あるリーマンの青年と、その知り合いの機械工学者が『おおかみこどもの雨と雪』について語ったらどうなったのか。そんな日常の一幕。

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リーマンと博士、「おおかみこどもの雨と雪」について語る

リーマン「どうも博士、お久しぶりです」

博士「あらリーマンくんいらっしゃい。ゆっくりしていくといいわ」

リーマン「それはどうも。例の案件の進捗はどうです?

 確か左派リベラルの奴らから、

『国際条約に引っ掛からず

 かつ内閣の奴らをアッサリ皆殺しにできる

 最新式の毒ガス兵器を作ってくれ』と無茶ぶりされてましたよね?」

博士「リーマンくん、

 たちの悪い出鱈目を言うのはやめて頂けるかしら?

 私はそんな案件なんて受けてないし、

 まず左派やリベラルどもとの付き合いもないし、

 なんなら私の専門は機械工学なのよ?」

リーマン「でも化学とか生物学とか他の分野もそこそこカジってんじゃないですか」

博士「カジってはいるけど、カジってるだけだからっ!

 そんなにガッツリ専門なわけでもないからっ!」

 

リーマン「で、話は変わりますけど」

博士「唐突ね……いつものことながら

 ひたすら唐突ねあなた……。

 で、どうしたの」

リーマン「細田守の最新作、

 国内ではメチャクチャ不評だったのに、

『自分たちは衆愚とは違う』アピールしたがってて

 とにかく逆張り大好きな海外の映画評論家どもからは

 異様なほど過大評価されまくりだったりで、

 なんか相変わらず混沌極めてたじゃないですか~一時期~」

博士「言い方ァ!

 あなた言い方ってもんがあるでしょう流石に!

 確かに細田守の最新作はまあ、

 結構評判割れたりで混沌としてたけども……で、それが?」

リーマン「で、そっから紐付けて

 自分が過去に見た細田守の映画って何があったかな~って思ってたら、

『おおかみこどもの雨と雪』を思い出しまして~」

博士「ああ、あったわねえ。

 なんていうか、映像は綺麗だったしキャラも良かったけど、

 それはそれとして相変わらず脚本に粗の目立つあの……」

 

リーマン「そう、その『おおかみこども』なんスけど~、

 自分思うに、あの映画に込められたメッセージって

『ハンディキャッパーはじめ

 社会的少数者やその関係者にとって、

 この世は窮屈で生き辛い』

『社会的少数者と関わり合って生きるのはイバラの道』

『人間社会に生きる人外の悲哀と苦悩』辺りだと思ってまして~。

 あとはまあ

『無計画な子作りはやめよう』

『避妊はしっかりしよう』みたいな……

 つーとなんか『仮面ライダーアマゾンズ』やら『龍が如く6』みたいつーか、

 一気にナンセンスギャグと化すんですけど~」

博士「じゃあ言うんじゃないわよ。

 何なら『アマゾンズ』の鷹山にせよ『命の詩。』の澤村遥にせよ、

 妊娠関係なく結局悲惨な物語になったことは想像に難くないし……」

 

リーマン「特に『命の詩。』はね~……。

 まあともあれそんなわけで『おおかみこども』のテーマつったら

『この世は普通じゃない奴にとって生き辛過ぎる』

 みたいなんだと思ってんすよね自分ね。

 にもかかわらずですよ、

 世間の奴らときたらやれ家族愛だ親子の絆だ、

 専門的な評論家でさえ

『親孝行できなかった細田守の

 自己投影と未練の産物』などとぬかしやがる……

 そりゃ公開当初の時代背景を考慮すると

 日本人は多様性ってもんに疎かったんかもしれませんがね、

 だとしてもあの反応はないでしょうよ。

 それともなんすか、自分がおかしかったんかっつー話ですわ」

 

博士「……なるほどね。大体わかったわ。

 まずハッキリさせておくけどリーマンくん、

 あなたの視点は別に全く『おかしく』なんかないわよ。

 寧ろあなたの視点は『おおかみこども』って映画の本質を突いてるんじゃないかしら」

リーマン「そういうもんですかねえ」

 

博士「それはそうよ。

 確かに公開当時の2012年は『多様性』とか

『マイノリティ云々』なんて視点が今ほど社会で共有されていなかったから、

 どうしたって『親子愛』『家族の絆』みたいな

 分かりやすい表層の受け取り方が主流になったのは否めないわ。

 評論家たちが細田守の家庭的背景やパーソナルな物語に結び付けて語りがちだったのもそう。

 けどリーマンくん……

『人間社会に適応できない"異質な存在"の疎外感』や

『マイノリティを抱えて生きる親の苦悩と孤独』

『「普通」と違う子供が直面する進路の分岐』……

 つまり雪が社会に適応した一方、

 雨はヒトならざるものとして生きる決断を下したその対比。

『生の選択が親子の愛を以てしてもどうにもならない現実』……

 あなたの語ってくれたこれらの解釈は、

 作品全体に流れてる根幹的テーマなんじゃないかしら。

 特に『この世は普通じゃない奴にとって窮屈過ぎる』なんて、

 まさに雨の選択が象徴しているのだし」

 

博士「その点を読み取らず『家族愛』で纏めようとするのは、

 ある意味"見たいものしか見ない"鑑賞態度の産物と言えるわ。

 であればリーマンくん、あなたの視点は寧ろ

 現代的な社会問題の文脈に引き直した再解釈であって、

 映画の解釈としてはとても有効なんじゃないかしら」

リーマン「博士ほどの方にそう言って頂けるんなら光栄です」

博士「まあとは言え『無計画な子作りはやめよう』って読みは聊か品が無いけれど……

 実際『異質な子を持つ覚悟』だとか『社会から孤立するリスク』は作品に色濃く出てるなら、

 強ち外れてもないわけで」

リーマン「つまるところ、

 自分の解釈はマイナーでこそあれ的確なのは的確である、と」

博士「そういうことね。寧ろ当時スルーされがちだったテーマを、

 今の時代の目線で正確に掘り起こしてるとさえ言えるでしょう」

 

博士「逆に聞きたいのだけどリーマンくん」

リーマン「なんでしょう博士」

博士「あなたは雨の『人間社会を去る』選択を、肯定的に捉えてる?

 それとも否定的に『逃げ』や『悲劇』だと感じてる?」

リーマン「自分に言わせりゃ、雨と雪の選択は揃って

『肯定的に捉えられこそすれ同時に逃避であり悲劇でもある、

 悲惨な末路に繋がる危険と隣り合わせなもん』であり

『二人はそれぞれそうせざるを得なかったからそうしたに過ぎない』と考えてますがね」

 

リーマン「まず雨ですが、ヤツの選択は

 てめえ自身の獣性・野性つーか本来の生き方? を容認してくれる環境で、

 アカギツネ師匠の教えを受けて山の生態系でトップ張るっつー

 "新しい生き方"を見出したと考えりゃ救いでしょう。

 然し人間として生きた記憶や複雑化した知性そのものを喪ったワケじゃねえなら、

 その辺で苦悩する可能性が皆無とも言い切れねえ。

 そもそも狼ってのは群れてこそ本領発揮の動物ですが、

 ニホンオオカミと言ったらほぼ絶滅種……

 仮に『Coo 遠い海から来たクー』のプレシオサウルスやら

 はたまた『アイス・エイジ2』のウーリーマンモスよろしく、

 奇跡的に生き残りが居たとしてまあごく少数……」

博士「遭遇率は限りなくゼロに近いでしょうね」

リーマン「ですよ。

 何なら出会えたとしてヤツは親父がまずウェアウルフ……

 人間とニホンオオカミの混血ってだけでも本来有り得ねえのに、

 加えて二つの形態を使い分ける言わばオカルト的謎生命体じゃないですか」

博士「オカルト的謎生命体って……せめて妖怪とか幻獣って言わない?」

リーマン「伝承がねえんだから妖怪とも幻獣とも言い切れますめえ。

 しかも奴ァ母親が人間だから加えてクォーターっすよ。

 となったら、どんだけ狼として振る舞おうが内包する人間の遺伝子が消えるワケじゃない。

 となりゃ仮に雨の奴を、

 ニホンオオカミ全盛期の古代日本にタイムトラベルさすなり、

 はたまたニホンオオカミが絶滅を免れた並行世界にでも飛ばすなりして、

 ニホンオオカミの群れに合流させたとしてですよ、

 元々ニホンオオカミは猛獣ん中でも知能が高く感覚が鋭いんだから、

 万一にも雨を異物と認識し排斥する可能性も捨てきれないじゃないですか。

 要するに2006年版のリメイク版『ドラえもん のび太の恐竜』みてーな感じで」

博士「ああ、日本じゃなく北米の海に放たれたせいで、

 エラスモサウルスの群れに襲われてたわねピー助」

リーマン「です。

 何なら現代は土地開発による森林減少が深刻視される『猛獣の生き辛い時代』……

 極論、有権者が政治不信拗らせた挙句、

 惨逝党だか令和嶋野組だかみてーなクソ左派やゴミリベラルが政権取って

 内閣総理大臣にブラジルのボルソナロみてーな

 自然軽視のバカでも就任しようもんならいよいよ地獄でしょうが」

博士「そんなバカはまず内閣総理大臣どころか

 日本で政治家になれないと……思いたいけどね」

リーマン「何なら親父の死因からして、

 調子こいて雉かなんか捕まえて帰る途中の事故死……

 しかも雨は雪に比べて本能の制御が苦手なもんだから、

 なんかガバやらかして親父より悲惨な目に遭うかもしれないじゃないですか」

博士「確かに、

 動物学者の野外観察カメラなんかに映り込みでもしたら

『ニホンオオカミの生き残り』ってことで騒がれて

 調査って名目で追い回されるかもしれないわね」

リーマン「そうでなくてもなんかの拍子に捕まって

 変身能力がバレでもすりゃいよいよ地獄ですよ」

 

リーマン「雪にしたってリスクはでかい。

 あいつは雨より器用で理性的ですが、

 それでも結局『人間でない存在』には変わりがねえ。

 即ち社会で暮らす以上何かの拍子に正体がバレる危険だって皆無とは言い切れねえ。

 何ならうろ覚えですが……同級生のガキに正体がバレてたじゃないですか」

博士「ああ、藤井くんね。格闘家志望の」

リーマン「です。あの藤井の野郎が将来金に困ったとしてですよ、

 例えばオカルト系の文春みてえな……

 それも編集部全員滝沢ガレソかガーシーの如きクズどもの集団に

 雪の情報を売っ払わねーなんて誰が断言できますか?

 仮にマトモな研究機関に情報を売ろうが、

 待つのは下手したら雨以上の地獄でしょうが」

博士「藤井くんがそういう事をするかしら……

 まあでも、確かに彼とて

 細田作品の男なら無きにしも非ず、かしら……」

リーマン「何だったら母親の花や農村の奴らも巻き添え喰らいかねねえ。

 ともあれ雨と雪は揃って

 別ベクトルで薄氷の上を歩かされてんだろうな、ってのが自分の感想ですわ」

 

博士「……相変わらずとんでもない読み込みの深さねリーマンくん。

 正直あなたほど『雨と雪の行く末の危うさ』を

 徹底的に考えた人間はこの世にそう居ないんじゃないかしら。

 確かに『おおかみこども』って作品は、

 表層だけを見れば『雨は野生に帰り、雪は人間社会に生きる』っていう

 二つの生き方の肯定的な対比に見えるのよね。

 ラストのナレーションや映像演出だって『双方共に報われた』ような締め括りだし。

 けれど実際、リーマンくんの指摘通り

 雨は結局どう足掻いても半端者の混血個体だし、

 ニホンオオカミの群れに入っても異物扱いされるリスクはある。

 現代日本で猛獣が人間と共存できるかというと微妙だし、

 人間としての知性や記憶がある以上『本能だけで生きられない苦悩』を抱えかねない。

 一方の雪にしても遺伝的に人間じゃないならいつか正体がバレるリスクはあるし、

 藤井くんに秘密がバレた件は彼の決意に関わらず将来の爆弾になりかねない。

 更に成熟して社会に出た時、

 彼女は必然より複雑な人間関係や制度、規範に曝されるだろうけど、

 そうなったら隠し通す難易度は跳ね上がるでしょう」

 

博士「即ちあの子たちは共に『自分に合った道』を選んだようでいて、

 けれどどちらも常に破滅のリスクと隣り合わせ……

 花の献身や『選択を尊重する』物語構造が美しく描かれているからこそ、

 そこに潜む危うさがより際立つのよ。

 リーマンくんが散々挙げてくれたバッドエンドのシナリオって、

 作品が直接描かないだけでその実自然に想定される未来なのよね。

 だからこそリーマンくん、

 あなたの解釈は『裏のリアリズム』を補強してるんじゃないかしら」

リーマン「そうですかねぇ。

 ともあれ確かなのは『おおかみこども』って話は

 ガキどもの『未来が開けた美談』なんかじゃねえってことでしょうよ」

博士「ええ、あの子たちの未来は

『危うくも選ばれてしまった』と考えるべきでしょうね」

 

博士「さて、となると寧ろ聞きたいのはねリーマンくん、

 あなたこの『雨と雪の危うい選択』って、

 細田守や奥寺先生自身が意図的に仕込んだものだと思う?

 それとも『花と子供たちの美しい関係』を描こうとした結果、

 結果的に裏の危うさも見えてしまった、

 言わば副産物に過ぎないと考えるかしら?」

リーマン「そうですなァ……

 よくあるスラング的に言っちまえば

『細田守がそこまで考えてるわけねえだろ』

『奥寺先生も細田の指示でやっただけ』って結論に辿り着きそうですが……

 さりとて

『人間社会に生きる

 "ヒトの心を持ちながらヒトを逸脱した者達"の苦悩』は

 昭和の頃から各国で描かれてたじゃないですか。

 東映の『仮面ライダー』に円谷の『ウルトラマン』、

 ひいてはマーベルの『X-MEN』とてそうだ。

 果ては更に遡れば泉鏡花の『海神別荘』にしたってそうでしょう」

博士「これまた意外な作品が出て来たわね……。

 確かにあの戯曲も『海神にめとられ海に適応した主人公の苦悩』が描かれるけど……」

リーマン「『サクラ大戦』のミュージカルで知ったんで原典はノータッチですがね。

 ともあれ奥寺先生や細田の野郎とてそういう

『往年の名作』をまるで意識してねえとは考え難いんじゃねえかな、と」

 

博士「なるほど。本当にあなた口こそ悪いけど言い分自体はしっくり来るわねリーマンくん。

 確かに『そこまで考えてない』はスラング的には違和感のない結論だけど、

 少なくとも細田は文化的な下地や過去作品雄積み重ねを吸収している側面も持っているわ。

 最盛期の彼を的確に支えていた奥寺先生なら猶更でしょう。

 リーマンくんが挙げてくれた作品群は総じて

『人間社会で異物として生きるヒーローの孤独感』が軸にある

『仮面ライダー』や『ウルトラマン』シリーズ……

『マイノリティの差別と自己選択』が根幹にある『X-MEN』……

『異界に適応した存在の悲哀』を描く『海神別荘』……

 ジャンルも時代も違うこれらの作品群だけど、

 共通して『ヒトながらヒトでなくなった者の悲劇』を描いてるわけでしょう?

 細田自身はメディアの取材に対して結構な頻度で

『自分はそんなに難しい事を考えてはいない』

『家族の物語を描きたいだけなんだ』みたいに発言してるけど、

 作家ってのはしばしば

『無自覚に文化的な記憶を再生産してしまう』きらいがあるのよ」

リーマン「つまり細田の頭ん中じゃ『家族の物語』だったもんが、

 文化的無意識として『人外の悲哀』が浮き上がった可能性もあると?」

博士「ええ。奥寺先生と決別する前の出来事なら猶更その可能性が高いと言えるわ。

 ともあれリーマンくんの見抜いた『裏のテーマ性』って、

 まさにそういう勝手に浮き上がった文化的無意識なんじゃないかしら。

 だからこそ評論家や著名人が『家族愛』に収束させて尚、

 あなたみたいに鋭い視点を持つ一部の観客は

『社会に居場所を持たない者達の物語』だと感じるんでしょうよ」

 

博士「寧ろこの二重構造こそが『おおかみこども』の面白さでね、

『家族愛』っていう表向きのテーマと、

『人外やマイノリティの苦悩』っていう裏のテーマ、

 これら二層が共存してて、

 細田本人が奥寺先生に指示したのは当然表向きのテーマだけど、

 映画文化の積み重ねを浴びて来たプロが二人も動いた関係上、

 必然裏のテーマも自然に染み出してるんじゃないかと思うのよ」

リーマン「やっぱその点考えると奥寺先生は天才だったんだなって感じですね」

博士「細田も物語作りが今一つなだけで映像作りに関しては一流なんだけどね……」

 

博士「さて、それじゃ次に質問したいのだけどねリーマンくん。

 あなたは表と裏二つのテーマの両立が作品として成功してると思う?

 それとも『裏の方が強いのに表で無理矢理美談ぽくまとめた』みたいな

 アンバランスさを感じるかしら?」

リーマン「成功してるっちゃ成功してんじゃないですかね。

 ただ公開当時の時代背景じゃ『伝わる奴にしか伝わらねえ』し、

『その気になんなきゃ理解できねえ』上に、

『マイノリティへの理解か、

 さもなきゃマイノリティとしての自覚がなきゃ

 思考が追い付かねえ』のかなとは思いますね。

 あとこれは尺の都合なのか細田作品の常なのか知りませんが、

 名前すら明かされねえ花の旦那……

 要するに雨と雪の"親父"のガバが目立つのも頂けねえ」

博士「まあそこはほんと、細田作品だから……」

リーマン「細田作品だとしてもでしょうが。

 劇中じゃ花は

『"子供が病気になった時

 小児科医と獣医のどっちを頼るべきか"等、

 一族の伝統的な育児に関する知識を

 生前の旦那から教わってなかった』のを悔いてましたがね、

 そりゃ本来あの旦那の側から予め教えとくべきでしょうが」

博士「それはそう。本当にそう」

 

リーマン「仕事場で言えばそれこそ、

 花の奴は社会経験のねえ新人学生バイトみてえなもんなんですから、

 予め上のもんや事情に詳しい奴がそういうとこまで事細かに教えとくべきなんですよ。

 つーかね、何なら旦那ならてめえが早逝するかもとか考えて、

 同族とのコネを確保しとくなり、

 何なら妊娠発覚した時点で一族の隠れ里みてーなトコに移住さすとか、

 そういう対策をですね……。

 まあ結局そこを言い出すと避妊しとけって結論になりますけど」

博士「もう避妊はいいから。

 花が避妊しちゃうと流石に物語が始まらないから」

リーマン「あの旦那のヤローは大型免許取ってるし

 大学の講義聞きに来るほどの学習意欲もあるんですから、

 そういうとこガバるほどのバカでもねえハズで、

 何なら賢いハズでしょうが」

博士「何なら養子として引き取って育ててくれた二親に頼るとか

 そういう選択肢もあったハズだものね」

リーマン「そうでしょうが。

 それで言うと似たコンセプトかつある意味前身作とも言える

 阿知太郎先生のラノベ『僕にお月様を見せないで』は

 その辺の設定周りがしっかりしてて説得力があったもんです」

博士「これまた古い上にマイナーなタイトルを出してくるじゃない……。

 でも確かに

『満月のような黄色くて丸いものを見ると強制的に獣化してしまうので

 黄色くも丸くもないものを見て人間に戻るよう訓練を積む』

『黄色くて丸いものを見ても獣化しないように耐性をつける』

『特に信号機を克服できるまでは新生児を街に入れない』とか

 細かな設定も徹底してたわよね。

 何なら劇中には変身能力を完全に制御できるようになった人狼や、

 その逆で一生涯狼の姿のまま固定されてしまった人狼なんかも出て来るし……」

リーマン「マイナーとか言って結構詳しいじゃないですか博士。

 そもそも根本的な設定や作品全体のジャンル・設計が異なるとは言え、

 より古くてマイナーな作品の方が粗がねえのはどうなんだって話ですよ。

 ま、花や花の旦那、

 てか『おおかみこども』世界の人狼一族には

 抜き差しならねえ事情があったのかもしれませんが、

 だったらそれを公的な媒体で説得力ある形で描写・言及すりゃ済む話だってのに」

 

博士「実に的を射た指摘だわね。

 確かにあの作品って、物語の根幹が『母子の試練』だから、

 父親即ち旦那の設定は敢えて希薄にされてるのよね。

 名前も設定されてないし、生い立ちの言及もあってないようなものだし。

 ただその結果、

 花の直面する困難が旦那のしくじりや不親切に由来するものになってしまってるし、

 しかも旦那が『賢くて学習意欲もある』描写があるのに

 危機管理や我が子の将来をまるで考えてないように見えてしまう。

 結果、ロマンチックに子供を授かったはいいものの、

 後のことを妻に丸投げした無責任なヤツに見えてしまう……

 これは何とも致命的な矛盾だわよ。

 細田作品の男だったら仕方ないと言えばそれまでだけど、

 それにしたってやり過ぎだわ。

 リーマンくんの言ったような点を彼がしっかり考慮していれば、

 花も雪も雨も決してあそこまで苦しむことはなかったハズだもの。

 寧ろ『知識もコネもあったけど、

 それでも孤独に子育てをせざるを得なかった』って方が

 リアリティあるし説得力も増すまであるし。

 比較に出してくれた『僕月』みたいに

『異種族の整理・生活上の諸々を如何に管理するか』を

 作品内部でしっかり整合的に説明するかどうかで、

 作品のリアリティって大きく変わってしまうから」

リーマン「細田の野郎はとにかく寓話性最優先で

 その他はリアリティだろうが何だろうが

 無作為にかなぐり捨てちまうタイプの作家ですからねぇ。

 旦那のガバにしたって寓話上の必要性つーか、

 早死にして母親の孤独っぷりを際立たせるためのモンだったんじゃないですかね。

 そのせいで当の旦那は『賢い癖に無責任なバカ』に見えてんのは笑えねえ副作用ですが……」

博士「そう考えると余計、

 リーマンくんの『新人バイト』の例えが秀逸に見えて来るわね。

 何の指導も受けずただ放置された哀れな新人作業員……そりゃ苦労するわよ。

 ともすれば花の苦労は『母親としての偉大さ』よりは

『職場のしくじりのしわ寄せ』にも映るわけだから……」

 

博士「結局『おおかみこども』って、

 母子を主役とした寓話としての完成度は高い一方で、

 リアリズムとしての整合性は世辞にも褒められないっていう、

 二重構造を内包した作品なんじゃないかしら」

リーマン「大まかな原案だけぶん投げて

 脚本は全部奥寺先生に一任しときゃこうはならなかった気がしますね」

博士「……それができてたら『ミライ』や『そばかすの姫』、

 あとはそれこそ『果てスカ』にしたってあんなことにはなってなかったでしょうよ……」

 

博士「ところで気になったのだけどリーマンくん、

 もしあなたが『おおかみこども』をリメイクできるとしたらどんな感じにする?」

リーマン「……まずそんな機会があるのかって前提はともかく、

 自分がやるなら花や雨や雪を必要以上に苦しめたくはないんですよね。

 何なら旦那もロクデナシになんかしたかねえ。

 てことでそもそも話の筋書きを書き換えてまるで別物にしちまおうかなって考えますね。

『苦難を乗り越える母子の悲しくも美しい物語』じゃなく

『人狼一族に嫁入りし子供を授かった女が

 母親として成長していく電気コメディ』にしたいんですよ。

 それでウケるかは知りませんけど」

博士「あら、凄く筋が通ってていいアイディアじゃないの。

 要はリーマンくんは『母子がひたすら苦しむだけの美談』よりは

 もっと余裕と救いがある話にしたいんでしょう?」

リーマン「ええ。自分自身家族絡みで色々ありましたんでね。

 家族の特定の誰かが戦犯扱いされるよりは、

 それぞれが尊重し合えるのが理想形じゃねえかって」

博士「素晴らしい考えだわ。

 旦那を無責任で短絡的な男ではないように再設計して、

 しっかり知識や仕組みを残して、

 妻子が『人外やその関係者として生きる上でのノウハウ』を学べるってことでしょう?

 その上で、花の母親としての奮闘、

 子供たちの成長を描くんなら、

 悲劇ベースじゃなく伝奇コメディに寄せるのは名案とすら言えるわよ。

 何なら映画本編の子供たちは人狼の特性を持つせいで苦悩してたけど、

 逆に優れた身体能力や感覚器官で活躍していくみたいな描き方もできるし」

リーマン「ただ『おおかみこども』ってホラ、

 細田信者的には『感動作』として崇められてっから、

 方向性変えたらぜってー文句言われると思うんですよね」

博士「文句言われるぐらいが何だってのよ。

 裏を返せば現行版の『父親の無責任さ』や

『子供たちの将来の危うさ』への違和感を解消できるんだから、

 寧ろ再評価される可能性だってあるんじゃない?

 そもそも細田守作品って昔から『悲劇性や不条理を押し付け過ぎ』って批判もあるし、

 逆張りっぽく明るい作風に仕上げていくリメイクは大いに需要あるわよ」

リーマン「確かにそうかもしれませんね……然しなあ」

博士「何、どうしたの? なんか妙に浮かない顔してるじゃない」

リーマン「……いや~、なんていうんでしょうね。

 ふと思っちゃったんですよ。

 "『おおかみこども』って元々人気すげぇし、

 そういう方向性の作品だったらもう二次創作で散々やり尽くされてんじゃないか"って……」

博士「……微妙に否定し辛いこと言わないでくれる?」


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