インタビュアー『なんで戦ってるん?』ヒーロー『金だろ』 インタビュアー『は?』 作:すねかじり
昼過ぎ。
鷺沢蓮は、ようやく目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込む光が、妙に眩しい。
「……眠い」
布団から出る気は起きない。
スマホを手に取って、画面を確認する。
仕事の連絡は――ない。
「……今日、仕事入ってないな」
それを確認すると、蓮は安心したようにスマホを枕元へ放り投げた。
今日は休み。
ならば、起きる必要もない。
……そう思ったが。
「腹減った」
結局、蓮は重い身体を起こした。
適当に服を着て、財布だけ持ってアパートを出る。
向かった先は、近所のコンビニだった。
適当に弁当と飲み物を買い、帰ろうとしたところで、入口付近の大型モニターが目に入った。
ニュースが流れている。
『先日発生した、S級ヒーロー死亡事件について――』
蓮は足を止めた。
画面には、規制線の張られた現場。
その映像の隅に――
黒い羽根が一枚、落ちていた。
『日本ヒーロー協会は現在も犯人の行方を追っており――』
「……まだやってんのか」
蓮は興味なさそうに呟くと、そのまま歩き出した。
自分には関係ない。
そう思っていた。
――少なくとも、この時は。
*
部屋に戻った蓮は、買ってきた弁当を開けた。
テレビでは競馬中継が流れている。
蓮はソファに座り、手元の馬券を眺めていた。
「……これ、来ると思うんだけどな」
レースが始まる。
蓮は馬券を握ったまま、画面を見つめる。
「……いけ」
しかし――
結果は、惨敗。
「…………」
蓮はしばらく馬券を見つめた。
「……来ない」
そして、小さく呟く。
「金返せ」
そのときだった。
スマホが鳴った。
画面を見る。
白石。
「……もしもし」
『鷺沢さん。仕事です』
「嫌です」
『まだ内容を言ってません』
「休みたい」
『緊急案件です』
蓮は手元の馬券を見た。
「……いくら?」
『通常より上乗せされます』
蓮は立ち上がった。
「行きます」
『本当に金の話になると早いですね、あなたは』
「仕事なんで」
『さっきまで休みたいと言っていた人の台詞とは思えませんが』
「それはそれ」
*
車の後部座席。
蓮は窓の外を眺めていた。
白石が運転しながら説明する。
『今回の相手は自然発生型です』
「へえ」
『現場では、すでに三人のヒーローが交戦しています』
「三人も?」
『ブレイズ、バルク、ウィンド。いずれも自然発生型のヒーローです』
蓮は目を細めた。
自然発生型。
生まれつき特殊な能力を持っている人間。
炎を操る者。
身体を鋼鉄のように硬化させる者。
風を操る者。
能力は人によってまったく違う。
そして――
強さにも、大きな差がある。
自然発生型だから強い。
そんな単純な話ではない。
同じ炎を操る能力でも、火をつける程度の人間もいれば、火災そのものを生み出せるほどの出力を持つ人間もいる。
能力の性質。
出力。
精度。
応用力。
本人の身体能力。
使い方。
その全部で強さが変わる。
つまり――
「自然発生型って、ほんと当たり外れがデカいな」
『……まあ、そうですね』
対して、蓮のようなヒーローは違う。
機械式。
変身ベルトなどの装置を使い、専用の装甲や武器を身につけて戦う。
能力そのものを生まれつき持っているわけではない。
装備があって、初めて戦える。
そのため世間では――
機械式ヒーローは、自然発生型より弱い。
そう言われることが多い。
当然と言えば当然だ。
自然発生型は、能力そのものが自分の身体に備わっている。
一方で機械式は、ベルトや装甲が壊れれば終わり。
武器が使えなくなれば、戦力は大きく落ちる。
「まあ、間違ってるとは言わないけど」
蓮は窓に頭を預ける。
けれど。
戦闘では、それだけが全てじゃない。
どんなに強い能力でも、当たらなければ意味がない。
どんなに出力が高くても、動きが遅ければ対処できる。
距離。
地形。
タイミング。
相手の癖。
そして、装備をどこまで使いこなせるか。
そこまで含めれば、機械式だって戦える。
「結局、戦ってみなきゃ分からないだろ」
『珍しくまともなことを言いますね』
「俺、いつもまともだけど」
『それは初耳です』
「……で?」
蓮が尋ねる。
「相手は何の能力?」
白石が少しだけ黙った。
『……重力です』
「…………」
蓮の目が半分閉じる。
「よりによって重力かよ」
『かなり危険です』
「最悪だな」
『三人のヒーローも、かなり苦戦しています』
「帰りたい」
『報酬、上乗せされますよ』
「……頑張ります」
*
現場に到着すると、そこはすでに戦場になっていた。
道路は大きく陥没し、アスファルトには無数の亀裂が走っている。
近くの建物では窓ガラスが割れ、看板がいくつも落ちていた。
その中心に――
一人の男が立っていた。
黒いコートを身にまとった、長身で細身の男。
筋肉質というわけではない。
むしろ、痩せている。
顔には深い疲労が刻まれ、目の下には濃い隈が浮かんでいた。
無精髭も伸びている。
一見すれば、何日もまともに眠っていない人間にしか見えない。
だが――
その身体から漂う威圧感だけは、異常だった。
男がゆっくりと顔を上げる。
「……まだ立つか」
静かな声だった。
その男の前には、三人のヒーローがいた。
炎をまとった青年――ブレイズ。
鋼鉄のように硬化した身体を持つ大男――バルク。
風を操り、高速で動く青年――ウィンド。
しかし、その三人とも満身創痍だった。
ブレイズは片膝をつき、肩を押さえている。
バルクの身体には、無数の亀裂。
ウィンドは立っていることすらやっとの状態だった。
男が片手を上げる。
次の瞬間。
ズンッ!!
空気そのものが押し潰された。
「ぐっ……!」
「う、動けねぇ……!」
三人の身体が、一斉に地面へ叩きつけられる。
ブレイズが歯を食いしばり、炎を放った。
巨大な火球が男へ向かって飛ぶ。
だが――
ぐにゃり。
火球の軌道が不自然に曲がった。
地面へ叩き落とされ、爆発する。
「なっ……!」
その隙にウィンドが駆ける。
一瞬で男の背後へ回り込む。
拳を振り抜く。
しかし。
ドンッ!!
見えない壁にぶつかったように、ウィンドの身体が吹き飛んだ。
「がはっ!」
バルクが叫ぶ。
「ウィンド!」
立ち上がり、男へ突っ込む。
だが、その足が止まった。
「な……!」
身体が重い。
まるで巨大な山を背負わされているようだった。
膝が地面につく。
「この……程度……!」
それでも立とうとする。
しかし――
ズンッ!!
さらに重力が増した。
バルクの身体が完全に地面へ押し伏せられる。
「くそっ……!」
その光景を見ていた蓮は、小さく息を吐いた。
「……聞いてたより、ひどいな」
三人ともボロボロだ。
蓮が歩み出る。
ブレイズが顔を上げた。
「おい! 逃げろ!」
「こいつはヤバい! 一人じゃ――」
蓮は足を止めない。
「いや」
白いベルトへ手を伸ばす。
「仕事なんで」
*
蓮はベルトを腰に装着した。
白い装置が低く唸る。
カチッ。
中央の機構が展開する。
白い光が足元から走った。
脛を覆う装甲。
膝。
太腿。
腰。
白い装甲が次々と身体を包んでいく。
胸部装甲が形成され、肩を覆う。
腕へ白い装甲が伸びる。
そして――
背中。
翼を思わせる装備が左右へ展開した。
バサッ。
白い羽根が広がる。
最後に光が顔を覆った。
鳥のくちばしを思わせるバイザーが形成される。
そこに立っていたのは――
白い翼を持つヒーロー。
ホワイトヘロン。
「……さて」
蓮は軽く首を回した。
「さっさと終わらせるか」
その瞬間。
ズンッ!!
重力が一気に跳ね上がった。
「……っ」
ホワイトヘロンの膝が、わずかに沈む。
足元のアスファルトが砕ける。
それでも――
倒れない。
白い翼をゆっくりと広げる。
男が静かに告げた。
「その程度で、私の重力に抗えると思うか?」
ホワイトヘロンは答えなかった。
ただ、身体を低くする。
片足を後ろへ引く。
翼が大きく開く。
次の瞬間――
地面を蹴った。
ドンッ!!
白い影が、重力の中を駆け抜ける。
「――戦闘開始。」
前回から引き続き読んでくだりありがとうございます。
ホワイトヘロンVS重力男は3話でやります。
多分長くなるので⋯
それはそうと自分的には機械式と自然発生型のヒーローの設定は気に入っています。
極論、自然発生型のヒーローが機械式のアイテム使えばいいんじゃねと思うと思います。
なので、設定的には法律で禁止されているということにしています。
なぜ禁止されているのかは今後のストーリーで話したいと思っていますので、お楽しみに。