崩壊したこの世界に取り残されて、それでも君と共に永えるためにできることを 作:霧島 高
地上へと抜け出て、あたりを見渡せば。
いくつもの崩れ落ちた建物。
それらを覆うように生えている緑の
隆起し引き裂かれた舗装路。
想像通りの光景といえば、その通り。
しかし植物が
人類が開発した悪魔の兵器は、脆弱に過ぎるヒト、あるいはそれが造作したものを破壊し尽くすことはできても、所詮その程度でしかなかったということかもしれない。
とはいえ生息しているのは、蔦や背の低い雑草、あるいは
どうしてだろうか?
あるいはこれらの植物は、樹木よりも頑強なのかもしれない。
原始的植物は、長きに渡りその種を保ち続けている。それだけの理由があるということか。
「どちらにせよ、ヒトの生存は絶望的。不可能だな」
238年経とうとも、ヒトに不可逆の影響を引き起こす汚染の数値は、まだ安全領域ではない。
この身体でなければ、短時間で行動不能となっていたに違いない。
唯一残っている生体部分は、何重もの
「それにしても、もう少し下がっていると思ったんだがな」
『当時の震動記録から、マスターが眠られた後も大規模な攻撃があったと推測されます』
「……だろうな」
『少しの間、上空から偵察してきてよろしいでしょうか』
「ああ。風もないようだしな。やってくれ」
俺の肩からアムリタが飛び立っていく。
上空は雲一つなく、地上とは異なり、青く澄み渡っていた。
しばらくして戻って来たアムリタを回収し、その記録を取り込み、俺は最初の目的地へ向かった。
翌日訪れた地下
しかしどうやら、通信が断たれた後に稼働し始めていたらしい。
それがわかったのは、非常ハッチをこじ開けて中に入ってからのことだ。
入り口の端末は応答しなかった。俺の管理する施設と同じく、電源が落ちていたからだ。
ただしその理由は異なっていた。
この施設は、電源をわざと落としていたわけではなかった。
つまり、全て使い尽くしたということだ。
施設内を少し歩けば、その理由はすぐにわかった。
なんてことはない。
ところどころに、ヒトの白骨死体が散らばっていたからだ。
そのまま歩いていき、
そのかわり、部屋の中には中身のある冷凍睡眠ポッドが並んでいた。
もちろん電力がなければ、それは維持できない。
試しに一つ、開けてみた。
その中身は、干からびたミイラのようだった。
実物のミイラなんて直接見たことはないが、俺の記憶装置の中の記録映像を参照すればそっくりだった。
冷凍睡眠ポッドは、すべて揃っているようだ。
推測するに。
きっとシャトルの発射後に、ここは稼働し始めたのだろう。
送る先がなければ、残すしかない。
「しかし不思議だ。どうしてこうなっている?」
『記録を見てみますか?』
俺はどうしようかと少し考え、しかし結局はアムリタに調査を命じた。
もしかすれば、この施設に何らかの欠陥があるのかもしれない。
そうならば、あちらの施設でも同じことが起きてもおかしくない。
それは、絶対に避けねばならない。
アムリタは俺の肩から離れ、管理者用コンソールへ向かう。脚から生えている接続端子が、コンソール側の差込口へと嵌めこまれた。
アムリタ自身からエネルギーを供給し、ログを漁り始めたようだ。整備されないまま238年もの時間が経っているが、データは無事なのだろうか?
しかしそれを読み取るのに要した時間はものの数秒であり、アムリタはすぐに俺の肩に戻ってきた。
どうやら記録は残っていたようだ。
『不合理な選択をしたようですね』
「ほう?」
『すべてのヒトのために電力を供給し続けた結果、エネルギーが不足しました。管理者は施設管理AIの忠告を無視し、すべてのポッドに電力を供給し続けるのに加え、ポッドに入ることを拒否したヒトのために、生産施設も稼働し続けました』
「まったく、馬鹿なことをしたな」
限られた電力をそのように使えばどうなるか、そんなこともわからなかったのだろうか。
全員を生かすことができないならば、一部のみを生かすべきだった。
どうしてそんな単純なことがわからなかったのか。
もし俺ならばそうした。
優先度を付ければいいだけだ。簡単なことだ。
だが、ここは俺が管理する施設ではない。
この管理者コンソールの傍に転がっている白骨死体が、管理者なのだろうか。
ともかく施設の問題ではなかったのだ。
それならば、構わない。
しかし……、もしも。もしもの話をするならば。
機械である俺ではなく、人である彼女だったならば――。
「……っ」
――少しだけ、頭痛のようなものを感じた気がした。
そんなはずはない。
ただ不確定要素の大きなことを
俺は、もしもなどという必要のない考えを打ち切った。
当然のことではあるが、エネルギーの尽きた施設に核融合電池は残されていなかった。
数多くの死体はそのままに、俺はその施設を後にする。
時間の無駄でしかなかった。
さっさと次の目的地へ行かなければ。
優先すべきことを違えてはならない。
次は役に立たない