「一本! 勝者、うずまきナルト!」
中忍試験本選で、心が折れて膝をついたあの時、なぜか審判は勝負あったと判定した。
俺はそれまで一撃もまともに受けていない、というか対戦相手のうずまきナルトは、一切直接の攻撃はしなかった。だから当然試合を続行するのに、肉体的な問題は無かった。
だというのに、審判に反論する気力すらも無かったのだから、確かに勝負アリで間違っていなかったのだろう。
今思うと、少し、いやそこそこ言いたい事はあるが。
「ネジ殿、運命なんてもんはなあ…… 適切なリスクマネジメントと契約書の書き換えで、いくらでも回避できるってばよ!
労基署(うちは万華鏡隊)をチラつかせれば、宗家だってイチコロ! 自由になっちまえってばよ!!」
うずまきナルトの、あの言葉もそうだ。黒いビジネススーツを着て試合に臨んでいた事も含めて、どういう事だと問い詰めたい気持ちは、そこそこある。
深く関わってはいけないと直感がささやくので、そこそこ止まりだが。
試合後に、控え室でそんなモヤモヤした気持ちを抱えていた俺を、日向宗家の長の日向ヒアシさまが訪ねて来た。
そして語られた、俺の父にして、ヒアシさまの双子の弟。日向ヒザシの死の真相。
木ノ葉の外交の犠牲でもあり、日向の長の身代わりという犠牲。
だというのに、それを自ら受け入れて……
ナルトよ。お前の言う事が間違いではないとするならば、この過去の結末も、実は変える事が出来たというのか……?
実際、あの万華鏡写輪眼軍団がいれば、ゴリ押しで要求を跳ね除けられそうだが。
くそっ。なぜ白眼には、更なる覚醒段階がないんだ……! ズルいだろう、うちは一族だけ!
自分だけの強力な瞳術とか、スサノオって、何だよ!!
「ヒアシさま! 実は隠された力とか、封印された何かとか、そういう追加コンテンツが日向一族にもないんですか!!?」
思い余ってヒアシさまにそう叫んでしまったが、やっぱり無いらしい。
「古文書などもあたってみたのだがな……」
ヒアシさまも無念そうにそう言っていたので、あの方も一縷の望みをかけて、探してみたのだろう。
もしそういうのが見つかっていたら、どうしていたのだろう。
もしかしたら日向も、木ノ葉隠れの里から離れて、独立していたのだろうか。
あのうちは一族のように、自由になれていたんだろうか。木ノ葉という籠の中の、さらに日向の分家という籠の中から解き放たれて。
正直、呪印さえなければなあ。分家の有志をまとめて、うちはに行くんだがなあ。
試験後に、そう思いつつ日々を過ごしていたら、ヒアシさまが分家の有力者を集めるという。
俺もそこに呼ばれて、何事なのかと思えば。
集会場で上座に座ったヒアシさまが、集まったみんなに頭を下げてワビを入れた。
「今まですまなかった。これからもどうか日向の一員として、共に歩んでくれ」
トップに頭を下げられると、断れなくなるんだな。そんな学びを得た一件だった。
分家の大人たちも「宗家と分家の歪みを解消して、新たな関係性を模索する」と結論付けて受け入れたし、これで分家の独立という道は完全に消えた。
ああ、これで俺の一生は決まったな。出世しても、日向の分家のトップがせいぜいか。
そう思ったのだが、どうやら人生というやつは、そこまで簡単なものではなかったらしい。
「日向ネジ。うちはの里への出向を命じる」
「どういうことなんですかー!」
同じ班のロック・リーが俺の代わりに叫んでくれた。
三代目火影さまへと忍務終わりの報告をして、次の忍務を受け取る。そんないつもの流れだと思っていた所へ、急に俺一人だけの出向の命令。
そりゃあ、驚きもするだろう。ただガイ先生は先に聞いていたらしくて、驚いた様子は無く、説明をしてくれた。
「向こうから「白眼の使い手を寄越して欲しい」と依頼があったんだ。話し合いの結果「不法でなく、無理の無い範囲でなら情報を探っても良い」という条件で、1名だけの派遣が決まった」
「それで俺ですか」
里の外、それも他の里へと長期で出すのなら、宗家からは出せないから、分家の人間を。
理解はできるが、気分は良くない。
日向という一族と血を守るため、という必要性も、有効な手段だというのも本当によくわかる。
ヒナタさまをひとりで行かせちゃダメだろ、すぐダマされるわ。というのも、よく理解できる。
だがそのための犠牲になる側の、分家という立場に人生が固定されているのは、正直ストレスだ。
これまでは宗家が絶対的に上という事にして、分家を盾にするのを正当化してきた。呪印でそれを強化して、実行力にも、反乱防止にもなっていた。
その関係そのものを、もう一度ゼロから話し合ってみよう。今はそういう事になったらしいが、さて、どうなるものか。
「いいでしょう。日向ネジ、その忍務、了解しました」
そんな変わろうとしている日向一族から、少し離れたい。そんな気持ちで、出向忍務を引き受けた。
さすがに下忍だと格好が付かないので、中忍に昇進させてくれたのは、思いがけないオマケだったな。
いいんですか、と聞いたら。
「試合内容が、内容だったからな…… 正直、評価に困っておって、中忍にするかしないかの審議ごと棚上げのままだったので、むしろ問題が片付いて都合が良い面もある」
と、頭痛をこらえる顔で三代目さまは答えてくれた。
下は下で辛いが、上も上で苦労はあるらしい。
そう思いやっていたら、なんかシレッと仕事を上乗せされた。
「ああ、それとうちはの里は、現在独特の掟のようなものがある。出向前にそれを身につけて行け」
「掟、ですか?」
「うむ。ビジネスマナーじゃ」
「???」
引き受けた後に、ああやって意味のわからない何かを追加されるのはズルいと思う。
木ノ葉中忍などの肩書きの入った自分の名刺を作った時、ちょっと嬉しかったので今回は許すが。
ところで新しくうちはの里で作られた掟なのに、詳しく知っていたあのエビスという忍びは何者なんだろう。間違いなく木ノ葉の忍びのはずなのに。
ビジネスマナーとはいったい……?
まあ、ともあれだ。講習をクリアした俺は、公認のスパイというか、外交官のような立場を持たされて、うちはの里へと向かい、何事も無くたどり着いた。
そう言えば、ここは忍者の里のはずなのに、隠れ里とは一切名乗っていないな。
だが木ノ葉も、木ノ葉隠れの里と名乗ってはいたが、一般人が普通に依頼や商売をしにやって来るなど、一切隠れてなかった。
いっそ最初から看板から外したと考えれば、まあ、納得できるか。
そういえば、あのうずまきナルトも、今ここにいるんだったな。
俺が講習を受けている間に、一足早くここへ出向したと聞いた。着任のアイサツをしたら。探してみようか。
など色々と考えながら、いざうちは里へと足を踏み入れてみると、だ。
「おお、よく来てくれた!」
「待っていたぞ! 日向の使者殿!」
「これで少しは安心できるってもんさ!」
歓迎された。かなり熱烈に歓迎された。
いや大勢で出迎えて、とかそういうのではない。ないが、普通に道行く人たちや、店や家からこちらを見かけた人たちから、やけに声をかけられるのだ。
俺は戸惑ったが、悪い気はしなかった。こんなにたくさんの人に受け入れられたのは、初めてだった。
そんな気持ちは、着任のアイサツをしに行った先の、取締役という名の、里長の執務室で受けた忍務の説明で吹っ飛んだわけだが。
「君には、例のあの男の監視を、是非とも任せたい。やってくれるね?」
そう言ったうちはフガクさまの顔は、それまでの歓迎で浮ついていた俺の気持ちを打ち消してしまうほどの、この上なく深刻な表情を浮かべていた。
「例のあの男とは?」
表情を引き締めて聞いた俺に、フガクさまはいきなり遠い目になって、語りだした。
「悪い奴では、ないんだ」
いきなり、フォローからだった。
そこから入った説明は、信じ難い事が多々、いや、ほぼほぼ信じ難い事しか無かった。
普段は有能な文官の、特別上忍かつ会社の特別顧問。だが忘れた頃や、気を抜いた隙にナニかをやらかす、うちはの時限爆弾。
その罪状は、うちは一族を独立へと導いたのを皮切りに、大蛇丸との友好関係、同盟の樹立。千手綱手を始め、数々の有能だが問題のある人材のスカウト。
その中のひとりは、人妻だったが今はそいつの妻になっている。なんなら出身の雪一族を探し出して、その一族を会社組織として作り直して、うちはの子会社化して取り込んだ。
「霧隠れの抜け忍も、実は何人か匿っている。見つけても見てみぬフリをしておいてくれ」
いや、まあ白眼だから、色々と見えてしまいますけども。
いきなりそこまで本音でかかってこられても、困りますよ。うちは一族って、そんなオープンなスタンスでしたっけ?
他にも、木ノ葉崩しを言い出したのも、資産の奪還・差し押さえにしてしまおうと言い出したのも、全部が例のあの男で、写輪眼の開眼者が劇的に増加したのも、それが万華鏡写輪眼に進化したのも。
それを部隊へとまとめあげ、うちはイタチを隊長とした、のはいいのだが ――――
―― なんか、気付いたら社員教育とかして、建設部になっていた。
「もちろん社員教育をしたのは例の男で、なんなら我ら上層部や同僚、部下、里の一般人まで。今では一族全員が教育課程を修了している」
苦笑しながらも、どこか誇らしげにそう言うフガクさまに、俺は戦慄を覚えた。
まさかとは思うが。無いとは思いたいが。
これまさか、俺も社員教育とやらを、受けさせられてしまうのでは?
木ノ葉で俺にビジネスマナーを教えてくれた、エビス講師の顔がよぎる。
まさか、彼は既に、教育されてしまった人だったのか……?
社員教育とは、いったい何だ?
もうなんか帰りたくなってきたが、木ノ葉にすら社員教育の汚染が広がっていると悟って、帰るのもイヤな俺に、フガクさまは決定的な事を教えてくれた。
「うずまきナルトに即席の講習でビジネスマナーを叩き込んだのも、例の男だ」
「アレもそうかよ!!!」
そのおかげでオレはなー! 日向の一族はなー!
とにかく感情が高ぶって、言いたい事がまとまらずに切歯扼腕する俺を諭すべく、フガクさまは例の男と関わるコツを語ってくれた。
「いいかね? ヤツはこの里の様々な事業や事象の提案者であり、開発者で実行者だ。この里やその近辺で何かおかしな事が起こったら、ほぼアイツの仕業だと思いなさい。
そして「ああ、巻き込まれたな」、と諦めたまえ。なに、だいたい最終的には里のプラスになる。だいたい里全体が振り回されるから、ひとりじゃないぞ」
じゃないぞ。じゃ、ないんだが。
俺、日向ぁ! 出向してきただけの、部外者ぁぁ!!
なんか内なる自分が荒振っているが、他里の長相手に態度に出すわけにもいかない。
大きく息を吸って、吐いてを繰り返して、何とか落ち着く。
「スー! ハー! スー! ハー! ……シツレイしました。それでその、私にその例の男を監視せよ、との事ですが……」
日向一族の白眼は、望遠鏡のように遠く離れた地を見抜き、途中の障害物すらも透視ですり抜けて、対象だけを捕捉する。
気付かれずに特定個人を監視するには、これ以上ない最適な能力だろう。
ああ、俺がこの里に入ってから、あんなに歓迎されていたのって、このためか!?
この監視、極秘忍務とかじゃなくて、里に周知されてるのか!?
里の機密が漏れるのに目を瞑ってまで白眼を求めて、それで問題児を監視しろとは、どこまでだ?
俺は、どこまでを期待されてるんだ?
「うむ。見張っていて、何かやらかしそうだったら、知らせてくれ」
「報告だけですね? 止めなくても、いいんですよね?」
そこが大事。何よりも大事。
俺は、そこだけは念を押して確認した。
事が起きたのは、その2日後だった。早いわ。
忘れた頃に突拍子もないやらかしをカマす、うちはの里の上忍。株式会社うちは人材派遣の特別顧問。
そしていつの間にか、音隠れの里からも外部顧問として給料をもらっている謎の男。
そんな男が、前触れも無く行動を起こした。
「大変です! 特別顧問殿が自前の神威空間に入って、姿を消しました!」
俺の報告を受け、うちは上層部は即座に動いた。
こうなった場合の専属チームまで、すでに組んであったらしい。ケースCだ! とか指示が飛んでいた。
探索に長けた者や、占いや未来予知めいた万華鏡写輪眼の力までがフル活用され、特別顧問の位置情報は即座に特定される。
「場所は…… 木ノ葉隠れの里!」
事前の通告すらもないので、これは木ノ葉への密入国なんだろうな。
そう考える木ノ葉の忍びの俺を気にもせずに、うちはフガクさまは俺に短く命じた。
「よし、行け」
もう、この例の男案件へ対処するのが最優先なんだろうな。
そう察した俺は「アッ、ハイ」と大人しく応じるしか無かった。
そして俺は神威の術者の手によって、特別顧問の近傍へと即座に空間跳躍させられ。
跳んだ先で、恐ろしい光景を目撃することになる。
神威空間への穴とも、少し感じの違うヘンな歪み。
それを開けたらしい特別顧問は、自分でも想定外の出来事だったのか、首を傾げてそこを覗き込んで中を確認して。
ニタリと、悪そうな笑みを浮かべた。
続いて懐を探って一枚の札を取り出すと、それに水筒の水を掛け、その穴の中へと手を突っ込んで放り込んだのだ。
そして何やら楽しそうにしばらく待った後、穴をぐにゃりと広げて中へと入っていった。
(なんだろう、あれ。気になるな)
当然ながら、中の様子が気になった。まあ、いいか。行ってしまえ! そんな軽いノリで歪みに近付き、直接覗き込んだ。
白眼で遠くから覗き込むには、角度の問題で難しかったからだ。
そこで俺は、衝撃的な光景を目撃する事になった。
覗き込んだ次の瞬間にはもう、俺の白眼は限界まで見開かれていただろう。それ程の驚きが、あそこにあった。
中で寝こけていた謎の人物の首を、特別顧問がチャクラを纏わせたクナイで迷いなくスパッと落として殺害する犯行現場が、そこにはあった。
しかも、そこで特別顧問は止まらずになおも残酷な犯行に及ぶ。
切断した被害者の首を拾うと、その手で両方の眼球をズルリと引っこ抜き。
さらには首を胴体の上に乗せると、用済みとばかりに、容赦なく全力の火遁を浴びせて燃やし尽くそうとしたのだ!
(もしかして、これはガチなやつでは? ただの殺害現場なのでは?)
目撃しただけだというのに、冷や汗が止まらなかった。
どうしよう。どうしたらいい? こんな時にどうすればいいのかなんて、あのビジネスマナー講習ですら習わなかっ……
「いいですかネジくん。不測の事態、インシデントというのは起きる時には起きてしまいます。そんな時には、まず報告です。報告連絡相談。ホウレンソウはジッサイ大事。わかりましたね?」
いや習ったわ。習ってたわ。
ありがとうエビス先生……!
講習時にすらエビスさんと呼んでいた彼に、初めて先生と敬称をつけて心の中で礼を言うと、俺は報告のために慌てて撤退した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
というわけで、査問会が開かれたわけですね。
いやあ、こうして長老衆や幹部たちがズラリと並ぶ前で、一人で語らなきゃいけないというのも久々です。
重苦しいプレッシャーで胃が若干痛み出しましたが、表向きには強がっていきましょう。
表情と態度で「腕が鳴りますね」といった、余裕の笑みを浮かべて見せます。
だってサスケやナルトに「ピンチの時ほど余裕を見せろ」って教えたのは俺ですからね。師匠たるもの、自ら実行しなきゃいけないでしょう。
「どういう事だ。説明しろ」
そう問い詰める長老衆へ、逆にこちらから問いを返しました。
「聞きたいですか? 本当に…… 聞いちゃいますか?」
腕を組み、不敵な笑みを浮かべながらそう返しました。
相手に逆に選択肢を突きつけてやる事で、責任の所在が少しばかり相手側に動く。少なくとも後で「なぜそんな事を聞かせた!」って理不尽に怒られにくくなる一手です。ちょっとしたリスクマネジメントですね。
あと本当に聞かないで流した方が、幸せな案件でもありますからね。
もうあちこちへの地雷まみれなんですよ、うちはオビトの件って。
「いいから言ってみろ。話はそれからだ」
万華鏡写輪眼持ちを集めた、通称スサノオ部隊の隊長。最近は数々の業務責任者になる事も増えてきたイタチが、動揺をチラリとも見せずに、静かな声でそう返してきた。
胃の辺りを押さえて青い顔でうつむいている父のフガクさまとは、エラい違いだ。うちはの次代は明るいな。
ああ、でもそういえば……
「いかに忙しかろうが、綱手さまの定期健診だけは受けて下さいね、イタチ。そう約束してくれるなら、話します」
原作でなんか重い病気にかかってた記憶がふと蘇ったので、雑に先手を打って対策を立てておく。
綱手さまなら、綱手さまなら、きっと何とかしてくれる。まだ慌てるような時間、もとい時期じゃないし。
「うん? 分かった、約束しよう」
何も知らないイタチが頷いたのを確認して、俺は本題へと切り出した。
「万華鏡写輪眼 開眼プロトコルの、うちはオビト。この場の皆さんは、当然ご存知ですよね?」
実は事前情報としては、既に土台は出来ているんですよね。
うちはオビトの存在。その生存。闇落ちまでは、すでに情報公開してあるというか。副産物的に出来ているというか。
「するとお前が今回、殺害したのは」
察しのいいイタチが先回りしてそう聞いてくれたので、少し端折って説明を続ける。
「ええ、あのオビトです。彼、あの後、どうしたと思います? もちろん木ノ葉には戻っていません。彼は復讐に走ります」
「それは、そうだろう」
「うちは一族なら、当然だな」
そんな反応と言葉が、査問会の会場に広がる。さすがは我が一族。ヤンデレ系への理解度が高い。
でも証言者としてここにいる日向ネジくんが、見るからにドン引いているんで、自重して?
まあ、オビトも自重しなかったんで、この先の説明を聞いたらもっと引くだろうから、ええか……
「復讐する先は、事件を起こした霧隠れの里。そして助けてくれなかった師の四代目火影を含む、木ノ葉の里です」
え、そこまでいくの? そっちも?
今度は共感ではなく、そんな若干の困惑が査問会の会場の『半分』を満たす。
良かった。さすがに当事者じゃないから、そこまで感情が暴走しなかったか。
でも半数は理解しちゃったのは、これもしかして万華鏡写輪眼開眼プロトコルの副作用かなあ。
月読まで使って、あの事件を体験として実感させちゃったせいで、自分事として共感が追いついちゃったのかなあ。
まあ、いいか。暴走する時は、この経験がなくても暴走するだろう。うちは一族だし。
変に成長にストッパーかかってないから、写輪眼持ちもいっぱいいるし、誰かが暴走しても、他の誰かが止められるだろ。イザナミとかで。
よし、起きたらその時対処だ。今は棚上げにして、と。
「霧隠れの里については、たぶん三代目水影が、万華鏡写輪眼で洗脳されています。わざとヒドい統治を行って、里を荒らして復讐してますね」
「なにぃ!?」
「確かか!!」
ガタガタッ! と音を立てて、何人もが立ち上がる。
一つの里を、乗っ取る。それも五大国の一つを乗っ取って、意のままにする。
それは今まで、歴代の火影すらも、その二代目ですらも出来なかった偉業だ。
……たぶん。
いや、本当にやってないよね、二代目? 実は影クラスじゃなく、相談役あたりの幹部をコッソリやってて、木ノ葉の都合のいいようにコントロールしてたとか、ないよね? どうなの卑劣様。
なんかありそうで怖くなってきたんで、置いといて。
別の怖い事に、対処しようか。
「…………それは、本当に、ですか?」
言葉を一つ一つ区切って、強引に自分の感情をねじ伏せて、冷静でいようとして。
それにかろうじて、本当にギリギリ成功している、今にも理性の手綱を手放しそうな男がそこにいた。
干柿鬼鮫。うちはイタチが引き込んだ、元は暁の所属で、その出身は霧隠れの里。
つまりは、うちはオビトの復讐に巻き込まれた、被害者だ。
オビトが生きていたなら、解き放つのも手ではあるんだけど、もう殺っちゃったんだよなあ……
激しく憤っていらっしゃるが、その感情のブツけ先が、もうないんだよなあ。
なんで鬼鮫が査問会という、ほぼ幹部しかいない場所にいるのかと言えば、彼もうちは人材派遣の幹部のひとりだから。
うちは一族だけが幹部になれるとかだと、万華鏡写輪眼持ちでないとダメとか、宗家の血筋がとか、業績や能力以外での出世システムが出来て、腐ったり淀んだりしそうだったから、抜擢したんだよね。
外様で中途採用で、一度は敵対してて、それでいて強力で有能で(イタチには)友好的。
チャクラを吸収、供給するチャクラタンクにもなる忍刀サメハダと、水の無い所で強大な水遁という特殊技能まで持っている。
そんな持って来いの条件を備えていたからこそ、抜擢してもらったというのに。
まさかここに来て、爆弾化しようとは。うちは一族でもないのに、感情と因縁で爆発しそうとか、やめていただきたい。一族だけでも、お腹いっぱいなのに。
だがまあ、こういう時は受け止めないで他に流すしか、手段は無いわけで。
いや受け止めてもいいけど、それが出来るのは、ナルトみたいな主人公力がないと大怪我して死ぬから。俺にそれは多分無いから。所詮オリ主はパチモンだから。
他の問題を、それも喫緊のやつで目を逸らしてもらいますかね。
「だとしたら、どうなっていると思いますか? 今の、霧隠れは」
「…………はい?」
ここでウカツに「本当です」とか「さあ?」とか答えちゃったら、こっちに牙が向けられますからね。
導入には、気を使わないといけません。爆弾の解体は、デリケートなのです。
まずは「?」という疑問を持たせて、考えさせるという工程を挟む事で、理性を呼び覚ましましょう。それはきっと、感情全開で走っていた人の勢いを、少しだけでも弱めてくれます。
「術をかけていたオビトが死んだら、三代目水影にかかっていた洗脳は、どうなりましたかねえ?
解けていたとしたら、どうするでしょう? どういう行動に出るでしょうか?」
「どう…… なるんです?」
よし、止まってくれた。鬼鮫は顔は怖いけど、いい人だからな。そうそう理不尽なマネはしないと思っていたが、さすがにブチキレていたらどう出るかわからないからね。
最悪、月読で「感情のままに暴れて、止めようとするうちは一族を虐殺して、イタチすらその手にかけたところで我に返る」幻術を見せて、心を折って強制的に落ち着いてもらおうかと思いましたが、自分で止まってくれて助かりましたよ。
「わかりません。自責の念から自決するか、開き直って今の路線のまま影を続けるのか。つまり、確認が必要だという事です。 ……誰を、派遣しますか?」
ここで視線を鬼鮫から離して、フガクさまへと向き直って、そう聞きました。
鬼鮫は自分が行く、という顔をしていますし、イタチはため息を付いているだけですが、あれも多分付いていく気でしょう。
よし。これでオビトを殺害した件で、俺が責められる事はないだろう。
なぜ独断でやった? と聞かれるかもしれないが、まずは証拠を固めるつもりだった時に、あまりにも好機が巡ってきたのでつい…… と言えばいい。実際、その通りだったんだし。
でもこれ、まだ半分なんだけど。
オビトが木ノ葉の里にやらかした、九尾の人柱力の出産時に、封印が弱まるのを知って襲撃を掛けて、それで九尾の封印が解けちゃって、木ノ葉がエラい事になっちゃった事件とか。
雨隠れにあった暁という組織を乗っ取って、各地の抜け忍を集めて独自の戦力を集めていて、この間ウチの建設 警備部とカチ合って壊滅しちゃったとか。
その生き残りに輪廻眼持ちがいたんで、今ちょっと雨隠れごとスカウト中だとか。
この際だから、まだ報告しておかないといけない事があるんだけど。
皆さん、なんかもう、これで一つ片が付いたなって雰囲気なんですけど。
「また今度だ、サスケ」
みたいにしたら、ダメかな?
ダメなんだろうなあ。
じゃあしょうがないか。ビジネスマンっぽい裏稼業の人、同じスーツ仲間として力を貸してくれ。
ここから先は、時間外労働です。