俺の相棒だけ擬人化実装されてないんだけど! 作:寝室にドラゴンが突っ込んで来た!
『ドラゴ・マギカ・クロニクル』はエッチなブラゲーなので、敗北時にも特定のシーンが流れる訳だが、俺はあまり心配をしていなかった。
シンキとハクテイが毒牙に掛かる可能性はあったが、ドラゴンの蹂躙ぶりを見るに杞憂であったと思っていた。思っていた。
「嘗めるなっ!! いいや、俺のを舐めろ!! メス魔獣!!」
「ギャアアアア!!」
俺が見ている光景について事実だけを話そう。
全裸姿のハゲた大男が、ドラゴンの臀部にしがみ付いている。あまつさえ尻付近に何かを探している様にも見えた。
「見つけた! 肛門だ!」
噴いた。あまりに悍ましい光景にシンキとハクテイはおろか、この倒錯ハゲ大男――多分、原作的に言えばプレスなんだろうけれど――を追いかけて来た邪竜信者達も恐れ、慄いていた。
「やりやがった!!」
ユーザーからはエッチなシーンを見せてくれるおじさんとして好意を抱かれる反面、寝取って来る人間の屑として殺意を抱く者も多い。
だが、今の俺にあるのは好意でも殺意でもない。自身の背負った役目を命がけで全うする人間に対して、奇妙なことに敬意に近い物を抱いていた。
「カラバ! 援護!」
「え、いや。でも、動きが激しすぎて狙いが定まらない!」
プレスを振り落とさんとドラゴンが全力で暴れているのだが、まるで自身の存在を刻印(プレス)するかのように張り付いている彼は間違いなく邪竜信者有数の強者だった。
「うぉおおおお! プレス様こそ邪竜信者の志を体現した男! 助けるぞ!」
今まで見学していた邪竜信者共は変な感銘を受けたのか、突っ込んで来た。ドラゴンに一蹴された相手であるが、まともに戦えばそれなりに強い。
「シンキ。カラバ。この人達、強い」
「強いね。カラバ。このままだと圧し潰される」
まさか、真っ当に危険な目に遭うとは思わなかった。ドラゴンに頼り切っていた弊害か。強いのは俺じゃないのだから。だったら、どうするか?
今更、シンキとハクテイと協力して颯爽と片付ける。なんて方針が上手くいく訳が無い。まず、俺が足手まといだ。
「(力の限り暴れるだけの魔獣と違って、相手は人間。それも蹴散らして来た雑魚達とは違う)」
体表を覆う竜燐の面積に加え、動きに関しても連携が取れている。戦闘経験は向こうの方が遥か上、ならば。
「シンキ! ハクテイ! ドラゴンの方に向かうぞ!!」
「分かった!」「分かった!」
俺達じゃ勝てないなら、やはりドラゴンの力を借りるのが一番だ。未だに暴れ回っているドラゴンへと駆ける。
「アイツら死ぬ気か!!?」
邪竜信者達がピタリと止まる。戦いの余波に巻き込まれることを考えれば、賢明な選択だ。――今の俺は賢明じゃない。懸命だ。
「ギャアアアアアアアア!」
「ウォオオオオオオオオ!」
ビターン、ビターンと全身を打ち付けている。もしかして、腰を振っているのかもしれない。プレスには何が見えているんだろうか? ……理解した瞬間SAN値が減りそうなので知らなくていい。
「カラバ!」「腕!!」
ドラゴンが振り回している腕が当たりそうになるが、俺の呪文に淀みは無い。授業中、教授に言われたことを思い出す。
『真摯ではない。考えることを放棄している』
コミュニケーションも交わそうとせず、生き残ることばかりを考えている俺を戒めようとしてくれたのだろう。だけど。
「こちとら! コイツに学園内DV受けて来たんだよぉおおお!!!」
言葉が交わせる相手でないなら、こちらが合わせるしかない。コイツがどんな風に暴れたりするかというのは、俺が一番見て来た。
「ハクテイ!! 俺とシンキを抱えて垂直に飛んでくれ!」
「ハクテイ!」「了解!」
シンキと俺が呪文のバフにより、俺達を抱えたまま跳び上がった。
ドラゴンは暴れる時、大抵は地を叩く。俺に飯のおねだりをする時も癇癪を起した時も大体同じ行動をしていた。
舌を噛まないようにして、ハクテイに抱えられたまま。俺は彼の背中に着地した。そこには全裸で這いずるプレスの姿。大事な部分が竜鱗で覆い隠されているのは、何かしらの配慮だろうか? ――それよりも言いたいことがある。
「よくも俺の相棒に手を出しやがったな変態野郎! ぶちのめしてやる!」
「ほざけ! 貴様ら全員、俺の奴隷にしてやる!!」
クソ野郎だとは思うが、ここまでブレないのは本当にすごい。
足場が大人しくなったのはドラゴンが俺を信用したから。……ではない。いつもの奴だ。シンキに耳打ちをして、ハクテイに頼んだ。
「このまま突っ込んで来た相手を引っ張りこんでやれ!!」
「分かった! シンキ!」「こっちも大丈夫!」
「なっ!?」
突っ込んで来たプレスとしては不意を突かれた形になるだろう。まさか、引っ張りこまれるとは思わなかったのだから。そのまま全員で後ろに跳んだ。
「防御壁!!」
尻尾側にいた俺達が後方へと跳べば、当然落下していくことになる。相手の嗜虐に満ちた笑みが見えた。
「馬鹿め!! 地面に激突させた位で俺を倒せると思うなよ!」
「俺も思っちゃいねぇよ。お前が探しあてた肛門でも拝んでな!」
振り返ったプレスは見た。ドラゴンの肛門がヒクついているのを。当然のことだ。ここに来るまでの間で随分と食い散らかしていたのだから。
俺、シンキ、ハクテイは助かる。何故なら防御壁を展開しているから。だが、如何に屈強な肉体を持っていたとしても奴は助からない。
「待」
無慈悲な排泄音が響いた。詳細は省くが、俺達は防御壁を張っていたので難を逃れた。だが、奴は全身が茶色くなっていた。あまりに惨い。
「ぶ、ぶち、殺……」
しかし、クソに塗れた所で不快感や衛生の問題はあるが直ちに戦闘不能になる訳ではない。変化は間もなく現れた。
「うっ……!?」
「ホテル・ドラマギ学園にしようとしたお返しだ。お前らの触手生物入りのクソを食らえ」
「お“おっほぉおおおおおおお!!」
全身から異臭を放ち、よがるハゲの大男。間違いなく、この場にいる全員の視界を冒していた。決着だ。
「カラバ。臭い」
「カラバ。早く帰ろう」
「……コイツを捕えてからな」
見れば、俺達と戦っていた邪竜信者達の姿は無かった。この状況で逃げ出す奴を誰が責められようか。
シンキとハクテイからは嫌がられたが、ドラゴンの尻尾にロープで括りつけて、学園へと戻って行った。道中、プレスの喘ぎ声が止まらなかった。
――
「いやぁ! まさか、邪竜信者の幹部である『プレス』を捕縛するなんて驚いたよ! マスター達もアイツには手を焼かされていねぇ!」
数日後、ヤウナー教授がノリノリで後始末を聞かせてくれた。
捕えられたプレスは心を折られたと言ってもよく、ベラベラと知っていることを話してくれたらしい。
「ついでにあの魔獣の糞をもう一度浴びたいと言っていたよ」
「勘弁してくれ……」
アイツだけミュータントレベルの存在感があるのは何なんだ。二度と娑婆に出て来ないで欲しい。それともう一つ気になることが。
「そんな大悪党を捕まえたのに、俺を表彰したりする話が全然上がって来ないのはどうしてですか?」
「いや、だって君。敵のボスをクソと媚薬塗れにして捕まえたという話を公にできるかね?」
「そうですね。……いや、じゃあ報酬金は?」
「アレだけ環境破壊して、そんな物が支給される訳が無いだろう」
骨折り損のくたびれ儲け過ぎる。俺が頑張った意味は何だったんだと思って落ち込んでいると、教授に肩を叩かれた。
「なので。私のポケットマネーから君にね」
「教授……!」
スッと金貨の入った麻袋を渡された。ずっしりと重い。今日は久々に贅沢ができそうだと思っていると、横からジーっと見つめて来る視線。
「カラバ。私達も頑張った」
「私達にも報酬があって然るべき」
シンキとハクテイが教授に金銭を要求していたが、いつも不敵な面をしている彼女が珍しく顔を歪めた。
「いや、それで全部だ。3等分してくれ」
「……教授。2人の分、忘れていましたね?」
視線を逸らされた。今回の依頼はシンキとハクテイの協力があって成功した物だから、当然彼女達と山分けするつもりだが。
「じゃあ、買って来るね」「買いに行こうね」
「何を?」
「ここでランチ会」「ここでパーティー」
2人の視線の先には鼻提灯を作って寝ているドラゴンの姿。言わずもがなMVPはコイツに他ならない。……主賓を除いての祝勝会はあり得ない。
「じゃあ、食堂に行くか」
「ついでに私の分も出してくれるとありがたいねぇ」
「もちろんですよ」
序章の終わりだって言うんなら、もう少し何か手元に残る物があっても良いんじゃないか思いながら、俺は皆と一緒に食堂へと言った。
もしも、面白いと思って頂ければ評価、感想、お気に入りして頂けるとモチベーションになります!