高度育成高等学校とは日本に存在する希望した進学、就職先にはほぼ応えるという全国屈指の名門校で、卒業生の中にはこの学校を出た事で有名になった者も多い。
「進学率・就職率100%の名門校ねぇ……」
学生にとって新たな出会いが訪れる季節。バスから降りた人物の名は秋山深一。秋山がここに入学することに決めたキッカケは、普通とはかけ離れたこの学校の異質な特徴だ。
ここは全寮制だが、様々な施設が学校の敷地内に存在し、小さな街と言っても良い。在学中は学校に通う生徒全員がこの敷地内で過ごすことになる。そのため学費などは発生せず、女の手一つで育ててくれた母に負担をかけず、かつ卒業すれば安定した就職をすることも可能だ。最も外部の連絡が取れないため、母に連絡できないのが秋山にとって難点ではあるが、そこは目を瞑ることにした。
校門を通り歩いた先に掲示板を見つけた秋山。自分の名前を探すとBクラスであることがわかった。
「AからD……4つのクラスか」
数えると今年入った新入生は160人。つまり1つのクラスに40人振り分けられていた。見終えた秋山は自分のクラスに向かう。
教室に入った秋山は周囲を見渡した。教室にはすでに何人かの生徒がおり、仲良く談笑している。秋山の席は一番後ろの窓側の席で、そこに荷物を置く。周囲を見渡し、念のため見上げてみると、ある物を発見する。
(監視カメラ……よく見れば一つだけじゃない……何台も設置しているということは死角を作らず全て監視できるようにしているのか)
この教室に入るまでも何台かの監視カメラは見てきた。意味もなくこれだけの量の監視カメラを設置するはずがない。
(やはり、この学校は何かがおかしい……)
この学校の違和感を抱いたまま、秋山は入学式に向かった。無事に入学式は終わり、担任の教師が来るまで待機することになった。
仲良く談笑するクラスメートを見ながら、秋山は異常とも言える監視カメラについて考える。
(学校側はこれだけの監視カメラを設置する必要があるはずだ……監視カメラがあるということは生徒の行動を監視する必要がある……一体何故これほどまでに監視をする必要があるのか? それにこの学校は現金が使えないということは……現金の代わりになる物が存在するはずだ)
行動を監視するということは生徒にプライバシーというのは存在しないということだ。逆を言えば安易な暴力行為や不正行為を抑制しているとも言える。しかし、生徒を守るためにこれだけの監視カメラを設置するとは秋山は思えなかった。
「はーい、みんな席についてー!!」
教室のドアが開き、中に入ってきたのは一人の女性。外見とスーツ姿から担任教師だと気づいた秋山は考えるのを中断した。
「私の名前は星之宮知恵。この1年Bクラスの担任を受け持つことになったから、三年間よろしくね!」
三年間という単語に秋山含めて困惑するクラスメート。普通とかけ離れた学校のルールを説明していく星之宮先生。
「えっと、まずこの学校は卒業までの三年間は、クラス替えなどはありません!!」
クラス替えがないということは、ここにいるクラスメートと三年間過ごすということ。普通であれば一年が経過すれば、クラス替えがあるというのに。
「そして一番大事なこと!! 敷地内では現金は一切使えません。お買い物は全て、生徒手帳の代わりになるこの端末に入ってる『プライベートポイント』を使ってもらいます!! 学校の設備なら、本当に何でもポイントで買えるからねー!!」
秋山の予想通りであった。現金が使えないとなると、不便な生活を余儀なくされる。どうやらプライベートポイントが現金の代わりになるようだ。
「ポイントは、毎月一日に学校から振り込まれます。1ポイントは1円相当で……今月は既に10万ポイントが支給されてまーす!!」
10万ポイント。つまりBクラス全員に実質10万円が支給されている。当然教室内はざわめきが起こる。
「みんな支給額に驚いてるみたいだけど、これは正当な評価よ。みんなはこの学校へ実力を見せた。だから優秀な君たちへのご褒美みたいなものだね!! それだけの価値が今の君たちにはあるってこと。因みに卒業するときには回収しちゃうから、使い切らなきゃ勿体ないからね?」
いきなり10万ポイントが手に入ることに驚きと喜びが伝わっていくクラスメート。その中で、秋山だけは、冷静に考えていく。
(Bクラスは40人いるはず、つまり今月だけで学校から400万ポイントが与えられている。それに実力を見せたご褒美と、それだけの価値が今の君たちにあるという言葉が怪しい)
つまり学校はここに入学してきた生徒らの価値に10万円をつけたことになる。しかし、それはこの学校に入学できた時点での価値だとしたら。
(成程、見えてきたなこの学校の闇が……)
秋山以外のクラスメートは目先の10万ポイントという光に目を奪われている。光の裏には必ず闇も存在する。秋山は目先の光ではなく、その後ろに潜む闇に注視した。
「それじゃあ何か質問はあるかな?」
「質問がある」
「なにかな、秋山君」
ゆっくりと秋山は手を挙げた。星乃宮先生は秋山に視線を向けた。
「今月は10万ポイントが支給されるらしいが、来月も同じ額が支給されるのか?」
「ポイントは毎月一日に支給されるから安心してね」
「成程」
秋山は笑みを浮かべた。今の質問に星乃宮先生は肯定も否定もせずにポイントの支給日を答えた。つまり今の質問には正確に答えることができない事情があるのだと推測した。
「他に質問はないみたいだね。今日はこれで終わりだから各自自由に行動していいからね~!!」
そう言って星乃宮先生は教室を後にした。自由行動が取れるようになったため、秋山はすぐに席を立って、教室を後にした。
「星乃宮先生」
「あら、秋山君……もしかしてクラスメートの前では聞けなかったことを聞きにきたのかな~?」
廊下をゆっくりと歩いている星乃宮先生を呼び止める。ゆっくりと近づき、人差し指で秋山の身体をつつきながら揶揄う星乃宮先生。しかし、その視線に僅かな期待を抱いているように秋山は感じた。
「Bクラスの生徒は40人……よく俺の名を知っていたな」
質問をした際、星乃宮先生は秋山の名前をすぐに答えた。40人もいるクラスで入学して初日の段階で生徒の顔と名前が一致させたことに違和感を抱いた。
「それは、貴方が冷静なイケメンさんだからよ」
「本当にそれだけか? はっきり言ってやるよ……お前俺のことを注目しているんだろ? ここに入学する際に受けた学科試験と面接などで、高い能力を持っていると知っていたから、名前がすぐに出たんじゃないのか?」
「それに、この学校は異常なほど監視カメラを設置している。さらに10万という多額の大金。しかもあの時、『それだけの価値が今の君たちにもある』と言った。つまり生徒の実力と価値が、変われば貰えるプライベートポイントが変わるんじゃないのか?」
質問に肯定も否定もしなかった理由は来月に10万ポイントが手に入るとは限らないと秋山は考えた。これまでの情報で導いた結果は、貰えるポイントは固定ではなく、常に変動する。そして来月までの生徒の実力と価値で、プライベートポイントが支給される評価の一つになると考えた。
「ごめんなさいね秋山君、今の質問は答えられないわ」
答えられない。それはつまり今の質問は間違ってはいない。しかし、それを肯定することができないとなると、考えられるのは一つ。
「答えられないか……どうやら口外してはいけないみたいだな」
教師が答えられないということは、教師よりも上の立場から、口外しては行けないと指示があると考えた時、秋山は学校の方針によって答えられないのではないかと推測した。
「もう時間だから、質問タイムは終了よ!! 秋山君は他のクラスメート達とちゃんと仲良く接するのよ~!!」
そう言って星乃宮先生は歩き始めた。自分の考えが正しかったという収穫を得られた。
「やはり……この学校はおかしい……普通という概念に囚われてはいけないな」
今までの価値観などでは測れないこの学校において、情報は大きなアドバンテージを得られる。新たな情報を得るために秋山は再び動き始める。