「…本当にこのままで良いのだろうか」
修行している生徒達を見ながら、そう独りごちる。俺も中々オッサン臭くなってきたな。
俺はベリル・ガーデナント。親父から受け継いだこの田舎の剣術道場で、師範をやらせて貰ってる。正直親父が教えた方がいい気がするが、譲られたからにはちゃんとやりきるつもりだ。
そして、俺には悩みがある。端の方で黙々と素振りをしているあの子、「シーム・バイア」についてだ。1年半ほど前に習い始めた彼の実力は、こう言ってはなんだが普通の、一般的な子供のそれだ。1年間剣術を習った子供としては妥当な強さ。
だが、同期の子達が、あまりにも才能に恵まれすぎている。
まず1人目。俺の教えをすぐに実戦し、ものにしていくアリューシア。商家の子だと言うが、あの才能は凄まじい。特に突きと移動しながらの剣戟のセンスが抜群だ。俺なんてあっという間に抜かされてしまうだろうな。…たまに俺への目線に妙な熱が籠もっている気がするが、きっと気のせいだろう。
次に、スレナ。この子は両親をモンスターに襲われて失い、うちでしばらくの間面倒を見ていた。最初は心を閉ざしていて、ご飯も食べてくれなかったが、少しずつ心を開いてくれるようになった。短い間しか剣術を教えられなかったが、それでも基礎を身につけてしまった。しかも二刀流だ。…もう一度言う。二刀流だ。…何故かは俺も分からない。見せたら出来た、としか言い様がない。…あの子は将来化けるかもな。
そんな二人のいる環境で、あの子は劣等感を感じちゃいないだろうか。自信を持って、剣術を楽しんでくれるだろうか。…それが心配なんだ。
生徒は他にもいるが、皆そこまで同期の強さなんて気にしちゃいない。護身目的だったり、親に行かされてる、という子もいるから、なるべく楽しく学べるように工夫しているつもりだし、見た限りでは皆も楽しんでくれている。
だが、あの子は…シームは違う。
あの子は、最初からどこか大人びていた。ふつうアリューシアやスレナに負けた子は悔しがり、その後は気にしなかったり、あるいは尊敬する子もいる。
しかしあの子は、最初から負けることが分かっていたかのように、「対戦ありがとうございました」とだけ言って、また自己鍛錬に戻った。悔しさも感慨も無い、「負けて当然だ」という諦めだけがあるように、俺には感じられた。
あの諦めは駄目だ。…俺と同じ雰囲気を感じる。
俺の生徒達には俺みたいな、敗北感と劣等感で何も出来ないような、そんな大人にはなって欲しくない。
剣術を楽しみ、人生の支えとして使って、思うがままに楽しんで生きて欲しい。
「…さて。頑張るぞ、俺」
ピシャリと自分の頬を叩き、気合いを入れる。あの子を導けるのは、少なくとも今は俺だ。大人として、未来を、生き方を示す義務がある。だから、まずはそう、ほんの些細な事から。
「シーム、一緒に素振りをやろうか」
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用語一覧
・「ベリル・ガーデナント」
田舎の村、ビデン村の道場の、剣術師範。生徒の皆にはベリル先生と呼ばれ、親しまれている。自己評価が低く、「俺なんかが」とか「俺はただの田舎の剣術師範だよ」とか言っては弟子を呆れさせている。輩出する弟子の強さが異常。原作を知っているが故の主人公の達観を、「諦念に満ちている」と捉え、自分の責任だと思い込むぐらいにはお人好し。主人公のシーム・バイアを気にかけている。
・「アリューシア・シトラス」
後のレベリオ騎士団長。銀髪碧眼の、凜とした美少女。お父さんとのコミュニケーションが上手くいかず思い悩んでいたが、ベリルの働きによって事無きを得た。さらに他道場との親善試合で相手に怪我をさせてしまって酷く落ち込んだが、ベリルが「怪我が無くて良かった」「やっぱり自分の生徒の方を心配してしまう」等々の発言をしたせいで完全に堕ちた。以後ベリルの前だと髪の調子を気にしたり赤面したりと乙女を見せる。超高速の移動と其処から繰り出される神速且つ正確な剣戟によって敵を圧倒する。今後出るかも。主人公への評価は「私より先に先生に出会ってズルい」とのこと。
New!
・「スレナ・リサンデラ」
後のブラックランク(最高位)冒険者。毛先に向かって明るくなるオレンジのグラデーションの髪と、同じくオレンジの目を持つ美少女。両親が目の前でモンスターに襲われて亡くなり、以降他人の顔も見れず食事も取れないほどのトラウマに。ベリルに引き取られ、風邪を引いたときに、吹雪の中スレナを抱きかかえて走り、山を越えて医者の元まで運んでくれたベリルのおかげでトラウマを克服。それ以来ベリルには感謝と尊敬の念を抱いている。アリューシアとはバチバチの恋のライバル関係。例によってコイツも大概チート染みていて、無限の体力から繰り出される二刀流の剣戟の嵐で的を殲滅する。今後出るかも。主人公への評価は「端の方にいる人」。