「大蛇丸様、本日の『技術提供イノベーション定例会議』の資料でございます」
清潔さを保たれた私の実験室。そこに足音もなく現れた君麻呂が、恭しく書類を差し出してきた。
羊皮紙でも巻物でもない。白く滑らかな「A4サイズのコピー用紙」を正確に束ね、左上をプラスチックのクリップで留めたもの。
それは、君麻呂の仰々しいまでの態度には似合わない、極めて散文的なものに思えた。
「……ありがとう、君麻呂。今日も素晴らしい手際ね」
私は濃い目の紫のアイラインを細め、受け取った書類に目を通す。
表紙には、見慣れ始めた印刷用の印字で、こう記されていた。
『株式会社うちは建設・研究開発部 提案:写輪眼への特殊な処置による安定化および、医療イノベーションによる量産と販売に関する提案書』
「クックック…… 相変わらず、頭が痛くなるような題名をつける子ねぇ」
イノベーション。新たな組み合わせなどによって、新しい価値を生み出す。
そんな概念を持ち込んできたのも、あの子だった。
他にもちょっと色々と持ってきているのはいいが、その数が過剰で、おかげで久しぶりに時間が足らないと思えるほどの、充実した研究ライフを送れている。
だから私が思わず漏らした苦笑いは、決して不快感からくるものではない。むしろ、研究者としての知的好奇心が刺激され、脳髄が痺れるように震えるの隠すためのものだった。
(写輪眼の改造はともかく、販売? 今度は何を思いついたのかしら)
あの子は、うちはの忍びなのに、あまりにもウチ(音隠れ)に出入りして私とディスカッションなり研究なりするものだから、いちいち許可とかが面倒になって、とうとう外部顧問として立場を与えた。
そうなってくると給与も払わないと気がすまなくなって、気付けば普通に部下扱いしていた。
カブトや側近たちも、普通に同僚だと思っているようだ。
(最初は、何もわかっていない平凡な忍者に見えていたのよねえ)
音隠れの里を本格的に立ち上げる前。
まだ田の国に潜んで、力と人材と物資と資金を集めていた、あの頃。
どういうわけか、そんな私のアジトを突き止めて、やってきた青年――うちはの異端児。
「はい! 田の国にうちは一族で新しい里を作るんですよ。ぜひ大蛇丸さまの知識と技術をお貸しいただきたく。最高の環境をご用意できますよ! 研究費もドカンと出します!」
まさか、私をスカウトしようだなんてねえ。
自らが風になって、世の中という風車を思うが侭に回したい。そんなふうに思っていたから、面白そうではあったけど、断った。
もし乗っていたなら、どうなっていただろう。私もあの里で、綱手や自来也と飲んだくれていたりしたのかも。いや、それはないか。
あの時は確か、代わりに綱手をスカウトに行かせて、そのまま帰しちゃったんだったっけ?
また来ることもないだろうと、そこで一度興味を失ったのは確かだ。
それがまさか、もう一度来たのよねぇ……
しかもわざわざ、こっちが気を使って湯の国に場所を移して作った、隠れ里に。
オマケに体を変えていたから、わからないだろうと別人のフリをしてアイサツしたのに、普通に返すんだもの。
「いやあ、お久しぶりです大蛇丸さま! こうして引っ越してきたとお聞きしまして、ご挨拶に伺いました!」
コイツ、もしかしてバカなのでは? あの時は、そう思ったわ。あの時は。
ちょっと自来也のバカヅラが思い浮かぶくらいには、思ったわ。
でもただのバカじゃなかったわね。
「そ、それで大蛇丸さま! いつ木ノ葉を襲撃しますか!? ウチも勿論、一口乗りますよ!!」
とんでもない、バカだったわ。
木ノ葉には思う所もたくさんあるし、色々とありすぎたから、一度全部吹き飛ばして、リセットしたい。
そんな私の願望を見抜いたかのような提案を、いきなり差し出してきたのだから。
あのうちはが、一族をあげて協力してくれる。
そんなの全力で乗っかるに決まってるじゃない。木ノ葉崩しというネーミングも気に入ったし。
まあ、乗っかった結果が アレ だったんだけど。
なによサギじゃない。全然崩してなかったじゃない。いえ、経済的にはすごく崩したらしいけど。あとなにか、事務仕事的にも。
「大蛇丸様には『木ノ葉崩しに一口乗る』と約束しました。約束しましたが、木ノ葉の人間を殺すとは一言も言っておりません!
我々の目的は、かつて警務部として理不尽に没収された予算! 未払い残業代の回収! ならびに木ノ葉の重要書類の接収です! 野郎ども、かかれぃ!!」
この言葉を背に、それでも猿飛先生と真面目に戦い続けられた私は、偉かったと思うの。
それでも精神的に疲れちゃったから、中途半端な所だったけど、もういいわってなって里へと戻って。
少し休んで、気力も少しは回復して。
さすがにキレていた私の前にノコノコやってきた時は、どうしてやろうかと思ったわ。
「人をさらってくるより、この細胞で自家栽培してください」
袋いっぱいの髪の毛を渡されながらそう言われて、思考が止まったけども。
あの時、私は殺気をちゃんと飛ばしてた。そのはずよ。
木ノ葉でカカシに飛ばした時は、即座に死を連想して、顔色をひどく悪くしていたけど、それ以上のものを飛ばしていたはず。
なのになんであんなにマイペースなの。
それ以降も、やれ万能細胞だ、放射線だ、X線だ、さあ突然変異と品種改良だ、インドラとアシュラで大筒木に至るべしとか。
私ですら知らない知識を、それもその取っ掛かりにはなるけれど、研究しないと使い物にならない。そんな研究しがいのある、好奇心を刺激するネタを次から次へと持ってきた。
ただよくわからないものも、中にはあったけど。デビルガンダム細胞ですよって言われても、わからないから。
自己増殖自己再生自己進化する細胞って、それ止まらなくなって星を食い尽くさない?
エネルギーを自前で賄えなかったら、星を食い尽くしたところで餓死。何も残らず世界は滅亡しましたっていう、バッドエンドになるのだけれど。
でも実は、似たような事は考えてたのよねぇ……
私の細胞で、他者を侵食して乗っ取る。柱間細胞を参考に、そういう研究もしてたんだけど。
やりすぎると、この世の生き物全てを私にする事になるか。少し考え直してみましょうか。
そんな危険なものもいくつかあったけど、手順さえ知っていれば誰でも使える、物を出し入れできる巻き物を開発して流通業界を制覇しよう。という、あの企画は良かった。
あのおかげで、我が「クロヘビ運輸」は業界のシェアを今日も拡大中だ。業界トップまではまだまだでしょうが、十年後、二十年後には……
下忍ひとりで、大きな商隊ほども運べちゃう。しかも忍者の足だから、ずっと速い!
これだけでもう、資金に困ることは無いだろう。
うちは一族だけじゃどうせ社員が足りないから、と気前良くこちらに丸投げしてくれて、本当にありがたいわ。
「資金が欲しいなら、普通に商売すれば良いのでは?」
忍者として、忍びの里の運営者として、どう資金を稼ごうか。どう研究費用を捻出しようか。そう悩んでいた私に、あの男は不思議そうな顔でそう言った。
言われてみれば、別にお金を稼ぐのに「忍者として稼がないといけない」というルールはない。
具体的なアイディアと大まかなプランまで示されたのもあって、あの時は目から鱗が落ちた。
そうか。ずっと忍者としての自分でいなくてもいいんだ。もっと自由でいいんだ。そんな知見を得たのは、今でも財産だと思っている。
そして運送業が軌道に乗って利益を出し始めると、さすがの私も気が咎めた。
受けてしまった借りは返さないと、独立独歩の組織としてはマズいし、私のプライドにも関わる。
「せめて彼だけの給料くらいは払わせてちょうだい」
だからわざわざうちはの里まで足を運んで、こう頼んだ。
あの時の、あのうちはフガクの顔。
あれはもう一度見たいわね。あの困惑しきった表情は、あれだけでお酒が飲めるわ。
実は結構前に、こっそり外部顧問を特別外部顧問にして、この前そこから更に外部の文字を削ったのに気付いた時は、どんな顔をするのかしら。
他の部下たちも特別顧問って呼ぶようになったのに、本人すらまだ気が付いていない。
フフフ…… たまにはこんな、ささやかなイタズラも楽しいものね。
そういえば、説教みたいな事もされた事もあった。
クローニングしたうちはの肉体の研究もいいけど、生のうちはの肉体も研究して、比較したい。
私がそんな好奇心を抱いて、密かにうちはの里を探っていた頃、あの男はまた書類を片手にやってきた。
そして一切の戦闘を行わず、ただ一枚の『事業提携契約書』と『株式の譲渡による資金配分計画書』を使って私の計画を止めてみせた。
それどころか、ついでとばかりに基礎の方針にまで口出しをしてみせた。この私を相手にだ。
「大蛇丸様。不老不死や全忍術の修得という目的に対して、他人の体を力尽くで奪うのはリスクとリターンが見合っていません。
有力な他者の肉体をさらおうとすれば、当然その者の属する集団から命を狙われ続けます。しかもそうして得た肉体も、拒絶反応で使えるのは数年だけ。
更にその肉体の持ち主の意志が強ければ、何か名残りのようなものが残るんでしょう? つまりほんの少しずつですが、あなたはあなたではなくなって行く」
だが聞く価値と意味はあった。
気が付かないうちに、自分を見失うかもしれないという話は、怖かった。
「知らない口癖が、いつの間にかできていた事は? 食べた事が無い好物が、できていた事は? 犬や猫など、それまでさほど興味が無かったペットに興味が出たことは? もしくはその逆に、癖が消えたり、興味が失せたり、思い出せなくなった何かがあったとして――――
――それでも、あなたは、あなたのままだと言えますか? 大蛇丸さま」
それを「わずかにも実感している」と気付かされた私だからこそ、恐ろしくなった。
そうだ。私は私でなければならない。
変化するのはいい。生き物は、生きていれば変化するものだ。さもなくばその前に死ぬ。
だが経験や成長ではなくて、他者を取り込んだ結果としての変化は、受け入れられない。
「だから作りましょう。拒絶反応も無い、自我に変化をもたらす事も無い、あなたのための究極の肉体を。もちろん、我が社も協力いたします」
だから、あの男からさし出された手を即座に取った。
「ベースはイタチで頼むわ」
「アッ、ハイ」
当然の注文だったと思うんだけど、なんであんなに引いていたのかしら。謎ね。
研究は順調に進んだ。
忍者とも言えない、ロクに術も使えないハンパな連中でも、荷運びや仕分けや書類仕事には使える。
色んな場所にいくらでもいる孤児たちや、行き場の無い食い詰め者。そんな若いだけの連中を拾って、ちょっとだけ仕込んだ社員たちが生み出す、クロヘビ運輸の利益由来の、潤沢すぎる予算。
あの男がどこからともなく仕入れてきたり、開発していた最新の精密医療機器。光学顕微鏡や遠心分離機、心電計や脳波測定器に、紫外線照射機やX線照射機。
そして何より、うちは一族の「遺伝子サンプル(DNA)」の正規提供。
……うちはフガクの血液と精○とか、どうやって入手したのかしらね?
無断提供なので、くれぐれも内密にって言ってたけど。
ともあれ、それでうまくいかないわけもない。研究は順調に進んだ。順調すぎて、日常的に影分身を使って研究する必要があるほどだった。
代わりに私が求められたのは、うちは一族の健康管理、病気の治療法の確立、そして「労働力の効率化」のための医療・生物工学的イノベーション。
「そんなのでいいの? もう少し、無理を言ってもいいのよ?」
私らしくも無く、そんな気遣った言葉すら言った記憶がある。
気付けば、あの木ノ葉崩しの後に「あんたらとはもう組まないからね!」
と手紙を送ったうちはの里と、ものすごくズブズブの関係になっちゃってるわねぇ……
いやホント、もらいすぎてて、ちょっと心の座り心地が悪くなってきたんだけど。でもこっちから何かできる事っていってもねえ?
「大蛇丸様、お顔に疲労の色が見えます。また特別顧問から過酷なノルマが?」
君麻呂が心配そうに覗き込んでくる。
なんで私がノルマを課される側なのかしら? そんな疑問が浮かぶが、今更だし、正確にはノルマではない。
ただ新しいネタが定期的にやってくるので、次のネタが来るまでにある程度以上は片付けておかないと、ネタが渋滞を起こしてパンクしてしまうので、研究を進めなければいけない。
だから結果的に「次までに、ここまでやっておけよ」というノルマっぽいナニカになってしまっているだけなのよ。
それもまた楽しいからいいんだけどね。
その成果も、確実に出ている事でもあるし、問題は無いわ。
実際、目の前の君麻呂もその成果の恩恵にあずかっている。
その肌は以前のような病魔の影もなく、ツヤツヤとした健康的な輝きを放っていた。
「優秀な幹部の病死は、御社の重大な損失です」
そう言って、綱手の医療忍術の知識を引っ張ってきて、私の遺伝子治療技術を融合させ、君麻呂の治療プロジェクトとか立ち上げたのよね。
かぐや一族の血継限界による細胞自壊を克服する、とかは無理だったけど、最終的に根治治療は出来た。
そこまでの道は平坦じゃなかった。
人体を丸ごとクローニングして、必要なパーツだけを交換、という手法は綱手が反発して、プロジェクトから抜けかねない。
だからまずは部分クローニングを開発するのに一苦労。
そうして出来た技術で、血管や臓器だけを新しく作っての交換も、高度な手術スキルや医療忍術が必要。
ここでひとつ、幸運な事があった。他者の細胞に入り込み、かなり自由にいじれる双子が入社してくれたのだ。そのおかげでブレイクスルーが起きて、臓器移植の難易度がふたつかみっつは下がった。
これらの外科的な処置は、確実に君麻呂の寿命を延ばしてはいた。
だがそれでも、体質的に血中のカルシウムが濃すぎて臓器や血管を傷つけるという問題の解決には、至らなかった。
カルシウムの摂取を制限して下げようにも、そうしたらしたで、君麻呂は栄養失調のような状態になって死んでしまう。
カルシウムは、かぐや一族にとって体を蝕む毒でありながら、生きるのに必要な栄養でもあり、戦うための武器でもあった。
もう治せなくなるまでこうして処置をして、結局は使い潰すしかないのか?
私がそう見切りをつけようとした、その時だ。
「仕方がありません。これだけは使いたくなかったのですが……」
あの男が、そんな事を言い出した。
こういう時は、私でも少しだけイヤな予感がして、詳しく聞くのをためらう。
でも高まってしまう好奇心に負けて、結局は聞いてしまう。
「何を使うつもりなの?」
「柱間細胞です。お持ちでしょう?」
秘匿しているはずなんだけど、どうして知ってたのかしらね。
まあ一応、木ノ葉にいた頃に移植実験を大勢にやって、たまたまひとりだけ生き残っていたから、そこから情報を得たんだと思うけど。
それでも知っているのはおかしいんだけど。
「ええ、あるわよ。やりましょうか」
でもそんな事は棚上げして、実行した。
どうなるのか、気になったから。どうせ壊れるんなら、楽しそうな実験に使ってもいいじゃない。うまくいったら、助かるんだし。
しかも一応は、本当に一応は、うまくいく根拠があった。
「かぐや一族の、かぐやという名前は、恐らく大筒木カグヤが元です。六道仙人の母親ですね。それで六道仙人の2人の息子のうち、アシュラは主に生命力担当で、千手柱間はその末裔」
「つまり、普通は柱間細胞の生命力に負けて死ぬけど、君麻呂は遠いけど血縁関係がありそうだから、大丈夫とでも?」
そんな薄い可能性だったけど。
でも成功しちゃったから、困るのよね。
定着した柱間細胞はその力強い生命力を発揮して、細胞が傷付くや即座に再生して、君麻呂の肉体を健康に保ち続け、彼に人生を取り戻させた。
そうなっても私への忠誠は変わらず、いや更に強くなった。
あの男へは忠誠ではなくて尊敬、いやソンケイを捧げているらしい。違いがよくわからないけど、私が優先らしいから、まあよしとする。
実際、私の秘書としての仕事を自主的に覚えて、こうして補佐をしてくれている事だし。
「大丈夫よ。疲れてなどいないし、ノルマも問題無いわ。ただ…… 彼の持ってくる案件が、あまりにもいつも通りで。ね?」
私は書類をめくる。そこには、かつて私が夢見た「不老不死」などよりも遥かに合理的で、かつ恐ろしい技術の青写真が描かれていた。
「写輪眼の改造プラン。仙術チャクラによる自己保存の成功を生かし、写輪眼をベースに有益な力を発揮する瞳へと、仙術チャクラを利用して改造する。
目指すはデメリットを無くした、写輪眼。人々は争ってでもそれを求めるだろう。その中に、誰が、何が潜んでいるかも知らないままに。あるいは知った上で、なお。
これを継続して量産、高級なメガネくらいの感覚でバラまけば、大蛇丸さまの復活元が世に無数に存在する事になり、その不死性は極めて高くなります」
忍者なら誰でも、写輪眼を持っているような世の中かあ……
見てみたいけど、実際に体験するのはイヤだから、このままの案は却下ね。
でもそういう部隊を作っておくのはアリだ。
十人以上いたなら、いざという時に誰かひとりが私の身代わりに…… というリスクの代わりに全員が写輪眼という力を手に入れる。というのも飲むだろう。
というか、私の代わりに死ねと命じて「はい、喜んで」ってなっちゃう人材も、なぜかわりといるのよね。
ちょっと助けたり救ったり、居場所を作ったりしてあげただけでそうなるんだけど。
君麻呂もそうだけど、あの子たち、ちょっとチョロすぎない? 便利だし助かるから、矯正しないでありがたく利用させてもらうけど。
さて、さっそくいくわよ。
私は書類を指で叩きながら、君麻呂をグチのぶつけ先にした。
「ねえ君麻呂。あの子、写輪眼をなんだと思っているのかしら? うちはの歴史そのものにして象徴よ?
万華鏡写輪眼にいたっては、それは絶望と憎悪の果てに開眼する神の力、破滅の象徴とまで言われたのよ?」
なんか、跳ね返ってきた。
「はっ。ですが現状、我が社においては『大型土木工事用重機スサノオ』および『常時携帯可能な緊急時の保護シェルター』として運用されているかと」
無慈悲な、事実だった。
だがこの無慈悲さに、私は常々思う事があったのだ。
「そうよ! そこなのよ!」
私はデスクを叩いて、立ち上がった。さあ、私のグチを聞け。かなり溜まっているわよ。
「あの一族が、スサノオを発動して何をしていると思う!? 各種土木の基礎工事よ! 剣で硬い岩盤を綺麗に切断して、削岩の飛散を他のスサノオたち防いでとか、チームプレーまでしてるのよ!
自分のクローンたちをどうやってか苦しめて、絶望させて万華鏡写輪眼に開眼させて、その眼と交換する事で手に入れた、閉じない永遠の万華鏡写輪眼でやる事が、それ!?」
アンタたち、それで本当にいいの!!?
あの木ノ葉崩しの時。木ノ葉の忍びたちに目もくれずに、ひたすら金目の物と書類や金庫を略奪していくうちは一族へ思ったのと全く同じ。
強烈なまでの「ツッコみたい」という魂の衝動を、この事実を知ってからずっと、私はひとりで抱えてきた。
実際にツッコミを入れても、あの一族は「だって仕事だし」としか返さなそうだったので、やめておいたが。
しかもどうやら君麻呂も、そっち側らしい。
「たいへん合理的かと。おかげで我が社の新社屋や新規の営業所の建設スピードも、他に例を見ないものになっており、実に助かっております」
ダメだコイツ。早くなんとか…… いや、もう手遅れだ。
淡々と答える君麻呂に、私は眩暈を覚えた。
君麻呂はもう完全にあの男の持ち込んだ物で、ひょっとしたら最大の「ビジネスという概念」に染まり切っている。
「それに…… あなたよ、君麻呂。あなた自身もどうなの?」
あの男の「どこまで行けるか、試してみませんか?」という甘言につい乗ってしまって、君麻呂には追い柱間細胞をマシマシで注入した。
その結果、人面瘡のように千手柱間の顔が腹に浮き出てしまった。
それで木遁が使えるようになったとは言え、悪い事をしたと思っている。
骨の密度を極限まで高め、木遁でコーティングした、まるで硬軟を使い分けた日本刀のような構造の鎧 ―――― あの男曰く、パーフェクト君麻呂。
その鎧を着込み、巨大化してスサノオとすらやりあえる程に、君麻呂は強くなった。
でもお腹にオッサンの顔が付いてるのよねぇ……
喋ったりしないけど。でもたまに表情が変わってる時があるらしいから、不気味なのよねぇ……
「大蛇丸様からいただいたこの力、全ては我が社と大蛇丸様への御恩に報いるため。
さしあたっては建設現場における主力のひとりとして。また第三者からの不当な妨害行為(襲撃)に対する防衛戦力として、ご奉公させていただきます」
「……あなたのその真面目さが、最近は一番恐ろしいわ……」
変に恨んだり、反抗しない良い子なのは助かるんだけどね。
それが勤労の喜びに目覚めて、ビジネスマナーとも相性が良くて、どんどんあの男寄りの存在になっていくのが、怖いのよ。
「ハァァァ……」
私はため息をつき、椅子に深く腰掛け直した。
そして自分に言い聞かせる。私は手に入れた。そう、私は手に入れているのだ。
かつて欲しくてたまらなかった「うちはの力」も。自由に使える資金や施設や器具や実験台も。
部下だって、健康になった上に強くなった君麻呂や、助手としてどんどん勝手に便利になっていくカブトや、色々予想外に楽しませてくれるあの男もいる。
まあちょっと人数をそろえて、五人衆とか四天王とか親衛隊を…… と思っていたら、うちはの里と取り合いになっちゃって、中間の幹部の層が予定よりは薄いけど、そこはまだ妥協できる。
倫理的に、というのを無視すれば、何ひとつ悪事を働く事なく全てが合法的に手元に揃っているのだ。
だから落ち着け。大丈夫だ。私は大丈夫なんだ。
何か、思ってたのと違う。という疑問に、日々襲われなくてもいいんだっ……!!
私の目指した「世界の真理の解明」とは、日々の「納期」と「コスト削減」と「リスクマネジメント」に追われた先に、見えてくるものだった……
という真理に、たどり着いたらダメなのよ!!
人生が、ツラくなるだけだから! もっと夢見て生きなさい、わたしぃ!!