触れたら破滅しそうな見た目の闇属性うすほそにTSしたけど、破滅させてるのは性癖らしい 作:闇のうすほそ
今の闇属性うすほそになる前のボクは、まあ大して面白みのある存在ではなかった。
どこまで行っても凡人で、大した才能なんてなく、誰にもなれず生きてきた。
近くの人物と常に比較されてきたから、自分の無才っぷりはよくわかっているつもりだ。
最終的には就職して、忙しく日々を過ごす毎日。
楽しみといえば推しのライブとか、ゲームのフェスとかに参加できたら参加することくらいかな。
ああやって趣味を共有できる人たちと一体になる感覚は嫌いじゃない。
本当にそれくらいしかボクの個性と呼べるものはなく、気がつけば異世界でうすほそになっていた。
以前の自分が死んだのかどうかはよくわからない。
記憶は曖昧で、思い出せないのだ。
まあ、多分生きたままうすほそになって異世界に来たんじゃないかと思う。
死ぬって本当に怖いことだからね、大人になっても死後の世界があるのかとか考えて一人で怖がるボクが、もし本当に死んでたら精神はまともじゃいられないはずだ。
きっと恐怖でおかしくなってるよ。
異世界に来てからは、おおむね順風満帆と言っていい。
なんてったって見た目がいいからね、皆親切にしてくれるんだよ。
いやまあ、触れたら破滅しそうなボクの見た目に怖がる人もいるけれど、話せばわかっ()てくれるしね。
なんか、思ったより話しやすいというか、親しみやすいんだって。
それから多少ほかの人に助けてもらったりしつつ、ボクは冒険者になった。
幸いにもチートのおかげで冒険者になって困ることはあんまりない。
意外だったのは、案外スムーズに魔物と戦えたことかな。
相手が人ではないとはいえ、現代人がいきなり殺し合いだなんて適応できないだろうと思っていたけど、案外そうでもないらしい。
もしかしたら、闇属性な見た目が精神にも影響しているのかもしれないけど、もしも自分が人を殺したらと考えたら普通に怖かったので、多分大丈夫だと思う。
たぶんね。
何にしても、今の僕はシルバーランクの冒険者だ。
下から三番目、うえにも三つ等級があるから、ちょうど真ん中くらいになる。
一人前と認められ、受ける依頼の制限もなくなった。
昇給速度は、かなり速い方らしい。
シルバーでも難易度の高い依頼──今回のドラゴンみたいな強い魔物の討伐依頼──は達成が困難だと思われたらギルドに止められるんだけど、それもなかった。
周囲の人も有望株だと言ってくれているし、ありがたい限りである。
とはいえ、今回はドラゴンという大物との対峙だ。
人を襲っていないというのが気になるね。
強いドラゴンは頭が良くて、なかには人語を解するやつもいるらしい。
もしかしたらこのドラゴンにも何か理由があって、それを解決すれば平和裏に解決できるかもしれないね。
その場合、依頼の報酬はドラゴンの素材で賄うことになっているせいでボクが全然儲からないけど、一ヶ月でそこそこ蓄えはできた。
多少赤字になったとしても、ボク自身は気にしない。
うすほそボディが強いから、多少赤字でも簡単に巻き返せるというのは大きい。
だけどそれ以上に、ボクはいろんなことをしてみたいんだ。
才能のない人間は、大きな事を成し遂げるのにどうしても時間と努力が必要で、忙しい現代ではどうしてもそれが難しかった。しかし今のボクには闇属性の力がある。
何かをなすための力があるのだ。
それはかつて"あいつ"が見ていた景色をボクも見れるかもしれないということ。
そう考えたら、生きなきゃって思うんだ。
その先に待っているものが何かはわからないけど、少なくとも今のボクはたとえ待っているのが破滅だとしても、前に進みたいと思う。
■
まず、今回の予定としてボクは二回に分けてドラゴンの元に向かう予定だった。
最初に下見としてドラゴンの元へ向かい、道や周囲の状況を確かめる。
ドラゴンの出現で人間意外にも変化が見られる ならその対策も必要だ。
魔物がドラゴンに怯えて凶暴化しているかもしれない。
まあ、一ヶ月村が平気だったなら、そこまで心配は要らないとおもうけどね。
で、そんなことをミリィさんに話したら、ミリィさんもついてくることになった。
村の周辺の地理に詳しいから、案内をしてくれることになったのだ。
あのあと村長さんとも会って挨拶をして、了承も得た。
ちょっとした敵なら簡単に倒せるので、ここはミリィさんの知恵に期待するとしよう。
「じゃじゃじゃ、じゃあえと、頑張るですます! 」
「期待してますよ、ミリィさん」
「あううう」
まあ本人は、見ての通り緊張しまくっているけれど。
とは言え、ミリィさんの案内は的確だった。
普段は街で暮らしているだろうから、結構村の周囲を探索するのは久しぶりだと思うのだけど、かなり手慣れている。
ちょっと話を聞いて見ると──
「む、昔はずっと山で遊んでたの。お友達……いなくて」
「な、なるほど……」
少し地雷を踏んでしまった。
ごめんなさい。
気を取りなおして、森の中を進む。
ドラゴンは村の近くでも特に森が深い場所で目撃されるらしく、どんどん道がなくなっていく。
そして、そのうち起こるだろうなあと警戒していることが、ついに起こってしまった。
「ゲぎゃぎゃ!!」
「ひいっ! ご、ゴブリン!?」
──ゴブリン。
異世界特有の雑魚魔物。
この世界でも一般的な成人男性が長い棒状のものを持っていれば簡単に倒せる。
しかし油断することなかれ、数で囲まれると一気に冒険者でも不利になるのだ。
これを単独で切り抜けられるかどうかが、シルバーに昇格できるかの分水嶺らしい。
要するに、ボクなら何も問題はないということだ。
「絶対に僕から離れてはダメですよ」
「んひゅい!」
ミリィちゃんを庇うようにたちながら、周囲を確認。
数は五体、
なんにしても、気をつけて立ち回ろう。
「"
一言、こぼす。
それはスキルの起動ワードだ。
この世界にはスキルと呼ばれるものがあるんだけど、大半はパッシブだったり直接的な攻撃力がない。
だけどボクのこれは例外で、起動させるだけで相手を攻撃することが可能。
というより、剣と魔法の世界でボクだけが異能モノの世界を生きているようなものかな、どっちにしろ強力であることに変わりはないけど。
「あ、ああ!」
闇が地に満ちていく。
ボク自身から溢れ出した黒一色の波が周囲を覆って行くのだ。
「げぎゃ!?」
ゴブリン達は慌てふためくけど、もう遅い。
一つ、闇は鉤爪のような形を取り、地から掬い上げるようにゴブリン を切り裂いた。
二つ、手の形の闇がボクの背からのび、ゴブリン を握りつぶす。
三つ、弾丸のように射出された闇がゴブリンを蜂の巣にする。
そして四つ、既にゴブリンを屠った腕が、今度は鎌のようになりその首を切り飛ばす。
流れるように、その動作は一瞬で行われた。
「あ、ああ、す、すごい……」
感嘆するミリィさん。
思わず息を飲み、目を見開いてボクを見る。
けれどもそれはいけないな。
彼女の後ろに、不意を打つべく隠れていたゴブリンが迫っているのだから。
「させません」
「──え?」
そして、五つ。
ミリィさんの背後から迫るゴブリンは、後ろから闇のナイフで心臓を一突きされ即死した。
「あ、ぅ……」
「大丈夫ですか?」
放心した様子のミリィさんに声をかける。
驚きで気が抜けてしまっているけれど、怪我はない。
まあそりゃ、怪我をさせないと決意してボクはここにいるから当然だけど。
それにしても、相変わらずすごいスキルだ、闇夜航路は。
効果としては闇を生み出し自在に操る……といったものなのだろうけど、この操るという部分がとにかくすごい。
ボクの曖昧なイメージを完璧に現実へ画き出すのだ。
先ほどの五連撃も、ボクは鉤爪、腕、弾丸、鎌、ナイフとかそんな感じでざっくりとしか考えていない。いやほんと、平和ボケした現代人にはありがたすぎるスキルだよ。
一つ問題があるとすれば……
「はぅぅ……」
「あのー、ミリィさん? 聞こえてます? おーい、ミリィさーん」
先ほどの光景に呆然としていたミリィさんが戻ってこない。
どころか、明らかに頬を染めてうっとりしているように見える。
こ、これは……あれだ。
「か、かっこいい……」
はい。
エフェクトがかっこよすぎるんですよね。
自分でも使ってて気持ちよくなってしまうくらい、惚れ惚れするほど中二である。
こんなもの、ミリィさんの年代でくらってしまったらもう、ね!
……我ながら、罪なスキルに目覚めてしまったものである。