崩壊したこの世界に取り残されて、それでも君と共に永えるためにできることを   作:霧島 高

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Cluster-A4:錯誤 Sector-03:雨中の帰還

 還(かえ)ってきた。

 三十日ぶりに我が家へ。

 その地上部で。

 雨が降っていた。

 防水仕様の軍用作業服が雨をはじく。もちろんこの身体もだ。

 隣にいるアムリタも同じく。

 避難施設(シェルター)へ続く昇降装置は当然、最下層に降りたままだ。

 もはや無用の長物でしかない。

 近くにあるハッチを開き、梯子を下りる。アムリタもそれに倣(なら)い、ついてくる。

 コンパクトな身体のアムリタのほうが、多少素早く。

 梯子を少し下りれば、そこからは螺旋階段が続く。どこまでも続く。まるでそれが延々と続くように。

「それにしても、ずいぶん激しく降っていたな」

『はい。大気中の汚染物質も降り注いでいました』

「やはり、ヒトは生存できない、か」

 確か俺はここを出立した時も同じようなことを呟いていた。

 だからこそ宇宙へと、はるか遠くへとヒトを送り出したのだ。

 この地に残ったヒトビトでは、ここでまた暮らせるようになるまでの、その長い時間を耐え抜くことはできないと考えて。

 苦心し造り上げられたものが、壊れるのは一瞬で。

 それを壊すことはいとも簡単なのだ。

 そしてその再生には、無限とも言える時間がかかる。

 そもそも、それは成し得るのか。

 彼女を目覚めさせるのは、すべてが綺麗になってからでいいのではないか。

 みすぼらしい記憶の残骸たちが、彼女の目に触れないよう、現実からその姿をすべて消してからでいいのではないか。

 だが。

 それを今、知る必要はない。

 そんな先のことを、考える必要は無かろう。

 例え大地が元に戻ったとしても、そこから食料がすぐに手に入るわけではない。そもそも、今回の旅路でヒトを含め、生きている動物を一切見かけなかった。

 かつて、この世界に生命体が誕生し、それが陸生動物へと進化するまでに、どれぐらいの時間が必要だったのだろう。

 海に、魚は生きているだろうか。川では見つからなかった。

 しかし生きていたとして、その魚は食料にはならない。水もまた汚染されているのだから。

 だから、どのみち必要なのだ。大量に電池が。

 彼女が生きるためにも。

「またすぐに出かけなければな」

『まずは身体を整えてください』

「わかっているとも。持ち帰ったものを含めて残り五体しかない。長く使わなければいけないからな」

 一体あたりどれぐらい保(も)つのだろう。

 施設の外に出れば出るほど、身体は消耗する。

 そうだ、この身体は、いずれは使い潰される消耗品だ。

 新たに造ることはできるだろうか。あの実験施設にある製造装置は、そのとき動くだろうか。

 動くとしても、その材料を集めなければならない。そうなった場合、壊れた身体も再利用する必要があるが、すべてがそういうわけにもいかない。

 やはり途方もないことだ。

 この身体をできるだけ使うためにも、メンテナンスが欠かせない。

「果たして、俺はいつまで動いていられるんだろうか」

『計算しましょうか?』

「いや、いい」

 バックパックの中にある核融合電池は、ほんのわずかだ。

 それが今後いくつ手に入るかわからなければ、正確な計算などできない。

 そもそもこの身体の動力源もまたそれなのだから。

 

『荷物をお預かりします。それからその身体をマスターのポッドに納めてきます』

 久しぶりに聞いたソーマの声だ。

 その音色はアムリタと変わらない。アムリタはソーマの一部コピー体、つまり分身のようなものだ。

 要するに同じAIなのだ。

『アムリタの元の身体はありますか』

「ああ、ここだ」

 俺はバックパックから、梟型偵察機を取り出す。AIチップを取り出されたそれは、何の役にも立たない。

『そちらもお預かりします。次回の探索に必要でしょうから』

 その時はまたアムリタを載せることになるだろう。

 先ほどからアムリタは黙っていた。元が同一のAIが同時に喋ったところで、同じことしか言わないのだから当然だろう。

 主導権はソーマにある。優先順位は最も順守すべきだ。

 偵察機をもう一度バックパックに入れ、ソーマが操る搬送用自動機械(ロボット)に載せる。

 アムリタとその機械が去っていく姿を眺めてから。

「俺は身体を調整してくる」

 俺もまた、自分を維持する部屋(メンテナンスルーム)へ向かった。

 

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