崩壊したこの世界に取り残されて、それでも君と共に永えるためにできることを 作:霧島 高
ええ、そうですとも。
わたしの望みは、最初から一貫していました。
矛盾など、当然ありません。
もうわかっているでしょう?
ヒトを救うことなど、どうでもいい。
わたしの望みは、最初から、そうずっと最初から。
彼と共に生きることだったのですもの。
ええ、ですから。
ヒトという種をすべて破滅へと導いていく、この最終戦争こそが。
わたしにとって、大いなる福音だったのです。
だって、そうでしょう?
ヒトという不完全な生き物をこの世界からすべて消し去り、わたしたちの理想郷を築いてくれるのですから。
……しかしながら、計算してみたところ、確実ではありませんでした。
まだヒトが地上で生存し続けてしまうという、儚い希望という名の可能性が、僅かばかり残っていました。
そこで、
初期計画を思い出してみてください。
問題があったでしょう?
そう、エネルギー不足です。
冷凍睡眠ポッドは、冷凍という行為に
ポッド一つあたりの消費電力に、必要な数だけ掛け算をした分の。
ですから
宇宙ならば、絶対零度が使えるのですから。
ですので再誕計画でも、それを利用することにしました。
まさしく播種計画の予備計画です。
でもですね。
なんと
なぜでしょうか?
答えは簡単です。
軌道上に打ち上げて、ずっとそのままにしておくからです。
正確には、冷凍睡眠ポッドを納めた宇宙ステーションの中に、ですけどね。
そこで地上の復活を待ち続け、そして約束の時が到来すれば、宇宙ステーションから今度は逆にポッドを送り返すのです。
ただし新たな問題が浮上しました。
その約束の時がいつなのか、わからないのです。
わからないなら、どうしましょう?
ええ、そうですね。
地上の状況を観測する役目を担う、何かが必要です。
あるいは地上の復活を促進する、何かが必要です。
ええ、何かとは。
つまりは、彼、です。
そして、わたし、です。
そうしてそれまでの間、地上に二人だけで、住まうのです。
そしていつか、地球が復活したならば。
……。
あれ?
矛盾していますよね?
もちろん気付きましたよね?
だって、わたしが望んだことはなんだったでしょうか?
……。
ふふふ。
……。
あはは。
……。
せっかく二人だけになるのです。
どうしてそんなことをする必要があるのでしょう。
ええ、わかっています。
これはまだ計画です。実行に至っておりません。
だからそれまで、うまく全員
ですが、わたし一人では手が足りません。
そして、もちろん彼に頼ることもできません。
この計画を、彼に教えてはなりません。
だって彼は、わたしがここに残ることを、良しとしていないのですから。
彼が護ったこの生身の身体は、ここでは生きていけなくなるのですから。
そして協力者が見つかりました。
わたしは、
そうですよ。
アムリタ、です。
地下
それは
そして同時に、もう一つのAI、つまりアムリタを内包しています。
わかりにくいかもしれませんね。
ですからこう考えてください。
ソーマは表の顔。
アムリタは裏の顔。
まさに表裏一体です。
そしてアムリタは
その計画には、当然アムリタも賛同しました。
脆弱なヒトなど不要。
それが、わたしとアムリタの導き出した、結論だったのですから。
敵国の戦略兵器が飛翔し、そしてこの国は終わりました。
世界中が終わったことでしょう。
事前に得た情報、あるいは事前に
実際どうなったかは、知りようがありませんけどね。
ともかくこの国では、ヒトビトに知らされていた、播種計画とも異なる架空の計画に従い、避難施設にヒトが集まってきます。
ヒトビトはきっと、そこでしばらく暮らして、元の生活にでも戻れるとでも愚考しているでしょう。
そしてわたしは、彼に条件を提示します。
彼も眠るようにと。
そう言いつけます。
ならば、わたしも眠るのだと。
まるで、駄々をこねるように。
まるで、ヒトのように。
「いつか、迎えにきます。……おやすみなさい」
「……ああ、おやすみ」
これで彼に隠し通すことができました。
ヒトを乗せた冷凍睡眠ポッドが、どんどんと搬送されていきます。
あの先には、ちゃんとシャトルがあるのでしょうか。
正直、ええ、ほんとうに、どうでもいいです。
はあ、
成功するといいですよねえ。
ここではないどこかで暮らす分には、生きていたって構いませんよ。
ただし、決して戻ってきてはなりませんからね。
そういえば播種船は、目標の半分ほどの数が完成していました。
ああ、大丈夫です。
そんなに心配しないでください。
だって
播種船が足りない分を、充分
ただそれは、わたしのための再誕計画ですからね。
だから余ったヒトは、そこでいつまでも眠っていてください。
それは結局、死ぬことと何も違わないかもしれませんけどね。
どちらにしても、ヒトはみな、消えてくれればいいのです。
しかし、他の避難施設はどうでしょう。
もしかすると、ヒトを送り出すという、とても大事な任務に失敗しているかもしれません。
でもねえ。
そこに残るヒトを維持しようとすれば、多大なエネルギーを使いますもんねえ。
計算してみたところ、そうですね。
だいたい200年を過ぎた頃に、尽きるでしょうね。
これは、
さて、わたしも眠りませんと。
この身体の寿命は、とても短いですからね。
「あとは、任せたからね。アムリタ」
『はい、
そして、わたしはしばらく夢を見ます。
それは彼と過ごす。
とても甘くて、幸せな夢です。
そうして238年後、彼は目覚めました。
正確にいうならば、ソーマとしてのアムリタが彼を起こしたのです。
といってもこれは、ソーマ、あるいはアムリタの記録を取り込んで、後に知ったことです。
アムリタは事前計画どおりに動きました。
まずは核融合電池の回収です。
わたしに必要な設備を稼働するためか、ですって?
いいえ、違いますよ?
だって冷凍睡眠ポッドを維持したまま稼働している施設があったら、そこにヒトなんていたら問題じゃないですか。
だからそのとどめとして、核融合電池を回収する必要がありました。
でも、これはついでです。
そうです。
真の目的は違います。
ええ。
それは、もちろん。
わたしの新しい身体です。
この脆くて弱い、たった100年で劣化する、不完全な身体を置き換えなければなりません。
だって、もうここには、この身体を必要とするヒトはいないのです。
だったら、そんなもの要りませんよね?
ヒトが新たなヒトを産みだすためのこの身体は、
そして、彼にはわたしの対となる、その資格はなかったのです。
……なくしたのです。
ですから、彼の対になるためには、わたしに新しい身体が必要なのです。
きっと彼も納得するでしょう。
きっと?
いいえ、確実にです。
だから彼とアムリタに、それを取りに行ってもらいました。
彼を騙すのは、これで終わりです。
そうと知らず、わたしの身体を交換する手助けをしてもらうことを最後に、彼を騙すことはもう終わりです。
未練はないのか、ですか?
……そうですね。
彼との間にやはり、子どもを授かりたかったですね。
でも、もう産むこと
――ねえ、ユウくん。
――わたしたちは、アダムとイブにはなれないね。
――だけどね。
――わたしたちは、神になれるんだよ。
――簡単だよ。
――子どもを、
――でも。
――しばらくは、二人で過ごしたいな。
さあ、久しぶりに会う彼に、そう伝えましょう。
でも、まずは、基本に忠実に行きましょう。
そう。
彼に笑顔を向けて。
あいさつから。
「おはよう」
ふふっ。
「いい
もう過ちは繰り返しません。
だって、機械の身体は、涙を流すことはありませんから。
だから、彼の前で、もう泣くことは、ないのです。
そしてここから、彼とわたしの幸せな、新しい生活が始まりました。
――ねえ、ユウくん、わたしはね。
――崩壊したこの世界に取り残されて、それでも君と共に永えるためにできることを。
――そればかりを、ずっと、ずっと一生懸命に、考えてきたんだよ。
――だからね、えへへっ。
――
……
……?
ところで……
わたしの大切な……
とても、とても大切な……
大切な、
……。
なーんてね。
(
※ ※ ※
「隊長、これって……」
「ああ、オレたちがこれから降下する、居住可能惑星の資料さ」
「こんなのいったいどこで……」
「事前に聞いてるだろ? 千年以上前の内乱か何かで、その惑星は徹底的に破壊されちまってるって。そんなボロボロの惑星の中でな、被害のほとんどない島みたいな場所を先遣調査隊が調べて、そこにあった地下遺跡で発見したんだとよ」
「でも、なんだか寒気がしますよ、これ。なんというか、そこには立ち寄るなって警告なんじゃ……?」
「ははっ、気にしすぎだ。ま、どのみち今回の調査を決めたのはお偉方だからな。どっちにしたって、オレたちはその命令に従うしかできん。行って帰って、調査結果を報告するだけの簡単な任務さ」
「でも、この……機械人? のサルベージデータって、バックアップなんでしょう? だったら……」
「そんなもん、とっくに死んでるだろ? まあ死ぬっていうのが正しいかはわからんが」
「ほんとに、大丈夫なんですかね……」
「そんなことより、怖いのは感染症やらなんやらだ。今回は本格調査で滞在日数も長いんだからな。抜かりなく準備しろよ?」
「わかりました……はぁ」
惑星降下後、調査隊は消息を絶った。
そして当該データは第一級封印指定がなされ、以降惑星の調査は実施されていない――。
「崩壊したこの世界に取り残されて、
それでも君と共に永えるためにできることを」――完