崩壊したこの世界に取り残されて、それでも君と共に永えるためにできることを 作:霧島 高
三十日ぶりに我が家へ。
その地上部で。
雨が降っていた。
防水仕様の軍用作業服が雨をはじく。もちろんこの身体もだ。
隣にいるアムリタも同じく。
もはや無用の長物でしかない。
近くにあるハッチを開き、梯子を下りる。アムリタもそれに
コンパクトな身体のアムリタのほうが、多少素早く。
梯子を少し下りれば、そこからは螺旋階段が続く。どこまでも続く。まるでそれが延々と続くように。
「それにしても、ずいぶん激しく降っていたな」
『はい。大気中の汚染物質も降り注いでいました』
「やはり、ヒトは生存できない、か」
確か俺はここを出立した時も同じようなことを呟いていた。
だからこそ宇宙へと、はるか遠くへとヒトを送り出したのだ。
この地に残ったヒトビトでは、ここでまた暮らせるようになるまでの、その長い時間を耐え抜くことはできないと考えて。
苦心し造り上げられたものが、壊れるのは一瞬で。
それを壊すことはいとも簡単なのだ。
そしてその再生には、無限とも言える時間がかかる。
そもそも、それは成し得るのか。
彼女を目覚めさせるのは、すべてが綺麗になってからでいいのではないか。
みすぼらしい記憶の残骸たちが、彼女の目に触れないよう、現実からその姿をすべて消してからでいいのではないか。
だが。
それを今、知る必要はない。
そんな先のことを、考える必要は無かろう。
例え大地が元に戻ったとしても、そこから食料がすぐに手に入るわけではない。そもそも、今回の旅路でヒトを含め、生きている動物を一切見かけなかった。
かつて、この世界に生命体が誕生し、それが陸生動物へと進化するまでに、どれぐらいの時間が必要だったのだろう。
海に、魚は生きているだろうか。川では見つからなかった。
しかし生きていたとして、その魚は食料にはならない。水もまた汚染されているのだから。
だから、どのみち必要なのだ。大量に電池が。
彼女が生きるためにも。
「またすぐに出かけなければな」
『まずは身体を整えてください』
「わかっているとも。持ち帰ったものを含めて残り五体しかない。長く使わなければいけないからな」
一体あたりどれぐらい
施設の外に出れば出るほど、身体は消耗する。
そうだ、この身体は、いずれは使い潰される消耗品だ。
新たに造ることはできるだろうか。あの実験施設にある製造装置は、そのとき動くだろうか。
動くとしても、その材料を集めなければならない。そうなった場合、壊れた身体も再利用する必要があるが、すべてがそういうわけにもいかない。
やはり途方もないことだ。
この身体をできるだけ使うためにも、メンテナンスが欠かせない。
「果たして、俺はいつまで動いていられるんだろうか」
『計算しましょうか?』
「いや、いい」
バックパックの中にある核融合電池は、ほんのわずかだ。
それが今後いくつ手に入るかわからなければ、正確な計算などできない。
そもそもこの身体の動力源もまたそれなのだから。
『荷物をお預かりします。それからその身体をマスターのポッドに納めてきます』
久しぶりに聞いたソーマの声だ。
その音色はアムリタと変わらない。アムリタはソーマの一部コピー体、つまり分身のようなものだ。
要するに同じAIなのだ。
『アムリタの元の身体はありますか』
「ああ、ここだ」
俺はバックパックから、梟型偵察機を取り出す。AIチップを取り出されたそれは、何の役にも立たない。
『そちらもお預かりします。次回の探索に必要でしょうから』
その時はまたアムリタを載せることになるだろう。
先ほどからアムリタは黙っていた。元が同一のAIが同時に喋ったところで、同じことしか言わないのだから当然だろう。
主導権はソーマにある。優先順位は最も順守すべきだ。
偵察機をもう一度バックパックに入れ、ソーマが操る搬送用
アムリタとその機械が去っていく姿を眺めてから。
「俺は身体を調整してくる」
俺もまた、