大盛り上がりだった体育祭も無事に終了!
翌日の振替休日、和幸は実家の定食屋でいつも通りのお手伝い。
そんな彼の働く姿を見て、月奈と星奈は学校では気づかなかった一面を発見することに……?
体育祭の熱気が落ち着き、再び始まる四人の賑やかな日常。
今回は、そんな何気ない休日のひとときをお楽しみください!
大きなイベントでもあった体育祭が終わった次の日──月曜日。
本来なら学校があるはずなのだが、昨日が日曜日だったこともあり、今日は振替休日となっている。
つまり。
僕たち高校生にとっては休日でも、世間一般では普通の平日というわけで──
「いらっしゃいませー!」
僕は朝から通常運転で店の手伝いをしていた。
そして、通常運転と言えば──
「ねえ、武田君!ここ分かんないんだけど」
「知らん。自分でまず考えてから、どこがどう分からないのか言え」
「月奈。そこなら私でも分かるよ」
「星奈ありがとぅ~~~」
こちらの三人も、いつもの定位置となったテーブルで騒いでいる。
昨日、あれだけ体育祭で身体を動かしたというのに。
何故こいつらは振替休日まで揃ってうちにいるのだろう。
……いや。
信也は昔から休みの日でも普通に来ていたから、今さらか。
問題は双子の方である。
「こら、信也。女を泣かせるもんじゃねえぞ」
「そうだぞ信也。せっかく彼女ができたってのに、そんなんじゃ見捨てられるぞ」
三人のいつものやり取りを見ていた常連のおじさんたち。
月奈さんの泣き顔──実際にはまったく泣いていない──を見るや否や、信也を責め立て始めた。
「……っ!こいつらはそんなんじゃない!」
珍しく信也が声を荒らげる。
すると、それを聞いた常連のおじさん達は顔を見合わせ──
「照れんなって」
「若いっていいなぁ」
「話聞けよ!」
……うん。
今日はいつにも増して賑やかだ。
「武田君、顔赤くない?」
「赤くない」
「照れてる?」
「照れてない」
「じゃあ何で怒ってるの?」
「お前が原因だ!」
「えぇー?」
月奈さんは心底不思議そうに首を傾げている。
絶対分かっててやってるだろ。
隣の星奈さんも困ったように笑っていた。
「信也ー」
僕は厨房から声を掛ける。
「なんだ」
「モテモテだな」
「和幸。後で覚えてろ」
「何で僕まで!?」
せっかく親友の青春を祝福してあげたというのに。
理不尽な奴だ。
「和幸!喋ってないで三番の生姜焼き!」
親父の声が飛んでくる。
「はいはい!」
いけない。
今はこっちが本業だ。
……いや、学生が本業だから違うか。
とにかく、今日は学校が振替休日でも店まで休みになるわけじゃない。
昨日は体育祭だった。
朝から夕方まで外にいて、二人三脚を走り、最後にはクラス対抗リレーのアンカーまで務めた。
正直、多少の疲れは残っている。
だからといって。
「お待たせしました!生姜焼き定食です!」
家の手伝いをしない理由にはならない。
出来上がった料理を運び、空いた食器を下げる。
厨房へ戻る途中で新しい客が入ってきた。
「いらっしゃいませー!」
人数を確認して席へ案内。
水を運んで注文を取る。
厨房へ戻って親父へ伝えたところで、今度は母さんから声が飛んできた。
「和幸、五番さんのお茶お願い!」
「了解!」
お茶を用意して再び店内へ。
「お待たせしました」
「ありがとね、和幸君」
「いえいえ」
昔から来てくれている常連のお婆ちゃんだ。
「昨日は体育祭だったんでしょう?」
「そうですよ」
「どうだった?」
「リレー、一位でした」
「あら、すごいじゃない」
「ありがとうございます」
そんな会話を交わしてから厨房へ戻る。
その途中。
「…………」
何となく視線を感じた。
そちらを見る。
「…………」
「…………」
月奈さんと星奈さんが揃って僕を見ていた。
「……何?」
僕が尋ねると、月奈さんがパチパチと瞬きをする。
「いや……」
「うん」
「長尾君って、ちゃんと働けるんだね」
「どういう意味!?」
思わず大きな声が出た。
常連のおじさん達が笑っている。
「いや、だってさ」
月奈さんが頬杖をつく。
「学校の長尾君って、もっと普通じゃん」
「普通で悪かったね!」
「悪いなんて言ってないって!なんていうか……」
月奈さんは言葉を探すように視線を泳がせる。
「今は、ちょっと格好いい?」
「疑問形!?」
せめて言い切ってほしかった。
「ふふっ」
隣から小さな笑い声。
「星奈さんまで笑わないでよ」
「ご、ごめん。でも……」
星奈さんも厨房の僕を見る。
「私も少し分かるかも」
「星奈さんまで!?」
「悪い意味じゃないよ」
星奈さんは慌てて両手を振った。
「学校にいるときと雰囲気が違うから」
「そうかな?」
「うん。お客さんと話してるときも自然だし」
そう言われても。
「小さい頃からやってるからね」
僕にとっては、これが普通だ。
料理を作る。
客と話す。
常連さんなら好みだって大体覚えている。
親父と母さんが忙しければ厨房にも入るし、ホールが足りなければ注文だって取る。
小さい頃から見てきた日常。
僕にとっては、それだけのことだった。
「武田君は驚かないの?」
月奈さんが信也へ尋ねる。
「何が」
「長尾君。学校と全然違うじゃん」
「別に」
信也は問題集から目すら上げなかった。
「昔からあんな感じだぞ」
「昔から?」
「ああ」
そこでようやく顔を上げる。
「小学生の頃には普通に手伝ってた」
「へぇ……」
月奈さんが僕を見る。
星奈さんも見る。
何だよ。
そんな珍しいものを見るような目で。
「ちなみに」
信也が続ける。
「忙しくなると、たまに注文を忘れる」
「信也!」
「あと昔、味噌汁ひっくり返したこともある」
「いつの話してんの!?」
「小学生」
「十年近く前だろ!」
「事実だ」
「せっかく二人が感心してくれてたのに!」
台無しじゃないか!
「長尾君にもそんな時期あったんだ」
月奈さんが楽しそうに笑う。
「そりゃあるよ!僕だって最初から何でもできたわけじゃないんだから!」
「今は?」
「完璧」
「調子乗った」
「早いな!?」
星奈さんまで笑っている。
まったく。
こっちは昨日の疲れが残っている身体で働いているというのに。
……ん?
そこで気づく。
「そういえば月奈さん」
「何?」
「さっきからずっと座ってない?」
「…………」
月奈さんの動きが止まった。
「いつもならもっとウロウロしてそうなのに」
「私を何だと思ってるの?」
「落ち着きがない人」
「長尾君!?」
いや。
体育祭であれだけ走り回っていた人だから。
「別に。今日は勉強してるだけだもん」
「へぇ」
「何、その顔」
「じゃあさ」
僕はニヤリと笑った。
「ちょっと立ってみてよ」
「…………」
「月奈さん?」
「…………やだ」
おや?
「どうして?」
「今は立ちたくない気分なの」
「へぇー」
「何!?」
分かりやすい。
「もしかして──」
「違うから!」
まだ何も言ってない。
「筋肉痛?」
「違う!」
「月奈、朝から太もも痛いって言ってたよ」
「星奈ぁ!?」
妹からあっさり売られた。
「だって本当でしょ?」
「そうだけど!」
認めるんだ。
「昨日あれだけ走ってたからね」
月奈さんは百メートル走。
僕との二人三脚。
そしてクラス対抗リレー。
どれも全力だった。
むしろ翌日に筋肉痛が来ているだけ健全だろう。
「でも長尾君だって走ったじゃん!」
「僕?」
「二人三脚もリレーも!」
「うん」
「何でそんな普通に動けるの!?」
何でと言われても。
「慣れ?」
「何に!?」
「身体動かすこと?」
「納得いかない!」
そんなこと言われても困る。
「星奈さんは?」
僕が尋ねると、星奈さんは少し苦笑した。
「私は筋肉痛ってほどじゃないけど……ちょっと身体が重いかな」
「だよね!」
何故か月奈さんが嬉しそうにする。
「やっぱり体育祭の次の日は疲れるんだよ!」
「月奈ほどじゃないけどね」
「裏切られた!」
忙しい奴だなぁ。
「で」
僕は最後の一人を見る。
「信也は?」
「…………」
返事がない。
「信也?」
「疲れてる」
「何で?」
「体育祭だったからだろ」
「いや、それは分かるけど」
僕は昨日の信也を思い出す。
玉入れ。
以上。
……いや。
開会式や閉会式とか、移動くらいはしていたけど。
「お前、昨日ほとんど運動してなくない?」
「した」
「玉入れ?」
「した」
「それだけ?」
「十分だ」
真顔で言われた。
「五十メートル走ってないよ?」
「走るだけが疲労じゃない」
「じゃあ何で疲れたの?」
信也は一度眼鏡を押し上げると。
「一日中、あれだけの人数がいる場所にいた」
「…………」
ああ。
「そっちか」
「そっちだ」
妙に納得してしまった。
信也にとっては身体を動かすこと以上に、人が大勢いる場所に長時間いる方が疲れるのかもしれない。
「でもさ」
月奈さんがニヤニヤする。
「昨日の武田君、最後すっごい大きな声出してたよね」
信也の眉が動いた。
「出してない」
「出してたよ」
星奈さんまで参加する。
「『和幸!行け!』って」
「言ってない」
「僕も聞いたけど?」
「幻聴だ」
「三人同時に!?」
便利な言葉だな、幻聴。
「いやぁ、嬉しかったなぁ」
僕はわざとらしく胸へ手を当てる。
「普段あんなに素っ気ない親友が、僕のために──」
「和幸」
「はい」
「今日の昼飯、自分で作れ」
「ごめんなさい」
即座に頭を下げた。
「長尾君が作る側じゃないの!?」
月奈さんの突っ込みが店内に響く。
常連のおじさん達が再び笑った。
そんなやり取りをしている間にも、店には新しい客が入ってくる。
カラカラ──。
「いらっしゃいませ!」
反射的に声を上げる。
そして僕は再び仕事へ戻った。
注文を取って。
料理を運んで。
厨房で親父を手伝って。
常連さんに声を掛けられれば返事をして。
また次の客を迎える。
学校が休みでも。
僕にとっては、昔から変わらない日常。
ただ。
「……長尾君ってさ」
「うん」
僕が離れたあと。
そんな月奈さんの声が聞こえた。
「学校にいるときと、全然違うね」
「そうだね」
星奈さんが答える。
「何か……ちゃんとしてる」
「お前ら、和幸を普段何だと思ってるんだ」
信也の呆れた声。
「だって武田君」
月奈さんが少し声を潜める。
「ちょっと格好よくない?」
「知らん」
「即答」
「俺に聞くな」
「星奈は?」
「えっ?」
突然話を振られたらしい。
少し間が空いて。
「……私は」
星奈さんの声が聞こえる。
「楽しそうだなって思った」
「楽しそう?」
「うん」
そこから先は、注文を告げる親父の声に掻き消されて聞こえなかった。
「和幸!日替わり二つ!」
「分かった!」
僕は返事をして、厨房へ戻る。
包丁を握る。
フライパンを振る。
料理を皿へ盛りつける。
それが楽しいかなんて。
考えたこともなかった。
だって。
僕にとってこれは。
物心ついた頃からずっと続いている、当たり前の日常だったから。
「…………疲れた」
昼のピークを越えた頃。
僕は三人が座っているテーブルの空いた椅子へ身体を投げ出した。
「お疲れ」
信也が言う。
そして。
コトッ。
目の前に水の入ったコップが置かれた。
「おお……ありがとう」
受け取って一気に飲む。
冷たい水が身体に染み渡る。
「生き返る……」
「大袈裟」
「働いてない人には分からないんだよ、月奈さん」
「私だって勉強してたもん!」
「何問進んだ?」
「…………」
「月奈?」
星奈さんが覗き込む。
「……三問」
「一時間以上あったよね?」
「三問も進んだ!」
「言い方で誤魔化そうとしてる……」
すると信也が月奈さんの問題集を手に取った。
「しかも一問間違ってる」
「武田君!」
「正答率六十六パーセント」
「割合で言わないで!」
「二問正解、一問不正解だ」
「もっと嫌!」
元気だなぁ。
筋肉痛じゃなかったのか。
「でも」
月奈さんが問題集を取り返しながら僕を見る。
「長尾君、凄いね」
「急に何?」
「だって昨日体育祭だったんだよ?」
「そうだけど」
「今日普通に働いてるし」
「家の手伝いだからね」
「それに」
月奈さんが厨房を見る。
「本当に料理できるんだね」
「まだ疑ってたの!?」
「お弁当は食べたことあるけど、お店で作ってるところはちゃんと見たことなかったし」
そういう意味か。
確かに。
二人が初めて店に来た日は、キャベツを切ったり、信也に軽く何か作ったりした程度。
休日──今日は振替休日だけど──の営業時間中に僕が働いているところを、最初から最後まで見るのは初めてだ。
「星奈さんも言ってたけど」
「え?」
星奈さんが顔を上げる。
「僕、料理してるとき楽しそうだった?」
聞くと。
星奈さんは少し驚いたあと。
「……聞こえてたの?」
「途中だけね」
「そっか」
少し恥ずかしそうに笑う。
それから、改めて僕を見る。
「うん。楽しそうだったよ」
「…………」
「忙しそうだったけど」
星奈さんは続ける。
「嫌そうには全然見えなかったから」
「……そうかな」
「うん」
言われて。
少しだけ考える。
料理をすること。
店を手伝うこと。
それは昔から僕にとって当たり前だった。
得意だとは思っている。
好きか嫌いかと聞かれれば、もちろん好きだ。
でも。
「楽しそう、か……」
そんなふうに誰かから言われたのは。
もしかすると、初めてかもしれない。
「何?」
月奈さんが僕の顔を覗き込む。
「いや」
僕は首を振る。
「自分じゃ分かんないなって」
「そういうものなの?」
「そういうものなんじゃない?」
僕にとっては日常だから。
だからこそ。
自分では気づかないこともあるのかもしれない。
「和幸」
信也が口を開く。
「何?」
「腹減った」
「…………」
一瞬で思考が吹き飛んだ。
「お前さぁ……」
「昼だ」
「知ってるよ」
「俺は客だ」
「何も注文してない奴は客じゃない!」
「じゃあ注文する」
「何?」
「和幸のおすすめ」
「一番面倒な注文!」
「私も!」
月奈さんが手を挙げる。
「月奈まで……」
星奈さんが苦笑する。
「じゃあ星奈さんは?」
「え?」
「何食べたい?」
「私は……」
少し迷ってから。
「長尾君のおすすめ、かな」
「星奈さんまで!?」
三人揃って僕を見る。
……まったく。
仕方ない。
「分かったよ」
僕は椅子から立ち上がる。
さっきまで疲れていたはずなのに。
何故か少しだけ身体が軽かった。
「三人とも待ってて」
「何作るの?」
「おすすめって言ったんだから任せてよ」
エプロンを整える。
そして再び厨房へ。
その背中に。
「長尾君!」
月奈さんの声。
「何?」
振り返る。
「美味しいのお願いね!」
「ハードル上げるなぁ」
「和幸」
「信也は何?」
「大盛り」
「遠慮を覚えろ!」
「長尾君、私も」
「月奈さんまで!?」
「私は普通で大丈夫」
「星奈さんだけが良心だよ……」
笑い声を背中に聞きながら。
僕は厨房へ戻っていく。
昨日は体育祭。
今日は振替休日。
本来なら、家でゆっくりしていてもおかしくない日。
なのに。
信也がいて。
月奈さんがいて。
星奈さんがいて。
僕は三人の昼飯を作ろうとしている。
少し前までなら。
休みの日にこの店で聞こえていたのは、信也の声くらいだった。
それが今では。
「武田君!そこ教えて!」
「だから、まず自分で考えろ」
「考えた!」
「何分?」
「三秒!」
「考えたうちに入らん」
「星奈ぁ~~!」
「はいはい……」
三人分の声が聞こえてくる。
「……賑やかになったなぁ」
思わず呟いて。
僕は冷蔵庫を開けた。
さて。
三人に何を作ろうか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
体育祭翌日の振替休日。
今回は大きな事件も勝負もない、四人のちょっと賑やかな休日のお話でした。
第1話では初めてこの店を訪れた月奈と星奈。
それが今では、当たり前のように信也と同じテーブルを囲んでいます。
二人だけだった和幸と信也の日常に、いつの間にか月と星がいる。
そんな変化を感じてもらえていたら嬉しいです。
そして今回は、学校ではなく「定食屋の息子」としての和幸にも少しスポットを当ててみました。
学校とは違う和幸を見て、
「ちょっと格好いい」
と言う月奈と、
「楽しそう」
と気づく星奈。
同じものを見ても、少し違うところに目を向ける二人らしさも楽しんでいただけたでしょうか。
そして信也は──
相変わらず信也でした。
体育祭であれだけ大声を出して応援したことも、本人曰く「幻聴」らしいです。
果たしていつまで言い張れるのでしょうか。
少しずつ変わっていく四人の関係。
恋になるのか。
友情のままなのか。
それとも、まだ本人たちも知らない何かになるのか。
これからも焦らず、四人の日常と一緒に描いていきたいと思っています。
「この四人をもう少し見ていたい」
そう思っていただけましたら、お気に入りに入れて続きを見守っていただけると嬉しいです。
評価や感想も、今後の執筆の大きな励みになります。
月奈、星奈、信也、和幸。
今のところ誰が気になっているか、感想で教えていただけるのも大歓迎です。
体育祭が終われば、学校生活も再び日常へ。
──そして高校生の日常には、避けて通れないものがあります。
どうやら月奈にとっては、体育祭よりずっと手強い相手になりそうですが……。
それでは──
また、次の放課後で。