始まりは、うちは一族が起こすはずだったクーデターが、綺麗サッパリ消えた事だろう。
情が深いといえば聞こえがいいが、一族丸ごとが恨みつらみが深く、決して忘れないヘビのような人間の集まりという一面も、間違いではない。
そんな陰気な一族が、あそこまで理不尽に追い詰められたのだ。激高していた。そのはずだ。それは間違いない。
だがそこで激発寸前に、なぜか立ち止まった。
そしてなぜか、木ノ葉隠れ里から、一族で離脱していった。
「どういうことだゼツ。説明しろ」
うちはマダラのフリをしている、うちはオビト。
例のあの男のせいで変わっていくうちは一族のせいで、彼はこの先何度もこの言葉を口にする事になる。
「どういうことだ、ゼツ。説明しろ。俺の知っている「うちは」はどこへ行った?
一族の宿命に囚われ、絶望に身を投げ、憎しみの黒いチャクラを滾らせてクーデターを起こすはずだったうちは一族は…… どこへ消えたんだ?」
「ボク知らな~い」
聞かれても白ゼツも困る、いや困るような精神構造はしていないが、答えられないので話を逸らすか打ち切るしか無かった。人間の精神などは、白ゼツの理解の外だ。
だからその後も「千手綱手をどうやって引き入れた!? というかナンデ?」とか「なぜ大蛇丸と組んだ!?」とか「むしろなんで自来也だけハブってんだ」とか、事あるごとに聞かれたが、答えられないのだ。
そんなのん気なやり取りも、直接うちは一族とカチ合ってしまうまでの、平和な時代だけの話だった。
主人公とは違う、別の、いや本来の神威の異空間。
そこにはボロボロになった仮面を押さえて、荒い息を吐きながらブツブツと呟く男がいた。
「……おかしい…… おかしい。絶対におかしい!! 絶対に何かが狂っている……!
苦労して集めた暁の精鋭たちが…… 長門のペイン六道が…… 角都や飛段までもが……
鬼鮫に至っては、なぜかスカウトされて付いて行った……!!」
ストレスと悔しさから、床を何度も殴りつけながら、あえて口に出してストレスを吐き出していた。
メンタルケアを兼ねる、問題の解決策がひょっとしたら思いつくかもしれないという、儚い試みだ。
「スサノオはまだいい! 普通のスサノオはな! だが、なぜ、群れで襲ってくる!? なぜ一部はビジネススーツを着た巨人になっている!? 知らないぞ、そんなの!」
まあ、知らないだろう。というか、初めてスーツスサノオが出現した時は、出した当の本人も困惑していたらしいぞ。
「何でそんなわけのわからないものに、一方的に蹂躙されなきゃいけないんだ……!?」
それはそう。
なおスーツになったスサノオのスペックは、素のスサノオとあまり変わらない。
ただ名刺手裏剣という、名刺の形の飛び道具が使えるのと「スッゾコラー」という謎の雄叫びが使えるようになるだけだ。
またスサノオ、須佐能乎の術の発動条件は「一度でも両目が万華鏡写輪眼、もしくは輪廻眼になった事のある、うちはか大筒木の血を引く者」なので、片目をカカシにあげてしまったオビトには使えなかったりする。
まあ、向こうが20体以上いたので、オビトが1体だけ使えていたとしても、焼け石に水だが。
あとビジネススーツなのは……
魂にまで社畜、もといビジネスマンの精神が入り込んじゃった人がいたのかなって。たぶん24時間戦えるタイプの。
そしてまだオビトのセルフ・メンタルケアの嘆きは続く。
「万華鏡写輪眼は、一族の長い歴史の中でも一握りの天才しか開眼し得ない、呪われた至高の眼のはずだ!
失意と絶望、愛の喪失によってのみ開眼する漆黒の力……!」
他には絶対に漏れない、プライベートな異空間なのをいい事に、だいぶ発言内容が香ばしくなっていた。
まあ13歳であのカカシやリンとの別れを経験して、万華鏡写輪眼に目覚めて、以降はうちはマダラに成り代わっての人生だからね。
闇社会的なアレコレには慣れただろうけど、まともに精神的な成長をしたかというと、かなり怪しいからね。
というか成長してしまうと「あれれ~? 無限月読計画っておかしいぞ~?」と気付いてしまうかもしれないので、ゼツたちによって精神的成長や、社会的知識の蓄積は封じられていたかもしれない。
だからまあ、中学二年生あたりによくあるアレに未だに罹患していたとしても、大目に見てやってください。
あっ、まだ青春の叫びが続いてる。
「それがなぜ…… なぜあんな非常識な数、覚醒しているんだ……!?」
さすがに覚醒方法は、オビトにもゼツにすら、探り出せなかったらしい。色んな意味で極秘な上に、あの例の男は転生者知識でゼツの存在を知っているので、警戒しているのだ。
極秘な理由は、大蛇丸にバレたら大蛇丸の中でのうちは一族の価値が落ちて、襲撃の危険度が上がるので、万華鏡写輪眼を開眼可能なのはうちは一族で独占していなければマズい。というのと。
方法が外道。もとい人聞きが悪すぎるので、外に知られるのが恥ずかしいのと。
開眼プロトコルの内容が個人情報そのものすぎるし、内容もセンシティブすぎるので、万が一にも本人の耳に入ったら反応が怖すぎる。というのがある。
じゃあやめろよって? いや、だってジッサイ効果的なんだもん。
もしオビトが、今回蹂躙された万華鏡写輪眼の部隊の20%は「オビトの経験を幻術で擬似的に味わったおかげで開眼した」と知ったら、うちはの里への自爆攻撃も辞さないかもしれない。
現在では月読に目覚めた万華鏡写輪眼持ちが、被験者に寄せた形でオビトたちの体験したであろうストーリーを体感させるという形になっている。
せめてもの慈悲なのか、どのプロトコルを選ぶのかは、被験者本人の希望による。
まあ、それで目覚めなかったら、忘れさせられて他のプロトコルでチャレンジとなる地獄巡りなのは変わっていないんだが。
実はオビト・プロトコルは最初に選ばれる事が多い。
詳しい内容は万華鏡開眼プロトコル未経験者には伏せられているため、知名度の低さから「これならまだ楽かも……?」と、甘く見られてしまうからだ。
つまりオビトのかつて体験したあの事件を、疑似体験した人間は万華鏡写輪眼を開眼した20%よりもずっと多い事になる。
やっぱり知ったら、自爆テロ待った無しだろう。いや、いっそ殺せと思うかもしれない。
そんなオビト・プロトコルは自分の手で殺さず、仲間のカカシの手で想い人ののはらリンが殺されるのを目撃するという分、確かにカカシ・プロトコルより少し甘くはある、のかもしれない。
それでも充分お辛いので、覚醒率が20%あるのだが。
なお直接リンをその手にかける、カカシバージョンの覚醒率は28%である。もしオビトが知ったら、自分より覚醒率が高いのをどう思うのだろうか。
そうだな、あいつの方が辛かったよなと納得するか、リンバージョンも作れよ! と謎のキレ方をするか。
原作展開で絶望したからと、九尾襲撃を故郷に仕掛けて全く後悔しなかったり。
その時に三代目の長年連れ添った妻など直接その手にかけていたり、ナルトの両親で自分の師匠だった四代目火影とその妻を死に追いやっていたり。
自分の出身のうちは一族を、なんでか虐殺に加担したっぽかったり。
正直、うちはオビトの精神状態は理解しがたいのだ。
原作のサスケも、イタチの真意「木ノ葉の里を愛していた。その里のため、進んでオレは犠牲になった。サスケ、お前は里の英雄として里へ帰れ」というのを知った反応が「オッケー、木ノ葉をぶっ潰すわ」だったし、うちはの精神は一味違うのだろう。
特にオビトはここまでやらかした上、月の眼計画で忍界大戦まで引き起こしておいて、最終的には味方ヅラして、カカシを庇って満足して死んでいくからなあ……
なおオビトとカカシのプロトコルで目覚めなかった場合の取っておき、薬師カブトバージョンは更に高い40%の開眼率を誇っている。
装甲悪鬼ムラマサは、フィクションだと銘打ってあるせいか、希望者自体が少なく最後に回されるせいで10%に留まる。
だが最後の最後、どうやっても開眼しなかった者がこれで開眼するという事は、もしかしたらこれが一番ヤバいのかもしれない。
まあ、ここまでやっても開眼しないものは開眼しないのだが。それはもう生まれつきの素質か才能が無いとしか言えない。
ところでオビトで20%、カカシで28%がクリアするので、残りは52%。
するとそこからカブトでクリアする40%は、その52%の中の約77%となる。
「最初からカブト・プロトコルを見せていたら、だいたい90%が開眼して、カカシ、オビトのプロトコルの出番は無くなるのでは?」
そんな意見も出た。しかし「一番効くからと、一番キツいのを最初から出すのは人の心が無い」という、とある元過激派の長老の意見で一蹴され、現状のセレクト制の続行となった。
なお開眼しなかった者たちは、悲劇を見た記憶を丁寧に削除し直して、普通の写輪眼使いとして頑張ってもらう事になる。
副産物であるあれこれの情報は、あらためてレクチャーされるが、体感を伴う記憶として持っておくと、開眼しなかった者には毒でしかないからだ。
記憶を消すのは、大蛇丸から派遣されてきたクローンたちにも適用される。開眼プロトコル他の情報流出を防ぐために、仕方が無いのだ。
傷付きやすい精神にするために、知能はかなり低めに、性質はピュアにと作られている彼ら「万華鏡用クローン」に開眼プロトコルを受けさせ、精神を崩壊しないよう慎重に見守り、覚醒した所で即座に止めて、記憶処置を施す。
一族のために必要な事だと理解してはいるが、心に来る作業だ。
残りの開眼した2%の人間は、元々覚醒していた族長のうちはフガクひとりだけ。
1%でないのは、開眼した者がさすがに100人いないから。
彼バージョンの開眼プロトコルを作ろうという計画もあったが、本人の希望と権限で却下されている。
ですよね。
「ああ…… やめろ……! やめろぉぉお!!」
どうやら回想している間に、オビトのテンションが悪い意味で上がってしまい、状況のフラッシュバックが起きたらしい。
倒れたまま頭を抱えて、あちこちを転がるオビト。
その姿は、さきほど闇とか呪われたとか漆黒とか言っていたせいで、病状が悪化したのか、それとも醒めて襲ってきた恥ずかしさに悶絶しているようにしか見えなかったが、本人は真剣だった。
オビトの脳内は今、再びあの戦場での悪夢が繰り広げられていた。
『うちは建設・警備事業部~! 出 動 !!』
聞きづらいほど割れても、大きな声を出せ。そういう指示でもあるのか、妙に聞き取りづらい号令と共に立ち昇る、色とりどりの巨大なチャクラの鎧。
赤、青、緑、金…… 戦場を埋め尽くす、二十数体ものスサノオの群れ。
『え~、ただいまから~ そちらを我が社に対するぅ~ 営業妨害、および業務妨害と判断しぃ~ 排除いたしまーす』
感情の篭っていない、棒読みかつ冷徹な宣告と共に繰り出された、巨大な十束剣や八坂ノ勾玉の集中砲火。スサノオに依らない、自前の火遁も混じって飛んでくる。
この時点で、対軍勢や大物に対応できないメンバーが削れた。
サソリの口寄せした傀儡の軍勢と、デイダラの爆破でほんの一時だけは食い止められたが、即座にそれも飲み込まれていく。
柔よく剛を制すとは言うが、限度がある。何十メートルの剣の一振りを、どういなせというのだ。
しかもそれは技ですらなく、ただの通常攻撃だ。おまけに二十体以上から、それが次々と飛んでくる。
ペインの「神羅天征」すら、複数体のスサノオが組んだスクラム(防衛陣形)によって完全に相殺された。
肩を組んだ複数のスサノオたちの、その後ろにまたスサナオたちがいて、それを支える。さすがの輪廻眼も、そんなバケモノの群れを一蹴するだけの出力はありえなかった。
遠隔でペインたちを操作していた長門だけは何とか逃がしたが、他のメンバーはだいたい狩られてしまった。不死コンビだけは少し粘っていたが、それも結局は……
角都の複数の心臓は一瞬でまとめて焼き尽くされ、飛段に至ってはスサノオの巨大な足で踏みつぶされたまま、コンクリートで固められて『基礎工事完了』などと宣わられていた……
「うごぉぉぉぉ…… お前たちの死は、無駄には…… 無駄にはぁ……」
極まったストレスのせいか、オビトは激しい頭痛に襲われて、耐えかねて蹲った。
痛みを誤魔化そうと仮面ごと頭部を握り締めたが、元々ボロボロになっていた仮面はもう壊れそうだ。
「今のうちはは、万華鏡の失明リスクすら、大蛇丸と組んだ『クローン細胞移植システム』で完全にクリアしていやがる。
コスト管理とリスクヘッジを極めた『永遠の万華鏡写輪眼』の集団戦術……!」
どうやらそのあたりは探り出せたらしい。細胞や、写輪眼そのものを盗み出す事も出来るかもしれない。
しかしオビトはそれをするつもりは無かった。自分以外は誰も信じられない。ましてや木ノ葉の隠れ里の人間や、うちは一族など。
そんなもの由来の人間を、オビトは使うつもりは無かった。
原作でオビトがイタチを暁に入れたのは「全てを失ったうちは」というシンパシーと、そう仕向けたのは自分だという負い目ゆえだ。そのどちらもないうちはなど、受け入れられない。
ましてや、今の一族の中に見えるものは……
「そこにあるのは「憎しみ」などではない。ただの「業務を遂行する意思」と「徹底されたコンプライアンス」だ……! なんだそれは!? そんなもので戦場へ出てくるな! 一族の恨みとかないのか!?
だったら、あそこまで蹂躙するなよ!!」
『いや、だって仕事だし』
うちは一族に直接言えば、そんな答えが帰って来ただろう。
それが理解できているからこそ、オビトは絶望していた。怒りも憎しみも、悲しみや痛みですらなく、ただ仕事を片付けるために、戦う。
(……俺の『無限月読』はどうなる? 世界を悲しみから救うための俺の計画は……)
そう、すでに悲しみなどそこには無いのだ。だってほぼ無敵で、被害など無く勝ててしまうから。
それでいて自分たちの欲望で動かない。むしろ平和にしてもっとビジネスしようぜ! お互いwin-winでな! と平和を推進している。
もはや口に出す元気すらもなくして、オビトはぐったりと横になって、考えた。
(力で負けた。経済はむしろ向こうの土俵になっている。外交、まだ霧隠れと雨隠れはこちらの物だが、力で勝てない以上はあまり意味が無い…… 俺は、俺は勝てないというのか……!?)
ふと外の世界を覗いてみれば、遠くでスーツにヘルメットの現場スタイルのイタチが、同じスーツを着たスサノオで瓦礫を片付けながら『本日の現場復旧作業、完了しました』と報告しながら、なにやら手帳にメモしている姿が見えた。
(……だめだ。あいつらとは戦ってはいけない。勝ち筋が見えるまでは、手を出せない)
「というかスーツのスサノオってお前かよ、イタチ」
疲労と心労で不貞寝を決め込む前に、オビトはそれだけ口にした。
そして何とか精神的に立ち直り、組織の建て直しに奔走するようになったオビトに、ある日緊急の報告が入った。
「おいオビト、大変。大変だよ」
地面からヌッと顔を出した白ゼツが、無邪気に残酷な口撃を放つ。
「さっき『うちは人材派遣』の営業が雨隠れの小南に接触して『雨の国の慢性的な湿気と貧困を解決する都市開発プラン』の契約を取っていったよ」
「待て」
予想外かつ、情報量が多い。なんて?
オビトは軽くだが混乱した。しかし白ゼツはそのあたりの機微に疎い。とにかく言っちゃおう、と最後まで報告を続けた。
「長門も『彼らは本気で世界を救おうとしている……』って感動して、名刺を大事そうにポケットに入れてたし、小南も『これで雨の孤児たちが救われる』ってなんか泣いてたよ。裏切っちゃうのかな?」
「やめろゼツ…… その報告は俺に効く……」
えっと、なんだ。要は、あのオカしくなったうちは一族が、今度は雨隠れにまで手を出してきて、それがメチャクチャ上手くいきそうなんだな?
急激に消えていく精神力。それ完全に消える前に、どうにか大雑把に情報を把握する事は出来た。
しかしそれはオビトの精神を、再び砕くに充分なもので。
オビトは無言で神威を発動させて中に引きこもると、静かに神威空間の床に突っ伏し、起き上がらなくなった。
かつての激しい絶望とはまた異なる、静かな絶望がそこにはあった。
激しい絶望は、オビトに世界を敵に回す燃え盛るような激情を与えてくれた。しかし静かな絶望は、立ち上がる気力さえも奪っていって、呼吸すらも面倒なほどやる気を無くさせた。
もしゼツの肉を植えつけられて、飲食が不要な肉体に改造されていなかったら、オビトはこのまま飢死していたかもしれない。
「疲れた…… やすむ……」
そういい残して、オビトは考えるのをやめた。
そんなオビトを見て「ちょっと百年くらい様子見しようかな」と、数千年暗躍を続けてきたゼツたちは、まだのん気に構えていた。
「みぃ~つけた」
そんな彼らを神威空間に空けられた隙間から覗き込む、誰かの姿に気付きもせずに。