまい。