崩壊したこの世界に取り残されて、それでも君と共に永えるためにできることを   作:霧島 高

7 / 19
Cluster-A2:変遷 Sector-04:いつかの可能性

 ―― 記憶の修復を継続中、残り僅(わず)か ――

 

 最終戦争が始まった――いや、始まっていたことが明るみになった時。

 すでに自衛軍は壊滅状態だった。

 この国は最初から敗北していた。

 そもそも何と戦っていたのだろうか。

 俺たちは、他所(よそ)の戦争に巻き込まれただけだった。

 同盟を組んでいた――と、敵国に見做(みな)された。

 だからこの国も攻撃を受けた。

 おそらくそんなところだろう。

 世界全てを巻き込んだ戦争に、逃げ場などなかったということだ。

 それも、推測でしかない。

 自国の状況ですら、もはやわからなくなっていた。

 情報ネットワークはずたずたで、無線通信はノイズが酷く使い物にならず。

 外部の情報は、戦禍(せんか)を逃れ、なんとかこ(・)こ(・)まで辿り着いたヒトビトから直接聞くしかなかった。

 そして、それらはまったく客観的な視点に欠けていた。

 くたびれた者たちから得たその情報は、無価値だった。

「准尉。この計画――播種計画(ノア・プロジェクト)についてはどこまで知っている?」

「全部だよ、ユウくん。わたしは最初から聞いていたから」

「その喋り方は――」

「もう、いいでしょ? 軍なんて、あってないようなものなんだし。指揮系統も何もない。だからね、いつものように話してよ」

「……ああ、そうだな。ココロが計画を把握しているなら話は早い。ともかく、このまま進めていこう」

 俺が配属された先は、後方と呼ばれている。

 しかしこの戦争に、前線なんてものは存在しない。

 あるいはすべて前線であると言うべきか。

 侵略戦争ではなく、破壊することだけを目的とした戦争。

 そこに大義などはなく、やられたからやり返すというだけの、報復戦争。

 お偉方の気分で発射された戦略兵器が空を飛翔し、狙い澄ました目標に降り注ぐだけ。

 お互いに。

 そんな場所に、たった一人の兵士など何の意味もない。

 軍事施設はすべて攻撃対象となり、その大多数が瓦礫(がれき)と化した。

 残ったのは、戦略兵器では破壊不可能な地下深くに秘匿された一部の施設のみ。

 まさに、この避難施設(シェルター)のような。

 そして事前に準備された計画通り、俺はここにやってきた。

 俺は戦闘兵ではなく、技術兵だ。

 身体に搭載されているものは武器ではなく、様々な工具なのだ。

 軍はすぐに壊されてしまうような一兵卒を、望んでいなかった。

 最後まで生き残り、たった一人で多数のヒトを救うための、何でもできる、そんな士官を求めていた。

 俺に、求めた。

 最初から敗北を前提にしていたのだ。

 ――ココロは、何を、どこまで、そして何時(いつ)から知っていたのだろう。

 俺の階級は三等陸尉。

 彼女の階級は、その一つ下となる、准陸尉。

 准陸尉とは、まだ幹部候補生学校を卒業していないということ。

 もちろんそれもまた軍事施設であり、もう存在しない。

 それなのに彼女は、いつのまにかこの地下施設にやってきて、俺の傍にいた。

 まるで最初からその任務を与えられていたかのように、俺の補佐としてこの地下施設で、その目的を共に果たそうとした。

「ソーマ、避難民の受け入れは順調か? まだ来そうか?」

『初期に比べれば疎(まば)らです。食料と飲料水の配布は順調に進んでおり、多少の問題は発生していますが、摂取が終わり次第、睡眠ポッドに案内しています』

「問題とは何だ?」

『ポッドへ入ることを拒否し、説明を要求されています。少(・)し(・)の(・)間(・)必要な睡眠をしていただくだけ、と伝えましたが、納得しておられない様子。大多数の方は「みんな入っていますから」で支障はありませんのに、おかしな話です』

「そうか、わかった。俺が直接行って説(・)得(・)する。ココロ、ここは任せる」

「了解、ユウくん。でも、ほ(・)ど(・)ほ(・)ど(・)に(・)、ね?」

 俺は果たすべき任務をこなすのみ。

「それと、ココロ……。準備を、しておいてくれ」

「……わかってるよ、ユウくん」

 そして俺には、もう一つ果たすべき義務が残っている。

 彼女を、送り出す。

 そして俺は……残る。

 

 播種計画(ノア・プロジェクト)。

 この国のヒトビトを冷凍保存し、星系外のどこともしれぬ居住可能惑星へ送り出す計画。

 そして俺には、その播種(はしゅ)船に乗る意味はない。

 義務もなければ、権利もない。

 種(・)。

 機械となり、ヒトではなくなった俺に、播ける種はない。

 けれど人である彼女には、ある。

 だから彼女を、船に乗せなければならない。

 合理的だ。実に合理的だろう。

 彼女はここに残ってはならない。

 残ってほしいなどと、これっぽっちも思っていない。

 そうだ、これっぽっちも思っていない。

 そのはずなのに。

 俺のわずかに残った心が、何かを叫ぶように、疼いていた。

 必要のない、何かを。

 ここで共に……。

 それは余りに不合理な考えだろう。

 その不要な感情は、すぐに切り捨てるべき――。

「ユウくん、約束して」

「……」

「生きていて」

「……」

「死なないで」

「……」

「だから、おとなしく、ユウくんも眠るんだよ?」

「俺は、子どもか?」

「そうじゃないと、わたしは……」

「約束する。ああ、約束するとも。だから、そう駄々をこねるな」

「だからね、ユウくん」

「……」

「いつか、迎えにきます。……おやすみなさい」

「……ああ、おやすみ」

 俺たちは別れの言葉を交わし。

 そうしてお互い、悠久の時を眠り始めた。

 それぞれの、あるべき場所で。

 これで、よかったのだ。

 そう。

 いつか、なんて、訪れる可能性は――ゼロだ。

 

 ―― 記憶の修復、完了 ――

 

「準備はこれでいいな」

 新たな任務(ミッション)、その目的は単純だ。

 彼女の願いを叶えること。

 結局彼女は、ここで暮らしたいと願った。

 俺の傍で。俺に嘘を吐(つ)いてまで、そう願った。

 もはや彼女を宇宙(そら)へ送り出すことは叶わない。

 ならば、今できる最善を尽くすのみ。

 そのためには、必要なものがある。

 人である彼女が必要とする食料、水、その他諸々。

 この施設において、それらを生み出す設備を稼働するための電力(エネルギー)が必要だ。

 生身の身体は、非常に効率が悪い。だから大量に必要だ。

 しかし俺は彼女が、生身であることが嬉しい。

 そして、あの事件で、生身を失わず。

 俺が彼女を護れたことが。

 それだけが救いだった。

 だから、探し出す。

 俺が最期まで、彼女を護るために――。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。