卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~   作:露李鈴

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第五十二話 名張の高床式

「ずいぶんと賑やかになりましたね」

 

 澄みわたる青空の下。

 

 俺は、名張の山から、

 眼下の村を見渡していた。

 

 新しい家が増えている。

 

 

「たいしたものじゃのう……」

 

 シラガが、感心したように呟いた。

 

 新しく村に加わった三輪の者たち。

 その彼らの手によって作られた竪穴住居。

 

 三輪から来た者たちの手にかかると、

 名張の家とは違って見えた。

 

 屋根の傾きが整い、雨水を逃がす溝にも無駄がない。

 

 同じ木、同じ土、同じ萱を使いながら、

 その配置と角度が洗練されている。

 

 

「見習うところが多いですね」

 

 三輪君(みわのきみ)は、物を知る者だけではなく、

 手を動かせる者たちも名張へ寄越していた。

 

 それは同時に、名張が、三輪から学べることが、

 数多くあるということでもある。

 

 

――――――――――

 

 昼前に、俺は三輪連由良(みわのむらじゆら)の竪穴住居を訪ねた。

 

「床を高くした倉を、一緒に作っていただけませんか?」

 

「高床の倉にございますか……」

 

 小さな童(わらべ)の俺を相手にも、

 ユラは礼を持って接してくれる。

 

 その育ちの良さは、言葉遣いから、

 所作のひとつひとつにも表れていた。

 

 最近では、名張の女衆をはじめ、

 イミコの手本にもなっているようだった。

 

 

「小さく、簡素なもので構いません」

 

「高床の倉を建てたことのある者は、

 我らの中にも……」

 

 由良は静かに首を振った。

 

 その返事自体は本当のことなのだろうが、

 それ以上の意味も含まれている。

 

 いつの時代も、技術は貴重だ。

 

 協力関係の先とはいえ、

 容易に外部へ教えることはありえない。

 

 

「だから、ちょうどいいのです」

 

「え……?」

 

「床を高くして、湿りと鼠を避ける倉の形は、

 私の知恵の中にもあります」

 

「そんなまさか」

 

 ユラは驚きの声を上げた。

 

 実際の所、三輪だけの技ではないのだろう。

 

 だが、それでも、山奥の寒村の者たちが、

 容易に再現できるものではない。

 

 

「実際に、三輪の高床を見て、

 その構造を、おおよそ把握してきました」

 

「一目見たからと言って、

 作れるようなものではないのですが……」

 

 ユラの言うとおりである。

 

 実物を目にしてきた事は大きいが、

 この脳内にある「膨大な知識」があってこそだ。

 

 だが、それを馬鹿正直に伝える必要はない。

 

 

「ただ、実際に作った経験がないので、

 だから、一緒にどうですかとお誘いしています」

 

「経験を、一緒に……」

 

 由良の声がわずかに揺れる。

 

「それに、私の知る高床の造りは、

 三輪のものと違う点があるかもしれません」

 

「それを、私たちに見せてくださると……?」

 

「はい」

 

 名張は、三輪に知恵をひらいてみせる。

 代わりに技術を学ばせてもらう。

 

 この高床倉庫の共同建築は、そういう話だ。

 

 

「本当に、よろしいのですか」

 

 

「本音を言えば、こちらからは、

 三輪の方々に見ていただきたいのです」

 

「それはどういう?」

 

 ユラは怪訝な表情を浮かべる。

 

「本来は隠すべきものを開いてこそ、

 三輪も、名張に心を開いてくれるでしょう」

 

 三輪の信用を得ること。

 その利が大きいというだけの話である。

 

「……そういうことなら、ぜひ」

 

 ユラは、深々と頭を下げた。

 

 

――――――――――

 

 高床の倉庫の建築は、

 その日のうちに、始まった。

 

 

「倉庫の柱は六本、その間隔は、

 こちらの地面の印に合わせてください」

 

 高床倉庫の建築の設計軸を、

 俺が、敷いていく。

 

 

「それなら、この木がちょうど良いな」

 

 名張の男衆が、山へ入り木を選び。

 

「支柱の穴を掘るときには、

 こちらの道具を使うことで、より効果的に……」

 

 三輪の者たちから、新しい技術を教わる。

 

 

「なるほどのう……今は、こんなものが……」

 

 村の長であるシラガが、

 名張と、三輪の間を繋げていく。

 

 そうして、名張と、三輪の歩調が、

 ゆっくりと噛みあっていく。

 

 

 これが、三野との戦にむけた、

 最大の切り札であることを知るのは、

 

 俺だけだった。

 

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