──オモチャ屋、【ホビースクエアにこみ】
「おじゃましまーす。」
「いらっしゃいませ──やぁ捲クン。新弾パックはいつものとこにあるよ〜。」
ここは俺が二年前から通いつめているオモチャ屋だ。
【バトル・ウィザーズ】のみのカードショップなどとは違いラジコンやフィギュアなど他のオモチャが主流な分、カードの入荷数も少ないし、バトルスペースは小さいテーブルにパイプ椅子が1セットのみというところはあるが、その分レアなカードが埋もれていることも多い。
「ありがとうございます、火座さん。後で5パックほど買いますよ。その間に買取の査定をお願いしてもいいですか?」
「はいはい……またアンティバトルばっかりしてたのかい?まだ若いんだし、そんな敵を作るようなことはやりすぎない方が良いと思うけどねぇ。」
「アンティだけじゃなくて大会の景品や、パックから出たやつもありますよ……俺だって四六時中アンティバトルしてるわけじゃないんで。」
ここの店長──【
「やっぱ強いねぇ捲くんは。この前も新聞に乗ってたよ?『12歳の天才バトラーが、またしても大会で優勝!最年少プロ入りなるか!?』って見出しで。」
「外野は好き放題言えますよ……俺にはそんな実力はありません。その大会のバトルも全部ギリギリの勝利でしたし、大会じゃないですがこの前一度負けましたし。」
「えぇ!?捲くんが負けたって言うのは初めて聞いたねぇ。オジサンにも勝てるぐらい強いのに。」
「《工場潰し》使いが何言ってるんですか。あなたに勝てたのはたまたまですって……おっ《分裂する虚言》だ。チビ共用に買ってこ。」
ストレージのカードを見ながら火座さんと世間話を繰り広げる。火座さんは元プロバトラーで、この店もプロ時代に稼いだ金と伝手で作り上げたらしい。
今は閑古鳥が鳴いているが、売上はギリギリ黒字で済んでいるので大丈夫だろう。俺もしょっちゅうパック買ってるし。
「《星砕き》……《堕落のらせん》……ん、《異界のみなしご、エーテルエターナル》。これ結構強いと思ったけど、捲くん達の方で使う子はいなかったのかい?」
「火座さん……うちらの出身分かるでしょ。孤児院育ちが《みなしご》テーマは使いたくないんですよ。」
「……ごめん。失言だった、ちょっと買取に色付けておくね。」
そう、俺はこの世界に生まれ落ちた後、どうやらすぐに捨てられたらしい。
孤児院の門前に居た赤ん坊の俺を拾い上げてくれたのが、俺の親代わり……【
以降俺は、同じく親に捨てられた孤児院の仲間達と共にバトルの腕を磨き、金を稼ぐために大会に参加したり、アンティバトルを仕掛けたりしていた。
手に入れたカードは孤児院の仲間に渡したり、火座さんに売ったりフリマアプリで売って金にしている。
ここ以外だと買取の時に神父やシスターに付いてきて貰わないと売れないから面倒くさいんだよな。
「……言っとくけどウチも本来は保護者同席の上買取だからね?捲くんはちゃんとカードの価値知ってるし、神父さんも了承してるのは知ってるから毎回手続きは省いてるけど……ほら、査定終わったよ。」
おっと、ちょっと思考が漏れてたようだ。ともかく呼ばれたのでパックとストレージのカードを持ってレジ前に行く。
「はいじゃあまず買取の査定からね。《星砕き》が2500円、《堕落のらせん》が1万5千円。で《異界のみなしご、エーテルエターナル》が14万円……なんだけどちょっと色付けて15万円。総額167500円になります。お確かめください。」
「ありがとうございます。」
封筒に詰まった札と硬貨を受け取る。ずっしりとした重みがたまらない。
やっぱレアカードは金になるぜ。
特にレジェンドカードはいい値段が付く。《
レジェンドカードはデッキ構築の際、他のカードは同名3枚まで入れられるところ、同名1枚しか入れられないし、オマケに何らかの効果で増やしても場には1枚しか存在出来ないという仕様があるが、その分効果は強力だ。
特に【
「そんでパックとストレージのお買いあげで、パック5点で3千円円、ストレージが10枚で百円。合わせて3100円になります。支払い方法は現金だよね?」
「ですね、現金で払います。」
封筒から2500円と、財布から千円を取り出し、火座さんに渡す。
「3500円いただきまして、お釣りが400円です。パックに袋はいらないよね?ここで開けていくでしょ?」
「はい、ちょっとバトルスペースお借りしますね。」
黒フィルムに包まれたストレージのカードとは別にパックを受け取る。
いつの時代もパック開封というのは楽しいものである。
ちなみに【バトル・ウィザーズ】のパックは1パック税込600円。
内容はファクトリーカード2枚、メインカード8枚。
基本パックは色やレアリティは完全ランダムの闇鍋仕様である。
そのため自分の使う色やテーマのカードを狙って引き当てるのは難しく、だいたいがシングル買いかカードショップのデッキ販売、もしくは今回買ったパックのようなセレクションパック──特定のテーマが出やすいパックを買うしかない。
今回買ったのは【POWER OF TEAR】。テーマでは《エレクトリカル》《ジェノシック》《
まぁ俺にはこの3テーマはいらないので、出たら仲間に渡すか翔太に渡すか、火座さんに売るかになるな。
「《湖》、《エレクトリカル・ワンダーランド》、おっ《絶え間なき否定》。《唇と目元の熱化粧》、《ジェノシック・ゲノムハート》、《手こずった埋葬》、《催眠術・
これだ。俺がパックを剥くと、基本パックだのセレクションパックだの、
こういう現象はたまにあるらしく、曰くカードが持ち主を選ぶと言われている。
歩美さんの《ジェネレイト》とか翔太の《姫騎士》とかもそうだな。
俺の場合だと《Neo》だけじゃなく、その他のテーマや汎用のコントロール奪取まで含まれるのが珍しいらしいが。
まぁ出たからにはありがたく使わせて貰おう。次のパックでは何枚出るかな?
そんな事を考えていると、店の扉が開いた。
「いらっしゃいま──捲くん!伏せてっ!!」
火座さんの声を聞き、即座にテーブルに伏せる。その瞬間、俺の上を黒い影が通り、壁に穴を開けるのが見えた。
「……おいおい避けんなよ。一撃で仕留めてやるつもりだったんだからよぉ。」
ぬるりと入り口から入ってきたのは、ボサボサの長髪を腰まで垂らし、全身真っ黒コーデの男……シンプルにダサいな。
「【
「んー?どっちでもねぇよ。俺はただそこのガキに用があるだけだ。ケガしたくないなら引っ込んでな。」
【ゲートウォーカー】は聞いたことあるな……確かアニメ版の敵組織だったはず。
まぁあっさり歩美さんが滅ぼしてたはずだけど。この世界ではまだあるのか?
「捲くんには手を出させない!バトルなら私が相手をする!」
火座さんがディスクを展開し、デッキを取り出そうとする──のを引き止める。
「大丈夫です、火座さん。こんな奴なら俺でも勝てますよ。」
「駄目だ捲くん!さっき見ただろう、アイツが持つ【邪道カード】は実体化し、世界を破壊する力を持つ闇のカード。バトルなんてしたらキミの精神が汚染される可能性もある、普通の相手じゃないんだ!」
「ヒャハハ!おいおい、黙って聞いてりゃガキはやる気みてぇじゃねぇか。なら話が早いぜ、さっさとバトルしようじゃねぇか。」
男は見たことない形のディスク──多分【違法ディスク】だろう。明らかに邪悪なオーラ発してるし骸骨の装飾付いてるし。めっちゃダサい。
ピピッという電子音と共に、目の前にアンティルールが表示される。
『アンティ──勝者は敗者に絶対服従となる。』
「ん、ちょっといいか?」
「あ?なんだ?」
「こんなアンティ認められるわけないだろ、セキュリティに弾かれるはずだ。」
アンティのルールはあくまで法が許す範囲で執り行われる。
そもそもバトル参加者双方の同意が必要だし。
「おいおい、これは闇のバトルだぜ?法なんか関係ねぇんだよ!そもそもテメェの同意もいらねぇんだ、ハナから拒否権なんてねぇ!」
その言葉と共に、無理やり俺のディスクが展開され、バトルフィールドが展開され始める……なるほどハッキングみたいな効果もあるのか。
じゃあ安心してブチのめせる。
犯罪者はブタ箱に投げ込んでやるよ。
「「バトル!!」」
あの人だって悪いのよ。
──《最後の一押し》