前世持ちの黒百合は笑いたい 作:ゴッチェ・インペリアル
「お母さん。私、日本に行ってみたいです」
「…………今度は何を企んでるの? メメントモリ」
「まだ何も企んでませんよ」
実の母親からこう思われている事実に思わず涙が出て来る。
自業自得だと言われればそれまでだけど。
「はぁ…………それで、どうして日本に行きたいだなんて言い出したの?」
「日本には噂のボンゴレ10代目が居るじゃないですか。ジッリョネロファミリーのボスの娘として顔合わせくらいはしておいた方が良いんじゃないかと思いまして」
「本当は?」
「どうしても気になったんです。平和な日本で暮らしてたのに、いきなりマフィアの世界に関わる事になった彼が、重たい運命を背負う事に彼がどのような事を思ってるのか」
背負っているものは違っても思い運命を背負うことになった彼がどのような答えを選んだのか。
どうしても気になってしまうのだ。
「…………分かったわ。ボンゴレには私から伝えとくわ」
「お母さん?」
「貴女の事だから日本に行って会って話してそれで終わり、にはならないでしょうからね。暫く日本で過ごして来なさい」
「…………良いんですか?」
「正直良くないわよ。貴女が外から何て呼ばれてるのか知ってたら外に出すのはちょっと、って思うから」
あっけからんと呟くお母さんのその言葉に少しだけ傷付く。
そんなに私の評判悪いんですか?
陰謀策謀殺し合いが常の裏社会の人達からしたら私の悪戯なんて可愛いものじゃないですか。
それに一般人相手にそんな事しませんよ。
「でも、ダメだって言っても勝手に行っちゃいそうだし、それなら最初から信頼出来る人のところで見守って貰った方が良いわ」
「信頼出来る…………γか幻騎士も一緒に行くんですか?」
「ジッリョネロの人じゃないわ。ただ、貴女も知ってる相手よ」
私も知っている人、か。
日本人に知り合いは居ないし、そもそも私はイタリアから出た事はおろかジッリョネロの縄張りから出た事も無い。当然ボンゴレファミリーやその傘下のファミリーの関係者との面識も無い。
お母さんはたまに仕事で会う事はあるが、それは大抵ジッリョネロファミリーの縄張りの外だから。
と、なると誰なんだろう?
「ねぇ、メメントモリ」
日本にいる私も面識がある相手が誰なのか頭を悩ませているとお母さんが私の名前を呟く。
「楽しんできてね」
お母さんの口から紡がれたその言葉に対し、私は笑顔を作る。
「はい、楽しんできます。お土産、楽しみに待ってて下さいね。お母さんも、ユニも笑えるような話を作って来ますから」
「楽しみにしておくわね」
そう言った私の顔を見て、お母さんは嬉しそうに微笑んだ。
「でもやり過ぎはダメよ。貴女がつまらなかったからといって騒動を起こすような事をしちゃダメだからね」
「分かってますって。余程の事が無い限りはそんな事しませんから」
「余程の事が無くてもしちゃいけないわよ。本当に貴女は分かってるのかしら?」
「大丈夫ですって!! それよりも日本へ行く為の準備して来なくちゃ!!」
「あっ、コラッ! メメントモリ――――!」
最後にお母さんに軽く叱られながら、私はお母さんの部屋から飛び出して日本へ行く為の準備を始める事にした。
この時の私は知らなかった。
日本で過ごす日々は私が騒動を起こす必要が無いくらい波乱に満ちたものである事を。
件のボンゴレ10代目が私にとっての運命である事を――――。
+++
並盛町の住宅街にある沢田家と書かれた表札がある一軒家。
その家の一人息子である少年は二階にある自身の部屋で深い眠りについていた。
時刻は朝の七時頃。窓の隙間から入ってくる日差しが少年の顔に当たり顔を顰める。
――――もう、少し…………。
一瞬だけ覚醒した意識と脳は眠気に抗う事もせず、そのまま心地の良い闇の中にへと沈んでいく。
だが、それを許さない者がこの部屋の中に居た。
掛け布団で自らの身体を包み惰眠を貪ろうとした少年の枕元に立つ黒髪の赤ん坊が、その手に持った身の丈程の大きさはあろうかと思われるバズーカを向ける。
「起きろ、ダメツナ」
そして赤子らしい可愛らしい声とは裏腹に、黒髪の赤ん坊は容赦なくバズーカの引き金を引いた。
「うぎゃぁあああああああっ!?」
爆発音と爆風に遅れて綱吉の絶叫が響き渡る。
数秒後、バズーカによって生じた煙が晴れるとベッドの上にぷすぷすと音を立てて満身創痍になった少年が居た。
そんな少年の姿を見て黒髪の赤ん坊は満足気にニヒルな笑みを浮かべる。
「今日も絶好調だな」
「これのどこが絶好調なんだよ――――!!」
「そんな事より今日はママンが居ないんだから早く起きろ」
「オレが爆破されたのはそんな事なの!?」
バズーカによって叩き起こされた、爆破されて起こされた少年は赤子に抗議する。
しかし、赤子はどこ吹く風と言わんばかりに少年の抗議の声を無視した。
軽く流された事実に少年は涙を流しながら項垂れる。
「何で一々爆破されて起こされなければいけないんだよ…………」
「そりゃオメーがイタリアンマフィア、ボンゴレファミリーの10代目だからだぞ」
「だから、何度も言うけどオレはマフィアになんかなるつもりは無いって言ってるだろ――――っ!!」
赤子の発言に少年は心の底から反発するように食ってかかる。
そんな少年の態度を見て赤子は心の底から呆れてると言わんばかりの表情を浮かべた後、ハンモックの上に飛び乗り少年を見下ろしながら告げる。
「お前も諦めの悪い奴だな。ボンゴレは傘下のファミリーを多く従える良いマフィアなんだぞ」
「マフィアに良いも悪いも無いだろ――――リボーン!!」
少年、沢田綱吉は赤子、リボーンの言葉を叫びながらいつものように否定した。
事の発端は半年以上前に赤子、リボーンが沢田綱吉の家庭教師として沢田家に来訪したのが始まりである。
当初は明らかに子どもどころか赤ん坊であるリボーンの戯言として笑った綱吉だった。が、リボーンの赤ん坊とは思えないような容赦の無い強烈な一撃で叩きのめされてしまったのである。
そして意識を取り戻した綱吉にリボーンは
その日以降、ダメダメなダメライフから一転してリボーンやその関係者たちによる無茶苦茶で破天荒な毎日を謳歌することになったのだ。
「ったく、一々バズーカを使って起こすなよ」
「二度寝しようとしたお前が悪い」
黒焦げになった身体をシャワーで洗い流し、母親が用意した朝食を食べながら綱吉はリボーンと話す。
ここ最近では珍しい、二人しか居ない朝だった。
この家の主であり綱吉の母親である沢田奈々は前日に用事があると言って朝から居ない。
そしてこの家に住まう愉快な居候達もそれぞれ用事があるせいか、留守にしていた。
「そもそも今日は進級した際のクラス発表があるだろ。いつものように遅刻したらクラスが分からなくなるだろ」
「うぐっ、それは……………そうだけどさ」
リボーンの口から語られた進級という言葉に綱吉は思わず閉口する。
並盛中学校は進級する際、生徒のクラス替えがある。
一年一緒に過ごして来た人達と別れて新たな出会いが待っている、と言えば聞こえは良いがダメツナと蔑まれてバカにされてる綱吉からしたらあまり良くは無かった。
「京子ちゃんや皆と離れたらどうしよう…………」
「お前だけ一人になったりしてな」
「嫌だ――――!!」
ニヒルな笑みを浮かべながら呟かれたリボーンの言葉に綱吉は頭を抱えながらそんな未来を拒否する。
とはいえ、こればっかりは学校側の判断なので綱吉の一存ではどうにもならない。
リボーンなら何とかしてくれそうだが、こいつに頼めば後で酷い目に遭わされる。
そう思いながらどうにか変わらないでいてほしいと願う綱吉をリボーンは横目で見ながら懐から一枚の紙を取り出す。
「まあクラスについては学校に着いてからのお楽しみだ。それよりも9代目から進級のお祝いの手紙が来たぞ」
「9代目から?」
「ああ。読み上げるぞ――――『進級おめでとう』」
リボーンは手紙に目を通しながら書かれている内容を読み上げ始める。
「『リボーンから日頃の活躍は聞いている。友人や仲間を手に入れて益々ボスとしての器を高めているとも』」
「高めてねー!!」
一体9代目は、ボンゴレファミリーはリボーンからどんな報告を受けているのか。
思わず疑問を抱いてしまうがリボーンは更に言葉を続ける。
「『進級するということは新たな出会いが待っている。裏社会でもきみの事を知りたいと思う者がそちらに向かうかもしれないだろう。不安な事はあるかもしれないがもしその時が来たらきみが助けになってあげてほしい』」
「マフィアの関係者とか今でも手一杯なのにこれ以上来るの――――!? っていうか助けって、オレが助けて欲しいくらいなんだけど――――」
「追伸、断ったりしたらぶっ殺す」
「いや――――!!」
最後にリボーンの独断で付け加えた追伸の言葉を聞いて綱吉は恐怖する。
それを聞いて満足気に笑みを深めながらリボーンは9代目からの手紙を仕舞おうとする。
その時だった。綱吉の瞳にリボーンが持っている手紙の裏に何か文字が書かれている事に気が付いたのは。
「ん、ってリボーン。その紙、裏面にも何か書かれてるよ」
「何?」
綱吉からの指摘を受けてリボーンは手紙をひっくり返し、裏面にも書かれている文字を視界に収める。
瞬間、リボーンの身体が石像にでもなったかのように硬直した。
そして、ニヒルな笑みが一転してこの世のあらゆる苦虫を噛み締めたかのような、梅干しのようなシワクチャな顔に変化した。
「うわっ!? 皺すごっ!?」
「…………マジか」
「な、何が書かれてたんだよ…………?」
手紙の裏面を見たリボーンの変顔と反応から、最初はいつものように自分を揶揄っていると思っていた綱吉でさえ、今のリボーンにはそんな余裕が無い事を理解する。
当然何が書かれていたのかも気になる。
気になりはするが怖くて聞きたく無いし、かといって聞かなかったら後でもっと酷い事になる。
そう思いながら訪ねた綱吉にリボーンは深い溜め息を吐く。
「メメントモリがやって来る」
「めめ、何?」
聞き馴染みの無い単語に綱吉は首を傾げる中、リボーンは平静を取り戻した顔で綱吉を見つめる。
「ツナ、頑張れよ」
その言葉を呟く際のリボーンの瞳は今までに見た事が無いくらいの慈愛が宿っていた。
「だから何が来るの――――!?」
何が来るのか、全く理解出来ない綱吉はただ一人困惑と恐怖に満ちた叫び声を上げた。
+++
「――――って、事があったんだよ」
学校へ向かう道中、綱吉は友人二人に朝起きた出来事を話す。
あの後、リボーンは何を聞いても「頑張れよ」としか言わなくなってしまった。
今までに見た事の無い反応に心底からの恐怖を覚えながら、その恐怖を紛らわせる為に二人にも共有する事にした。
「小僧にも苦手なものがあったんだな」
左隣を歩く綱吉より背の高い黒髪の少年、山本武は普段と何ら変わらない声で意外そうに言う。
実際、綱吉から見てもあの時のリボーンは凄まじかった。今まで傍若無人の極みだとすら思って来たあの家庭教師があんな変顔を晒す事になるとは思っても見なかった。
「それで、小僧は何が来るって言ったんだ?」
「えっと…………確かめめんともり? だったと思う」
めめんともり、その単語を聞いた綱吉の右隣を歩く銀髪の少年、獄寺隼人が顎に手を当てながら口を開く。
「メメントモリ、っすか…………」
「獄寺君は知ってるの?」
「ええ。まあ、知識だけなら」
イタリアからの留学生かつボンゴレファミリーに属している事もあり、メメントモリという単語の二つの意味に気付いた隼人は語り始める。
「先ずメメントモリっつーのは一般的にはラテン語の警句なんす」
「警句?」
「日本でいう格言みたいなものっすね。メメントモリは『死を想え』って意味です。自分はいつか必ず死ぬ事を忘れるな、そういう意味らしいです」
「な、なんか怖そうだけど…………」
「つってもこれにはポジティブな意味もあって『今この瞬間や日々の時間を大切に生きる』ってことでもあるらしいです」
隼人からの説明を聞いて綱吉は脳裏に死ぬ気弾と呼ばれている特殊な弾丸の事を思い浮かべる。
死ぬ気弾は脳天に当たると後悔した事死ぬ気になってやり遂げる為に蘇る効果がある。
そういう意味ではメメントモリという単語と死ぬ気弾はそう遠く無いのかもしれない。
「まあ、リボーンさんが一般的な意味でのメメントモリという単語でそんな苦手そうな顔をするとは思えないので、恐らくジッリョネロの悪魔の事っすね」
「ジッリョネロの悪魔?」
「ええ。ジッリョネロファミリーのボスの娘、メメントモリ・ジッリョネロの事だと思います」
そう言うと隼人はジッリョネロファミリーについて語り始める。
「ジッリョネロファミリーはボンゴレファミリーと同じくらいの歴史と伝統を有する、古参のファミリーです」
「マフィアごっこの話か?」
「…………ただボンゴレとは違い、ジッリョネロの勢力っつーのはそこまで大きいわけじゃありません」
武の発言に眉を顰めながら隼人は続ける。
「何でかって言うとここのボスは代々女で、予知能力を持っているらしいからっすね」
「予知能力?」
「ええ。何でも未来が本当に見れるとか。まあかなり怪しいっすけど凄く当たるらしくてマフィアっつーよりは占い師に近い生業っすね。で、メメントモリ・ジッリョネロはそのジッリョネロファミリーのボスの娘です」
「じゃあリボーンが言っていたのはそのメメントモリって人が来るって事なのか。でもジッリョネロの悪魔って、その人何やったの?」
「オレも詳しい事は分かりませんが…………敵対ファミリーを血祭りに上げたりどろっどろの愛憎劇を見て高らかに笑ったり、尻の穴から酒を飲ませたりしたとか」
「どんな暴君!?」
「何でも身長が2メートルを軽く超える大の男すら小指で捻り潰せる怪力無双の女傑だとか。温厚なジッリョネロの歴代ボスから生まれた突然変異だとも」
「そんな人が日本に来るの――――!?」
会いたくない、絶対に会いたくない。
内心恐怖一色に染まる中、武は何かを思い出したかのように「あっ」と声を出す。
「悪いツナ。オレ野球部の部室でやる事があったんだ。先に行かなくちゃならねぇ」
「ったく、野球バカは…………ってそういやオレもボムを家に忘れて来ちまったな。すみません10代目! オレちょっと取りに戻ります!」
「え、あ、うん――――って、ボムは学校に必要無いんじゃないかなっ!?」
綱吉のツッコミも虚しく隼人は足速に家へと戻っていく。
武も駆け足気味に学校へ向かい、綱吉は一人になる。
「あーもう、不安だ…………」
リボーンのあの反応を見るに隼人の言う事も強ち間違ってないのではないだろうか。
一人になった事で不安な気持ちに駆られていた。
そんな最中だった――――背後から声を掛けられたのは。
「すみません、少しよろしいでしょうか?」
鈴の音が転がるような透き通る声だった。
声だけを聞いただけでも美しいと脳が思ってしまう程に綱吉の心にするりと入り込んだ。
凄く安心する*1、そう思った綱吉は半ば反射的に声がした方向を向いてしまう。
そこに居たのは並盛中の制服を身に纏った、左頬辺りに絆創膏を付けている異国の少女だった。
腰まで伸びた黒色の長い髪、整った可愛らしい容姿、そして青色の奇麗な瞳。
初めて会うタイプの、儚げなタイプの美少女だ。
「並盛中学校の生徒さんですよね。申し訳ありませんが学校までの道案内をお願いできませんか?」
主人公の容姿はほぼユニです。
ユニより活発そうな感じです。