TS転生カードアニメ主人公母は、性癖とマナを破壊する   作:なほやん

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第十四話で息子を送り出します

 

 勝男のライフが、四枚になった。

 取った一枚を手札へ入れ、こちらへ向けないように揃え直している。

 

 次の私の番に、ヴァジュラで三枚、残る野菜で一枚。

 勝男のライフは全部割れる。けれど、とどめを刺す一体が残らない。

 

 息子はまだ、マナを五枚使える。

 

「四マナ! 来い、紅蓮竜!」

 

 小さな人形の隣へ、竜が降りた。

 これが、あの覇竜の下に入る。

 

 もう、こちらがライフを割ってくれるのを待っていない。

 喜んでいる場合ではなかった。

 

「ブラスト、行け!」

 

 先に出ていた爆走王が走った。

 私のライフを、二枚とも。

 

「ライフ・トリガー。もう一度、畑からライフへ」

 

 一枚は手札へ収める。

 もう一枚の力で、マナから《大地なる母》を抜いた。勝男に見せてから、新しいライフにする。

 

 一枚だけ。

 これで、次の一体までは止められる。

 

 しかし、紅蓮竜の上へグレンヴァルドが重なれば、二度来る。

 天使の守りを抜いた、あの竜が。

 

 勝男のマナは七枚。手札に覇竜があることも、知っている。

 覇竜は六マナ。ヴァジュラで二枚焼くだけでは、次に一枚置いて六枚。ちょうど間に合ってしまう。

 

「ターン、終わり!」

 

 人形と紅蓮竜は、出たばかりだ。

 休んでいるのは、爆走王だけ。

 私は一枚引いて、マナへ置いた。八枚になった。

 

「それは通さないわ」

 

 さっきライフから来た鎌の札を、二マナで使う。

 小さな人形が、刃を構えたまま倒れた。

 

 この子を残せば、覚醒を止めても、横から最後の一撃が来る。

 鎌を紅蓮竜へ使えればよかったが、あの竜を倒すには力が足りない。

 

 勝男は人形を墓地へ置いた。

 私の手札から、目を離さない。

 

「続けて三マナ。《大地なる母》」

 

 残していた野菜を、マナへ送る。

 代わりに、土の中で待たせていた九コストの竜を出した。

 

「《大地母竜ガイア・ラン》!」

 

 竜が首をもたげる。

 登場と同時に、勝男のマナを二枚、墓地へ落とした。

 

「そっちも出すのかよ!」

「まだよ。ヴァジュラ、爆走王を攻撃」

 

 攻撃の宣言で、さらに二枚。

 休んでいた爆走王が、竜の爪に砕かれる。

 

 七枚あったマナは、三枚になった。

 これなら、次に一枚置いても四枚。グレンヴァルドは出ない。

 

「勝男君のマナ、三枚! 覇竜の六マナまで、まだまだ遠いでヤンス!」

 

 勝男が、手札の右端へ指をかけた。

 出したかったでしょうね。

 私だって、あれとは戦いたい。

 

 でも、出させたら負けるでしょう。

 

 手札に残ったのは、《種まき》だけだった。

 

「ターンを返します」

 

 ◇ ◆ ◇

 

 勝男が一枚引いた。

 場の紅蓮竜を見て、手札のグレンヴァルドを持ち上げる。

 

 指が、一度だけ止まった。

 

「こいつは、また今度だ」

 

 四枚目のマナへ置いた。

 代わりに、今引いた札を紅蓮竜へ重ねる。

 

「覚醒! 《炎竜グレンハウル》!」

 

 それなら、四マナ。

 赤い竜が、翼を広げた。こちらも知っている。一度しか攻撃できない竜だ。

 

「手札は、これだけ!」

 

 勝男が、最後の一枚を見せた。

 二体目の《爆走王ブラスト》。

 

 ライフから取ったのは、それだったのね。

 

 マナを払わずに出し、登場時に引いた一枚を、そのまま捨てた。

 爆走王の炎が、ガイア・ランへ向かう。

 

 もう一度攻めるはずだった私の竜が、焼かれた。

 札を墓地へ置く。出したばかりで、一度も攻撃できなかった。

 

 勝男の手札は、なくなっている。

 場には、グレンハウルと爆走王。

 

 私のライフは、さっき自分で置いた一枚。

 

「グレンハウルからだ!」

 

 竜が動いた。

 攻撃と一緒に、勝男は墓地の《幼竜グレン》を抜き出す。

 

「相棒は何度でも、俺のところへ帰ってくるんだ!」

 

 山札の一番上へ戻した。

 私が倒した、小さな竜。

 

 最後のライフを、めくる。

 

「《大地なる母》!」

 

 未攻撃の爆走王を、マナへ送った。

 グレンハウルを選んでも、私の竜を入れ替えても、あちらの直接攻撃が残る。

 これを止めるしかない。

 

 代わりは、出せない。

 勝男のマナを確かめる。

 

 五枚。

 ずっとマナへ置いてきた大型。今置いた覇竜。どのモンスターも、それより重い。

 送ったばかりの爆走王は、七コストだ。

 

「出せるやつ、いねえよ」

 

 勝男が言った。

 マナを置く時と同じ、なんでもない顔で。

 

 序盤には、ドラコを戻して攻撃を止めた。

 今度は、戻すものがない。

 増えた一枚は、そのままマナに残った。

 

 ターンが返ってきた。

 次にあの子が引くのは、幼竜だ。出すには、三マナ。

 

 五枚から二枚焼いても、三枚残る。

 あの一枚がなければ、焼いて二枚。家で戦った朝と同じで、出せなかった。

 私が、一枚増やした。

 

 山札へ手を伸ばした。

 引いたのは、二枚目のヴァジュラ。

 

 これも覚醒竜だ。もう一体の速攻として横に出すことはできない。

 手札の《種まき》を使っても、増えるのは私のマナ。

 

 勝男のライフは四枚ある。

 こちらを向かせても、ヴァジュラ一体では届かない。

 

「ヴァジュラ。グレンハウルを攻撃」

 

 マナを二枚焼いた。

 続けて、休んだ竜を倒す。

 

 勝男はグレンハウルと、その下の紅蓮竜を墓地へ置いた。

 場には、何もいなくなった。

 

 グレンヴァルドを出すマナはない。

 覚醒元もない。

 それでも、あの小さな竜は出てくる。

 

 止める札は、なかった。

 

「この大地を、使わせに来たのね」

「母ちゃんだもん。とどめ、見逃さねえだろ」

 

 言いながら、勝男は私のカードを見ている。

 まだ、何かすると思っている。

 手札を伏せても、山札へ指をかけない。

 

「ターン、終わり」

 

 そこで初めて、一枚引いた。

 見えていた札を、残る三枚のマナで出す。

 

「幼竜グレン!」

 

 最初から知っている、小さな竜だった。

 家で戦った時には、この子を出す三マナを残さなかった。

 

 今は、ある。

 

 赤い翼が開く。

 出したばかりでも、攻撃できる。

 私のライフは、もうない。

 

「行け!」

 

 竜が、私へ届いた。

 

「参りました」

 

 勝男は、すぐには動かなかった。

 私の場と手札を、もう一度見る。

 

「勝った?」

「ええ」

「俺、母ちゃんに勝った!」

 

 だから、そう言っているでしょう。

 あんまり何度も言わないで。

 

 悔しいんだから。

 

 最後の大地を、墓地へ重ねた。

 次は、あの札を抜こう。代わりに——。

 

「父ちゃんを探しに行く。約束だからな!」

 

 私は、手札を伏せた。

 

「ええ。約束ね」

 

「勝者、大地勝男君でヤンス!」

 

 めく郎君の声が響いて、拍手が広がった。

 勝男が私へ手を伸ばす。

 握り返すと、また笑った。

 

 力いっぱい握られて、少し痛かった。

 私も握り返した。

 

 ◇ ◆ ◇

 

 手を離した、その向こうに黒い霧が立った。

 

「よくぞ、ここまで力を集めてくれた」

「えっ、父ちゃん!?」

 

 勝男が立ち上がる。

 拍手が途切れ、人垣が割れた。

 

 夫が、そこにいた。

 

「今から探しに行くとこだぞ!? なんでここにいんだよ!」

 

 返事はなかった。

 夫の目は、黒いままだった。

 

 床の下で、何かが唸った。

 壁際の箱から、黒い光が漏れる。レギオンは両腕を広げ、集まった子供たちを見渡した。

 

「この会場の下にも、龍脈は通してある。貴様らのバトルは、すべて我らの——」

 

 音が止まった。

 黒い光が、箱の中で明滅する。そこから先へは、一筋も流れなかった。

 

 レギオンが足元を見る。

 

「どうした。なぜ流れぬ!」

「その龍脈なら、私とめく郎君とカイト君で壊しておいたわ」

 

 めく郎君が、スマホを見せた。

 

「会場の持ち主に内緒で配線するのは、困るでヤンス」

「経路は切ってある。白鷺院の仕事に、抜かりはない」

 

 カイト君は、空になったおむすびの包みを卓へ置いた。

 二人とも、頼もしいわね。

 

「集めても、使えなければ仕方ないでしょう?」

 

 私は椅子を離れ、夫の前へ歩いた。

 

「これが私の、ランド・デストラクションよ!」

 

「貴様、どこまで我らを——」

 

 近づいても、夫の顔は私でなく、消えた光を見ていた。

 その頬へ、手を添える。

 

「こっちを向いて」

 

 向いた唇へ、口づけた。

 

「母ちゃん!?」

「ええええっ!?」

「こ、これは実況できないでヤンス!」

 

 離れようとした時、背中へ手が回った。

 

「蘭」

 

 レギオンの声ではなかった。

 

 目が、戻っていた。

 黒い霧は肩に絡んだままなのに、あの夜は握り返してくれなかった手が、私を抱いている。

 

「あなた」

「お前を狙っていたんだ」

 

 夫の声が急いだ。

 私の肩越しではなく、私を見ていた。

 

「あの時、俺から出た闇が、お前へ向こうとした。分かったんだ。次は、お前を欲しがっていると」

 

 あの夜、夫の肩から抜けた霧は、消えずに卓の向こうで止まっていた。

 何を待っていたのか、考えもしなかった。

 

「だから、もう一度……?」

「俺を使えと言った。お前に声をかける前に」

 

『お前が相手なら、俺でいる限り勝てない』

 

 私を見ずに言った言葉。

 そのあとも、手だけは振りほどかなかった。

 

「嘘だったのね」

「全部じゃない。お前に負けた俺を、捨てたかった」

 

 背中に回った手が、私の服を握った。

 

「最初に闇を欲しがったのは、俺だ。お前まで渡せるか」

 

 夫の服を掴んだ。

 聞きたいことが、いくつもあった。どこから訊けばいいのか、分からなかった。

 

「そんなこと、言ってくれなきゃ分からないわ」

「すまなかった」

 

 顔を伏せようとして、やめた。

 やっと私を見たのに、今度はこちらが隠してどうするの。

 

「続きは、帰ってきてからね」

 

 夫が、何か言おうとした。

 唇が動く。

 その目に、黒いものが戻った。

 

「離れろ」

 

 抱いていた腕から、力が抜けた。

 私は手を離した。

 

 レギオンが、止まった箱を一瞥する。

 

「龍脈が使えぬなら、我ら自身に宿せばよい。この大会の優勝者を倒し、そのバトルエネルギーを取り込んでくれる!」

 

 勝男が、私の隣へ来た。

 

「優勝したのは、俺だ」

「ならば、貴様が相手だ」

「俺が勝ったら、父ちゃんから出ていけ」

 

 レギオンが、勝男のデッキを見た。

 息子はケースを持ったまま、返事を待っている。

 

「よかろう。我らが負ければ、この男を解放する」

「約束だからな」

 

 ケースを開けた。

 さっきまで私と戦っていたカードを、もう一度混ぜ始める。

 赤いカードの間に、小さな竜が見えた。

 

「勝男」

 

 振り向いた息子へ、手が伸びた。

 襟を直そうとして、涙で指が濡れているのに気づいた。

 

「母ちゃん、泣くなよ」

「無理よ」

 

 勝男が困った顔をした。

 その顔まで、夫によく似ている。

 

「私に勝ったんだから、あの人になんて楽勝よ」

「おう。二人で帰るから、待っててくれ」

 

 楽勝なんて言ったくせに、また泣けてきた。

 

 あの朝は、旅支度のリュックだけが食卓に残った。

 私に負けて、泣きながら飛び出した勝男を、握り飯を持って追いかけた。

 あの時は、言えなかった。

 

 勝男が父の向かいへ座った。

 私は、二人の卓から離れた。

 

 こちらを振り返った勝男に、笑って手を振った。

 

「さあ、いってらっしゃい」

 

 (了)

 





 皆様のおかげで書き切ることができました。
 最後まで見届けていただき、本当にありがとうございました!!

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