土佐、海を往く   作:海の藻

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第15話 土佐、庇う

海へ出て、最初に気づいたことがある。

 

「漣、潮。右へ回れ」

 

「了解!」

 

「はい!」

 

那智の指示と同時に、二人が動いた。

 

速い。いや、速いだけではない。

 

漣が先へ出て、潮が僅かに遅れて続く。距離が開いたと思った瞬間、漣が速度を落とし、潮がその横を抜けた。

 

入れ替わる。

 

声はない。目も合わせていない。それでも、互いが次にどこへ動くのか分かっているように見えた。

 

「…………」

 

「土佐さん」

 

隣から声がした。鳳翔さんだった。

 

「前方、まだ敵影はありませんよ」

 

「ああ」

 

「お二人が気になりますか?」

 

「少しな」

 

前を見ると、漣と潮はもうこちらへ戻ってきていた。

 

「前方、異常なしです!」

 

「右側も大丈夫です」

 

「分かった。戻れ」

 

那智の指示に従い、二人が隊列へ入る。迷いがない。

 

「……慣れてるな」

 

「おっ。ご主人様、お褒めに与り光栄であります」

 

「誰がご主人様だ」

 

「まだそこ気にしてるんです?」

 

「当然だ」

 

「土佐さん」

 

潮が困ったように笑う。

 

「漣ちゃん、たぶんずっと言います」

 

「……そうなのか」

 

「はい」

 

「やめろ」

 

「善処しまーす」

 

「それはやめないやつだろう」

 

「鋭い」

 

前から那智が振り返る。

 

「遊ぶのはそこまでだ」

 

「了解」

 

漣の声が変わった。一瞬だった。

 

「鳳翔」

 

「はい」

 

「そろそろか」

 

「ええ」

 

鳳翔さんの艦載機が空へ上がる。その姿を見送る。

 

先日の出撃では加賀姉さんがいた。今回は鳳翔さんだ。同じ空母でも違う。飛ばし方、見る場所、声の掛け方。私には、まだ分からない。

 

「…………」

 

海を見る。

 

静かだ。けれど、この先には敵がいる。

 

◆◆◆

 

「敵艦隊を確認しました。距離、まだあります。敵六隻」

 

鳳翔さんの声が飛ぶ。

 

「内訳」

 

「重巡級一、軽巡級二、駆逐級三」

 

那智が頷く。

 

「戦艦級はいないな」

 

「確認できません」

 

「なら、予定通りだ」

 

那智がこちらを見る。

 

「土佐。初撃はお前だ。ただし、追うな」

 

「了解。分かっている」

 

「本当だな?」

 

「……分かっている」

 

「ご主人様、信用ないっすね」

 

「漣。右へ回れ」

 

「了解!」

 

また、声が変わる。

 

「潮は合わせろ」

 

「はい!」

 

「長良。中央。土佐の射線を空けながら軽巡を押さえろ」

 

「了解! 任せてください!」

 

「鳳翔は索敵を継続」

 

「はい」

 

「私は左を取る」

 

那智の主砲が動く。

 

「土佐。撃て」

 

見る。

 

距離。波。敵の進路。

 

先頭の重巡級へ砲塔を向ける。

 

「――撃つ」

 

主砲が吼えた。海面が震える。一発目は外れ、次弾が直撃する。

 

「命中!」

 

長良の声。敵の隊列が乱れる。

 

「行くぞ! 漣、潮!」

 

「了解!」

 

「はい!」

 

二人が左右へ散る。敵の砲塔が、こちらへ向くか、二人を追うか迷う。

 

その一瞬。

 

「長良!」

 

「はい!」

 

長良の砲撃が敵軽巡の進路を変え、そこへ那智の砲撃が突き刺さる。

 

「…………」

 

六人全員が別々に動いている。

 

なのに、敵へ向かう力は一つだった。

 

これが、艦隊で戦うということか。

 

◆◆◆

 

「敵重巡級、撃沈!」

 

「残る軽巡級と駆逐級一隻も後退!」

 

「駆逐級二隻、右へ離脱します!」

 

「追うな。予定海域から外れる」

 

那智が即座に言った。

 

「了解!」

 

漣が進路を戻し、潮と長良も続く。誰も追わない。

 

私は逃げていく敵を見る。

 

手は刀へ伸びなかった。

 

「土佐。問題あるか?」

 

「いや。ない」

 

砲口を下げる。

 

「なら戻れ」

 

「ああ」

 

敵を全滅させたわけではない。それでも、那智は帰ると言い、私たちは従う。

 

先日の私なら、敵が残っている、まだ戦える、なら倒すべきだと思ったかもしれない。

 

けれど、今は提督の言葉を思い出す。

 

『任務を達成しろ』

 

『帰ってこい』

 

「第三艦隊、帰投する」

 

那智の声に従い、六人で進路を変えた。

 

◆◆◆

 

港へ戻ると、すぐに妖精たちが集まってきた。艤装、残弾、燃料、艦載機、損傷。次々と状態を確認される。

 

「土佐さん、主砲こちら向けてくださーい」

 

「ああ」

 

「もうちょっと右です」

 

「こうか?」

 

「はいっ」

 

妖精が主砲の周囲を走り回る。

 

少し離れた場所では、鳳翔さんの艦載機が整備されていた。漣と潮は二人並んで何かを確認し、長良は那智と海図を見ている。

 

帰ってきた。

 

けれど、終わってはいない。補給が終われば、また出る。

 

その向こう、通信室から艦娘が走ってくる。

 

「第四艦隊より報告! 敵警戒部隊と接触。現在交戦中です!」

 

那智が顔を上げた。

 

「第五は?」

 

「予定海域へ進行中! 第六艦隊、北側で敵影を確認したとのことです!」

 

海図へ新しい印が増える。

 

私たちが海にいた間も、別の場所で戦っていた。

 

「土佐さん!」

 

振り返ると、長良がこちらへ駆けてくる。

 

「どうした?」

 

「さっきの砲撃、すごかったです!」

 

「戦艦だからな」

 

「そういう意味じゃなくて。敵の動きを見てから撃っていましたよね。私、射線を邪魔していませんでした?」

 

「していない」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

「よかった!」

 

長良は大きく息を吐いた。

 

「気にしていたのか?」

 

「もちろんです。土佐さんが撃てる時に、私が邪魔をしたら駄目ですから。那智さんにも、射線を空けろって言われていましたし」

 

「そうか」

 

「次はもっと上手くやります!」

 

次。

 

自然に、その言葉が出た。

 

「私もだ」

 

「え?」

 

「まだ、艦隊での戦いには慣れていない」

 

「土佐さんが?」

 

「ああ。漣と潮の方が、私より上手い」

 

長良が目を丸くする。

 

「……そこをちゃんと認められるの、すごいですね」

 

「?」

 

「あ、いえ! 次も、よろしくお願いします!」

 

「ああ。よろしく、長良」

 

一瞬、長良の目が丸くなる。

 

「はい!」

 

返事は、先ほどまでより少し大きかった。

 

◆◆◆

 

二度目の海は、最初より少しだけ違って見えた。

 

「漣、潮。右」

 

「了解!」

 

「はい!」

 

「長良、左へ寄れ」

 

「はい!」

 

指示。移動。間隔。

 

私は先ほどより少し早く、皆の位置を把握できる。

 

「土佐。長良の前へ出すぎるな。射線を潰す」

 

「了解」

 

「長良。土佐の右後方を維持」

 

「分かりました!」

 

六人が動く。

 

先ほどより近い。そう感じた。

 

「敵艦隊、確認。七隻」

 

鳳翔さんの声。

 

「内訳」

 

「戦艦級一、重巡級二、軽巡級一、駆逐級三」

 

「戦艦級は」

 

「ル級。flagshipではありません」

 

「なら、やる。土佐、戦艦は任せる」

 

「了解」

 

「全艦、戦闘用意!」

 

敵が見える。

 

ル級の砲塔が、こちらを向く。

 

「来るぞ!」

 

砲撃。散開。海面が爆ぜ、水柱が上がる。

 

その向こうにいる敵を見る。

 

砲塔。肩。身体の向き。

 

狙いは、私。

 

なら、問題ない。

 

「撃つ」

 

主砲。外れる。

 

「焦るな、土佐!」

 

「分かっている!」

 

次。

 

敵重巡の砲口が右へ動く。

 

「――長良!」

 

長良へ向いている。

 

考えるより先に、身体が動いた。

 

「土佐!?」

 

前へ出る。

 

砲撃。衝撃。

 

「っ……!」

 

艤装が軋み、足元が滑る。だが、浅い。

 

「土佐さん!」

 

「問題ない」

 

「でも!」

 

「長良。撃て」

 

敵を見る。

 

「私は受けられる。お前は撃て」

 

「……はい! 撃ちます!」

 

長良が即座に砲を上げ、敵軽巡へ砲撃を命中させる。

 

「今のは悪くない。だが、その位置から前へ出るな!」

 

那智の声が飛んだ。

 

「ああ!」

 

「戦艦を落とせ!」

 

「了解!」

 

ル級を見る。

 

先ほどの砲撃で、こちらへ意識が向いている。

 

それでいい。

 

漣。潮。長良。

 

そちらへ撃たせなければいい。

 

照準。撃つ。

 

直撃。敵戦艦が揺れる。

 

「入った!」

 

「まだだ」

 

次弾を撃つ。敵の艤装が砕ける。

 

「戦艦級、撃沈!」

 

「よし! 残敵を崩す!」

 

那智が前へ出る。漣と潮が同時に動き、その間を長良の砲撃が抜ける。

 

見える。

 

先ほどより、皆の動きが見える。

 

◆◆◆

 

二度目の帰投。

 

妖精が私の艤装を叩いている。

 

叩く。見る。また叩く。

 

「どうだ?」

 

妖精がこちらを見て、親指を立てた。

 

「問題ないのか」

 

頷く。

 

「ならいい」

 

「土佐さん」

 

長良の声がした。

 

「ん?」

 

「さっきは、ありがとうございました!」

 

「何がだ?」

 

「私の前に出てくれたでしょう。あれです。助かりました。でも、びっくりしましたよ。いきなり前に出てくるんですから」

 

「礼を言うようなことか?」

 

「え?」

 

「私の方が装甲が厚い。なら、私が受けた方がいい」

 

長良を見る。

 

「長良が無事なら、それでいい」

 

長良はしばらく何も言わなかった。

 

「どうした?」

 

「いや、本当に迷いがないんだなって」

 

少しだけ困ったように笑う。

 

「土佐さんって、そういう人なんですね」

 

「どういう意味だ?」

 

「そのままの意味です」

 

「分からない」

 

「でしょうね」

 

また笑われた。

 

「でも、次は私もちゃんと避けます。土佐さんばかりに受けてもらうわけにはいきませんから」

 

「別に構わないぞ」

 

「私は構います」

 

「そうなのか」

 

「はい。同じ艦隊ですから」

 

はっきりと言われた。

 

同じ艦隊。

 

那智。鳳翔さん。長良。漣。潮。そして、私。

 

「ああ。それなら、分かった」

 

長良が笑った。

 

◆◆◆

 

三度目の出撃。

 

海へ出た時、少しだけ身体が重かった。

 

動けないほどではない。砲も問題なく、艤装も妖精が確認している。けれど、最初とは違う。

 

「疲労を感じる者は言え」

 

那智が言った。

 

誰も声を上げない。

 

「土佐」

 

「問題ない」

 

「聞く前に答えるな」

 

「…………」

 

「鳳翔」

 

「私も大丈夫です」

 

「長良」

 

「はい! まだいけます!」

 

「漣、潮」

 

「まだまだいけまーす」

 

「大丈夫です」

 

「よし。ただし、最初の二回と同じだと思うな。向こうも馬鹿じゃない。こちらが削れば、配置を変える。増援を出す。警戒も強くなる」

 

鳳翔さんの艦載機が遠くを飛んでいる。

 

「こちらだけが学ぶわけではない、ということですね」

 

「ああ。だから見る。海も、空も、味方も、敵もだ」

 

那智は前方を見据える。

 

「無理なら帰る」

 

誰も異論を言わなかった。

 

◆◆◆

 

「敵影! 正面、六!」

 

鳳翔さんの声が飛ぶ。

 

「内訳!」

 

「重巡級二、軽巡級二、駆逐級二!」

 

「戦艦はいないな」

 

「はい。ただ――右後方にも反応があります」

 

「別働か」

 

「おそらく。数、四!」

 

那智が舌打ちする。

 

「挟む気か。距離は」

 

「まだあります」

 

「なら正面を崩す。別働が来る前に抜けるぞ!」

 

「了解!」

 

動く。

 

今度は言われる前に、私は少し左へ寄る。長良が右後方へ入った。

 

長良を見る。目が合う。

 

一度、頷かれた。

 

私も頷く。

 

「土佐! 重巡を止めろ!」

 

「了解!」

 

撃つ。

 

敵が散る。

 

「漣!」

 

「行ってきまーす!」

 

「潮、合わせろ!」

 

「はい!」

 

二人が走る。

 

長良が私の射線を空け、那智がその隙間を埋める。鳳翔さんの艦載機が敵の進路をずらす。

 

分かる。

 

今までで一番、動きやすい。

 

「……これなら」

 

戦える。

 

六人で。

 

◆◆◆

 

「別働、接近!」

 

「あとどれくらいだ!」

 

「まもなく射程に入ります!」

 

「ちっ。正面の軽巡を落とす!」

 

「了解!」

 

砲を向けた時、敵重巡が動いた。

 

こちらではない。

 

誰を狙っている。

 

砲口。角度。進路。

 

長良。

 

「長良!」

 

「はい!」

 

「右!」

 

長良が動く。

 

一発目を避ける。

 

次。

 

「っ!」

 

水柱が立ち、姿が消れる。

 

「長良!」

 

「大丈夫です!」

 

声が返ってくる。

 

いる。

 

よかった。

 

その瞬間。

 

「土佐さん!」

 

長良の声。

 

右後方の別働部隊。駆逐級。雷跡。

 

「っ――」

 

回避。

 

間に合う。

 

「漣!」

 

「見えてる!」

 

漣が割り込み、砲撃する。

 

雷跡の先で海面が爆ぜた。魚雷が一本、誘爆する。残る雷跡も、立ち上がった水柱に呑まれた。

 

「ご主人様、前だけ見すぎ!」

 

「……すまない!」

 

「あとでジュース一本!」

 

「分かった!」

 

「やった!」

 

「戦闘中だ!」

 

那智の声が飛ぶ。

 

「はい!」

 

次。

 

敵を見る。

 

今度は一つだけではない。

 

正面。右。味方。

 

全部を見る。

 

「土佐!」

 

「ああ!」

 

敵重巡へ撃つ。

 

直撃。

 

「一隻沈黙!」

 

「正面が崩れる! 抜けるぞ!」

 

那智が叫ぶ。

 

その時だった。

 

敵軽巡が、まだ一隻動いている。

 

砲口が向く。

 

「――長良!」

 

撃たれた。

 

「っ……!」

 

直撃。

 

「長良!」

 

長良の身体が傾き、艤装から煙が上がる。

 

それでも倒れない。

 

「まだ……!」

 

歯を食いしばり、砲を上げる。

 

「まだやれます! 戦えます!」

 

その言葉が耳に入った。

 

聞いたことがある。

 

いや、違う。

 

自分で何度も言った。

 

『大丈夫だ』

 

『まだ動ける』

 

『戦える』

 

「長良」

 

「はい!」

 

「大丈夫かどうかを、自分だけで決めるな」

 

「……え?」

 

口にして、気づく。

 

「…………」

 

私が言うのか。

 

「私が言えたことじゃないが」

 

「ご主人様」

 

「何だ」

 

「それ、盛大なブーメランでは?」

 

「……分かっている」

 

「ですよね!」

 

「漣! 今は前を見ろ!」

 

「了解!」

 

那智が長良を見る。

 

「長良! 後退しろ!」

 

「まだ動けます!」

 

「命令だ! 第三は戦闘を継続する!」

 

長良が唇を噛む。

 

なおも砲を握っていたが、やがて大きく息を吐いた。

 

「……了解!」

 

「潮! 長良につけ!」

 

「分かりました!」

 

潮が動く。

 

六人の形が変わり、穴が開く。

 

「土佐! そこを埋めろ!」

 

「了解!」

 

前へ出る。

 

けれど、一人ではない。

 

左に那智。上には鳳翔さんの艦載機。右から漣。後ろには、長良と潮。

 

「撃つ!」

 

主砲が吼えた。

 

◆◆◆

 

敵を全滅させる必要はなかった。

 

「正面、離脱します!」

 

「別働も後退!」

 

「追うな! 第三艦隊、帰投する!」

 

那智の声に従い、すぐに進路を変える。

 

「長良」

 

「大丈夫です」

 

「それは禁止だ」

 

「……はい」

 

長良が苦笑する。

 

「航行できます!」

 

「分かった」

 

今度は、那智もそれ以上言わなかった。

 

潮が長良の横につき、漣もいつもより少し近い。

 

私はその後ろを見る。

 

敵は追ってこない。

 

倒し切っていない。

 

けれど、誰も戻ろうとは言わない。

 

私も思わなかった。

 

今は、帰る。

 

それでいい。

 

◆◆◆

 

港へ入る前から、長良の損傷は伝えられていた。

 

帰投すると、妖精たちがすぐに集まる。

 

「長良」

 

「はい」

 

那智が呼び止めた。

 

「お前はそのまま入渠だ。次の出撃から外す」

 

長良の顔が僅かに曇る。

 

「でも、まだ――」

 

言いかけて止まる。

 

それでも、すぐには引かなかった。

 

「私が抜けたら、第三の軽巡が足りなくなります」

 

「補充する。予備から入れる」

 

那智は即答した。

 

「長良。お前が抜けても、第三艦隊は出る」

 

昨日、聞いた言葉。

 

『お前が抜けても、作戦は続ける』

 

「だから」

 

那智の声は冷たくなかった。

 

「治してこい」

 

長良が俯く。

 

拳が強く握られていた。

 

少しだけ間があった。

 

「……はい。しっかり治して、戻ってきます!」

 

「ああ。次に必要なら、また呼ぶ」

 

「はい!」

 

今度の返事は強かった。

 

長良がこちらを見る。

 

「土佐さん。ありがとうございました!」

 

「何がだ」

 

「色々です」

 

「……そうか」

 

「はい」

 

少し考える。

 

「長良。治ったら、また一緒に出よう」

 

長良の目が大きくなる。

 

「…………」

 

「ああ、いや。必要なら、だが」

 

「もちろんです!」

 

長良が笑った。

 

「次は、今度こそ土佐さんに庇われないようにします!」

 

「別に庇っても――」

 

「土佐さん?」

 

「…………」

 

さっき、何を言った。

 

「分かった」

 

「よし!」

 

長良は満足そうに頷いた。

 

「では、行ってきます!」

 

「ああ。行ってこい」

 

長良が妖精たちと歩いていく。

 

その背中を見る。

 

第三艦隊。

 

那智。鳳翔さん。漣。潮。私。

 

一人、足りない。

 

「土佐」

 

那智に呼ばれる。

 

「お前も艤装を見せろ」

 

「私は軽い」

 

「聞いてない」

 

「まだ戦え――」

 

言葉が止まった。

 

「…………」

 

漣がこちらを見る。

 

「何だ」

 

「いえ」

 

にやにやしている。

 

「言いたいなら言え」

 

「二本目?」

 

「黙れ」

 

「はーい」

 

私は自分の艤装を見る。

 

『大丈夫かどうかを、自分だけで決めるな』

 

「…………」

 

ため息をつく。

 

「分かった。見てもらう」

 

妖精の方へ向く。

 

「それでいい」

 

那智が言った。

 

補給が始まる。

 

弾薬が運ばれ、艦載機が降りてくる。通信が飛ぶ。

 

「第四艦隊、帰投!」

 

「第五、交戦継続中!」

 

「第六より報告、敵増援の進路変更を確認!」

 

長良が入渠へ向かっていく。

 

それでも、作戦は止まらない。

 

長良を置いていくためではない。

 

長良が治せるように、誰かがその場所を繋ぐ。

 

「…………」

 

昨日より少しだけ、提督の言葉が分かった気がした。

 

『そのために、これだけ集めた』

 

第三艦隊の軽巡枠が一つ空いた。

 

けれど、次の出撃準備はもう始まっていた。

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