──傷だらけの親父が、惑星ベジータを背にフリーザ様と戦っている。
親父のエネルギー弾がフリーザ様の攻撃をまっすぐ貫いて、フリーザ様が爆炎に包まれた。
かと思えば、巨大な、フリーザ軍本隊の宇宙船よりずっとずっと大きな光の玉が、親父の視界いっぱいに広がる。
避けられな──
「──親父ッ!!」
自身の叫び声で跳ね起きる。
頭が割れるように痛い。
「っ……なんだ、今の」
目の前に広がっているのは、広い青空。焼け焦げた地面。
そうだ。
オレは、「どれくらい強くなったか見てやる」とか急に言い出した親父に連れられ、このカナッサ星に降り立ったんだった。
囲まれたところでうっかり首に一撃喰らって、ムカついたからエネルギー弾で一掃して……そこから、記憶がない。
スカウターを見るに、思ったより時間が経っているようだ。
怒られる前に、さっさと侵略を進めなくてはならない。
まだ親父が光の奔流に飲まれる映像が消えなくて、眉間を押さえながら立ち上がる。
少し離れた岩陰から、親父の声が飛んでくる。
「どうした!休んでる暇があったらさっさと残党を片付けろ」
「あ、ああ。うん……なあ親父。その、反乱とかしないよな」
「は?何言ってんだ」
怪訝な顔をされて、慌てて首を振る。
何バカなこと聞いてるんだ。親父がそんなことするわけないのに。
「なんでもない!変な夢を見ただけだ」
戦闘服についた砂を払い、立ち上がる。
妙な夢に囚われている時間など無駄だ。
この仕事が終わったら、しばらく休みがもらえる。というかすでに休みに入っていたところを「テメェもカナッサ星に行くんだよ」と無理やり親父が連れ出したのだ。
長引けば久々の休みが短くなるだけだし、さっさと残党を始末して帰ろう。
数時間後。
親父のチームとオレと。
6人もいれば簡単なもので、カナッサ星は焦土と化し呆気なく滅んだ。
ただ一つ、生き残りの最後の悪あがきで親父が気絶したこと以外は、いつも通りに。
◇◇◇
異変に気づいたのは、それからしばらく経った頃だった。
カナッサ星で倒れてから一向に目覚める気配のない親父の様子を見て、ついでに弟の顔を覗きにいく。
カカロット。
親父によく似た髪型のくせに、戦闘力はたったの2。
ゴミめ……と思いながらすやすや眠る弟の顔を覗き込んだ途端、視界が歪んだ。
不意に、見慣れた上官が視界に映る。
そして何かわからないが、怒りながらオレをぶん殴ってくる。
頭、腹。蹴りも混ぜてきやがって、何がコイツを掻き立てるのか、八つ当たりなのか。
痛い。ふざけんな、オレが何をしたっていうんだ!
脈絡のない暴力に憤った途端、急に視界が切り替わる。
オレは緑豊かな見知らぬ土地で、誰かに羽交締めにされていた。
首を巡らせれば、そこにいたのは……見慣れない服を纏った親父。
なんだか、どことなく若いような。
ポポル星だかどっかのカエルのフン色によく似た服を着ている親父?が、どういうわけかオレを拘束している。
少し先には緑色の異星人がいて、その異星人の指からオレ達に向かって光線が放たれ──避けることもできず、腹を貫く。
焼けるような痛み。
喪失感。
そして、意識が深い闇に飲まれる。
「うわぁあああ!!!」
絶叫と共に視界が元に戻った。目の前には変わらずぐっすり眠る弟。
全身が汗まみれで、気持ち悪い。
「今の、白昼夢ってやつ、なのか……?」
心臓が痛いくらいに早鐘を打つ。
今まで見てきた夢とは明らかに質が違った。
あまりにも鮮明すぎる。
まるで実際に体験したかのような痛みの記憶さえ、体の奥に残っている気がした。
この時は無理やり忘れようと記憶を頭の片隅に押しやったが……。
話が変わったのは、数日後の任務のことである。
急な怪我で、上官が先日夢で見たヤツに変わった。
夢でそいつに散々な目に遭わされた苛立ちが蘇ったオレは、思わず余計な一言を言ってしまい大目玉を食らった。
誰に口を聞いているんだと怒鳴られた挙句、指導と言いながら、あの夢とそっくりの構えで殴り飛ばされたのだ。
夢と全く同じ場所を殴られ、全く同じ痛みを味わう。
既視感というにしても、あまりにも重なりすぎている。
まさかと思い、白昼夢を思い出して先んじて腕を置けばそこに吸い込まれるように拳が向けられ、クソ上官の目が見開かれる。
「ハハ、お前の拳なんか見え見えなんだ……イッテェ!!」
仕返しとばかりに脛を蹴ったら余計に怒り狂った上官にボコボコにされた。
超リアルな夢でも殴られて、現実でも殴られて。
体感2回喰らってるので、気分は最悪だ。
……だが、悪いことだけではなかった。
オレがやり返すのを見ていたらしい王宮のヤツの進言で、王子の任務への同行が確定したのだ。
それから、しばらく王子の任務についていける程度の腕になるように扱かれた。
他に予定してた奴らがタイミング悪く他の星に行ってたから選ばれたとか、親父がそこそこ強いからって調子に乗るなよとか。
散々上官に嫌味を言われたが、選ばれなかった奴の言葉なんか知ったこっちゃない。
アイツとオレは違う。
どうやらオレには未来が見えるらしい。
先の白昼夢のように、たまに見る夢が未来に起こる出来事なのだと自覚するまで、そう時間はかからなかった。
度々夢で見たことをなぞるような出来事が起きたら流石に気づく。あんな偶然が何度もあるとは思えない。
コントロールが効くものではないし、よくわからないものも多いが、よく見て覚えておけば使えるものもいくつかあった。
上に言えば、きっと、今よりずっといい待遇を受けられるだろう。
でも。
──こんな便利な力、誰にも知られてたまるか。
結局未来視を妬まれるか、未来が視えるとはいえその程度の戦闘力か、と嘲笑われるところが容易に想像できた。
皆知らないから、オレに対して先読みや立ち回りがうまいと褒めるのだろう。
きっと、起きたら親父だって。
だから、この力のことは誰にも……親父にだって、話さない。
◇◇◇
親父が目覚めぬうちに、ついに王子との任務が始まった。
ベジータ王子とナッパに連れられて、いつものように掃討作戦を行う。
一通り済んだ頃、スカウターに一報が入った。
──惑星ベジータ、消滅。
「は……?」
絶句したのは一瞬だった。慌てたような声で、通信機の向こう側のナッパが続ける。
《彗星の衝突とかで、生き残ったサイヤ人は俺たちを含めてごく僅かだそうだ》
「彗星、なのか」
ひとまず神妙な顔で頷いてみせたが、脳裏によぎるのは以前見た夢だった。
フリーザ様に立ち向かう親父。
爆炎。
そして親父を巻き込み惑星ベジータへと向けられる、下手な星より大きなエネルギー弾。
あの夢が、未来視ならば。
親父がフリーザ様に逆らって──。
ぞわりと肌が粟立つ。
フリーザ様が、親父の反乱をきっかけに、気に食わないからと惑星ごと消し飛ばしたのかもしれない。
本当に親父が反乱したのかどうかなんか、確認しようもないけど。
もしフリーザ様が惑星ベジータを滅ぼしたのなら。
そんな真似ができる力を持つ相手に、逆らうことなど絶対にあってはならない。
「どうした、顔色が悪いな。まさか故郷が滅びて寂しいのか?は、やはり弱虫ラディッツか」
「いや!ちょっと。この前見た悪夢を思い出しただけですよ」
ベジータ王子の言葉に、首を振る。
オレは別に何もしてないんだから、いきなり首を切られるようなことはない、はずだ。
親父は……逆らったから。
何故そんなことを、という困惑と同時に、微かな安堵もあった。
時折脳裏によぎる未来視──変な服を着た親父に羽交締めにされる光景。
あれが未来視だったとしたら、親父はもういない。ならば、あの未来はもう来ようがないということだ。
親父に羽交締めにされて殺される未来は回避できた、ってわけか。
……代わりに親父は、死んじまったが。
戦闘力一万を超える、あんな強い親父でも生き延びれなかった。
強いやつも弱いやつも皆死に、惑星ベジータは滅び、サイヤ人は残り少ない。
だがオレには、この力がある。
なにもかも全部利用してやる。何がなんでも、オレは未来を見て生き延びてやる……!!
次回!
「カカロット、お前だったのか」
いつも夢に出ていたのは。
カカロットはぐったりと目をつぶったまま、首を傾げました。
続く……?