佐伯ミリアが合法的に呑んでおつまみを食う話。
佐伯ミリア誕生祭2026作品

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このお話は
魔法少女ノ魔女裁判
魔法少女ノ魔女裁判 ~the next page〜
のネタバレを含みます。

それでもよろしい方のみ、読まれてください。




第1話

 

 

「あ、ああっ…そんな…」

 

この絶望した声は誰のものだろう…妙に近くから聞こえる気がする。

いや、この声は….そうか、この声は『私』の声だ。

 

呆然としながら漏れ出た自らの声をどこか他人事のように聞きながら私は目の前の惨状に恐怖する。

 

気分の良い昼下がり、椅子とテーブルを外に出し、温かい日差しの下開かれた華やかなはずのお茶会は一瞬のうちに絶望に飲まれていた。

 

「な、なぜこんな…こんなものを…ごふっ…」

 

「アンアンちゃん!!」

 

ガシャンという甲高い音を立てて、アンアンちゃんが頭から机に倒れ伏した。

 

ああ、アンアンちゃんも倒れてしまった。

何故、こんな事になってしまったのか。

私の目の前に鎮座する、お茶会のお菓子達。

さまざまなケーキ。クッキー。マカロン。チョコレート。

ナノカちゃんが作り出した力作の数々や本土から送られてきたお菓子の数々。

 

なぜお茶会をすることになったのか。

それは朝到着した輸送船に積まれていた荷物が原因だった。

その中からお菓子を見つけたアンアンちゃんが突然お茶会がしたいという希望を言った所、いつもならまた後日ねと断るナノカちゃんやマーゴちゃんが何故かその話にのり、とんとん拍子で企画が進み、お昼頃には準備ができていた。。

だが運が悪いことに、同じくバーベキューの食材らしきものを見つけたシェリーちゃんが海辺でバーベキューをしよう!と朝から企画していたらしく、企画同士がブッキング

 

そのため、バーベキューメンバーは調理器具などを持って浜辺へ

お茶会メンバーはこうして外でお茶会を楽しんでいた。

 

楽しんでいたはずなのだけれど….たのしいお茶会は開始から1分で元魔法少女達の処刑場へと変貌していた。

 

最初私は、本土から届いたチョコレートを食べた時、思わず吐き出しそうになってしまったがなんとか飲み込んだ。

 

まずかったわけじゃない。あまりにあり得ない味がしたから私は驚いただけ。

その事を皆んなに伝えようとあたりを見渡した時…そこは既に元の空間ではなかった。

 

目を輝かせながらロールケーキの一切れを一口で食べ、吐きそうになるもなんとか飲み込み、その後動かなくなったホノカちゃん。

マカロンをひと齧りして、険しい顔で動きを止めたマーゴちゃん。

不思議がりながらクッキーを一口食べて宇宙猫になっているノアちゃん。

そして、自分から要望したが故に食べなければとショートケーキを1ピース食べきり倒れ伏したアンアンちゃん。

 

どうして…どうしてこんなことになってしまったのだろうか?

 

机に並べられたにソレらに、もう一度目を向ける。

見た目は悪くない。見た目も綺麗なお菓子がたくさん並べられている。

ホテルのデザートバイキングも真っ青なラインナップだ。

そのうちの一つ、チョコレートが乗せられた皿を手前に持ってくる。

 

ナノカちゃんが作った生チョコレート。

薄茶色色のそれは、正方形の器に入れられ焦茶色のココアパウダーがまぶしてある。

そしてそれらは、器の中で手に取りやすいように長方形に切り取られていた。

そのうち一つにフォークを差す。

 

フォークはまるで足跡一つない雪景色のど真ん中におもいっきり足跡を残した時のような感触を手に走らせた。

柔らかくもあり、しっかりとした感覚もある。

そんな不思議な感覚を手に残しながらも、フォークで刺したチョコレートを持ち上げる。

 

目の前にきたチョコレートは断面からはが輝いている。

パウダーがこぼれないように私はそのチョコレートを口に近づけ、食べた。

 

見た目は濃厚な生チョコ、口どけもなめらかな生チョコ。

ところが味わいは、香ばしく焼き上げた肉の旨味と、脂の甘み、濃厚なタレのコク。

舌の上で生チョコのようにとろりと溶けるのに、広がるのは焼いた肉の香ばしさと濃厚な旨味。甘いチョコレートを想像して口に入れると、脂のコクとタレの風味が追いかけてくる。

まるで網の上で焼いた肉をひと口食べたような味わいが、口いっぱいに残り肉の満足感を満たしてくれる。

 

ああ、これは、あれがないとまずい。

 

私はすぐにティーポットから飲料物を自分のカップに注いでいく

このティーポットには紅茶が入っている。それは間違いない。何故なら私が用意したのだから。

元に今目の前に注がれているのは、れっきとしたストレートティー

午後に飲むストレートな紅茶のような色をしている。

だけれど、私はそれが今は違うのだと、本能で認識していた。

 

カップに並々と注がれたそれを、まだ脂の味が残る口に私は注ぎ込んだ。

 

「はぁーーーーっ!!」

 

この声は誰のものだろう…妙に近くから聞こえる気がする。

いや、この声は….そうか、この声は『私』の声だ。

呆然としながらも漏れ出た私の声がどこか他人事のように聞こえる。

 

素晴らしい紅茶だった。

立ちのぼる香りは、まぎれもなく紅茶。

しかし舌に広がるのは、ホップを思わせる苦味と、ドライでシャープな飲み口。

味わいはしっかりしているのに、後味は重たく残らず、スッと消えていく。

 

私はまた生チョコを食べる。

そして紅茶を飲む。

 

「はぁーーーーっ!!」

 

 

もう止まらない。

チョコをひと口、そしてビールをひと口。この繰り返しが止まらない。

麦な飲み物との相性まで計算された、焼肉を凝縮したようなチョコレート。

 

そんな、二つの食べ物を食べ、周りを見渡して。

おじさんは嘆いた。

 

「な、なんでこんなことに…!おじさんどうすれば…っ!!」

 

「表情と言葉が乖離していると思うわミリアちゃん」

 

「え!?」

 

突然の声に顔をあげるとそこにはニコニコと笑うマーゴちゃんの姿があった。

その表情はどこか見覚えがある….ちいさなころいたずらをして、親に見つかった時のような笑み….

 

まずい…よね?

これおこっている…よね?

 

ジョッキのように持ったカップをテーブルに置き、フォークも皿の上に戻す。

 

一回深呼吸する。

 

….よし。まだ誤魔化せるかも

 

「よよよよかったマーゴちゃん!突然動きを止めたからおじさん、ししし心配して…!」

 

「それにしては楽しんでいた気がするのだけれど?」

 

「え…ど、どうしてだろうね?」

 

「もうたまんないって感じで飲んでいなかったかしら」

 

「飲んでいたって…そ、そりゃあ紅茶がおいしかったから思わずカップから一気飲みしちゃって…」

 

「カップ?ジョッキじゃなくて?」

 

「そ、そんな…そんなことないよ!」

 

「じゃあ私も飲んでみようかしら?」

 

「未成年がダメだよマーゴちゃん!」

 

「未成年がダメならあなたもダメだと思うわよ?ミリアちゃん」

 

「え。あ…こ、これは紅茶だよ?年齢制限なんて….」

 

「味は?」

 

「…」

 

「その紅茶の味は?」

 

「…ジュースだよ?」

 

「何ジュースかしら?」

 

「….麦」

 

「ふふっ…今日のミリアちゃんは往生際悪いわね」

 

「往生際って…そんなことおじさん…」

 

「ふふふ」

 

「え…あ…あはは」

 

いつも飄々としているはずのマーゴちゃんがどこかぎこちない笑みで笑う。

そんな笑みに私もハハハと笑い返すけど…..笑ってない。

マーゴちゃんの目が笑ってない。

 

「えっと…」

 

「うんうん」

 

「うんうんじゃなくて…マーゴちゃん?」

 

「なにかしら?」

 

「いや…なにじゃなくて…」

 

「うんうん」

 

「….」

 

「うんうん」

 

「….」

 

「うんうん」

 

「….たぶん、おじさん…いや、私の魔法が、原因なんだと思う…なぁ」

 

観念して私は俯きながらもマーゴちゃんに白状した。

正直わかっていた。妙にチョコレート(焼肉)が口に会おうのも紅茶(ビール)が口に合うのも、すごい覚えがあった。

めっっっちゃ美味しかったし原因がなんとなくわかっていた。

 

だけど、少女心からちょっと認めたくなかったけど….マーゴちゃんに見つかってはもうダメだ。

 

そんな私の白状に、マーゴちゃんはクスクスと笑い頷いた。

 

 

「…でしょうね。ということは、やっぱりこのお菓子はナノカちゃんが悪戯で味付けしたのではなく」

 

「うん、入れ替えちゃったんだと思う….お菓子の味を、焼き肉とビールに」

 

生チョコが香ばしく焼いたカルビやハラミに濃厚なタレを絡めたような一品に。

紅茶がキリッとした苦味、ドライな飲み物に。

おそらく他の食べ物もそうなっているのだろう。

 

そう、この目の前に広がるお菓子達はその見た目とは180度違う食べ物の味へと変化してしまっている。しかも、食感と匂いはそのまま。口に入れなければわからないトラップ。

 

そのトラップにハマり、ホノカちゃん、ノアちゃん、アンアンちゃんは今もなお心ここに在らずになってしまったのだろう….私はこれはこれで美味しいと思うがそれは言わなくていいことだし、今言うことじゃない。

まずは謝罪だ

 

「…せっかくのナノカちゃんの料理をこんなことにしちゃって…..ってマーゴちゃん?」

 

胸中に湧いてきた罪悪感と共に思いを口にしていると、マーゴちゃんが無言なことに気がついた。

マーゴちゃんを観察する……

マーゴちゃんが俯いている。

表情は見えない。

でも….

 

 

「マーゴちゃん…」

 

「…なにかしら」

 

「…すごい笑ってるね」

 

「ふふふっ…だってミリアちゃんらしくなくて…いや、らしいって言ったらいいのかしら」

 

「え?...らしいって..?」

 

俯き方を震わせながら笑っていたマーゴちゃんが顔を上げる。

目尻に涙を止めながらマーゴちゃんは口を開いた。

 

「まずこの状況…前の時と同じでしょう」

 

「うっ…」

 

『前』

それは私が起こしてしまった最期の事件。

そして私の区切りとなる大きな事件だった。

とても大変で…とても大切な時間でもあった。

 

 

そんな大事件と今回の事件。

動機も規模も深刻さも全く違うが

 

原因は同じだ。

 

 

「う、うん…たぶん魔法の暴走だと思う」

 

そう、魔法の暴走だ。

 

私の言葉にマーゴちゃんが続ける。

 

「今消えかけていっている魔法が、強い感情によって暴走した….前と同じね」

 

「だね。おじさんもそう思うな」

 

「つまり、強い感情によっておこった」

 

「そうだね」

 

「『強い』感情…ね」

 

「…ん?」

 

「ねぇ、ミリアちゃん」

 

マーゴちゃんが訪ねてくる。

先ほどとは違った怒りを感じない笑み。

いや、むしろ怒りよりも…からかいを感じる。

 

嫌な予感がする….!!

 

そんな思いが胸中に浮かぶが、私はその問いを受けた。

 

「な、なにかなマーゴちゃん?」

 

「ミリアちゃん…今の牢屋敷のご飯に不満とかあるかしら?」

 

「え?...今のって、まえのホノカちゃんがやっていた物じゃなくて今みんなで役割分担してやっている料理のこと?」

 

「そうね」

 

「まったく不満なんておじさんないよ!みんなとお料理できて楽しいし、最近はいつもみんなが作ってくれる料理が楽しみなんだ!」

 

「私もそう思うわ…ところで魔法で入れ替わったのは目の前のお菓子達の味よね」

 

「そうだね?」

 

「味が入れ替わった…つまり、この味が目的だった…」

 

「…?」

 

「お腹がすいたわけでもなく、お菓子以外が食べたかったわけでも、ご飯に不満があったわけでもない…」

 

「….あ」

 

マーゴちゃんが言いたいことに気がついた。

顔が赤くなる。

 

お腹がすいたわけではない。今はしっかり毎食食べれている。

お菓子以外が食べたかったわけではない。むしろお菓子は好きだ。

ご飯に不満があったわけではない。裁判中と違って毎日美味しいものを食べれている。

 

なら、何故感情が暴走し、魔法が制御不能になり。味が変わった?

いったいどんな感情を満たすために魔法が使われた?

 

 

それは….味にある。

 

すでに気がつかれている以上意味はないが、直接口から告げられることを防ぐため、マーゴちゃんに私は手を伸ばした

 

 

 

 

 

…だが、おそかった

 

 

「ねぇミリアちゃん…もしかしてこの味…このお酒によく合う味が恋しすぎて魔法を暴走させたのかしら?」

 

 

無情にも告げられるマーゴちゃんからの言葉。

 

その言葉は滑稽無糖のようで….ストンと私の心の中に入ってきた。

もちろんその意味は…納得だ。

 

だけど認めるわけにはいかない!

 

「ち、ちちち違うよ!」

 

私は必死に否定するが、マーゴちゃんはニコニコと証言を薦める。

 

「その美味しい麦ジュースと格別に合うその焼肉。そういえば、思えば私がかじったマカロンは炙ったスルメの味がしたわね」

 

「え!?...あ」

 

「そんなに嬉しかった?スルメがあって」

 

「そそそそんなことないよ!」

 

私は否定する。本気で否定する。

魔法を使ったのは私だ。それは認める。大いに認める。

だけれど….酒の肴が恋しすぎて魔法を暴走させるなんて認めてはダメだ。

もしそれを認めてしまったら、私は….おじさんは….

 

頭の中で言葉がぐるぐると回っていると、マーゴちゃんが机の上のクッキーを1つつまみ食べる。

 

「ちなみにクッキーはホタルイカの沖漬けね」

 

「えぇ!?」

 

ロールケーキを一切れつまみ食べる

 

「ロールケーキは….これは豚骨ラーメンね。中の果物がチャーシューやメンマ」

 

「えぇ!!!」

 

ショートケーキをつまみ…食べる

 

「ケーキは…なるほど、胡椒がよく効いた唐揚げね」

 

「えぇええええ!!」

 

マーゴちゃんの美味しそうな表情に思わず体が前に傾いてしまう。

 

ガンッ!!

 

「いぅ…!」

 

脛がぶつかり思わず屈んでしまう。

痛い。めっちゃ痛いわけじやないけれど結構痛い。

 

だけどそのおかげで冷静になれた。

 

今の…今の私の動きはまずい

 

冷や汗がわくが、今はそんなところじゃない。

 

クスクスと笑う声が聞こえる。

その発生源、マーゴちゃんは微笑んだ。

 

そして答えを告げた

 

「酒のアテとビールを求める….本当に中年のおじさんみたいね」

 

「うぐぅ….」

 

腰から力が抜ける

思わず崩れ落ちてしまう。

 

マーゴちゃんの言う通りだ。

酒の当てを求めて、ビールを魔法が暴走するぐらい求めてしまう….年頃の少女だとは思えない。

 

 

「うぅぅ。そうだね。マーゴちゃんの言う通り…おじさんはおじさんだったよ..」

 

「そうね。立派なおじさんだわ」

 

「うぅぅうう」

 

頭を抱える。

だが声は止まらない

 

「でも。一つ疑問なのだけど、あそこまでビール味の紅茶を美味しく飲めるってことは、ミリアちゃんお酒を…」

 

「うん。色々飲んだよ。あの時は色々あった後だったから、ストレス発散も兼ねてお酒を嗜んじゃった。そしたら思ったよりも美味しくて…時々おつまみとビールで…」

 

「…未成年飲酒?」

 

「先生の体の時にのんだから一応、合法…?」

 

「…将来弁護士希望なのに、グレーな点つくわね」

 

「あはは…」

 

マーゴちゃんの言葉に乾いた笑いで返す。

マーゴちゃんもその笑いに吊られるように微笑み

 

ポンとてを打った。

 

 

「じゃあ、ミリアちゃんが満足するまでお茶会をしましょっか」

 

「…え?」

 

思わずポカンと口を開けてしまう。

…マーゴちゃん?

 

マーゴちゃんの言葉を咀嚼するよりも早く、マーゴちゃんは椅子から立ち上がり、机の上のティーポットを手に取った。

 

「さ、ミリアちゃんグラスをこっちにむけてちょうだい」

 

「グラス?」

 

「それよ」

 

マーゴちゃんが目配せをする。

そちらを見る。

 

 

いや、これティーカップだよ…?

 

「ほら、ミリアちゃん」

 

「あ、お、おねがいします?」

 

私がカップをマーゴちゃんに向けると、マーゴちゃんはティーポットからカップに紅茶を注ぎ始めた。

 

その注ぎ方は、紅茶を注ぐと言うよりも瓶ビールを傾けるに近い動き。

コポコポと液体がティーカップに….って

多い多い!!

気がついたらティーカップに並々に紅茶が注がれてる!

 

「こんなに注がれたら飲みにくいよマーゴちゃん!」

 

マーゴちゃんにそう告げるが、彼女はまるで聞こえなかったように片手でジェスチャーをして私に見せる。

そのジェスチャーは正しく。

 

「ほら、ぐいっと言ってちょうだい」

 

「えぇ!?」

 

「まだまだ紅茶があるんだから、もっと飲まないと」

 

マーゴちゃんが楽しそうにそう告げてくる。

その言葉に従いそうになるけれど…一つ私には心残りがあった。

 

「でも…せっかくのお菓子と紅茶をこんなことに消費したらナノカちゃんに申し訳なくって」

 

そう、このお菓子の大半はナノカちゃんが作ってくれたもの

それを本来の味と違った楽しみ方をするなんて…彼女に悪い気持ちが

 

「だからよ」

 

「え?」

 

スッパリと断言したマーゴちゃんに思わず聞き返す。

マーゴちゃんは真剣な眼差しで私に語り始める

 

「今ナノカちゃんは何をしているかしら?」

 

「なにって…調理器具の洗い物終わったら合流するって」

 

「そうね…そろそろくるかもしれないわね」

 

「うん」

 

「だから、くる前に味を元に戻さないといけないわね」

 

「でもどうやって…」

 

「楽しむのよミリアちゃん?」

 

マーゴちゃんが誘惑するような言葉が私の耳に入る。

 

「楽しむ…?」

 

「だって感情による魔法の暴走は、その元の感情をどうにかしないといけない…ならやることは一つよ」

 

「それは…」

 

「いっぱい食べて、いっぱい満足する…それが目の前のお菓子達を元に戻す方法だと私は思うわ」

 

マーゴちゃんはそう言うと、私の取り皿に、一つまた一つとお菓子を、おつまみを載せていく。

 

そして、空になった私のティーカップに紅茶を並々と再び注ぎ、耳元で私に告げた。

 

「さぁ、ミリアちゃん…遠慮せずに、食べてね。」

 

「….」

 

「だってそれが魔法を解く唯一の手段なのだから」

 

悪魔の囁きのような一言。

 

その声で私の中で何かが外れた気がした。

私…いや、目の前の紅茶(ビール)とお菓子(おつまみ)を求めているおじさんは、魔法を得という免罪符を手に入れ遂に動き始めるのを感じる。

 

もはや止めるものはない、早速目の前のマカロンを手に取る。

そして….口に入れた

 

……ん、さくっ……ふわっ……って、わぁ!す、すごいよ!マーゴちゃん!炙られた香ばしいスルメの味がするよぉ!?

この甘くて軽いマカロンの食感から、噛むほどに濃厚なスルメの旨味が…口の中で海が大暴れしてるよぉ!おじさん、今マカロンを食べてるはずなのに……なんだろう、居酒屋のカウンターが見える……!!

…すごいねぇ。見た目はお菓子、食感もお菓子、なのに味だけ完全に酒の肴……これはビールがすすむなぁ!

 

マカロンを食べ、紅茶を呑む。マーゴちゃんがニコニコと微笑みながら注いでくれる。

次におじさんは、クッキーに手をつけた。

 

うん、見た目は普通のクッキー。匂いもちゃんと焼き菓子だねぇ。じゃあ、いただきます……ッ……あ、クッキーだ。…って、んん!?この軽やかな食感……そこへ沖漬けの濃厚なワタの旨味が、波みたいに押し寄せてくるよぉ!

「おじさん今、午後のおやつを食べてたはずなんだけど……口の中だけ完全に日本海なんだけどぉ……!すごいねぇ。クッキーの優しい顔をして、味は完全に酒飲みの切り札……これは日本酒を呼んでる味だよぉ……!

 

ホタルイカの味に満足し、天をおじさんは仰ぐ。

マーゴちゃんがニコニコと微笑みながらグラスにビールを並々と注いでくれる。

次におじさんはショートケーキに手をつける。

 

……クリームふわふわ、スポンジもしっとり。匂いも甘いし……これは完全にショートケーキだねぇ。いただきます

……ん……ふわっ……あ、やっぱりケーキ――じゃない!?こ、これ唐揚げの味だよぉ!?

噛むたびに鶏の旨味がじゅわっと出てきて、あとから衣の香ばしさと油のコクが追いかけてくる……!なのに口の中ではスポンジがふわふわしてるんだよぉ……おじさんの脳が『ケーキ』と『唐揚げ』のどっちを信じればいいのか分からなくなってきた……

……ああ、分かった。これは甘いものじゃない。ショートケーキの姿をした、ビールを一口飲ませるための唐揚げなんだねぇ……!ここで一気にビールを….

 

「はぁーーーーっ!!」

 

たまらない声が辺りに響く。

 

もう止まらない、もう我慢できない。

 

おじさんはどこかおかしくなっていた。

それが、体にわずかに残った魔女因子のせいなのか、マーゴちゃんの策略なのかはわからない。

でもおじさんは…おじさんは、もう我慢できなくなっていた。

 

フォークが進む…おつまみが減る。

グラスを傾ける…ビールが消える。

 

止まらない。止められない。

紅茶にアルコールが入っているわけがないのに、おじさんがおじさんの時に一升瓶を開けた時に感じたふわふわグタグダになった感覚が体をおおう…おおうってなんだろう?おじさんおおわれてない

 

「ふふっ…やっぱりいいわね…可愛い子がグダグダになる様って」

 

マーゴちゃんが何か言っている気がする。

わからない。でもいっぱい注いでくれる。

 

 

「な、マーゴ!何をしている!ミリアが…!ミリアが…!」

 

新たな声が聞こえそちらに目を向け….あ、アンアンちゃんだ!!

 

「だ、大丈夫かミリア!?顔が真っ赤だぞ…!」

 

「アンアンちゃんだー!」

 

「むぎぅっ!」

 

アンアンちゃんをぎゅっとする。

ふわふわして小さい。

 

「可愛いねぇアンアンちゃん。すっごいかわいいよぉ」

 

「や、やめっ!ミリア!落ち着け!」

 

「可愛いなぁ可愛いなぁアンアンちゃん!!」

 

「た、助けてくれノア!ミリアが!」

 

あんあんたぃがてぇのばしてる

あ、のあちゃんらぁ。もしかしてにげようとしてる?

 

「のあらぁん」

 

「ひゃう!」

 

「わあぁノアまで!!」

 

かわいいねぇかわいいねぇ

わたしはふたりをぎゅっとする。

 

「アンアンちゃんにノアちゃん。可愛がられているわね」

 

「助けてまーごちゃん!」

「助けろマーゴ!!」

 

「ごめんなさいね?私はミリアちゃんの面倒を…」

 

…あ、もうひとりかわいいのいたね

 

「まーごちゃん!」

 

「え?きゃあ!」

 

まーごちゃんいい匂いするね。お肌もすべすべだよ…!!

 

3人をぎゅっとする

ほんとは他のみんなもぎゅとしたいけれど、まわりには他に人は….

 

「どうしたのお姉ちゃん?そんなにコソコソして」

「た、助けてナノちゃん!ミリアちゃんが…あ!!」

 

 

….いた!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、どうなったか私は覚えていない。

起きたのはその日の夜。

わかったのは、本土から送られてきたお菓子の多くがアルコールを多く含んでいるため回収されたと言う事….そして妙に私から距離をとる皆の姿だった。

 

 

もうお酒は懲り懲りだ。

呑むのはしっかり20歳になってからにしよう。

 

そう私は心に誓うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、誕生日ごとにワクワクするようになったのはおじさんの秘密である。

 

 

 

 







蛇足

どこかの場所で、1人の少女は笑っていた。
同じ光景を見ている1人の家族はあまりの惨状に呆然とし、彼女らを心配している。

別に怪我を負ったわけでも命に別状があるわけでもない。
ただ、ひどい光景が広がっているだけだ。

少女は笑いながら傍に…あなたに目を向ける。

少女の見ていたひどい光景をあなたは見ることはできない。
だがそのヒントとして少女は指を二本立てた

1つ。本土から送られたのはバーベキューセットではなく、自宅で飲み会セットであること
2つ。ミリアの魔法は、『入れ替わり』の魔法であること。



「さて、ミリアは何と何を入れ替えたのでしょうか…?」

少女は笑う。
復讐する気はもうないが、それでもちょっとひどい目に遭うのを目にするのは、彼女に取ってそこそこ楽しかったのであった















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