崩壊したこの世界に取り残されて、それでも君と共に永えるためにできることを   作:霧島 高

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Cluster-B1:記憶 Sector-02:追い求めた幸福

 播種計画(ノア・プロジェクト)。

 

 その目的は、いずれ起きることが確(・)定(・)し(・)て(・)い(・)る(・)最終戦争から、ヒトという種を存続させることです。

 それを達成するための手段として、この計画は立案されました。

 でも、ですね。

 実は、わたしだったのです。

 それを立案したのは。

 わたしは高校にも、まして大学にも通っていません。

 実験体となり人工頭脳を手に入れた以上、通う意味などなかったからです。

 もちろん、建前上はどちらも卒業していますよ?

 でもその代わりに、政府の、そして軍の機密情報に触れ、そしてヒトを救うためのプロジェクトに参加させられました。

 いいえ、自ら望んで参加しました。

 だってこの頭脳は、とても役立つのですもの。

 だったら、存分に使うべきでしょう?

 だから、彼が自らの機械の身体をよりよく改造し、来たるべき日に備えようとしているのに対して。

 脆弱な身体を保持し続けるわたしは、この頭脳を活かすことで貢献しようと考えました。

 あるいは、それしかできなかった、というべきかもしれません。

 本当に脆弱で不便な身体です。

 しかしこの身体を捨てる訳(わけ)にはいきませんでした。

 だって彼を騙(だま)せなくなってしまいますからね。

 

 わたしがプロジェクトに参加して、すぐのことです。

「この計画では、まったくダメだね」

 すでに推し進められていた計画を一瞥して、わたしは小さく呟きました。

 もちろんそれは、播種計画(ノア・プロジェクト)のことではありません。

 このわたしが自ら計画したのなら、そんな杜撰(ずさん)なものになったりなどしません。

 そんな出鱈目(でたらめ)な計画とは何か。

 

 再誕計画(パンドラ・プロジェクト)。

 

 この国のヒトを救うため、わたしが参加する以前よりすでに立てられていた計画は、こんな名前で呼ばれていました。

 実に単純でお粗末な計画です。

 その概要はこうです。

 最終戦争において生き残るであろう数少ないヒトビトを、地下避難施設(シェルター)へと導き、そこで冷凍し保存し続け。

 そして何年、何十年、何百年と時を経てから、大地が自らの浄化能力により再生した後に目覚め、そしてまた文明を築く、というものです。

 実のところ、以前から避難施設はありました。

 最終戦争が起きるのは、それを為し得る戦略兵器があるからです。

 その脅威へ対抗するために、再誕計画とは関係なく建造されていたというわけです。

 しかし再誕計画により、その避難施設は更に拡張され、そこに新たな設備が追加され始めました。

 睡眠領域(スリープエリア)と、そこに設置されていく大量の冷凍睡眠(コールドスリープ)ポッド。

 しかしながら、それには大きな問題がありました。

 どう計算しても、エネルギーが足りないのです。

 何かを凍るまで冷やし、更にそれを維持し続けるということは、とても莫大な電力を消費します。

 外部からの電力供給は期待できません。発電所はすべて破壊されているに決まっています。

 頼れるのは、内部に保管された核融合電池のみ。

 そこで、わたしはいくつか条件を変えて、試算してみました。

 まず、眠りにつく数を最小限にしてみます。

 他のヒトは、捨ててしまいましょう。

 やはり、足りませんね。

 これ以上減らしますと、ヒトが再度文明を築くための子孫を残すことが、できなくなってしまいます。

 どうしようもありませんね。

 だったら、大地が浄化されるという定義自体を緩くしてみましょう。

 そこに至るまでに想定される時間を、ヒトが活動可能となるギリギリまで短くしてみます。

 死ななければ、それでいいですからね。

 しかし、それでも足りません。

 これ以上期間を短くしてしまいますと、せっかく生き残ったヒトビトが何かを為す前に、すぐにただのガラクタになってしまいます。

 ヒトは、弱いですね。

 本当に。

 

 そして、そんな問題だらけの計画の代わりに。

 わたしは播種計画(ノア・プロジェクト)を生み出しました。

 それは、冷凍睡眠状態にしたヒトを、シャトルで播種(はしゅ)船まで運び、いつか見つかるだろう居住可能惑星へと追(・)い(・)出(・)す(・)計画です。

 ですが、それにもまた問題がありました。

 この計画に従ってしまうと、わたしも、そして彼も、その対象に含まれてしまいます。

 だってわたしたちも、見た目はヒトですから。

 でも、それでは、いけません。

 いけないのです。

 だって、彼が誤解してしまうでしょう?

 せっかく苦労して移住した先に、他のヒトビトも存在しているなんて。

 そんなことになれば、ヒトと共にあることがわたしの幸せなのだなんて、恐ろしいほどに間違った認識を彼が持ってしまいます。

 機械ではなく、脆く、弱い、ヒト。

 ……なんて、穢らわしい。

 もちろん、わたしはそんなことを望んだりしません。

 だけど、彼は考えてしまいます。

 そこにこそ、わたしの真の幸福があると。

 わたしが彼に罪悪感を抱いていると、ずっと勘違いしたままであるがゆえに。

 そして、わたしが贖罪(しょくざい)を求めていて、だからその義務感から彼を愛しているのだと、そう考えて。

 だからこそ。

 やはり、わたしはあのとき、泣くべきではなかったのです。

 合(・)理(・)的(・)に(・)は(・)、そうなるのです。

 

 ところで、播種計画(ノア・プロジェクト)はとても壮大な計画です。

 その実現には莫大な予算もさることながら、かなりの時間がかかります。

 水面下ではもう始まっていた最終戦争が、その最終局面に至るまでに、計画に必要なすべてを用意しなければなりません。

 特に難しかったのは、播種(はしゅ)船です。

 もちろん、建造自体が不可能ということではありません。

 すでに宇宙空間を航行可能な技術が確立して久しく、実際に多数の宇宙船が太陽系内には存在していました。

 しかしながら建造済みのどの宇宙船も、その太陽系を越えて航行することまでは想定されていません。科学はいまだ光速の壁を破ることはできておらず、太陽系外へと赴く必要など、こ(・)れ(・)ま(・)で(・)皆無でしたので。

 そのため、超長距離の航行を無事に耐えられるだけの堅牢な宇宙船を、新たに建造する必要がありました。

 もちろん地球上ではなく、宇宙空間での建造です。

 大気圏を単独で突破できる宇宙船というものは、いまだ実現できていません。

 ですからあくまで、スペースシャトルで荷物(ヒト)を運び、宇宙空間の播種船へ載せ換えるという工程が必要です。

 シャトルまでの搬送路の整備に、ポッドを射出する装置の設置。

 そういったものを含めて、全て造り上げなければなりません。

 とはいえ、造り上げてしまえば、いいだけです。

 荷造りさえ終われば、あとの作業は単純であり、播種船への運び込みまで含め、全て自動化できてしまうので問題ありません。

 それにまあ。

 少しばかり失敗したところで、それは誤差の範囲です。

 だって、それぐらい、大した損失ではありませんよね。

 ただやはり、播種船の建造が、最も時間がかかります。

 受け入れ先がなければどうにもなりません。

 果たして間に合うでしょうか?

 そこでわたしは播種計画(ノア・プロジェクト)だけではなく、その予備計画の必要性を説(と)きました。

 その予備計画は。

 生まれ変わった再誕計画(パンドラ・プロジェクト)です。

 元々あったそれを改良し、新たな計画として復活させました。

 ええ、そうなんですよ。

 わたしはと(・)て(・)も(・)い(・)い(・)こ(・)と(・)を、考え付いた(計算で導出した)のです。 

 

 

 

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