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プロローグ
見覚えのない、よく知る写真
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あいつが死んだ。
トレーニング中の事故、が原因らしい。
あいつを知るやつほど、
そんなはずはない。
だってあいつは「不死鳥」だろ?
なんて軽口をたたいて、信じなかった。
現役時代何度も、何度でも、競争生活の限界を超えてきたあいつ。
怪我も衰えもあいつには無縁のものに思えた。
そんな不死鳥は生命のボーダーラインをあっさりと乗り越えて、こちら側には戻らなかった。
みんな呆然としたまま、あいつを送り出した。
───
あいつらしい殺風景な部屋に、形見分けにと入れていただいた。
生活感の薄い部屋の中にそれはあった。
写真立てに一枚の写真。
なんかのレースの後、みんなで撮ったものだ。
勝ったあいつは真ん中で仏頂面でピースをしていて、
負けた私はそっぽ向いてふてくされている。
そんな様子を見て周りが笑っている。
よく知っている。
私も持っている、大切な思い出の一枚だ。
だが、あいつの部屋にあったのは少し違った。
あいつと私の姿が拡大されて、写真立てに収まっていた。
「…なんで、こんな写真…」
呆然として、つぶやく。
よく知っている写真、初めて見る一面。
「なあ、お前は何を思っていたんだ…」
私の問いに、写真の中の仏頂面は何も答えてはくれなかった。
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一章
若きクラシック候補の悩み
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1. 虫の知らせってウソだわ
変な夢を見た。
なんだあれ?
遺品?
勝負服の写真?
夢なんてだいたい支離滅裂なものだけど、それにしてもよくわからなかった。
「悪夢ってわけじゃないけど…」
妙に印象的で目が覚めてもおぼろげながらに夢の記憶が残っていた。
「青、黒、黄色…」
どこかで見た気がする配色。
あのプイプイうるさい幼馴染が、この間見せびらかしにきてたっけ。
ぼんやりと夢で見た勝負服が、幼馴染のそれと重なった気がして、
私はベッドから飛び起き、部屋のドアをぶち破る勢いで駆け出していた。
───
「…それでミリちゃんは朝っぱらからプイの部屋に飛び込んできたプイ?」
「…悪かったって」
「別に責めてる訳じゃないプイ」
「ただ、ミリちゃんはイヤな夢見て幼馴染を叩き起こす、かわいいところがあるってことプイ」
幼馴染は満面の笑みを貼り付けたまま続ける。
「プイの安眠を妨げたのは許されざることプイ」
「ビビりのミリちゃんの名が広まるのを甘んじて受け入れるプイ」
「めっちゃキレてんじゃん!」
「ディープ、私が悪かったって!」
我が幼馴染、ディープはやれやれと肩をすくめ、穏やかな口調で語りかける。
「ゴメンで済んだら警察はいらないプイ」
「我が怒りを受け入れよ」
語尾の口癖がなくなるほどのお怒りだった。
───
その後、必死にディープのご機嫌取りを続けたことで、並走トレーニングに付き合うことでチャラにしてくれた。
「…妖怪一緒に走るプイ」
「ミリちゃん、なんか言ったプイ?」
「なんでもない」
ディープは先日デビューしたばっかりだが、重賞を勝ってる私とも遜色なく走る。
そのポテンシャルへの期待は高く、彼女が纏う勝負服は、多くのG1ウマ娘を輩出した強豪チームの所属を示すものだった。
「ミリちゃんも、さすが早いプイ!」
「踏み込みの鋭さもすごいし、ミリちゃんのお姉ちゃんみたいな活躍できると思うプイ!」
「…ありがと」
「お姉ちゃんと言えば、ディープのお姉ちゃん、タイドさんのケガはどう?」
「…屈腱炎だって」
「…そっか」
なんとなくお姉ちゃんの話はしたくなくて話をずらしたけど、そっちはそっちで地雷だった。
「でも大丈夫プイ!」
「プイがお姉ちゃんの分まで走って、その強さを示すプイ!」
こういうとき、ディープの強さを感じる。
好きを好きだと胸を張れる強さを。
私のお姉ちゃんはダートで活躍している。
お姉ちゃんのことは嫌いではないが、ダートというのが私の心をかき乱す。
日本のレース体系は芝を中心に組まれていて、ダートはメインストリームではない。
お姉ちゃんが悪いわけではない。
多分、素直じゃない私が悪いだけ。
それでも、ダートは芝で活躍できなかったやつらが行くところ。
そんな思いが拭えなかった。
───
2. 躓いたってへっちゃらさ
ディープのデビューから四ヶ月、私たちを取り巻く環境は大きく変わっていた。
ジュニア戦線は次々に重賞勝ちが現れ、朝日杯もレコード決着。
これは群雄割拠の世代になるぞ。
そんな雰囲気を衝撃とともに塗り替えたのが、我が幼馴染だった。
デビュー戦、二戦目と圧倒的パフォーマンスを示してみせ、
三戦目、重賞初挑戦となった弥生賞では、そのジュニア王者に対し、もはや穏やかに見えるほど静かに勝ち切って見せた。
一方で私はクラシック期の初戦をドベ三と大敗した。
「…我が栄光の三冠ロード、か」
盛大にスタートダッシュに失敗して、出遅れた。
躓いたってなんて生やさしいものじゃなく、まあまあ派手にずっこけましたね、コレは。
認めたくはないけど、私の行先には暗雲が立ち込めていた。
───
皐月賞の時点で私と幼馴染の評価は完全に逆転していた。
無傷の三連勝で今日を迎えたディープは一番人気。
私は前走の大敗が響いて七番人気まで評価を落としていた。
くよくよしたってしょうがない。
ゲートに入ったらあとは走るだけ。
どうにか前向きな心を作ってはみたものの、
皐月賞の結果は私の心を見事にポッキリとへし折ってくれた。
スタート直後、我が幼馴染はつんのめってバランスを崩す。
転倒は免れたものの、加速がつかず、いきなり後方に置いて行かれた。
普通なら絶望的な差。
でもこんなの何の問題でもなかったようで、
向こう正面から進出すると、最終コーナーでは先団に取り付いた。
そこからポーンと飛ぶように加速すると、最後は二馬身半の差をつけて皐月賞を制した。
「やったプイー!」
聞き慣れたその声を、どこか遠く背中で聞きながら、私はターフを後にした。
───
閑話
あいつがまたいなくなった。
今度は骨折らしい。
あいつがG1七勝の壁の前で物理的に止まってる間に、私は七勝、八勝、九勝と積み上げてしまった。
それでもあいつが戻ってくるまではと、半ば意地だけで続けた。
2010年帝王賞。
あいつが二着で、私は九着。
またしても
私はあいつの視界には入れなかった。
その後あいつは屈腱炎が再発して引退。
私ももう続ける力は残ってなかった。
とうとう
私はあいつの視界には入ることができなかった。
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二章
決意の朝に
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1. ファイナルアンサー?
変な夢を見た。
「…G1七勝かー」
おぼろげな夢の記憶をたどる。
言うまでもなく最多勝利記録。
皇帝シンボリルドルフ。
覇王テイエムオペラオー。
芝の最高到達点。
私にはもう、霞んで見えやしない。
「…ディープは届くかもしれないな」
ぼんやりと呟いた。
───
皐月賞に続いてダービーを制し、
無敗の二冠を達成した我が幼馴染。
秋初戦の神戸新聞杯を快勝し、無敗の三冠へ向けて菊花賞に挑む。
私は最後のチャンスだったその神戸新聞杯も惨敗した。
トレーナーには、次はダートを走ってみないか?
と提案された。
私の走り方はトレーナー曰く、適性を感じるものらしい。
それとお姉ちゃんがダートで結果を残していたことも提案の後押しになったようだ。
トレーナーはここで結果を出せばまた芝に戻れるかも、なんて言っていた。
最近へこんでる私に気を遣ってくれたんだと思う。
ダートを走るなら、
走ると決めたなら、
もう後戻りはできない。
決断の時はいつもそう。
覚悟なんて言葉で固めて、夢を、感情を置いてきぼりにする。
───
2. お姉ちゃん、あのね。
私には二つ年上の姉がいる。
姉は見るからにダート向きの走り方で、デビューからダートを走っていた。
クラシック期には二度三度と芝も試したが、結果は残せなかった。
「なーんか、こう違うんすよ」
へらへら笑いながら、お姉ちゃんはそう答えた。
それ以降はダート一本に決め、シニア一年目にオープン入りすると、重賞の常連といった感じのポジションに落ち着いた。
私がダービーを諦めきれず皐月賞の後、京都新聞杯に挑んだ頃、お姉ちゃんは初めて重賞の東海ステークスを制した。
「どやさ」
にやにやしながら近づいてきたお姉ちゃんを、私は見ないふりしてトレーニングに打ち込んだ。
お姉ちゃんはそこから重賞連勝し、神戸新聞杯の二日前にも勝って三連勝とした。
「いってらっしゃい」
神戸新聞杯の日、軽く肩を叩いて送り出してくれた。
私は短く、うん。とだけ答えた。
───
「…お姉ちゃん」
「私、ダート走るよ」
「…そっか」
私はトレーナーより先に、お姉ちゃんに決断を告げた。
お姉ちゃんはぎゅっと私を抱きしめると、頭をぽんぽんと撫でてくれた。
…私はダートは芝を諦めたやつらが行くところだと思ってる。
レースの主役はいつだって芝で、ダートでどんなに活躍しても、テレビとかで取り上げてはくれない。
お姉ちゃんがずっとがんばってきたことを世間のほとんどの人は知らない。
だから私は芝で勝ちたかった。
私が有名になったら、お姉ちゃんもすごいんだって言ってやりたかった。
「なあ、マイシスター」
「ダートにようこそ」
そんな私の気を知ってか知らずか、お姉ちゃんはいつものように胡散臭く笑った。
───
閑話
あいつが帰ってきた。
屈腱炎が治りかけて復帰の目処が立ったところで再発。
結局、戻ってくるのに二年かかった。
復帰戦は九着に敗れていた。
屈腱炎は競技者としての終わり。
あの強かったあいつはもういない。
その間に私はダートの王者として走った。
G1級六連勝も成し遂げ、強さの象徴として君臨した。
空き巣の王と呼ばれるつもりはない。
あいつに引導を渡すのが私の役割だと、そう信じていた。
───
あいつの走りは変わっていた。
怪我の影響で、その名のような、稲妻のごとき末脚は失われた。
それでも蘇った不死鳥は止まらない。
集団の前方を飛ぶように駆け、私の追撃を封じ込めた。
皮肉なものだ。
あいつに勝ちたくて。
——あいつのようになりたくて。
スピードに任せた先行スタイルから、後方からの差し足を活かすやり方を鍛えてきたのに。
初対決とお互いの作戦は逆で、結果は同じ。
私はまたあいつの背中を見ることしかできなかった。
───
負けたままではいられない。
…違う。あいつには負けたくない。
前走から三週間後に再戦の機会はやってきた。
私は変わらず一番人気で、
前走で復活したあいつは二番人気に評価を上げていた。
スタートして今回もすっと好位につけたあいつをすぐ後ろでマークする。
王者ではない、挑戦者の走り。
全てはあいつに勝つために。
最終コーナーで並んで先頭にとりつく。
そこからはあいつとの一騎打ち。
残り100mで前をかわすと私たちは身体を並べて駆け抜けた。
決着のクビ差が、どこまでも縮まらない絶望の距離だった。
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三章
打ち上げ花火、横から見るか、下から見るか。
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1. 見上げた英雄
変な夢を見た。
「…うげぇ」
詳しく思い出せないが、夢でまでなんか絶望感を味わった気がする。
「芝から離れて、ちょっとは落ち着いたと思ってたんだけどなー」
皐月賞で、
神戸新聞杯で、
ディープに感じた無力感のような、
胸を締め付けられるような感覚。
寝覚めは最悪だった。
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こういう時は走るに限る。
頭空っぽにして走っていれば、あら不思議。
身に覚えのないモヤモヤなんて、吹っ飛んでいく。
私は良くも悪くも切り替えられる性格のようで、さんざんぐちぐち悩んだわりに、ダートを受け入れつつある自分がいた。
結局走るのは好きで、
結果が出るのはうれしいのだ。
ダート転向は正解だった、と思う。
転向初戦はハナ差ながら勝利。
続く二戦目には重賞制覇。
三馬身差の快勝で、芝の落ちこぼれが一転、ダートの新星候補になっていた。
この勢いでもう一勝、と挑んだ重賞は雪の影響で中止となったが、
ダート転向後に二連勝。
来年に向けての希望を抱いて、年末を迎えられた。
今週末はディープが有馬記念に出走する。
無敗の三冠は有馬も制するのか?
世間はそんな話題でふわふわしていた。
大丈夫。
もう、嫉妬なんてないはずだから。
私は頂きに立つ幼馴染を下から眺めた。
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2. となりのプイプイ
ディープの走りは世間を熱狂に駆り立てた。
大出遅れから逆転した皐月賞。
五馬身差の独走で決めたダービー。
ゴールを間違えながらも、圧倒的にポテンシャルで押し切った菊花賞。
どこまで行けるのか。
その強さに誰もが夢を見た。
有馬記念。
夢の続きを信じて疑わなかった。
───
「負けたプイ」
「ハーツさん強かったプイ」
「えぇ…」
負けたディープを慰めにきたら、あまりにも普段どおりの姿で逆に引いた。
別に泣いていてほしかった訳じゃないけど。
「応援してもらえたのは嬉しいプイ」
「負けたのは悔しいプイ」
「だけど、走ったのは私プイ。
余分なものまでしょいこむつもりはないプイ」
ディープは軽く伸びをしながら答えた。
「ハーツさんはプイのこと、しっかり対策してきたプイ」
「だったら次はプイがハーツさんの対策をするプイ」
「そうすれば、お客さんはすごいレースが見れて、ハーツさんも強くなって、プイはもっと楽しいレースできるプイ」
プイプイ、プイプイ言いながら持論を展開するディープ。
決め台詞とばかりに立ち上がって、
「みんな幸せ、ハッピーハッピープイ!」
なんだこいつ、光か。
遠ざかったと思ってた幼馴染の変わらない姿に力が抜けて、思わず吹き出した。
「どーしたプイ?」
「いや、変わらないなって」
「当たり前プイ。プイはプイプイ」
「それで、ミリちゃんはミリちゃんプイ」
こいつはどこまで考えているんだろう?
ふらふら揺れてる幼馴染を見て思う。
「…なあ、ディープ」
「プイ?」
「プイプイうるさい」
「プイーっ!」
ありがと。
言葉にはしないけど。
「私、ダートのてっぺん獲るよ」
「それでこそ、ミリちゃんプイ」
幼馴染はプイプイ笑っていた。
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閑話
あいつがいなくなったダート界で、私は王になった。
G1級を初勝利した川崎記念から約二年、国内では無敗。
日本の代表として二度のドバイ遠征も敢行した。
誇りも栄光も掴んだ。
対戦した相手も強敵ぞろいだった。
それでもどこか埋められない渇きがあった。
それが何かは、分かっていた気もするし、
分かりたくなかった気もする。
ふとした瞬間いつも思い出すのは、私のG1初挑戦。
06年のフェブラリーS。
私の目の前を駆け抜けた稲妻が、目に焼きついて離れなかった。
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エピローグ
これから始まる大レース
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変な夢を見た。
私は夢の内容なんてほとんど覚えちゃいない。
ギリギリ覚えてても翌日にはもう気にも留めたりしなかった。
だけど、今日はバッチリ覚えていた。
「…2006年のフェブラリーSって、今日じゃん!」
これは予知夢なのだろうか?
…でもそれだったら勝つ夢が良かったなぁ。
「ヴァーちゃーん!
起きてるー?」
「準備はできてるのー?」
「その呼び方やめてよ!」
「もう起きるから!」
お姉ちゃんの呼びかけに、バタバタ身支度しながら答える。
今日は、私ヴァーミリアンがダートG1に初挑戦する記念すべき日だ。
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姉、サカラートに伴われレースに向けて準備を進める。
「いやぁ、こんな立派な妹を持ってあたしゃ鼻が高いよ」
お姉ちゃんは冗談混じりにそうこぼす。
私は重賞での勝ちっぷりが評価され、三番人気に推されていた。
「一番人気の子はヴァーちゃんと同期だけど、去年クラシック級でG1を勝って、最優秀ダートウマ娘にも選ばれてるの」
「すんごい強いから、当たってくだけてきなさいな」
「お姉ちゃんさぁ…」
緊張ほぐそうとしてくれてるんだろうけど、まったくこのお姉ちゃんは。
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レースの時間が近づき、ゲート裏に招集がかかる。
私は暴れる心臓をなんとか鎮めようと深呼吸し、周りを見渡す。
あっ前回私に勝った子。
お姉ちゃんは…
手を振らなくていいよ、もぅ。
うわっ、あの人、おっきいな。
緊張のせいか、ふわふわした感覚だった。
そんな中一際目を引く存在がいる。
堂々たる立ち姿。
明るい華やかな栗毛。
それと似合わぬ仏頂面。
勝負服は青、黒、黄色。
脳内のチャンネルが、スイッチが、ピントが。
うまく説明できないが、全てがつながった感覚だった。
「…夢の中の“あいつ”はあなただったんだね」
「ねぇ、カネヒキリ」
おぼろげだった、忘却の彼方へとやったはずの夢の記憶がつながる。
あれは予知夢だったのか、それとも単なる妄想か、異世界の記憶なんてのもドラマチックだ。
わからないものはわからないままで構わない。
それでも、きっと私はあいつに会うためにここにいる。
そんな確信があった。
夢の中の私は、いつもあいつの背中を見ていた。
こっちを見ろ、私を見ろ。
ーーそんな未来はごめんだね。
感情のままに歩き出す。
向かうはもちろん目の前の仏頂面。
あいつがこっちに気づく。
…やっとこっちを見たな。
初対面なのにそんな思いが浮かんできた。
「私はヴァーミリアン!」
「さあ勝負だ、カネヒキリ!」
はじめまして、我が生涯のライバル。