崩壊したこの世界に取り残されて、それでも君と共に永えるためにできることを 作:霧島 高
―― 記憶の修復を継続中、残り
最終戦争が始まった――いや、始まっていたことが明るみになった時。
すでに自衛軍は壊滅状態だった。
この国は最初から敗北していた。
そもそも何と戦っていたのだろうか。
俺たちは、
同盟を組んでいた――と、敵国に
だからこの国も攻撃を受けた。
おそらくそんなところだろう。
世界全てを巻き込んだ戦争に、逃げ場などなかったということだ。
それも、推測でしかない。
自国の状況ですら、もはやわからなくなっていた。
情報ネットワークはずたずたで、無線通信はノイズが酷く使い物にならず。
外部の情報は、
そして、それらはまったく客観的な視点に欠けていた。
くたびれた者たちから得たその情報は、無価値だった。
「准尉。この計画――
「全部だよ、ユウくん。わたしは最初から聞いていたから」
「その喋り方は――」
「もう、いいでしょ? 軍なんて、あってないようなものなんだし。指揮系統も何もない。だからね、いつものように話してよ」
「……ああ、そうだな。ココロが計画を把握しているなら話は早い。ともかく、このまま進めていこう」
俺が配属された先は、後方と呼ばれている。
しかしこの戦争に、前線なんてものは存在しない。
あるいはすべて前線であると言うべきか。
侵略戦争ではなく、破壊することだけを目的とした戦争。
そこに大義などはなく、やられたからやり返すというだけの、報復戦争。
お偉方の気分で発射された戦略兵器が空を飛翔し、狙い澄ました目標に降り注ぐだけ。
お互いに。
そんな場所に、たった一人の兵士など何の意味もない。
軍事施設はすべて攻撃対象となり、その大多数が
残ったのは、戦略兵器では破壊不可能な地下深くに秘匿された一部の施設のみ。
まさに、この
そして事前に準備された計画通り、俺はここにやってきた。
俺は戦闘兵ではなく、技術兵だ。
身体に搭載されているものは武器ではなく、様々な工具なのだ。
軍はすぐに壊されてしまうような一兵卒を、望んでいなかった。
最後まで生き残り、たった一人で多数のヒトを救うための、何でもできる、そんな士官を求めていた。
俺に、求めた。
最初から敗北を前提にしていたのだ。
――ココロは、何を、どこまで、そして
俺の階級は三等陸尉。
彼女の階級は、その一つ下となる、准陸尉。
准陸尉とは、まだ幹部候補生学校を卒業していないということ。
もちろんそれもまた軍事施設であり、もう存在しない。
それなのに彼女は、いつのまにかこの地下施設にやってきて、俺の傍にいた。
まるで最初からその任務を与えられていたかのように、俺の補佐としてこの地下施設で、その目的を共に果たそうとした。
「ソーマ、避難民の受け入れは順調か? まだ来そうか?」
『初期に比べれば
「問題とは何だ?」
『ポッドへ入ることを拒否し、説明を要求されています。
「そうか、わかった。俺が直接行って
「了解、ユウくん。でも、
俺は果たすべき任務をこなすのみ。
「それと、ココロ……。準備を、しておいてくれ」
「……わかってるよ、ユウくん」
そして俺には、もう一つ果たすべき義務が残っている。
彼女を、送り出す。
そして俺は……残る。
この国のヒトビトを冷凍保存し、星系外のどこともしれぬ居住可能惑星へ送り出す計画。
そして俺には、その
義務もなければ、権利もない。
機械となり、ヒトではなくなった俺に、播ける種はない。
けれど人である彼女には、ある。
だから彼女を、船に乗せなければならない。
合理的だ。実に合理的だろう。
彼女はここに残ってはならない。
残ってほしいなどと、これっぽっちも思っていない。
そうだ、これっぽっちも思っていない。
そのはずなのに。
俺のわずかに残った心が、何かを叫ぶように、疼いていた。
必要のない、何かを。
ここで共に……。
それは余りに不合理な考えだろう。
その不要な感情は、すぐに切り捨てるべき――。
「ユウくん、約束して」
「……」
「生きていて」
「……」
「死なないで」
「……」
「だから、おとなしく、ユウくんも眠るんだよ?」
「俺は、子どもか?」
「そうじゃないと、わたしは……」
「約束する。ああ、約束するとも。だから、そう駄々をこねるな」
「だからね、ユウくん」
「……」
「いつか、迎えにきます。……おやすみなさい」
「……ああ、おやすみ」
俺たちは別れの言葉を交わし。
そうしてお互い、悠久の時を眠り始めた。
それぞれの、あるべき場所で。
これで、よかったのだ。
そう。
いつか、なんて、訪れる可能性は――ゼロだ。
―― 記憶の修復、完了 ――
「準備はこれでいいな」
新たな
彼女の願いを叶えること。
結局彼女は、ここで暮らしたいと願った。
俺の傍で。俺に嘘を
もはや彼女を
ならば、今できる最善を尽くすのみ。
そのためには、必要なものがある。
人である彼女が必要とする食料、水、その他諸々。
この施設において、それらを生み出す設備を稼働するための
生身の身体は、非常に効率が悪い。だから大量に必要だ。
しかし俺は彼女が、生身であることが嬉しい。
そして、あの事件で、生身を失わず。
俺が彼女を護れたことが。
それだけが救いだった。
だから、探し出す。
俺が最期まで、彼女を護るために――。