TS少女は演じたい 作:息抜き
追加評価の翌日、久世透の机の上には、三人から届いた所見が置かれていた。
本社の机には、六月公演の制作資料も積まれている。
白瀬真琴の評価が揃うまで、他の仕事が待ってくれたわけではない。
午前中の打ち合わせを終え、ようやくまとまった時間が取れたところだった。
新人開発担当から届いたファイルには、実施記録と、映像、写真、音声が分けて収められていた。
それに加えて、三つの報告がある。
高瀬直人、鳴海亮介、三枝朱里。
三人に直接見てもらい、その結果を持って、改めて起案する。
先日の経営会議で認められたのは、ここまでだった。
久世は、高瀬の文書から読み始めた。
身体・ダンス 担当:高瀬直人
ダンスの技術は、現時点では明確に初心者です。
動きの順番は理解できますが、足、腕、身体の向き、拍を一緒に扱うと遅れます。
以前教わった重心移動も、別の動作と組み合わせると使えなくなるため、基礎が身についているとは言えません。
一方、動きを分けて原因を説明すると、何を直すべきか理解して反映できます。
今回も、足だけをゆっくり動かす条件では修正でき、レッスンの終盤には本人が思い出して直すところまで確認しました。
身体能力に特別な高さがあるという評価ではありませんが、基礎から段階的に教えていくことは可能です。
見本だけを追わせるより、動きの理由を本人が理解できる形で進めた方がよいと思います。
ダンス面から見る限り、現状のままLumière Paletteへ加入させることは不可能です。
まず個別に基礎を積み、別の日にもできるか、動きを組み合わせても使えるかを見ていく必要があります。
五人の通常レッスンへそのまま入れられる状態ではありません。
予想していた通りの内容だった。
通常の新人講師が「初心者」と見ていたものを、一時間見ただけで別物へ変える魔法など、高瀬も持っていない。
そんな結果を期待して頼んだわけではない。
それでも、もう少し近ければ、と考えなかったわけではなかった。
どちらか一方でも、技術の差が小さければ。
少なくとも、短い振付なら早く覚えられるという所見があれば。
久世は、その考えを脇へ置いた。
欲しかった結果と、届いた結果を混ぜるために専門家を呼んだのではない。
添付された映像を再生する。
足だけならできたものが、腕を戻すと崩れる。
高瀬の所見にある違いは、映像でもはっきり見えた。
続いて、鳴海の報告を開いた。
声・歌唱 担当:鳴海亮介
歌唱技術は初心者です。
音を聞いて同じ高さで返すことや、短い旋律の音程には、大きな問題はありませんでした。
しかし、息の使い方、音を保つ長さ、語尾の終わらせ方が安定していません。
現状は、楽曲を使って歌唱指導する段階には達していません。
呼吸と発声、決められた長さで声を保つところから指導を始める必要があります。
台詞では、相手や状況に合わせて声色を細かく変えられます。
ただ、それを歌へ持ち込むと、狙った声のまま音を保てなくなります。
今回も、長さを保とうとして最後だけ声を戻す場面がありました。
演技として声を扱う技術が先に進み、歌唱技術が追いついていない状態です。
声色の感覚は今後生かせる可能性がありますが、まだ歌唱の中で使える技術としては数えられません。
基礎から順番に教えることは可能です。
ただし、今すぐ五人と同じ歌唱を担える段階ではありません。
こちらはさらに手前だった。
音声を聞き始める。
台詞としての「ありがとう」は、指示の前後で受け取る印象が変わっていた。
それが旋律へ戻ると途中で細くなる。
最後を保とうとして、声が変わる。
鳴海は音程が取れることを否定していない。
声を使い分けられることも認めている。
その二つがあっても、歌唱を任せられるとは言わなかった。
録音の後半には、短い母音を繰り返す真琴の声が残っていた。
曲の続きを仕上げるのではなく、そこへ戻している。
久世は再生を止めた。
歌とダンス。
どちらも、現在の五人と同じ仕事を担わせることはできない。
その判断は揃っていた。
最後に、三つ目の文書を開く。
カメラ表現 担当:三枝朱里
二月のカメラテストで見えた強みは、今回も確認できました。
視線、表情、呼吸、間を使って見え方を変えること、必要な部分だけ修正してほかを残すことには、引き続き高い適性があります。
カメラ表現については、明確に才能があると評価しています。
写真では、細かな表情の指定にもよく対応しており、顔の表現について追加で直すところはほとんどありませんでした。
一方、身体の向きや姿勢、全体の見せ方には、まだ教えられることがあります。
初期より伸びているのは、自分が行ったことを説明する力です。
「どう見せたかったか」と「実際にはどう映ったか」の違いまで具体的に話せるようになっています。
今回も、本人が挙げた修正点と、やり直した映像の変化が一致していました。
元々の感覚が薄くなるのではなく、自分で使い、直せる技術として強くなっています。
ただ、相手の反応より先に、次の表情を用意する癖は残っています。
見え方を先に組み立てられる強みと、同じところから出ている課題だと見ています。
準備する力をなくすのではなく、実際の相手を見て、用意した表現を使うか変えるかを選べるようにする必要があります。
今回は、指摘後に本人が原因を説明し、修正まで繋げられました。
短い課題での修正と再現について、評価は初期より高まっています。
特に、表情という一点においては、五人が参考にできるだけの説明ができる状況にあります。
写真を開く。
ほとんど同じ姿勢の真琴が、何枚か並んだ。
落ち着いた表情。親しみを感じる笑顔。その柔らかさを残し、笑みだけを弱めたもの。
どれか一枚だけ、偶然よく撮れたのではなかった。
三枝が何度も確認したくなる理由は、久世にも分かった。
同時に、相手がまだ何も言っていないうちに、安心した顔が出る映像もあった。
できる。しかし、いつ使うかを間違える。
三枝は、そこを直した後の映像まで残していた。
久世は三つの報告へ、もう一度目を通した。
二つの低い評価と、一つの高い評価。
そう数えて平均を出すものではなかった。
カメラ表現がどれだけ強くても、歌唱の息は長くならない。
足が遅れなくなるわけでもない。
逆に、歌とダンスが初心者であることは、写真の中でできていることを消さない。
久世は新しい文書を開き、最初の判断を書いた。
現時点での正式加入は不可。
その一行には、迷いはなかった。
————
資料を読む手を止め、久世が廊下へ出た時、エレベーターの方から聞き慣れた声がした。
「だから、お腹すいたって言ったのは、終わってからだって」
「最後の写真の前に言ってたのも聞いたんだけど?」
「ひよりちゃん、それは小声で」
「私にも聞こえた」
静かな声が加わり、そのあとに笑い声が続いた。
雑誌の取材を終えたLumière Paletteの五人……小日向ひより、橘美月、神谷玲奈、雨宮澪、桜庭夏希が戻ってきたところだった。
マネージャーの早川理沙の姿も見える。
五人は次の仕事の資料を受け取ったら、今日はここで解散する予定になっていた。
「お疲れさまです」
最初に久世へ気づいた玲奈が会釈した。
他の四人も、それぞれ顔を上げる。
「お疲れ。取材はどうだった?」
「予定どおり終わりました。最後の集合写真だけ、何枚か追加になりましたけど」
玲奈が答える横で、美月が笑っていた。
「その待ち時間に、夏希がお腹すいたって」
「ほら、待ち時間だって。撮ってる時じゃない」
「待ち時間”も”でしょ」
ひよりが言うと、玲奈がまた笑った。
「そこはちゃんとしてた……はずだから」
夏希が言い返す。
澪は頷きながら、鞄へペットボトルをしまっていた。
久世も少し笑った。
美月がひよりの方へ身を寄せ、帰りに何か食べていくかを聞いている。
夏希がすぐにそちらへ顔を向けた。
「私も行っていい?」
「もちろん!澪先輩と玲奈さんはどうします?」
「私は帰ります。明日の準備もあるので」
「私も、今日は帰る」
「了解です。じゃあ私たち三人で!」
それで話が決まったらしい。
一緒に行く三人も、帰る二人も、特に何かを説明し足そうとはしなかった。
早川から資料を受け取ると、玲奈が一か所を開いた。
「六月のライブの曲順、これが最新版ですね」
「はい。変更したところには印をつけてあります。確認は次のレッスンで」
「分かりました」
五人は挨拶をして、再びエレベーターの方へ向かった。
閉まりかける扉の向こうで、美月が何かを言い、ひよりが短く返す。
夏希が笑ったところで、姿が見えなくなった。
誰かが足りないようには見えなかった。
仕事の話をし、遠慮なく軽口を言い合い、帰る人と寄り道する人に分かれる。
そのやり取りを、久世は何度も見ている。
五人で、十分に成立していた。
次の一人を加えれば、もっと賑やかになる。
そんな理由で動かせるものではなかった。
「久世さん」
早川の声で、久世はそちらを向いた。
「白瀬さんの所見、揃ったそうですね」
「ああ。ちょうど読んでいたところだ。少し相談してもいいか?」
「大丈夫です。私も、今後の枠をどう考えているか伺いたかったので」
久世は頷き、打ち合わせ室へ戻った。
————
早川が向かいに座ると、久世は三人の報告を渡した。
先日の経営会議で検討が認められたことと、今回の追加評価については、彼女にも必要な範囲で共有してあった。
仮に真琴を追加する場合、そのマネジメントをするのは早川だ。
どこかで共有することは避けられない。
六月に過去最大級のライブをする以上、五人の心身の状態も重要になる。
彼女の仕事への姿勢は信頼している。
ここで共有し、それらも共に判断してもらう。
そういう判断だった。
ただし、真琴の窓口は、まだ新人開発担当のままだ。
早川は、まず高瀬と鳴海の所見を読んだ。
続いて三枝の報告へ目を通し、紙を机へ置いた。
「五人のレッスンへ、そのまま入れる案ではないですね」
「ああ。それは無理だな。個別の基礎指導から始めるつもりだ」
「合同で何を見るつもりですか」
「最初は、その時点で取り組める短い課題からだな。他の人とタイミングを合わせたり、相手の歌や動きを受けながら、自分の表現を残せるかを見たい。五人の本番稽古に混ぜて、ついてこられるか試すつもりはないよ」
早川が頷いた。
「六月公演の準備は別に残してください。今の通し稽古を削って、白瀬さんの基礎に回すことはできません。本人たちも表には出していませんが、六月の規模は相当意識してますので。不要な負担を増やしたくないです」
「そこは分けよう。毎回五人全員を揃えるんじゃなくて、内容によっては少人数の枠も使いたいと思ってる。仮に合流させるとしても、五人と合同で出来るのも、六月の公演が終わるまでは基礎部分までだろうな」
「それなら、組み方は検討できます。ただ、五人と先生方の予定が合えば成立するわけではありません」
早川は、実施記録の学校の欄へ目を落とした。
「白瀬さんの通学と移動を入れた予定が必要です。今までの演技レッスンに、歌とダンスをそのまま足すと、かなり変わります」
「新人側に、組み替えられる部分と残したい部分を出してもらう。映像の育成も続けたいからな」
「では、そこも含めた一週間で見たいです」
久世はメモを取った。
五人の空き時間へ新人を置く。
それだけなら、予定表の上には枠を作れる。
しかし、その枠へ来るために、白瀬真琴が学校からどこへ移動し、何時に帰るのか。
前後に何を教わり、翌日に何があるのか。
そもそも週に何度来てもらうのか。
そこまであらかじめ考えておかなければ、実施できる計画にはならなかった。
「高瀬さんと鳴海さんの継続枠も、改めて相談が必要ですね」
「そうだな。今回頼んだのは評価までだ。基礎をどう進めるか、普段の講師にどこまで任せるか、どのくらいの間隔で直接見てもらうか。そこから相談しようと思ってる。今の契約でできる分と、追加で必要な分も分けておくよ」
「その方がよいと思います。指導の方針が揃っていれば、全部をお二人が直接見る必要はないでしょうから」
早川は、高瀬の報告をもう一度見た。
「五人は、会えば手伝うと思います」
「そうだろうな」
「でも、小日向さんが気づいて教えてくれるから、その分だけ講師を減らせるなどという計画にはしないでください。というよりも、彼女らからの補助はないものとして計画を組んでいただきたいです」
久世は頷いた。
「ああ。そこを当てにして人数を減らすつもりはない」
「本人たちが一緒にやりたくて残る時間も、必要になったらこちらで考慮しますので」
早川は、実際に何が起きるかを深く考えてくれていた。
ひよりが気づけば、相手へ伝える。
夏希なら、隣で動いて見せるかもしれない。
玲奈は全体の進みを確認し、美月は話へ入りやすいよう声をかけ、澪は必要なところで歌って聞かせるだろう。
それらは、今も五人の間で行われていることだった。
ただ、新人へ向ける場合には、必要になる回数も時間も比較にならない。
五人が快く引き受けることと、負担がないことは別だった。
「最初から長い期間をまとめて組むつもりはないんだ」
久世は言った。
「まず六月の公演前後で区切って、技術の変化と、本人と五人の負担を見直す。続ける場合も、その結果を見て組み直そう」
「途中で回数を減らすことも含めて、ですね」
「ああ。予定を前提にはしない。新人本人も、五人も、休んだ分をあとから詰め込むようなことはしない。状況を見て休ませる権限は、六人全員分、今まで通り早川に持っていてもらいたい」
早川は少し考えてから、頷いた。
「では、具体的なことは新人開発側とすり合わせます。今の時点で、無理なく全部組めるとはまだ言えませんが」
「それでいい。何が揃えばできるのか、そこをはっきりさせて実施案に入れたいんだ」
早川は、三枝の報告を手に取った。
しばらく読んでから、久世へ目を戻す。
「久世さんは、候補化を提案するつもりなんですね」
「ああ」
答えたあと、久世は少し間を置いた。
「正式加入では、現時点ではリスクがメリットを上回っている。代表はもちろん、私自身でさえも、五人に不要なリスクを強いることを否定できない。だから、加入を決めてしまうのではなく、候補として育てるところまでを提案する」
久世は言った。
「本人が、そういう活動をやってみたいと思うかも含めてだな」
早川が報告を机へ戻した。
「そこは、こちらの説明次第でも変わりますね」
「ああ」
「専門家にこれだけ見てもらったから、と引き受ける話にならないようにしたいです」
久世は、新人開発担当から受け取っていた面談記録を思い出した。
真琴はFOLIOのスカウトを受けたこと自体に対して、才能があると言われた理由を知りたいと答えていた。
追加評価の説明でも、できていないところをどこから直せばよいか知りたい、と話している。
それは、レッスンへ参加する理由だった。
アイドルを選んだという記録ではなかった。
「映像の育成を続ける選択肢も、一緒に伝えるよ。こっちを断ったら、今までの話もなくなるとは思わせたくないからな」
「お願いします」
早川は立ち上がり、資料を揃えた。
「五人にも、実際に何を一緒にやるのか分かる状態で話してください。新しい仲間になるかもしれない人がいる、だけでは、どこまで自分たちが関わる話なのか分かりません。不安を煽るだけになりかねませんから」
「分かった。提案が通ったら、本人への説明と合わせて段取りを組もう」
「よろしくお願いします」
早川が部屋を出る。
久世は、閉じた扉を少し見てから、作業へ戻った。
————
文書には、まだ一行しか結論を書いていなかった。
現時点での正式加入は不可。
その下へ、候補としての育成を提案する理由を加えていく。
カメラ表現には、複数回の確認を通じて一貫した強みがある。
指導後も失われず、本人が説明し、修正できる範囲は広がっている。
現状初心者と言っていい歌とダンスにも、基礎から指導を進める余地がある。
ただし、学習できること自体は、真琴だけの特別な才能ではない。
それだけなら、他にも候補はいる。
歌を覚えるのが早い新人。
ダンス経験のある新人。
そのどちらも、真琴よりすぐに本番へ近づけるだろう。
久世が真琴を提案する理由は、別にあった。
五人の誰かに近い人間を一人増やすのではなく、現在の五人とは異なる表現を持ち込める可能性がある。
そのために、今足りないところへ時間を使う。
順番は、そこだった。
映像や広告の仕事からグループを知る人が増える可能性も、期待効果へ記した。
一人の出演作をきっかけに曲を聴き、他のメンバーを知り、ライブへ来る。
逆に、グループで真琴を知った人が、彼女の映像の仕事を見る。
そうした行き来を作れることは、FOLIOが個人とグループの両方を育てる利点でもある。
しかし、まだ役を取ったわけではない。
広告の依頼が来ているわけでもない。
将来の個人仕事の売上を、今回の育成費を埋める収入としては置くことは、当然できない。
必要な費用は、必要な費用として出す。
指導、施設、記録、日程調整。
通常の育成から組み替えられるものと、追加になるものを分け、必要な稼働を別紙へまとめた。
さらに、候補化の先にある負担も書いた。
正式に加入させるなら、変わるのは真琴一人ではない。
歌割りも、フォーメーションも、覚え直すのは既存の五人も同じだった。
机の端にあった六月の資料を、久世は引き寄せた。
八千席を二公演。
今の五人で積み上げ、ここまで来た。
正式加入へ進む場合、その直後にも同じ拡大を続けることはできないだろう。
六人の公演として組み直す期間が必要になる。
真琴が六月の五人に追いつけば次も同じ規模をこなせる、などという見積もりにはできない。
秋の周年公演については、拡大を急がず、別の規模も残して検討する必要がある。
六千席程度の会場候補も含め、ライブ事業側と調整する項目に加えなければならない。
加入が決まってから会場を探し始めるのでは遅い。
かといって、先に公演を売り、その日までに真琴を間に合わせる案にもできない。
準備を始められる範囲。
加入しなかった場合の扱い。
実施判断を保留できる期限。
候補として育てる費用とは分けて、今後必要になる確認事項へ置いていく。
可能性を見るための案にも、見た結果、その方向に進めなかった場合の終わり方は必要だった。
久世には、最後まで書き方に迷った項目があった。
加入発表後の反発。
先日の会議でも指摘された。
五人のままがよかった、と言われるだろう。
歌もダンスも経験の浅い人間を加える理由を、疑われるだろう。
久世は、その二つを消さずに残した。
五人が完成していたことを、一番よく見てきたのはファンでもある。
歌の受け渡しや、並んだ姿や、普段のやり取りを好きになっている。
そこへ一人加われば、好きだったものの一部は変わる。
説明すれば全員が同じように喜ぶなどということにはならない。
それでも変更するなら、理由を説明するのは会社の仕事だった。
真琴が本番で力を示すことは必要になる。
しかし、「実力で黙らせればいい」と、最初から一人へ背負わせることはできなかった。
これも、防ぐことはできないとしても、何らかの対策を考える必要がある。
————
文書を読み返すと、期待することより、必要な条件の方が長くなっていた。
久世は、少し椅子へ背を預けた。
歌もダンスも初心者だった。
今のままでは、五人に加えられない。
それでも、提案をやめる理由にはならなかった。
基礎からならば教えられると確認できた以上、その先で強みがどう残るかを確かめたい。
一方で、ここまで調べたのだから進める、という理由にもできない。
費用も人員も、これから増える。
本人の生活も、五人の仕事も、今より動かすことになる。
求める承認の範囲を、久世は改めて絞った。
本人と保護者、既存五人への説明。
参加意向を確認したうえでの、個別基礎指導と非公開の合同レッスン。
六月の公演前後を最初の見直しの区切りとし、技術、日程、負担、本人の意思から、その後の継続を判断する。
正式加入と本番出演は、今回の承認には含めない。
映像方面の育成は、この案の成否とは別に続ける。
三人の報告は、原文のまま添付した。
加入できるかどうかは、まだ決まっていない。
それでも、今なら、次に何を確かめるために進むのかを説明できる。
三人の所見を揃える前には書けなかった条件も、書けた。
久世は起案者の欄を確かめた。
そこには、自分の名前があった。
保存し、表紙へ戻る。
前の文書には書かなかった活動先を、今度は件名にも入れている。
具体的な案として会社へ問う段階だった。
『白瀬真琴 Lumière Palette追加メンバー候補化及び段階的育成実施案』