ハリー・ポッターと墓場に還りし者   作:ムササビ

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これは二次創作です。改変・オリ主を含みます。
初めての創作なので何かしらのポジティブな感想あれば嬉しいです。


第一章 墓場より
予言


 その年、魔法界は静かに疲弊しきっていた。

 

 新聞には毎週のように行方不明者の名が載り、闇の印が空に焼き付けられた朝は、誰もが自分の家族の無事を確かめてから仕事に出かけるのが習慣になっていた。表向きは何も変わらぬ日常を装いながら、誰もが息を潜めて、次はどこで、誰が――と怯えている。そんな時代だった。

 

 アルバス・ダンブルドアが、その日わざわざホグズミードまで足を運んだのは、ホグワーツの占い学教師の空席を埋めるためだった。前任の教師が突然辞職を申し出てから、もう半年近く後任が決まらずにいる。本来なら人事の一切を人任せにしても構わない立場ではあったが、この時代にあっては、ホグワーツに迎え入れる人間の一人一人を、自分の目で確かめておきたいという思いが強かった。

 

 「ホッグズ・ヘッド」の店内は、昼間だというのに夜のように薄暗かった。窓には長年の煤がこびりつき、外の光をほとんど通さない。カウンターの奥で、山羊の匂いを漂わせる店主が黙々とグラスを拭いている。数少ない他の客たちは、誰もがフードを目深に被り、隣の会話に聞き耳を立てないよう、わざとらしく俯いていた。この時代らしい光景だった。

 

 その隅の席で、ダンブルドアは向かいに座る女に、穏やかな笑みを崩さずにいた。

 

 女――シビル・トレローニーは、大ぶりの眼鏡の奥で目を何倍にも大きく見せながら、じゃらじゃらと音を立てる無数のビーズと腕輪を揺らしていた。透ける肩掛けをまとい、首から下げた飾りの一つ一つが、蝋燭の火を受けてちらちらと光る。

 

「――それで、占い学の教師として、ご自分をどう評価されますかな」

 

「もちろん、優れていますとも」トレローニーは芝居がかった仕草で肩掛けをかき合わせた。「わたくしの家系には、かの高名な予見者キャサンドラ・トレローニーの血が流れておりますの。俗世の喧騒に身を置きすぎると、この内なる目が曇ってしまいますから、普段はあまり人前に出ないようにしておりますけれど」

 

「なるほど。しかし今回は、こうして人前にお出でくださったわけじゃ」

 

「特別ですわ」彼女は誇らしげに顎を上げた。「霧の向こうから、今日という日の重要性が、はっきりと視えておりましたもの」

 

 ダンブルドアは内心でため息をついた。面接はもう三十分近く続いているが、聞こえてくるのは家系の自慢と大仰な物言いばかりで、実のあるものは何一つない。それでも彼は辛抱強く相槌を打ち続けた。ホグワーツの空いた教師枠を埋めなければならない事情もあったし、何より――この程度の茶番に付き合うくらいの余裕は、今の彼にはあった。

 

 ここのところ、物事は概ね彼の思い描いた通りに進んでいる。水面下で進めているいくつかの算段も、あと少しで形になるはずだった。そう思うと、目の前の退屈な面接すら、どこか愉快なものに思えてくる。

 

「占いの才は、家系だけで測れるものではありますまい。実際に、何か視ていただけますかな」

 

 軽い調子でそう促すと、トレローニーは大きく息を吸い込み、瞼を半ば閉じて、もったいぶった調子で語り始めた。

 

「霧の向こうには、いつも多くのものが揺らめいておりますの。凡百の魔法使いには決して見通せぬ――そう、たとえば今この瞬間も、わたくしの内なる目は、あなたの近い将来に、大きな決断の影を見て取っております。それは……」

 

 ダンブルドアは半分聞き流しながら、頭の中で別の算段を巡らせる。この手の"視えます"は、面接のたびに聞かされる決まり文句だ。誰の未来にも「大きな決断」くらいはある。

 

 だが、次の瞬間。

 

 トレローニーの声が、不意に止まった。

 

 背筋が伸び、瞼が痙攣するように震える。焦点の合わなくなった瞳が、ダンブルドアではない何かを見つめていた。声が変わる。先ほどまでの芝居がかった調子はどこにもなく、低く、平坦で、まるで別人のものだった。

 

 ダンブルドアの中で、面接官としての意識が瞬時に消え去った。

 

 語られたのは、闇の帝王に立ち向かう力を持つ者が、まもなくこの世に生を受けるという話だった。その者は、闇の帝王に三度歯向かった者たちの血を引き、七月の終わりが近づく頃に生まれ落ちる。闇の帝王は己の手で、その子を自分と対等な存在として選び取るだろう。だが、その選択こそが、闇の帝王自身の破滅を招く種になる。子が持つ、帝王の知らぬ力によって。そして、どちらか一方が生きている限り、もう一方は生きられない――

 

 声が途切れ、トレローニーの瞳から光が戻る。

 

「あら……失礼、少し眩暈がしたようで」彼女は何事もなかったかのように肩掛けを整えながら、いつもの声に戻って言った。「それで、どこまでお話ししましたかしら」

 

 何食わぬ顔で喋り続ける彼女を前に、ダンブルドアはしばらく言葉を発せなかった。

 

 これは、本物だ。

 

 彼はグラスの中身に視線を落とし、静かに、しかし確かな昂りを胸の奥に感じていた。すでに描き始めている計画の中に、今聞いたばかりの言葉がどう組み込まれていくか――その算段が、頭の中で音を立てて動き出す。

 

 トレローニーはまだ何か喋り続けていたが、ダンブルドアの耳にはもう届いていなかった。

 

        ◇

 

 その頃、店の裏手の路地では、一人の若い男が壁に張り付くようにして、店内の会話に耳を澄ませていた。

 

 痩せた体を黒いローブに包み、脂じみた黒髪が青白い顔にかかっている。鉤鼻の下で、唇がわずかに震えていた。セブルス・スネイプは、ここ数週間、ある人物の指示でこの店を見張り続けていた。ダンブルドアの動向を探れ、というのがその指示だった。理由までは知らされていない。だが、今しがた壁越しに漏れ聞こえてきた言葉――それが尋常なものではないことだけは、はっきりとわかった。

 

 力を持つ者。七月の終わり。三度歯向かった者たち。対等な存在として選び取る――

 

 最後まで聞き取ることはできなかった。声を潜めて一言も聞き漏らすまいと壁に耳を押し付けていたその時、裏口の扉が勢いよく開いたのだ。

 

「――何をしている」

 

 店主が、箒を片手に鋭い目でスネイプを睨みつけていた。

 

「盗み聞きなら他所でやれ。二度と敷居をまたがせんぞ」

 

 スネイプは弁解の言葉も探さず、踵を返して闇の中へ駆け出した。心臓が早鐘のように鳴っている。聞いた内容のすべてを理解できたわけではない。それでも、これが誰かに伝えるべき情報であることだけは、本能が告げていた。

 

 息を切らしながら夜道を走るスネイプの脳裏には、ただ一つの考えしかなかった。

 

 この話を、早く伝えなければ。

 

 村外れの人気のない小道まで来たところで、彼はようやく足を止めた。荒い息を整えながら、闇の中に立つ人影へと近づいていく。何も言わずとも、相手はすでにこちらの様子から只事ではないと察したようだった。

 

「話が――ございます」

 

 声が震えているのを、スネイプ自身も自覚していた。だが、ここで引き返す道はもうない。聞いたままの言葉を、途切れ途切れに語り始める。力を持つ者。七月の終わり。三度歯向かった者たち。対等な存在として選び取る者――

 

 語り終えた後も、しばらく相手は何も言わなかった。ただ、闇の中でその沈黙だけが、これから起こることの重さを物語っているようだった。

 

 誰に、何のために――その先にある結末を、この時の彼はまだ、正しく想像できていなかった。

 

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