インタビュアー『なんで戦ってるん?』ヒーロー『金だろ』 インタビュアー『は?』 作:すねかじり
朝。
ヒーロー派遣会社の事務所で、白石恒一は一人、端末の画面を眺めていた。
表示されているのは、所属ヒーローたちの勤務状況と任務記録。
その中でも、白石の目に留まったのは――
「……またですか」
鷺沢蓮。
今月の出勤日数は、他のヒーローと比べて明らかに少ない。
連絡を入れれば嫌がる。
仕事がなければ基本的に動かない。
休日は家に引きこもっていることが多い。
担当マネージャーとしては、頭を抱えたくなるような男だった。
しかし。
白石は画面を少し下へスクロールする。
任務成功率――ほぼ100%。
現場での被害――少ない。
任務完了までの時間――短い。
そして、失敗したという報告はほとんどない。
「……本当に、仕事だけはできるんですよね」
白石は小さくため息をついた。
そのとき、端末に新しい通知が入る。
『緊急救援要請』
白石は内容を確認する。
市街地にて、複数のヴィランが暴れている。
現場にはすでにB級ヒーローが数名到着し、交戦中。
しかし、ヴィランの数が多く、制圧に時間がかかっているらしい。
負傷者はいるものの、現時点では重傷者なし。
危険度は――中程度。
「……B級ヒーローの救援ですか」
そこまで危険な任務ではない。
それでも、急な救援要請ということもあり、現場へ向かえるヒーローが少ない。
白石は報酬欄を確認した。
「……なるほど」
通常よりも高い。
今回の報酬は――150万円。
――ヒーローの報酬は、単純にランクだけで決まるわけではない。
ヴィランの危険度。
被害規模。
任務の難易度。
緊急性。
現場までの距離。
必要となる人員。
そういった条件を総合して、依頼ごとの報酬が決められる。
今回のように、急な救援要請で複数のヴィランが確認されている場合、通常より報酬が上乗せされることもある。
そして――
「150万円……」
白石は、ある人物の顔を思い浮かべた。
「これなら、動くでしょうね」
すぐにスマートフォンを手に取る。
電話をかける。
数回の呼び出し音。
『……もしもし』
眠そうな声。
「鷺沢さん。仕事です」
『嫌です』
即答だった。
「まだ内容を言ってません」
『休みたい』
「B級ヒーローの救援です」
『他の人に任せれば?』
白石は一度、画面に表示された報酬額を見る。
「……150万円です」
『行きます』
「……」
白石は無言になった。
「本当に、金の話になると早いですね、あなたは」
『仕事なんで』
「さっきまで休みたいと言っていた人の台詞とは思えませんが」
『それはそれ』
電話が切れた。
白石は深いため息をついた。
「……分かりやすい人ですね」
◇
――ヒーローには、ランクがある。
C級。
B級。
A級。
そして、S級。
その評価基準は、単純な戦闘能力だけではない。
戦闘能力。
救助能力。
任務実績。
判断力。
周囲への被害を抑える能力。
社会的信用。
さまざまな要素を総合して、そのヒーローがどれだけ「ヒーローとして優れているか」が判断される。
だから、同じB級でも実力には差がある。
戦闘能力が高くても、救助活動が苦手なら評価は伸びない。
逆に、戦闘能力が突出していなくても、市民の救助や現場での判断に優れていれば高く評価されることもある。
――そして、鷺沢蓮。
白石は車を走らせながら、彼のことを考えていた。
戦闘能力は高い。
判断力も高い。
現場での対応も悪くない。
何より、危険な状況でも妙に落ち着いている。
だが――
「……勤務態度は最低なんですよね」
誰に聞かせるでもなく呟く。
仕事は嫌がる。
出勤も嫌がる。
金にならないことは極力やらない。
ヒーローとしての名声にも興味がない。
ランクを上げようとする気もない。
「本当に、何を考えているんでしょうね……」
白石は苦笑した。
◇
現場に到着すると、すでに戦闘が始まっていた。
道路の中央で、数人のB級ヒーローがヴィランたちと交戦している。
大型の武器を振り回すヴィラン。
遠距離から攻撃を仕掛けるヴィラン。
素早い動きでヒーローを翻弄するヴィラン。
その数は――四人。
「……思ったより多いですね」
白石が通信を開く。
『鷺沢さん、現場に到着しましたか?』
『着いた』
『では、お願いします』
『……これ、俺いらなくない?』
「必要だから呼んだんです」
『帰っていい?』
「150万円です」
『やります』
「…………」
白石は思わず目を閉じた。
「本当に、あなたって人は……」
◇
蓮は白いベルトに手をかけた。
「……仕事か」
ベルトが起動する。
白い光が足元から走り、脚部を装甲が覆っていく。
腰。
胸部。
肩。
腕。
背中から翼状のユニットが展開する。
白い羽根が舞い、最後に鳥を思わせるバイザーが顔を覆った。
――ホワイトヘロン。
蓮はゆっくりと顔を上げる。
「……数が多いな」
ヴィランの一人が振り向いた。
「新手か!」
蓮は一歩踏み出した。
次の瞬間。
地面を蹴る。
一気に距離を詰めた。
ヴィランが武器を振り下ろす。
蓮は身体を半歩だけ横へずらした。
巨大な武器が目の前を通り過ぎる。
その勢いを利用して、蓮は相手の懐へ入り込んだ。
「遅い」
肘がヴィランの脇腹へ叩き込まれる。
「ぐっ……!」
そのまま身体を捻り、足を払う。
巨体が地面へ倒れた。
「一人」
遠距離から弾丸が飛んでくる。
蓮は振り向かない。
翼の一部が開く。
白い羽根が数枚、弾丸の軌道を遮った。
金属音が響く。
その瞬間には、蓮はすでに走り出していた。
「な――」
目の前に現れたホワイトヘロン。
拳が鳩尾へ入る。
「二人」
残った二人が同時に襲いかかる。
蓮は後ろへ跳んだ。
二人の攻撃が交差する。
その隙間を、白い影が抜ける。
着地。
振り返る。
翼が開いた。
「フェザー・スライサー」
白い羽根が飛ぶ。
一直線ではない。
左右へ大きく弧を描きながら、二人の背後へ回り込む。
「なっ――」
羽根が装備の隙間へ突き刺さった。
二人の動きが止まる。
そのまま倒れた。
戦闘終了。
あまりにも短かった。
B級ヒーローたちは、呆然とホワイトヘロンを見ている。
「……終わった?」
誰かが呟いた。
蓮は周囲を見回す。
「終わった」
通信が入る。
『鷺沢さん、お疲れ様でした』
「じゃあ帰る」
『待ってください』
「何?」
『報告書があります』
「……」
蓮が黙る。
『それと、今回の任務についてB級ヒーローの方々から感謝のコメントを――』
「いらない」
『まだ最後まで言ってません』
「金は?」
『後日振り込まれます』
「ならいい」
通信が切れた。
◇
帰りの車内。
白石は運転しながら、助手席に座る蓮を見る。
蓮は窓の外をぼんやり眺めている。
「鷺沢さん」
「何?」
「今日は助かりました」
「仕事だから」
「……そうですね」
白石は小さく笑った。
しばらく沈黙が続く。
ふと、蓮が口を開く。
「白石」
「はい?」
「今日の依頼、連絡してくれて助かった」
「……え?」
蓮は窓の外を見たまま続ける。
「俺、金欠だったから」
「…………」
白石は一瞬、何も言えなかった。
「……そういうこと、さらっと言うんですね」
「何が?」
「いえ。何でもありません」
白石は前を向く。
頬が少しだけ緩んでいた。
「……まあ、たまにはこういうことも言うんですね」
蓮は聞こえていないのか、再び窓の外を眺めている。
白石はそんな彼を横目で見た。
――本当に。
この人は、もったいない。
もっと上を目指そうと思えば、いくらでも目指せるはずなのに。
それでも本人には、その気がまるでない。
「……まあ、本人が望んでないなら仕方ないですよね」
白石はそう呟いて、アクセルを踏んだ。
読んでいただきありがとうございます
白石さん回です。白石さんは設定の解説するのに便利ということに気づかされました。