とあるトリッパーの日記。そして後悔の一日。
これと言って冒険も戦いもないただの一日の中で、トリッパーが何を思ったのかが書かれています。

ぶっちゃけ、オチに全てをかけた短編です。
なお原作名リリカルなのはとなっていますが、トリッパーによるトリッパーのお話です。
リリなの要素はほぼ無関係なのを予めご了承ください。

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とあるトリッパーの一日を記しただけの話です。


とあるトリッパーの一日

 こんにちは、私だ。

 なんて誰に言ってるんだとツッコミ入れられそうだが勘弁して欲しい。いつか誰かが読むかもしれないと言う想定で、私はこの日記を書いているのだから。

 そんな訳で続けるが、今日は久しぶりに私が当番の日だった。だから今日をたっぷりと満喫した後、この日の出来事を日記に記すことにしたのだ。

 まあ日記と言うか、正確には年記といった方がいいのかもしれないが。

 

 今日は朝起きてから顔を洗い、近所の定食屋に朝飯を食べに行ったところから始まった。

 以前ならば何気なくやっていた朝の所作に食事の味。やはり素晴らしいの一言だといえるだろう。何事も、失ってから気づくものなのだと今になって実感してしまう。

 などといきなり暗い話から始まってしまったが、気にせず今日の出来事を記していこう。

 

 私の家と言うのは少々間違っているかもしれないが、とにかく我が家には五人の人間が住んでいる。世間一般的に言えば五人家族と言えばいい話なのだが、少なくとも私は彼らが家族なのだと思った事は無い。向こうも同様だろう。

 同居人の数だけで言えばそんなものでは無いのだが、まあそれは割愛しよう。考えたくもない。

 とにかく私を含めた五人は同じ屋根の下に住んでいるのだが、互いに干渉しあうことなどまずありえない。お互いがお互いの部屋に引き篭もり、ただやりたいように過ごしているだけだ。

 そんな私達だが、今日は一人で外へと散歩に出かけた。皆はインドア派が多いが偶には太陽の光を浴びる必要があるだろうと思ったのだ。

 いや、そう言うわけでもないか。別に私は何をしなくても健康だし、何をしなくても常に絶好調なのだから。

 

 とにかく、私が定食屋の次に出向いた場所は近所の公園だ。爽やかな緑のにおいがたまらなく心地よかったことを今も鮮明に思い出せる。

 そのまま全身に太陽を浴びて日向ぼっこに興じたのだが、そこに一人知り合いが現れた。本当にただ知っているだけなのだが、一応知人の知人と言うのが正解なのだろうか。

 現れたのは金髪の女性だ。町を歩けば十人中十人が振り向く美貌を携えた外人女性。まともな男ならば声をかけるか、その度胸がなくとも遠くから見惚れることは確実と言える。

 もっとも、残念ながら私にはそんなつもりは無い。一応言っておくが私はノーマルだ。だが、それでも私が彼女に見惚れることはありえないのだ。まあ、彼女かどうかすら私にはわからないのだが。

 中身は不明であるが外見上は彼女なので、とりあえず彼女と記載しておこう。と言うわけで、彼女もまた私の事をよく知っているはずだ。何せ、私達の間にはとても深い繋がりがあるのだから。

 だが、やはり彼女の方も私と関わるつもりは無いのだろう。お互い不干渉のまま公園での日向ぼっこを楽しんだ後、何一つ言葉を交わすことなく別れたのだから。

 あるいは、そもそも出会ってはいなかったと言うべきなのだろうか?

 どちらにしても、彼女の気持ちはよくわかる。何で貴重な一日を他の奴らの為に消費しなければならないのかと思っているのは全員共通の認識なのだから。

 もっとも、私の境遇に比べれば彼女はまだましだろう。何せ、私の背負った呪いは……呪いでいいだろうと私は確信するが、彼女の物よりも数段根深いはずなのだ。

 とは言え、そんな不幸自慢をやっても空しいだけだ。不幸自慢などと言うものは今不幸では無いからできるのであって、本当に辛い思いをしている者はそんなこと口にしたくもないはずなのだから。

 などと書くと今の私は何だかんだ言っても不幸ではないのではないかと思われるかもしれないが、まあ実際いつもよりはご機嫌だと言える。何せ、今日一日好きなように生きたのだから。

 

 さて、そんなことよりも日記を続けよう。どうやら私はすぐわき道に逸れる癖があるようだ。まあそれこそ好きでやっているのだし、私の思うままに書かせてもらおう。

 朝日を浴びて体内時計を整えた私は、次に心を癒すべく遊技場へと向かった。どこかと言えば、ボーリング場だ。

 久しぶりに私の当番なのだ。ならば、好き放題体を動かすことこそが私の望みだったのだ。

 我々の中には一日中部屋にこもって好きな漫画やアニメ、はたまたネット小説を嗜むものもいるが、その辺は個人の好みだろう。私が口出しすることではあるまい。口出しする機会もないのだが。

 これが幸せなことなのかはわからないが、我々は金だけは持っている。それこそ生涯働く必要などあるまい。

 そんな能力を持った人間が我々の中にいただけでも幸福と思わべきなのだろう。まあ、本当に望んでいいのならば誰一人としていない事を望みたいのだが。

 とにかく、私はサイフの中身を気にすることなく一人ボーリングを楽しむ事にした。一人と言う点に寂しさを感じなくもないが、せっかくの自由に他人と関わるのも鬱陶しいのだ。思う存分自由を楽しむためにも、私は一日を一人で過ごすと決めているのである。

 そんな訳で、一人ボーリングを二時間ほど楽しませてもらった。久しぶりの運動だったせいもあり前半は悲惨な結果だったが、後半はかなりの高得点をたたき出したと自負してる。

 少なくとも、素人にしては十分な好成績だったはずだ。やはり私の身体能力は常人の遥か上と言うしかないだろう。

 私としては――と言うよりも、今となってはそんなものよりももっと平凡な幸せが欲しいと心から思うのだが、もはやどうしようもない話だ。

 そんなこんなでたっぷりとボーリングを楽しんだ後、私は別の場所に移動しようとした。

 だが、その前に一つ些細な出来事があったこともついでに書いておこう。せっかくの日記なのだし、あった事は全て記録しておくべきだろうから。

 その出来事とは、紫色と言うよくわからない髪の色を持った女性が私の遊んでいたボーリング場へとやって来たことだ。

 その女性もやはり私の知人の知人なのだが、まあどうでもいいだろう。どうせ一言たりとも会話することすらないのだから。

 あえて特記するのならば、彼女の身体能力値の高さだろう。女性としてはなどと言った形容詞を一切必要とせず、普通に人類全体で見ても比類なき肉体能力の持ち主だ。

 しばらく……と言っても十分ほどだが私は彼女のプレーを見物させてもらった。最初の一、二投こそ最初の私と同じく力を持て余したように外してしまったが、どうやら今日の彼女は私よりもセンスがあるらしい。すぐに自分の力を理解し、瞬く間にストライクを連続で繰り出して行ったのだ。

 まあ凄い事をするなど我々の間では下らないこととしか感じられ無いのだが、やはりその光景は壮観であった。ほんの三十分で飽きてしまった私が言っても説得力に欠けるだろうが、とにかく心のリフレッシュにはなったのだ。

 

 さて、そんな事をやっている間にもう昼時になってしまった。私は昼食をとる事にしたのである。

 今日一日を充実したものにするために私が選んだ食事はカレーライス。唸るほどの金をもつ割には庶民的なチョイスであるが、好きなものは好きなのだ。

 久しぶりなので今も残っているかはわからないが、つぶれていないことを願ってお気に入りのカレーショップへと私は足を運んだ。

 そして、幸いなことに今もその店は昔のまま営業を行っていた。私はそれを喜んでお気に入りのトッピングカレーを注文したのである。

 味も変わってはいなかった。もう一度あの味を味わえた事は、私にとって何よりも嬉しい出来事だったと言っても過言ではあるまい。

 そんな風にカレーを楽しんでいたところ、また私の知人が店に訪れたのだった。どうやら、私達の行動範囲は思いっきり被っているらしい。

 本日三人目の知人は、正しく私自身の知人と言っていいはずだ。いや、本当ならば知人などと言う浅い関係ではなかったはずの女性である。

 とは言え、現実として私達は赤の他人として過ごしているのだから言うだけ無意味な話だ。

 私も彼女と親しくしたいとは思わないし、向こうもそうだと確信している。二人目の女性と同じ紫の髪を持った、二人目よりも年上の妙齢の美女と関わりを持つことなどありえないのだから。

 結局私は彼女とも会話を交わすことなく、それどころか視線一つ交えることなくカレーを完食し、店を後したのだった。

 

 そして私が次に向かった場所は映画館だった。とにかく体を動かしたったという欲求もとりあえず満たしたことだし、食休みがてら久しぶりに映画でも見ようかと思ってやって来たのだ。

 当然ながら前売り券を買っているわけもないので、と言うか本日何が放送されるのかもわかっていなかったのだが、とにかく何かの当日券で見ようとやって来たのである。

 その結果見ることにしたのは、とあるアニメ映画だった。いい年した大人が一人で見るものでもない気はするが、まああの国民的アニメの映画ならば気にすることもあるまい。むしろ、偶々私が当番の日に上映していた幸福を喜ぶべきだろう。

 当日券を買い、私は自分の席に座った。上映時間は二時間ほどなので食休みとしては十分だろう。

 そんな風に上映前の予告を見ていたとき、私は隣の席の女性が知り合いであることに気がついた。彼女も知人と言うよりも更に近い関係にある女性だ。

 と言うか、はっきり言ってしまえば私の家族と言うことになっている女性だ。現実にはお互いに家族だなどと認めていないので、知人で正しいと思うが。

 それにしても、何でこうも行く先々で知り合いの女性に、その気になれば男の十人や二十人誑かすことなど片手間でできる超美人に出くわしてしまうのだろうとあの時の私は不思議に思ったものだ。我が戸籍上の家族――妹も、好き好んで私になど出会いたくは無いだろうに、何故適当に決めた行き先で出くわしてしまうのだろうかと。

 今になって冷静に考えてみれば、そう言う能力を持った者が我々の中にいただけの話だったのだろうが。

 とにかく、気まずい中でも私は彼女と何一つ会話を交わすことなく映画を見切った。途中から隣の戸籍上の妹のことなど気にならなくなる名作だったとだけ書いておこう。

 映画の内容を本気で書き記してしまうと、もはや私の日記ではなく映画の感想文になってしまうと断言できるくらいには心に響くものであった。

 

 映画を見終わった私は、その後一人でゲームセンターへと向かった。金の心配は無いので、散々散財して遊びまくるつもりだったのだ。

 だが、もはや書くまでもない気もするがやはり知人の美女とそこで出くわすのだった。

 バッテン印の髪飾りをつけたショートヘアの美女は、一人格闘ゲームで遊んでいた。もちろん関わるつもりも話しかけるつもりもなかった私は一人メダルゲームで遊んだのだが。

 個人的にはクレーンゲームも好きなのだが、景品のぬいぐるみなど邪魔なだけだ。ただひたすら遊ぶと言う意味ではメダルゲームに勝るものはあるまい。

 私が自慢することでもないのだが、私の反射神経はオリンピック選手にも劣らないものなのだ。その素早い反応はゲームでも生き、非常に楽しめたとだけ書いておこうか。

 正直、ゲーセンでゲームした以上に書ける事など無いのだ。だがそんなことでも、私からすれば久しぶりに思いっきり遊べた楽しい時間だったのは間違いない。

 さて、そんな事をしている内にすっかり日も暮れていた。ここからは大人の時間である……とでも言っておこうか。

 まあ安心してと言うべきか、それとも残念ながらと言うべきかは私の知るところではないが、十八歳未満お断りなことは特に無いと初めに明記しておく。

 

 今日一日の自由。それを満喫する為にも、夜は夜にしかできない遊びをするべきだと私は思ったのだ。

 そこでパッと思いついたことは花火であった。今は冬のようだが、それはそれでオツなものだろう。

 そんな訳で私は、最初の公園で一人花火を楽しむ事にした。近所迷惑だと怒られること間違いなしの打ち上げ花火まで近所の店で買ってきた私は、年甲斐もなく一人で騒ぎまくったのだ。

 もちろん、そんなことをやれば他の人の耳に入る。まだ寝る時間と言うわけではないにしろ、うるさいと文句をつけたくなる気持ちはわかる話だ。

 わかってるのに決行した私の性格の悪さが浮き彫りになった気もするが、元々人の迷惑を考えられる人間ならばこんなことにはなっていない。私は本来人一人の命すら自分の都合であっさり切り捨てる人間であると言うことは、もはや変えようのない事実なのだ。

 まあそれはともかく、私は騒いでいたからか近所の不良学生達が群れをなして私に喧嘩売りに来たわけである。喧嘩売りにきたと言うか私が喧嘩売ったの方が正しいかもしれないが、まあどちらでもいいだろう。

 そんな不良集団――今すぐ美少女アイドルとしてデビューできる逸材を確認――を前に、私は何の躊躇もなく暴力に訴えた。男も女も関係無しに、ただ無差別の暴力だ。全く、どっちが不良なのかわからないという話だな。

 当然、私が、と言うか我々がただの人間に負けるわけもない。そもそも違う土俵にいるのだから比べる事から間違っていると言う話だ。

 だが、その集団の中に一人だけ私と同じ土俵に立っている者がいた。いや、正確に言うと不良集団を叩きのめした後に現れたので、多分あの不良たちとは関係なかったのだろう。

 その人物は、これと言って特徴のない男であった。何気にこの日記で男が登場するの初めてじゃなかろうか?

 その男は外見がわざとらしいほどに『普通』に拘ったものであることに反し、その力は異様としか言えないものであった。

 私の本気に対応できるだけの身体能力を持ち、偶にこの世のものとは思えない光の弾丸を撃ち込んできたのだ。

 いやまあ実際の所、私はその摩訶不思議な力についてよく知っているのだが。むしろ私よりも、私がそんな力に対応できることを男が驚いていたと言う方が正しいのだが。

 何せ、私からすればそんなもの、持っていて当然の力なのだ。どうやらここがどんな地獄なのかもまだわかっていないらしいルーキーとおもわれるその男に、私は慈愛と嫉妬の念を込めて完膚なきまでに叩きのめしてやったのだった。

 

 そんなこんなで時間を潰した私に残された時間も残りわずかとなった。後は夕食を食べるくらいしか予定は無い。

 さてその食事だが、せっかくの金持ちセレブな訳だし、晩餐は目一杯豪華なものにしたのだ。実は朝のうちから高級レストランに予約を入れていたのである。

 百万ドルの夜景……と言うほどの価値があるのか私の感性ではわからないが、ともかく町を一望出来る高層ビルの最上階にあるレストランでの豪華ディナー。本当の私ではありえないシチュエーションに、この時ばかりはこうなったのも悪くは無いかと思ってしまったほどだ。

 まあ、実際にはそんなことで今の状況を受け入れられるわけもないのだが。

 さて、もう言わなくともわかるだろう。やはり、私の進む道に美女ありだと。それも今度は先ほどの不良少女と違い、私の知人だった。

 別に不思議なわけでもないのだが、私の知人は皆私と同じ理由で金持ちだ。だから、むしろこう言った高級レストランで出くわす方が自然な話なのかもしれない。

 今度現れた女性は長い金髪を腰まで垂らした外国人女性だ。いや、外国には違いがないのだが、正確にはそれ以上はなれた関係なのだが。

 もし私を取り巻く異常がなければ、今すぐ恥も外聞も捨てて交際を申し込んでいたかもしれない。それほどの魅力的な美人であると誰もが認めるだろう女性だ。はっきり言えば、私は私の知人の中でも彼女が一番好みなのだ。

 だが、それでも私が動くことは無い。外見がどれだけ魅力的だろうが、やはり知っている私としてはとても口説く気にはなれないのである。

 と言うか、彼女はなんであそこにいたんだろう? 会話一つせずに立ち去った私にわかるわけもないのだが、彼女がこの地を踏む事は無かったはずなのだが。わざわざ観光目的でやって来たのか?

 

 まあそれはともかく、これで私の一日は終わったわけだ。まだ夕食を済ませただけなので時間はあるのだが、私が今日ここにいた証としてこの日記を書き上げるために時間を残しておきたかった。

 要するに、この先はこの日記を書いていましたが日記の内容となるわけだ。

 ああ、既に時刻は午後11時48分。残り12分しかない。

 私が私であれる時間は、もはやカップめん四杯分しか残されていないのだ。

 できれば騒ぎたい。暴れたい。力の限り壊したい。あんな所に戻るのは嫌だと、あんな思いをするのはもう沢山だと。

 だが、それはできない。自殺すら許されぬ不老不死の力まで持った我々は死ぬ自由すらないのだ。だから、ほんの24時間の自由とは言え、それを壊してしまうような真似をするわけには行かない。

 ああ、もう残り1分となってしまった。

 私はここで筆をおこうと思う。次の私の当番がいつになるのかはわからないが、前回から今日までにかかった時間はおよそ五年にもなるのだ。単純計算でも、既に我々は約1800人と言うことになる。

 次は確実にそれ以上の期間一切の自由がなくなるのは確実。ならば、日記を書き終える事ができなかったとそんな時間後悔し続けたくは無い。次に私の当番となったとき、私が正気を保っている保障は無いのだから。

 さあ、ここで日記を終わる事にしよう。未来の私を含めて誰かこの日記を読んでいてくれたのなら、今日この日私と言う一つの人格が生きたことを、どうか心に留めておいてほしい……。

 

○○年××月☆☆日

記:高町恭也in憑依ナンバー783

 

 

「……そうか、前に私だったのはもうそんなになるのか……」

 

 若々しい男、年の頃は大学生と言ったところか。そんな男が、年齢には似合わない覇気も若さもない声を呟いた。

 彼の手にあるのは日記。十年ほど前に彼自身が綴った短い日記だ。

 

「何で、私はあんな事を望んだのだろうな。いや、我々はと言うべきか」

 

 哀愁と後悔。ただそれだけしか感じさせない暗い声。そんな呟きと共に男は――高町恭也の体を持った男はゆっくりと立ち上がった。

 

「優れた肉体。端正な顔立ち。特殊な能力。ハーレムもかくやと言う交友関係。全く、そんなものの為に本当に大切なものを忘れるとは、我ながら愚かなことだ……」

 

 彼は、彼らは自分達の事を憑依転生者と呼んでいる。

 彼らは神に出会ったのだ。それが本当に人間が認識している所の神様だった保障は無いのだが、とにかく神にも等しい力をもった存在に死することで出会ったのだ。

 そして、その神は彼らに悪魔の誘いをかけた。好きな力、好きな条件で別の世界に送ってやるぞ、と。

 それだけならばそれはただの親切で、それはただただ彼らに都合のいいだけの話だったはずだ。

 だから、その後に続いた彼らの願いこそが神の救いを悪魔の囁きに変えてしまったと言うのが正解だろう。

 

「……全く、何で『ハーレム体質のイケメン剣士、高町恭也になりたい』などと言ってしまったのだろうな……()()は」

 

 高町恭也。それはとあるゲーム、あるいはアニメの登場人物だった男の名だ。彼らは、そんな男になりたいと願った。いや、正しくは成り代わりたいと願ったのだ。

 空想世界の住人ではなく、一人の人間として生きている高町恭也の精神を殺し、肉体を奪いたいと望んだのだ。

 そんな願いにも快く頷いた神は、やはり悪魔の類だったのだろうか。いや、恐らくは誰にも迷惑をかけない方法で願いを叶えてくれただけなのだから、やはりアレは神だったのだろう。

 

「我々の中に高町恭也がいない以上、やはりこの体は我々が望んだから用意されたただの人形だと言うことなのだろうな」

 

 彼らにとって不幸だったのは、神に願いを聞いてもらう機会があったのが自分だけではなかったこと、そして自分の為に人一人殺そうなんて考えの持ち主が数多くいたことだ。

 そう、彼らとはすなわち、高町恭也になることを望んだ死者のことだ。

 しかし、神は本物の――創作物の登場人物に本物がいる保障は無いが――高町恭也を殺すことも迷惑をかける事もしなかった。ただ、全く同じ(からだ)と、世界(かんきょう)を一つ作ってくれたのだ。

 だが、神のサービスもそこまでだ。作ってくれたのは一つだけで、後は全員でそれを仲良く使いなさいと言って来たのだ。

 

「全員で仲良く、順番に一日だけ……か。24時間きっかりの自由。それ以外は暗い意識と言う闇の中を漂う人生。これこそ本当の地獄だな」

 

 理想の体の数は一つ。希望者は複数。それに対し、神はどこまでも平等に全てを叶えた。

 一つの体に無数の魂を、一つの体に各人が望んだ能力を。ただただ全て詰め込んだのだ。

 

「おかげで一生を百回繰り返しても困らない金を得る幸運も、何に襲われても対処できる超能力も、何が起きても死なない体も、どんな能力も無効化する能力も、何でも揃ったわけだ」

 

 だがそれも、体が自分のものでないのならば意味がない。たった24時間の自由の中でどれだけやりたい放題やったとて、何の慰めにもならない。

 

「しかも、この世界にやって来た目的の大部分と言えるヒロインたちまで我々(たかまちきょうや)と同じ状況ではなぁ。中身がどんなおっさんかもわからないのでは、一日だけの恋愛を楽しむ気にもなれん」

 

 この世界――リリカルなのはをベースに作られた世界の登場人物は全て似たような状況だ。人気不人気の差はあれど、憑依転生者が入っていない体など一つもない。

 おかげでジュエルシードが発掘されることも闇の書が暴走することもマットサイエンティストが暴走することもないが、だからどうした。各人が自分のチート能力で勝手に事件を解決するか、あるいはそもそも事件を起こさないのではチートの意味がない。

 更に言えば、原作キャラだけが憑依転生者とは限らない。所謂オリキャラ枠として、きちんと受け皿は用意されているのだ。

 十年前に彼が出会ったまだ自分の現状をわかっていない様子の少年も、超人気物件『極普通の少年オリ主』に入った少年も、二回目を待ってただただ闇の中で一人思考をし続けているはずだ。意識の世界では、それしかできることはないのだから。

 そんな世界に、彼らは身をおいているのである。

 

「ああ、全く。私に残された時間は後20時間と言ったところか。今日も今日とて『高町恭也』になりたいと願う死者はいるようだし、一体どこまで我々は増え続けるのだろうね……」

 

 ただ一人、誰もが羨む事と引き換えにもっとも大切なものを失った男は孤独に呟く。

 そして、せめて今日を楽しもうとゆっくり動き出すのだった……。




どうでしたか? オチを思いついたのでノープランから三時間で書き上げた短編ですが、少しは楽しんでもらえたでしょうか?
まあ要するに、せっかく憑依したのにほぼ肉体の制御権を得られないどころか、周りの人間全部が全部中身不明の転生者だらけだったと言う話でした。
おまけにチート能力の闇なべ状態。もう何をしようが本人すらどうしようもない強制無敵モードだったってことでした。

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