親族との宴会で酒に酔った夜、ふとワルプルギスの廻天が観たくなって、徹夜して秘封倶楽部逆順再生しながら書きました。秘封倶楽部なんもわからんって人におすすめです

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みなさんはワルプルギスの廻天、観ました?

わたしはまだ見れてません。京都で観る予定です。

釧路で観たかったんだよなあ……

というわけで、捏造設定独自解釈マシマシの秘封二次百合創作です。具体的には、うちの蓮メリは少女終末旅行にかなりつよい影響を受けていたりするので、原作とはいろいろ異なる可能性があります。おもに口調が。

なんか胸のあたりがいたむきがします。きがするだけです。寿命を削った気がします。一分後に死んでしまうようなきがします。きがするだけです。
なんでも許せるひと向け。
それでも許せる方は、どうぞ。


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道東の夏ではいつものことだが京都ではめったにお目にかかれない濃霧を横目に、いつまでたっても古ぼけた紅さを失わない釧路駅めざしてふたりはコツコツと靴を鳴らしていた。

 

「あ〜、それにしても、映画なんて久しぶりにみたわね〜…」

「そうね、何年ぶりかしら。」

「11年ぶり、だっけ?」

「いや、そんなことないでしょ」

「え?うそでしょ?『違う時間を生きてる』?」

「さすがに怒るわよ。『その引用で喋るのをやめなさい』ってね」

「ごめんごめん……いや、蓮子も引用で喋っとるでないの」

「……あ、そうだっけ?」

「そうだよ、あれでしょ?『そのウーウーいうのをやめなさい!』って」

「え、ごめん、知らないわ」

「そんなあ…」

 

他愛もない時間を過ごしているときがいちばん楽しい。メリーはそう思いながら蓮子に目をやった。はたしてあなたは、楽しいと思ってくれているの?

 

「は~、なんかこういう気分のときは海に行きたくなるわね」

「海?!?!?!いや、なにいってんのさ、ここ道東だよ?!」

「ごめんごめん、冗談だってば」

「まったくもう……」

 

道東の海は寒い。寒いはずだ、と思っているが確かめたことはない。メリーは生まれてこのかた北海道の海というものをみたことがなかった。

 

「いや、でもまあ、故郷の星が映る海なら、私も見に行ってみたいかも。ま、でもね、わてがたは海育ちでなくてね、畑育ちなんだべさね」

「えっなに、急に『だべ』って……何弁?」

「あっごめん、ついわたしのなかのおばあちゃんが出てもうた」

「えぇ…???わけがわからないよ」

「なーんちゃって♪」

「もう…」

「じつはあれは『星降寒弁』なのよ」

「…へえ?」

「あっ間違えた、まあようは北海道弁ってことさね」

「よくわかんないわね…」

「わかれよ」

「ごめん」

 

気を抜くと北海道弁が出てしまうのは私の悪い癖よね、とひとりごちる。メリーはどうも、酉京都特有の「小説のなかの女性のような役割語口調で喋る」というのが苦手だった。『じゃない』だの『ですわ』だの、格式張った言い方にはどうにもなじめないのだ。もっとも、これが北海道弁なのかと言われるとかなり怪しいものがあるが。

 

「あれ、気づいたら改札くぐってた」

「へえ?交通卡(スイカ)かざしたってのに、気づかなかったの?」

「気づくも何も、北海道の改札は基本手動よ」

「…………いやそれは嘘でしょ。いまどき手動改札なんてめったにないわよ」

「それは蓮子が卯東京人だからこその常識よ」

「はあ?あんたも東京育ちでしょうに」

「あのね。私は星降寒出身なのよ?」

「ああ、そういえば……そんな話もしてたわね」

 

他愛もない二人の時間は、ほんとうにあっという間に過ぎていく。

 

「あ、きたきた!」

「ほんっと、むかしっから、メリーは鉄道に目がないわよね……」

「そら……三つ子の魂百まで、ってやつよ。ちっちゃい頃の夢、『卯酉新幹線になる!』だったんだべさ」

「へえ……面白いこと言うわね」

「今は言ってないわよ」

「そりゃそうでしょうよ」

 

卵みたいな蒼ざめた丸顔をした特急列車が、一番ホームに滑り込む。行先表示版に灯る「函館」の二文字。

 

「むかしはね、この特急は札幌止まりだったのよ」

「え、そうなの?」

「そうなのよ。どころかいったんは廃線寸前までいったからね」

「そうなのね……メリーの実家にいくときはいっつも舞鶴発小樽着だから、これがなかったら相当困るわね」

「いやまあ、そのころは新幹線を釧路まで延ばすつもりだったんでないの?」

「いや、無理でしょう」

「そうねえ……無理ね。さ、乗りましょ!はやくしないと乗り遅れるわ」

「そんなに急がんでも、電車は逃げないわよ」

「……逃げるわよ。」

「いつの話よ」

「うん、まあ、子供の頃の話。」

 

目の前の気動車からピントをずらして遠い目をするメリー。微動だにしない。蓮子はため息をつきながら、メリーの手を引っ張って駅と車内の境界(ドア)の中へ進んだ。

 

『え〜この列車は、特急 おおぞら 10号、函館行きです。止まります駅は〜釧路から順に、星降寒(セイオロサム)、帯広。帯広から先、芽室、苫鵡(トマム)、夕張、南千歳、札幌、小樽。小樽を出ますと終点 函館に到着いたします。』

 

「なんか随分変則的ねえ。」

Magical(マギカル)と言ってちょうだい。こんな列車がいまのいままで生きながらえているだなんて、きっとだれかが魔法少女になったときの願いが叶ったに違いないわ」

「そうかもねえ……。そうだとしたら、その子はやっぱり、魔女になってしまったのかしら。」

「そんなことはない。と思いたいけどね。案外、『北海道の特急廃止の嵐を停めてほしい』って願ったせいで、この特急だけが残って、でもその子の欲しかった特急はぜんぶどっかいっちゃった、とかね」

「やめてよそんなかなしいはなし」

「ごめん」

 

『えーこの列車、まもなく発車いたします。閉まるドアにご注意くだ〜さい。ドア閉まります(でぁ〜しぁりぇぁ〜す)

 

けたたましいベルの音とともに扉が閉まり、気動車特有の振動とともに6両編成の列車が滑り出した。

 

「ああ……この振動がね、本当に大好きなんだべさね……まるで世界にふたりしかいないみたいな……」

「ほんとにふたりしかいないわね」

「えっ」

 

あたりを見渡すとたしかに、ふたりしかいない。

 

「うそでしょ、なんの間違い?いつもはもっと混んでるはずなのに」

「いや、一等(グリーン)車にでも間違えて座ったんじゃないの?」

「あ、そうかも……いや、違う。ここ普通車だよ」

「え?ほんと?」

 

あわてて四つ葉マークを探す蓮子。するとたしかに見つけた。

 

「……まって、何かがおかしい。メリーには一等車マーク、見える?」

「え、見えないよ。あの四つ葉マークでしょ?どこにもないわよそんなの」

「そんな まさか……」

「まさか……?ああ、そういうことか」

 

外の景色をみてふたりは納得した。いつのまにか結界の内側に迷い込んでいたらしい。まるで火星の夕焼けのように青白くか細く輝く空と太陽、雲ひとつなく霧ひとつない、一面の銀世界がそこには広がっていた。

 

『まもなく 池田追分 池田追分 停車時間はわずかです。どなたさまもお忘れ物のないようお支度ください。』

 

そして、急に低音のよく効いたハスキーボイスで話しかけてくる車内放送。

雪に吸われて、一切の音の聞こえない世界の中で、列車は「池田駅」に到着した。

(むこう)岸のホームには、先の見えない霧のなかで、なぜかやたらと主張激しく『北見』の文字を掲げる行先表示板。

 

「大橋俊夫の声なんていつぶりに聴いたかしら……」

「ねえ」

「なに?」

「降りてみる?」

「……うーーん……」

「やめておく?」

「……うん。やめておきましょう。きょうは秘封倶楽部の活動でなくて、ただ映画見に来ただけだけだから。覚悟が決まっとらんべさね。このまま出てったら神隠しに遭うかウェンカムイにくわれてまうべな」

「メリーがそういうなら、そうなんでしょうね。やめておきましょう。」

 

すると列車は、さみしそうに身体を震わせながら動き出した。

 

『本日もJR北海道をご利用くださいましてありがとうございます。次は 帯広 帯広』

 

「まだ結界から抜けないのね」

「すぐには抜けないよね〜、こういうとき。」

「そうね、すぐには抜けれない。じっと待つしかないわね」

「あ〜あ、このまま結界のなかに永遠に閉じ込められたらいいのに」

「ふざけたこといわないでよ……わたしはまだ死にたくないわ」

「わたしもだ。」

「え?」

「なんでもない!」

 

さいきんの相対性精神学の授業で、「「この人のためなら、わたしはまだ死にたくないわ」と思えた場合、それは一般的には「恋」と呼ばれる可能性が高いです」なんて言い方されたこともあったっけ。そんな他愛も無い事を考えながら、メリーは徐々に結界の外に出てきているような気がして外を見た。

 

『え〜まもなく〜帯広、帯広です。お出口は〜左側〜です。どなたさまもお忘れ物のございませんようご注意ください』

 

「なんかまるでアニメの声優さんみたいな車内放送よね」

「そうね。……って、いつのまに結界から出てたのね」

「うーん……メリー、寝ぼけてるの?」

「いやあ、きのう徹夜で博物誌の原稿書いてたからねえ」

「それはご愁傷さま……」

「あ、なんかくされたやつの香りがしたかも」

「え、なによ急に」

「だってえ〜〜はやく畑仕事がしたいんだべさ〜〜」

「……そっか。わたしは正直、腐ったタマネギの幻臭がするまで農作業に惚れ込む気は起きないわ」

「それでいいべさね、あんなんやりすぎてからだこわしてもそれはそれでよくねーべさ」

「いや、身体壊すとかはあんまり関係ないような…まあいいや」

 

『次は根室、根室です。……失礼しました、芽室、芽室、め む ろ に停車いたします。どなたさまもお忘れ物なさいませんようご注意ください。』

 

合理化の結果として採用された、「ミスをする知性」としてのAI車掌。もはやAIが過ちをおかすことはあたりまえの世の中になりつつあった。世界が可愛く出来ているのであれば、AIもまた可愛く出来ているのであって、そんな可愛い存在がミスをしないわけはないだろう、ということであるらしい。

 

「さっき、『電車は逃げないわよ』って言われて、『逃げるわよ』って言ったわよね。」

「そういえば、そうね」

「『子供の頃の話』って言ったわよね。」

「……そうなの?ほんとに、あなたが子供の頃に廃線なんて話があったの?」

「そうなのよ。まあ厳密にいうと、記念に保存してた鉄道が資金難で動態保存を取りやめた、ってだけなんだけどねえ。」

「動態保存?」

「実際に運転台に乗って運転できたりしたのよ。」

「え、それはすごいわね。したの?」

「そりゃもちろん。あれはたのしかったなあ……。ふるさと銀河線、って言ってね。」

「すごい名前ねえ」

「もとは池北線(ちほくせん)って名前だったのを第三セクター化してやってたんだけど、まあこんな田舎じゃどうしようもないわよ。」

「池北線かあ。どことどこを結んでたのかしら」

「文字どおり、星降寒と北見。」

「いや、どこが文字通りよ」

「あっごめんね。そのころはまだ星降寒でなくて池田だったべさね」

「なるほど……卯東京と東京の違いみたいなもんか」

「そう!そのとおり。」

 

『まもなく、芽室です。え〜停車時間わずかとなっておりますので、お忘れ物のないようにご注意ください。お出口右側にかわります、ご注意ください。』

 

やたら恥ずかしげな声で告げるAI車掌。

 

「なんかかわいいわね、この子。」

「そう?わたしはかっこいいとおもうけどなあ。」

「名前、なんていうのかしら。」

「名前はなかったはずよ。たしか、『はたらく音声』には名前はつけない、ってどっかで決めてたような」

「法律かなんかだべか」

「うーん、わかんない」

 

ふたりでたびをするときの鉄則として、検索エンジンは持ち歩かない、ということに決めてある。どうしても気になったらそのへんのひとを捕まえて訊けばいい、とはメリーの言だ。

 

「ああ……ねむいわね」

「ねてもいいのよ?」

「ねたくないのよ……」

 

徹夜明けの身体を重そうに伸ばしてあくびをするメリー。

 

『次は、苫鵡、トマムに停車いたしま…いてっ!ごめんなさい。次は、トマムに停車いたします。』

 

「かわいいわね…」

「え?」

「なんでもない。あ、いや、車掌さんのことよ?」

「かわいいよね、車掌さん」

「そうねえ……いや。待って。こんな幼女みたいな声ではなかったはずよね」

「え?そうだったっけ」

 

その声が合図かのごとく、蓮子は窓の外を見回した。

 

「いや、ただのトンネル…か…?」

「まって、なんか見える。あれは…オリオン座?」

「どこよ…?って、うわっ」

 

気がつくとあたりは満天の星に包まれていた。

 

「プラネタリウムみたい…」

「あはは、蓮子は都会っ子ねえ。これは間違いなく、陸別天文台から見た夜空ね。それも全球の。」

「は?え?なんであんたが判るのよ??それは私の能力のはず……」

「えへへ。ちょっとわたしとあなたの境界をいじってあげれば、ほら!」

「あ、わかるようになった。なるほど。銀河鉄道か。え?メリーそんなことできたの?」

「ねえ、今何時?」

「いま?えっとね、七時四十分。」

一九四〇(ひときゅうよんまる)?!え、うそ、このままじゃフェリー間に合わないよ」

「いやあ、さすがにこの空が現実とリンクしているなんて……」

 

『この先、エゾシカなどの野生動物が多数出没する区間を走行いたします。』

 

「ほら、やっぱり結界の中よ」

「エゾシカかあ……。わたしの小さい頃は絶滅してなかったんだけどなあ」

「いやまあ、かわりにタンチョウヅルが生きてるし、いいんじゃないのかしら?」

「よくないよ、あいつらになんべん畑荒らされたことか」

「そっか……」

 

列車は満天の星空のなかを滑るように走行し、雪にまみれた惑星にたどり着いていた。

 

「いいなあ、あれ」

「やっぱり、スキー、したいの?」

「したいよ。はやくおさまってくれないかなあ、温暖化。」

「いやあ、フロンガスと同じで、そのうち収まるわよ。というか、この列車自体、石油を焚いて走ってるんだし。諦めも肝心。」

「そうねえ……せめておばあちゃんになるまえにはさ、スキーできるようになってほしいべさ……」

「……うん。あんまり遠いのことは、わかんないなあ…」

「いろんなことを知ろうとするには、人の寿命は短すぎる、ね。」

「そうね」

 

隙あらば引用で話そうとする癖、なんとかしなきゃなあ、と思いながら、メリーが窓の外に目をやると、トンネル特有の細長い照灯(ランプ)が星のように後方へ飛び去り飛び去り続けていた。

 

「ほんと、きょうは結界に入ったり出たり忙しいわね」

「ごめんねえ」

「なに、なんであんたがあやまるのさ」

「やあ、たぶん、能力の暴走?ってやつだから…」

「中二病かよ」

「厨二病で大いに結構!!」

「そうねえ、永遠にこどもでいなきゃ、創作なんてできないわよね」

 

そうなのである。あの酒場に集う人々も、たいていの大人は創作ができなかった。創作のできるこどもに「あなたの自認はなんですか?」と質問するともれなく「もちろん「こども」だよ」と答えてきたものだ。ちなみに創作のできる大人の自認は「酒呑み」だった。メリーはじつのところ、あまり酒を飲む気が起きなかった。

 

「メリーは、」

 

と問いかけるやいなや、やわらかなぼうしと金色のウェーブがかくりと垂れて、また起き上がった。

 

「……えっと、うん、だいじょうぶ?」

「ううん、……だいじょうぶ、……うー……ねむい……」

 

ねてもいいのよ、と呟こうとした蓮子であったが、メリーはとうに目を閉じていた。

 

「……だめ、寝られない……」

「だいじょうぶだよ」

「いっしょに……」

「ここにいるじゃん」

「……れんこ〜……」

かわいいやつだなあ。

 

 

 

 

 

 

 

「はっ、寝てた?」

「起きた?」

「いまどこ?」

「もうすぐ小樽よ」

「あ、そうなのか、夕張から札幌まで寝過ごしたのね」

「よかったわね、私がいて。あなたひとりならとっくに小樽も寝過ごしてたところよ」

「そうだね。ほんとにありがとう。」

「……お礼を言われるようなことじゃないわよ?まったくもう。ちょっとはわたしがいなくても生きていけるようにしなさいよ、ほんと…」

「あ、照れてる!」

「うるさいわね…」

 

『まもなく、小樽築港、小樽築港につきます。おでぐちはみぎがわです』

 

「え、もう着いちゃったの?やーねー…」

「いや、こっからが本番でしょ」

「そうだった!!」

 

 『停車時間わずかとなっておりますので、くれぐれもお忘れ物にご注意の上、おはやめにお荷物お支度いただけますと幸いです。……』

 

「よし、蓮子!はやく支度するわよ!」

「元気ねえ…」

「寝たからね!」

「いや、1時間も寝てないでしょ…?」

「知らん!」

 

意気揚々とデッキに駆け出すメリー。その背中をうらやましそうに見つめながら、船酔いの恐怖に思いを馳せる蓮子であった。

 

『……本日もJR北海道をご利用いただき、まことに、ありがとうございました。』


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