「フッ、今日も良く学べたな」
うちはアカデミーからの帰り道、俺は満足げにひとり呟いた。
もちろん俺は、アカデミーはとっくに卒業しているし、なんならすでにビジネスの世界へと足を踏み入れてもいる。
なのにアカデミーへと顔を出したのは、学習のためだ。
アカデミーでは度々、一般向けに各種講座が行われていて、今日は法律系の講座だった。
俺は出来る限りは、この手の講座には参加している。
なぜなら、日々うちはグループは大きくなり、その扱う業種は増加する一方。
それを全てこなす。とまでは言わないが、ある程度把握できるようにはしておきたいからだ。
俺が会社の上層部、管理職へと進むために。
兄のイタチは、すでに次期社長とまで言われている。現社長の父がまだ現役バリバリなのに。
父が存外ふがいないのか、兄が凄いのか。
ともあれ俺の主観で言わせてもらえば、だ。
「あの兄さんになら、なんか勝てそうな気がする」
いや、別にナメているわけではないと思う。
家での油断した姿を見て、というわけでもない。
ただ俺に関わると、妙にポンコツになるというか……
例えば、俺に見せ付けるためだけに、無駄なレベルにまで洗練された手裏剣術を習得した事とか。
「イタチも頑張ってたのよ~」と、悪気など一切感じない母さんから教えられたのだが、それは俺たち両方のために黙っていて欲しかった。
あの時は「兄さん凄い!」と純粋な眼をキラキラと輝かせていた過去の自分が、少し恥ずかしくなったもんだ。
そう言えばあの時のイタチの顔は、今思えばドヤ顔だった。
あとかなり天然だと思う。これを言うと本人は心外そうな顔をするけど、周囲の見解の一致する所だよ兄さん。
天然でない人は、自分のスサノオがいつの間にかスーツ姿になっているのに気付かず、他の人に指摘されて「あれ、本当だ」とか言ったりしないんだ。
な? 勝てる気がしてくるだろう?
というか、もしかして俺が関わってなくても、若干ポンコツな時もあるのか?
まあいい。そんな兄だが、仕事面で強敵なのは間違いない。
ついこの間に霧隠れで行われた、元水影の裁判で弁護してくれという、急に入った仕事にだってキチンと対応して見せていた。
だいたい例のあの人にブン投げていたらしいが。
その代わりに帰って来てからは、今後同様の仕事があってもいいように、と法務部を立ち上げようと忙しく動いている。
現場の仕事は現場に任せて、自分は上層部としての仕事をする。
管理職と社員が、同じ仕事を同じようにしていたら管理職の意味が無い。
このあたりはまだ、俺にはわかってはいても、実行できていない領域だ。
だがわかってはいる。あとは常に心がけて、実行できるように、手法をいくつもストックしていくだけだ。
今日学んだ法律もその一つ。
「法律とは国の、社会のルールです。ルールを知らずにプレイして、いい成績は取れますか?
まずは知ってください。なにをしてはいけなくて、どこまでならやっていいのかを。そして見つけるのです。どうすればいいのかを」
確かにその通りだと思った。ただ……
木ノ葉から招かれたという、あの特別講師のエビスって、何者なんだ?
特に有名な忍者じゃなかったと思うんだが。ビンゴブック(賞金首手配書)にも載っていないし。
教育のスペシャリストかなんかなんだろうか。気になるから、今度会えたら名刺交換してみよう。肩書きが気になる。
そういえば例の人もビンゴブックに載ってはいたが、所属が音隠れの里になっていたのは、何かの間違いなのか、ウチが流した欺瞞情報なんだろうか。
欺瞞情報だとしても、何の意味があるのか分からないが。
丁度その時だ。里内ということもあって、少し油断をしていたんだろう。俺は不意に驚かされる事になってしまった。
「眼を覚ませ! あの方は確かにお若く見える! だがお前の母親より年上なんだぞ!」
うわ、ビックリした。
唐突に路地裏から聞こえてきた大声に、ついビクッと反応してしまった。
だが内容を聞けばすぐ事情を察せたので、取り乱すことは無く落ち着いた。
「なんだ覚醒(笑)の儀式か。脅かすなよ」
俺と同じく驚いていた、たまたま通りがかった里の人がそう言って、足早に通り過ぎていった。
美人で気さくで、胸がデカくて谷間を常に見せている千手綱手姫。そんな彼女に、うっかり騙されてしまった若い男。
そこに、無慈悲な現実を突きつける。
今やうちはの里の名物になった、年長者たちの思いやりの篭った儀式だ。なお未だにこれを乗り越えた者はいない。
だからとっくのとうに乗り越えて、しかもフラれてもなおチャレンジし続ける自来也は真の勇者としてソンケイを集めているんだ。
ジッサイ、俺も凄いとは思……
「……いえ! それでも俺は、綱手さまの事が……!!」
「「「なにぃ!?」」」
俺と、儀式を仕掛けた側の誰かと、さっき通り過ぎていったはずの里の人の声が重なった。
というか里の人はいつの間に戻ってきたんだ。かと思えば、いつの間にか何人か集まっているだと!? どこからだよ?
いや、今はそんな事はどうでもいい!
勇者か? 第二の勇者が誕生してしまうのか?
期待して、拳を握って見守る俺たち野次馬の前で、覚醒(笑)の儀式は第二段階へと進んだ。
「本当にいいのか? 母親よりも、祖母に年齢が近いというか、下手するとそれよりも上なんだが」
「おばーちゃん!? ウソでしょ主任!」
あっ、ダメみたいだな。
母親の年代まではギリいけたみたいだが、さすがに祖母世代は無理だったかー。
自来也も、同世代かつ幼馴染? 同期? ともあれ、長い付き合いあっての事だろうからな。
「さすがにダメだったかー」
「二段構えだからなあ。まー、しょうがないさ」
「いや、第三段階に「大怪我したら実年齢に戻るらしいぞ」ってのもあるみたいだぜ」
「じゃあやっぱ無理じゃん。それじゃ、かいさーん」
どこからともなく現れた野次馬たちは、俺も含めて、それぞれどこへともなく消えていった。
「ただいま」
(野次馬の中には、最近来たのか知らない顔もあったが、馴染むの早いな……)
などと、少し考え事をしていたら、いつの間にか家に着いていた。
返事は無かったが、たまたまだろう。
靴を脱ぎ、短い通路を通って居間の横を抜けて、自室へと入る。そこには、いつもの風景が広がっている――
――はず、だった。
地獄が、あった。
「まさか、ウソだろう? ウソだと言ってくれ!」
誰に言っているのか、自分でも分からない叫びが口から出た。
だが現実は変わらない。そこに残酷にあり続ける。
ただの言葉に、現実を塗り替える力など無いのだから。
俺の机の上。そこには俺が部屋に入った時と変わらず……
机の引き出しの裏に隠していたはずの、数々の秘蔵本が丁寧に整頓されて並べられていた。
しかも本のサイズでじゃなくて、ジャンルで整頓していやがる……!
中身もシッカリ把握しやがったな……!
「クソッ! チクショウ!」
俺は手早く部屋を引っ掻き回して、色々な物をかき集めた。
着替えや、いざという時のための備えだった非常食や武器、ある程度の現金。
それらを大蛇丸印の巻き物に……
……一応、この本たちも入れるか…… このまま置いていくのも恥ずかしいしな。うん、しょうがなくだ。
巻き物に入れて、アタッシュケースに放り込んだ。
「こんな所にいられるか! 俺は独立させてもらう!」
一方的に宣言して、俺は家を飛び出した。行くぞ、里抜けだ!
とりあえず発覚を遅らせるために、影分身を家に置いてきた。
それと無断欠勤は社会人としてありえないから、退職届…… だとやりすぎだから、休職届をあとで郵送するか。
しかし突発的な事件のせいとは言え、突然すぎてノープランなんだよなあ。
何か会社を立ち上げるのは決めたが、それだけ。何の会社かすらも決まっていない。
それにひとりというのもな…… せめて、誰かあともうひとり……
そう思っていた俺の前に、なにやら寂しそうにしているヤツの姿が眼に入った。
よし、ちょうどいいな。あいつを誘ってみるか。
それからは…… う~~ん…… 里のヤツには頼れねぇから、大蛇丸社長に相談してみるか。
そうしてひとりを道連れに里を飛び出したサスケからの休職届で、自体は動き出した。
「た、大変です! サスケくんが……サスケくんが『里抜け』を!!」
それを受け取った忍びは、即座に上層部へと連絡員を走らせた。ちょうど会議中で、全員集まっていたので都合が良かったのだろう。
報告を受け取った側は、ただひたすらに困惑したが。
それはそうだ。だって理由が思い当たらない。昨日も普通に仕事してたはずだし。
「どういう事だ? イタチ、お前に心当たりは…… ありそうだな」
自分に思い当たるところが無かった、父親のフガクが長男に聞いたら、ちょっと心当たりがあったらしい。
イタチはアゴに片手をやって「もしかしてアレか……?」みたいな表情をしている。
家族ではないが、俺も同じような表情をしていた。
(サスケの里抜けって、まさか原作補正か……?)
原作では、イタチに復讐するために力を求めて、大蛇丸の誘いに乗って木ノ葉を抜けていた。
だがこの世界では、すでに一族ごと木ノ葉を抜けているし、一族も無事で復讐する必要も無い。
特に敗北した事も無かったはずだから、仕返しとかそういうのも無いだろう。
あとは力を求めて、という部分だが…… 今のサスケだと力って、営業力とか経営力になるんじゃなかろうか?
戦闘力の可能性も無くはないけど、その場合は戦闘力=スサノオ、つまり万華鏡写輪眼の入手になると思う。
開眼プロトコルの内容が内容なので、普通の写輪眼を開眼できなかった時を除いて18歳未満は禁止になっているので、サスケはまだ万華鏡写輪眼になってはいない。
だが年齢の問題だけなので、そのまま里で待っていればいいだけだ。つまり戦闘力目的の場合は、里抜けする意味が無い。
だとすると、本当にナンデ?
「俺が、最近仕事にかまけすぎて、あんまりかまってやれなかったせいだ……!」
などとホザいているイタチの意見を、みんなで放置して続報を待つ。
自主的に出て行った事と、他の勢力がどこも関わってはいなさそうな事の確認が取れて、少し落ち着いたのだ。
そして出てきた事実が、アレである。なお犯人は、部屋を掃除してあげた母親。
しょ、しょ~もねぇぇ~!
でも気持ちはちょっと分かる。
会議室に居るのが男だけだったのもあるだろう。視線でのネットワークで、写輪眼を持たない自来也すらも含めて、この気持ちは共有された。
ついでに「どうするよ?」「ほとぼりが冷めるまで、そっとしといてやるか?」という意見も共有された。
だが、同行者の存在が明るみになって、そうもいかなくなってしまった。
「は? ハクも一緒に里抜けした?」
なにやってんのうちの義息子。
里の一部に爆速でウワサが駆け巡って「男の子同士の逃避行」説が出回っちゃってるんだけど。
「駆け落ちって、まさかないだろ。ないよな?」
「ふむ。幼き少年たちの青い逃避行……『イチャイチャシリーズ』に次ぐ大ヒットのネタの予感が」
そこ、自来也うるせぇ。何書いてんだ、メモ帳をしまえ。
不安になった所に、いらん事を始めたゲストを軽く牽制して、惨事を防いだ。
生モノはダメですよ、生モノは。実在する人物を使ったら、後々まで影響を引きずりますよ。というかうちの子を巻き込むな。
「皆さんは、引き続き岩隠れと木ノ葉の件の対策を練っていてください。こちらは心当たりを探してみます!」
一方的な宣言だったが、イタチとフガクからは「頼んだぞ!」という言葉を引き出せたので言質は取れた。
即座にチャクラを込めて万華鏡写輪眼を発動。右目に更にチャクラを回して、神威空間への扉を開く。
そして『ここではないどこか』にある異空間へと飛び込み、そこからまた別の場所への扉を開く。
『どこからでも入れる異空間』なので『どこにも扉を開ける』のだ。
直接は飛べないが、神威空間を経由してなら、どこにだってすぐ移動できる。
引越しなどでも大活躍。俺以外の神威使いも、いつだって大忙しだ。
クロヘビ運輸から、一部の業務を委託されたりもしているぞ。あの危険人物の大蛇丸とは、ちゃんと共存共栄しないとね。
その危険人物の本拠地へと、俺はいつものように足を踏み入れた。
俺の通勤用に、神威空間からの専用出口が作られていて、そこには入らない、物を置かない。というルールが周知されていたりする。
給料ももらっているし、もうここに半分以上出向しているようなものなのかもしれない。
「おはようございます特別顧問。今日は遅かったですね」
ものすごく自然に受け入れられているし、半分どころか八割出向しちゃってるかもなあ。
ちょうど通りがかったらしい、ウタカタという六尾の人柱力に普通にアイサツされて、あらためてそう思った。
だが、そんな事は内心だけで処理して、必要な事を聞かねば。
「ああ、向こうで会議があってね。それでもしかしてだけど、サスケとハク、こっちに来てない?」
「向こうの棟の応接室で、ジュース飲んでますよ」
普通に来てた。音の四人衆がサスケを迎えに来なかった、というか二人はうちはに入社してるのに、原作補正すごいな。
「ああ、それと大蛇丸さまから特別顧問が来られたら、顔を出せと」
「ん。ありがとう。すぐ行くよ」
別に俺を待っていたわけではなくて、通りすがりだったウタカタは、本来の用事があるのだろう。実は特に親しいというわけでもないので、普通に立ち去っていった。
しかしウタカタもそうだが、人柱力と尾獣って、どこでも持て余したり迫害されてるよね。
それで里抜けされたり、暴れられたりして。なのに強力な戦力扱いはするという。
迫害されて、それでもまっすぐ前を向く主人公を描きたかったという大人の事情のせいだろうけど、もうちょっと考えようぜ、この世界の住人たち。
ダンゾウに騙されないだけの賢さがあるんだからさ。
……いやあれは、この世界にダンゾウへの逆風というか、滅びるべしという逆補正が働いているからかもしれない、のか?
あれも原作補正と、言えるのかねえ?
うっかり大蛇丸がどこにいるのかを聞き忘れたが、なんかあのネットリした独特のチャクラが荒ぶっているので、問題なく本人の所へたどり着けた。
地下実験室。パスコードを打ち込み、ロックを外して入室しいた俺は、そこで信じがたい光景を目撃し、絶句した。
「クックック…… 捕まえたわよぉ。長年、歴史の陰でコソコソと蠢いていた悪しき意思……
黒ゼツちゃぁぁん」
ラスボス(の手先)捕まっとるーー!?
実験室の中央。そこには厳重な封印結界と、無数のチャクラ吸引チューブで拘束されている、黒い泥のような謎の生命体がいた。
それは何かの間違いだと思いたいが、間違いなく、原作におけるおおよその惨劇の元凶、大筒木カグヤの意志『黒ゼツ』だった。
ウッソだろ、お前。いや、なにしてんのお前。それはアカンやろお前。
何がダメなのかはわからないが、とにかく目の前の、この、なんというかこう、異常事態を否定したかった。
それは黒ゼツも同じだったらしい。
「オレ ヲ 開放 シロ! 所詮、忍の物語は、母が復活する為の物語だろう!? いっそお前達も協力すべきだ!」
少しばかり錯乱しているらしく、無理のある主張だった。
ましてや、ここにいる君麻呂という大蛇丸信者には、カケラも通じるはずも無かった。
「だまれ。この里では、大蛇丸さまのお言葉が全てに優先する」
バシッ! と、白衣を着た君麻呂が、容赦なく黒ゼツの頭を金属バットで叩いた。さすがパーフェクト君麻呂、手加減というものを知らない。
囚われた実験体。それを殴る悪の組織の幹部。そして高笑いする悪の首領。
なんというか、実にそれらしい光景だった。そこに踏み込んだ俺は、残念ながら正義の味方ではなくて、その悪の組織の協力者なんだが。
ところで野球も、そのダイの大冒険のセリフも、俺は教えた覚えが無いんだけど、どこから持ってきたの。え? ダイは知らないけど、野球はある? そうなんだ。
「スー! ハー! スー! ハー!」
若干現実逃避というか、精神的によそ見をして、少し立ち直った。チャドー呼吸、もとい深呼吸もして、精神をリセット。気合を入れなおして、大蛇丸に向き合った。
「大蛇丸さま。何をなされてるんですか?」
普通に部屋に入ってきたというのに、私に気付いていなかったらしい。よほどハイになっていたんだろうか。
あら、来てたの。という反応を見せた大蛇丸は、かなり赤の入った紫のアイライン(たぶん新色)を細めて、フッと怪しげに微笑んで答えてくれた。
「あら、特別顧問。良いところに来たわね。見て頂戴、この素晴らしいサンプルを! これ、人間の精神体でもなければ、普通のチャクラ生命体でもないのよ」
普通のチャクラ生命体とはいったい。
輪廻眼だか、その先の六道だかに目覚めたら、チャクラだけで意思を保って存在できるっぽいのと、ナルトの封印の中に、チャクラだけでナルトの両親の意思が残ってたけど、そういうのじゃないよなあ。
尾獣の事かな? それとも俺の知らない何かを、見つけていたりするんだろうか。
考察をしている俺を気に止めずに、大蛇丸は一方的に説明を続けた。
「あなたから、黒ゼツが大筒木カグヤの『意志』そのものと聞いて、私は思ったわ。行動力を持った意思そのもの! 物質化した特殊な情報生命体!
つまりそれは、言わば『生きているバックアップデータ』なのよ!」
まあ、影分身の超上位版みたいなもんといえば、そうなのかなあ?
でもそう考えると、大蛇丸がここまで興奮してる意味が分からないけど。
「はあ…… で、捕まえたコレを、どうする気ですか?」
「どうするも、こうするもないわ」
大蛇丸は妖しく舌をペロリと出すと、信じがたい宣言をした。
「コレは私の次のニューボディよ! 乗り換え先として乗っ取るべく、改造中なのよ!」
「……は???」
私の頭の中で、何か巨大なネジが音を立てて吹き飛んだ。
ハッケショーダイカイテン! と叫んで、ぐるぐる回りながら、空高くどこまでも打ちあがっていく。
「乗っ取る……? 黒ゼツを、ですか? 大蛇丸さまが??」
なんかいつもと立場が逆だな。
無茶苦茶言って、呆然とさせた相手に、ここぞとばかりに交渉を叩き込むのが俺の戦術の常套手段なんだが、今日は初手から大蛇丸に圧倒されっぱなしだ。
だが絶好調の大蛇丸は、そんな事などどうでも良いと、まだまだ突っ走る。
「そうよ! この黒ゼツの構造を解き明かし、私の魂と融合させれば、私は物理的な肉体の寿命から完全に解放される! 病気にもならない、老いることもない。
未来永劫、存在し続ける最高のイノベーション、いえこれはもうレヴォリューションよ!」
「いやいや! リスクリスク! ほら、意思のある他人の体を乗っ取ったら、以前話した通り『大蛇丸さまの人格が侵食されて、あなたじゃなくなる』リスクがあるでしょうが!」
大蛇丸と黒ゼツが悪魔合体して、新たなラスボス爆誕! とか冗談じゃねえ。
そう危惧した俺が慌てて突っ込むと、大蛇丸は「フフフ」と余裕の笑みを浮かべ、傍らのカブトを指差した。
「安心しなさい。カブトと一緒に、私の人格のバックアップシステムを構築したわ」
いきなり何言ってんだコイツ。
「私の人格と記憶を、とある場所の、尾獣素材に施した呪印システムに保管。各クローン体に常時リアルタイムで同期させているの。
もし黒ゼツの意志に侵食されそうになったら、自動的にバックアップから大蛇丸の人格が上書き、復元される仕組みよ!」
デジタルすぎる!! 忍術の領域を超えてITインフラの域だこれ。
バックアップをクラウドに保管しておいて、そこからのリカバリかよ!
「さらにね……」
大蛇丸は目だけは幼さすら感じさせるピュアさでキラキラと輝かせ、口ではドス黒い狂気に満ちた夢を語り始めた。
「この黒ゼツを乗っ取って、その能力を完全に自分のものにしたらね。次は、月に眠る『大筒木カグヤ』を復活させずに、そのまま乗っ取るの!
大筒木の力とチャクラを手に入れれば、私は真の『全忍術の解明者』になれるわ!!」
「カグヤを……乗っ取る!!??」
その発想は無かった。
しかし勝算は、あるか? ……あるな。
大筒木を乗っ取るとかは、普通は無理そうだけど、大蛇丸ならワンチャン以上ありそうだし、ましてや相手が千年封印状態だったりしたら、更に確率アップ。
カグヤは十尾というか、神樹と融合したスーパー人柱力だけど、今は尾獣全部抜かれた抜け殻状態なのでやっぱり確率アップ。
オマケにマスターキーである黒ゼツを乗っ取った上でなら……
いやはや、凄まじすぎる。
原作では、黒ゼツがマダラを裏切ってカグヤを復活させようとしていた。
しかしこの世界では、大蛇丸が黒ゼツを乗っ取ろうとしていて、しかも黒ゼツ経由でカグヤをも乗っ取ろうとしている。
黒幕が黒幕を乗っ取って、更にその黒幕を乗っ取る、最悪の連鎖がここに完成しようとしていた。
「大蛇丸さま……」
手を貸すべきか、それとも一度落ち着かせるべきか。私が思案していると、カブトが小声で話しかけてきた。
「止めても無駄ですよ。大蛇丸さまは、先日あなたから詳細を聞いた『アポロ計画』に刺激されすぎて、完全にハイになられているんです」
そう言われて俺の脳内によみがえる、実在した記憶。
「月へ行くって、どういう事? あそこに何があるっていうのよ」
「それが色々あるんですよ。大筒木ハゴロモ、世に六道仙人と呼ばれる人の弟さんの子孫たちとか、その一族は白眼持ちなんですが、代々死後にその白眼を抜き取り、集めてきた巨大な眼とか
全ての尾獣の元の十尾を取り込んだ、封印されてる大筒木カグヤとか」
教えてたわ。キーになる情報とか、めっちゃ教えてたわ。
ついでに宇宙開発のロマンとかも、語っちゃった記憶があるわ。でもあれは宇宙兄弟が悪い。
あ~…… どうするかなあ。
どうしたらいいかなあ? どうするべきなんだろうなあ?
考えるべき事が、多すぎた。
岩隠れの無茶振り。木ノ葉との外交。
サスケとハクのしょーもない家出。
そして大蛇丸の『カグヤ乗っ取り計画』。
大蛇丸の問題だけ、やっぱり大きさが違いすぎますねぇ!? 一気にぶっちぎって来るの、やめてもらえますか?
他の2つが、なんか些細な問題に思えて……
あっ、そうか。家出以外は、まとめて片付くわ、これ。
家出は、普通にこの後に説得すればいいし。
そうと決まれば。
「大蛇丸さま。うちは一族としても、その計画に賛同いたします。その方向で動かして見せます」
「えっ」「うん」「オイ!」
マジかコイツ。という目で見てくるカブトと、当然ですね。という顔の君麻呂。
どちらも大蛇丸の忠実な側近なのは変わらないのに、だいぶ芸風違うよね、君たち。
あと黒ゼツが相変わらず抗議の声を上げているが、もはや誰も聞いてすらいない。
「ただし黒ゼツに乗っ移った後のカグヤの乗っ取りは、我が社の統制下で行う事と、黒ゼツが持っている『古代の歴史データ』および『陰陽遁の施術ノウハウ』などをすべて文書化し、我が社にも提供していただく事が条件です」
「なるほど。共同事業にするって事。いいわよ、その方向で調整しましょうか」
大蛇丸が独自に捕らえた黒ゼツの持っている、貴重な情報をこっちにもくれ。月開発にいっちょ噛ませろ。
そうとも取れる、かなり図々しい条件だったが、大蛇丸はアッサリと飲んでくれた。
今の上機嫌な様子なら、たいがいの条件は飲んでくれるだろうという賭けだったが、どうやら勝てたようだ。
「すみませんが、書類にまとめてこちらに下さい。さすがに一度持ち帰るので。では俺はちょっと家出息子たちに説教してきます」
また一つ、大きな案件を抱えてしまったな。
だがうまくやれば、NARUTOの時代を一気に乗り切ることも可能な、やりがいのある案件だ。
BORUTOの時代は、どうするかなあ…… というか、殻とかあるのかな?
地下から入り組んだ道を通って、が面倒だったんで、神威で床と壁をスルーして地上へ。
そこからサスケたちがいる応接室へと向かった。
そこにはソファーでくつろいで、メロンソーダとジンジャーエールをストローで飲む二人の姿が!
「サスケ、ハク、なにをしてるんだ」
「あ、先生、じゃなくて特別顧問」
サスケが気まずそうにグラスを置いた。
家出した彼を迎えに来るのは、これで2度目だったりする。
一度目は、カマわれすぎたストレスからの家出という、猫みたいな理由だった。
その時はまだうちはの里のアカデミーが始まっていなかったので、俺の個人的な生徒として、少しばかり家にいないですむ時間を作る事で、帰宅する同意を得たんだったな。
先生と呼ばれるのは、その時の名残だったりする。
そんな可愛い元生徒は、うなだれて何やら語りだした。
「俺は、もうダメだ。男の秘密を見られた以上、うちはの里には居場所がない…… だから大蛇丸のところで、悪の抜け忍として暗黒メガコーポを立ち上げて、生きていくことにしたんだ……」
「悪の抜け忍がジンジャーエール飲んでくつろぐな! あとあの経験をしたのは、お前だけじゃないから。だから大丈夫だから、帰るぞ。お前の母親も、もうしないって言ってたから」
俺がサスケを一刀両断してからフォローすると、今度は隣のハクが悲しそうにうつむいて語りだした。
「……僕もです。最近、義父さんと母さんに赤ちゃんが生まれて…… ふたりとも赤ちゃんにつきっきりで、僕の居場所がなくなったみたいで……」
やっぱりそれかぁああ……
はい。生まれてました、俺の子。ハクの母と俺の間の、ハクの弟が。
略奪婚というか、再婚で、母方の連れ子のハクが、それで疎外感持っちゃったという、よくあるパターンですよ。
気を使ってはいたつもりなんだけど、ほら、どうしても赤ちゃんの方に手を取られるじゃん?
あとハクが男の娘すぎて、スキンシップには気を使うじゃん?
だがこうなった以上は仕方が無い。あまり使いたくない手でも使うぞ。
「俺も母さんも、ハクを忘れてもいらないとも思っていないし、里のみんなもそうだ。再不斬さんなんか、ハクが居なくなったら、すごい寂しそうにしてたんだぞ」
「再不斬さんが……? わかりました、すぐ帰ります」
これだよ。義理とはいえ、父親役として再不斬に負けているんだよなあ。くそう、あっちの方が自由になる時間が多いし、出張とか無いからなあ!
「さて、じゃあ二人とも一緒に帰りますよ。ついて来なさい」
神威空間への扉を開いて、飛び込んだ。
さてうちはの里に帰ったら、まずはどれから取り掛かりますかね? と考えて、ふと気がついた。
いや、待てよ。この間、霧隠れの問題が片付いたんだし、抜け忍状態の再不斬の立場も改善時だよな。
よし、あいつも今度霧隠れまで出張に行かせてやろう。ついでに水影との見合いでも組んでやれ。いっそ向こうで落ち着いてしまえ。
ハクがヤツの所へ嫁に行くんじゃ? という恐れも無くなって、一石二鳥! 実に良い気付きだった。
このアイディアを得られたんなら、二人の家出も無駄ではなかったな。ヨシッ!
今日も、いい出張だった!