「いやあ、オビトは強敵でしたね」
こう言えば、もうこれだけでご理解いただける人には、ご理解いただけたと思う。
ええ。倒しました、うちはオビト。なんか何の盛り上がりも無くアッサリ風味で申し訳ない。
こうなったのは、原作で無数にあるツッコミポイントのひとつを、極めて無慈悲に活用した結果ですね。
ツッコミポイントとは、はたけカカシが定期的に行うお墓参りのアレ。
あの慰霊碑の前で、機密情報やら個人的な悩みやらをフルオープンでオビトに日々の報告として語りかけている、遅刻の原因。
それを実は生きていたオビト本人が、影からこっそり聞いて見守っているという、あの有名すぎるアレの事だ。
一説によると、ナルトの母であるうずまきクシナがナルトを出産するタイミング。そこで九尾の封印が著しく弱まるという超極秘情報も、カカシのこの無防備な独り言から得たのだとか。
つまり、木ノ葉隠れの里への九尾襲来という大惨事のキッカケを作ったのは……
まあ、そういうことだろう。
他にも国家防衛の根幹に関わる機密情報をカカシがボロボロと喋ってくれるものだから、オビトは定期的に慰霊碑の周辺に隠れて張り付いているわけだ。
しかし恐らくはだが、それだけではないだろう。
かつて野原リンが死んで以来、世界に光が見えなくなったオビトにとって、それでも唯一現実に残っているカカシとの歪んだ友情。それを確認しに来ているというセンチメンタルな側面もあったのではないだろうか。
まあ、その感傷的な隙を狙って、ワナで仕留めたんだけど。
結果はアッサリとした物だが、そこに至る始まりはちょっと間抜けですらあった。
説明しよう。
待ち伏せするなら、神威空間だな。そう考えた俺は一人で木ノ葉の里へと潜入して、戦死者たちの慰霊碑の近くで神威空間を開いた。
一人だったのは、作戦の根拠が原作知識なので、説明するのが困難だと思ったからだ。
だからまずはオビト、というか「カカシの独演を盗み見る不審者」を発見したという実績を作って、その人物の捕獲ないしは殺害をと、里の上層部へと持っていく。まずは、そういうつもりだった。
そして目論見どおりにオビトを発見したのだが、その時あいつは自分の神威空間でのん気に寝こけていたのだ。
「みぃ~つけた」
それを見つけられたのは、神威という同じ術の、それも同じ右目の万華鏡写輪眼だったせいだろうか?
空間同士が共鳴したのか、神威空間同士がくっついたのだ。
それもたまたま端っこだけ接触して、いい感じに覗き穴みたいな歪みが出来るという形で。
「……………」
俺はおもむろに一枚の札を取り出して水筒の水を掛けると、その歪みに手を突っ込んで、オビトの神威空間の中へと貼り付けた。
札は水に反応して、とある無臭で無色の気体を発生させるもの。いや別に、強力な毒とか、そういうのではない。
ただの、強力な眠り薬だ。
「風下に立ったが、うぬの不覚よ」
いっぺん言ってみたかった、古い忍者漫画のセリフだ。こうやって毒を風に乗せて相手に吸わせる、
使ったのが神威空間なので、風とか無いけども。でも薬で決めるとか、このNARUTO世界では滅多にないシチュエーションなので、つい。
実際、千載一遇のチャンスだった。元々寝ていたオビトは、完全に意識が落ちて、呼吸が深くなっている。
そこを見計らってから、向こうの神威空間へ移動した。
こちらの神威空間を近付けると、向こうの神威空間との歪みが俺が通れるほど大きくなったので、踏み込み、一思いにやってのけた。
うん。一撃だったよ。こう、スパッと首を落としてね……?
なんか…… すごい、簡単だった。
原作のラスボス手前みたいな黒幕を殺すのって、こんなあっけなくていいのか? と、戸惑うくらいに、拍子抜けするほど簡単だった。
人って、どれだけ強力な瞳術や異能を持っていようが、死ぬ時にはあまりにあっけなく死ぬんだなと、妙な冷め方をしてしまった。
とはいえ相手はあのしぶといオビトだ。ゼツを埋め込まれていて、心臓を刺されたりしても普通に生きていた改造人間だったはず。
万が一、切り落とした頭部だけで意識が奇跡的に戻って『イザナギ』を発動、ダメージを無かった事にされて、バトルスタートとか、ありそうな展開は凄く困る。
いや、俺も永遠の万華鏡写輪眼使いにして、株式会社うちは人材派遣の幹部の一人。相手がうちはオビトとはいえ、そうやすやすと負けてやるつもりは無い。
でもほら。ここ、木ノ葉の里のすぐ近くなんだ。
そこでスサノオを出し合って、ドッカンドッカンやりあったら、その、うちはの世間体がね……?
今回、コッソリと忍び込んでの作戦なわけだし。まだ取っ掛かりを作るだけのつもりだったから、うちはの上層部に全く説明してないし。
だからやらせはせん。復活などやらせはせんぞぉ!
微妙にフラグくさい事を考えながら、俺は迅速に行動した。ほぼ思考を挟まない、勢いだけの行動だった。
今回、ずっとそうだろうって? うん。まあ、否定は出来ない。
俺はまずイザナギ封じに、彼の眼球に手を突っ込み万華鏡写輪眼を引っこ抜いた。
どこから手に入れたのか、左目にも普通の写輪眼が入っていたので、それも回収する。
それから念のためにと、体と首へ全力の火遁の炎を浴びせた。
これでもし、目以外のどこかに写輪眼を埋め込んでいたとしても大丈夫だ。
しばし燃え尽きるオビトの死体を観察していると、不意にオビトの神威空間がぐにゃりと歪み、崩壊を始めた。
術者の死亡で神威空間が壊れ始めたのだとすれば、やはり首が飛んでも完全には死んでいなかったらしい。さすが二十年近くの長期間を黒幕として暗躍した、大物ボス。しぶとい。
崩壊した神威空間とか、どこへ落ちていくのか気にはなるが、まさか自分で身をもって確かめるわけにもいかない。
俺は慌てて、維持したままだった自前の神威空間への歪みへと飛び込み、無事退避成功。
オビトの神威空間が、徐々にバラバラになって崩れ落ちていく。
その中に取り残されたオビトの死体も、燃え落ちて形を崩し、それでもなお燃えながら、闇の中へと呑み込まれていった。
こうしてうちはオビトは、この次元から完全に消滅した。
俺の手元に回収された写輪眼一つだけを残して、骨の一片すら残らずに、消えていったのだ。
俺が黙ってさえいれば、たぶん、彼の存在や企みに関する情報も表に出てくることはないだろう。
『うちはオビト』というかつての木ノ葉の英雄が生きていて、九尾襲来を始め、裏で数々の大事件をやらかしていた。
この真相が表に出れば、せっかくクリーンな企業イメージを確立しつつある、我らが『株式会社うちは人材派遣』の評判に傷がつくかもしれない。
せっかく株式会社化して、会社の経営権と所有権をわけ、株式を里の幹部と田の国の大名や、大蛇丸などのスポンサーに分配する事でリスクを回避しつつ、役員達のやる気を引き出したばかりなのだ。
こんな所で、躓くわけにはいかない。
暗躍は暗躍のまま、闇から闇へと葬り去るのが、忍者にしてビジネスマンのクールな行いというものではないだろうか。雰囲気でしか言ってないけど。
ともあれ、こうしてうちはオビトという黒幕の始末は、思いがけずに片付いてしまった。
彼にはもう、はたけカカシの思い出の中でじっとしていてもらうとしよう。
さて。
オビトの処理が綺麗に片付いたので、もうひとりの黒幕。諸悪の根源、志村ダンゾウについても語るとしよう。
結末から言えば、ダンゾウは闇に消えた。
物理的な意味ではなく、社会的・政治的な意味で。
ことの始まりは、我がうちは人材派遣の、コンサルティング事業部の社員たち、つまりはうちは一族の者たちが、出張先の各里や各国のクライアント先で世間話ついでにグチをこぼしまくったことだった。
「いやー、うちの元職場(木ノ葉)のダンゾウっていう上司がひどくてですね……」
別にネガティブキャンペーンを張ろうとか、高度な情報戦略を仕掛けようとか、そういう意図があったわけではないし、俺が何か企んだり、実行したわけですらない。いやマジで。
自然発生した、ただの職場のストレスの吐き捨てであり、よくある居酒屋での愚痴大会のようなもの。
普通は職場のグチなのだが、今の職場にあまり不満は無い(無いとは言っていない)ので、前の職場の、盛大にあった不満をブチまけた。ただそれだけだったのだが、その波及効果は大きすぎた。
焦ったダンゾウや彼の配下である『根』の忍びたちが、火消しのためにうちは一族の悪いウワサ(「あいつらは木ノ葉の里を裏切った」「九尾の件がバレて逃げ出した」等)を流そうと画策したらしい。
いや、実際に流したようだ。だが、世間の反応は冷ややかだった。
「あっ、このウワサって……」
「あー、はいはい。ダンゾウダンゾウ」
「どうせまた捏造情報でしょ。なに企んでるのか、わかりやすいよねいつも」
噂は全く燃え広がらず、むしろ「やっぱりダンゾウは卑劣」という悪評の補強材料にされてしまうオチに。
忍者が実在するせいなのか、この世界の一般民衆、妙に賢い…… 賢くない?
それとも、ダンゾウのやってきた悪行のパターンが、あまりにも分かり易すぎるのだろうか。
まあ、元々「忍びの闇」などと、一見格好良さげな異名で呼ばれているが、あれって「確実に悪い事してる」というのがバレバレな異名だからなあ……
警戒されないとか、油断を誘えるとか、あるいは真面目で誠実とか。そういうのを表向きは装っていて、実は…… というのが、策士や黒幕の理想ではなかろうか。
スターウォーズで最後にひっくり返すまで、味方ヅラしていたパルパティーン議長のように。
あんなダンゾウは、絶対にイヤだが。
ダンゾウは恐れられてはいるが、確実に嫌われ者でもあった。世間の不信感という土台が既に完璧に出来上がっていた。
その強固な土台に、我が社の社員たちが吐いた生々しいグチという立派な建物が建ってしまったのだ。
この件の影響は、大きすぎた。ダンゾウ個人を通り越して、木ノ葉隠れの里そのものの外交的評価と信用の大幅な下落を招いてしまったのだ。
なお犯人たち(社員ズ)は「そんなつもりは無かった」と、犯行の意図を否定している。
近代政治学の祖マキャベリ曰く『謀略や裏切りを使ってよいのは一度きり、それも自らの運命を決定づける危機的瞬間のみ』である。
ようは一回コッキリの切り札だ。
だというのに、騙して利用する、弱みを握って強要する、脅迫するなどの「非常時の取っておきの手段」を、「コストが低くて結果が確実、効率的だから」という理由で常用しまくっていたのがダンゾウという男だ。
しかもタチが悪いことに、ダンゾウはその手口を敵に対してだけではなく、己の部下や同僚、果ては同盟関係にある他国の者にまで平然と適用した。
ダンゾウは根という組織の長だが、そこに所属する自分の部下全員に、呪印を刻んで自分の情報を伝えられないように縛っている。外部にばれないように、舌に。
しかもそんな風にした部下を遣い捨てる。引退した部下でも、人質を取って復帰させ、そして用済みになると始末する。特に必要が無くとも、念のために。だってそのほうが確実だから。
周りがそれを「信用を失う」と批判しても「甘い。これも里を守るための必要な犠牲よ」などと、むしろドヤ顔で言い返し、一切の聞く耳を持たない。
彼はずっとそうやって生きてきたし、それで木ノ葉を守ってきたという歪んだ自負があったのだろう。
しかし、同盟相手にすらそんな陰湿な真似をするものだから、当然に木ノ葉の国際的信用度は落ちていく。
他国からは「どうせ裏で何か企んでいる」「約束を守る気がない」と扱われ、まともな条約すら結んでもらえない状態にまでなっていたのではないだろうか。
岩隠れのオオノキなど、木ノ葉にすごい不信感を持っていたと思う。
原作における雲の国との事件も良い例だ。
和平条約を結びに訪れた雲の国の忍頭が、あろうことか日向ヒナタを誘拐しようとし、返り討ちに遭って殺害された、あれだ。
普通なら誘拐を企てた雲の国側に100%の過失がある。にもかかわらず雲の国は「ウチの忍頭を殺した落とし前をつけろ。日向の首を出せ。さもなくば戦争だ」という無茶苦茶な恫喝を行ってきた。
もし木ノ葉が国際的に信頼されるまともな交渉相手だと認識されていたなら、あんな言いがかりのような外交暴走を許すはずがない。
「どうせ木ノ葉のことだ、裏で汚い真似をしようとしていたに違いない」
そう考えての、雷影の無茶苦茶だったのではなかろうか。
「強く出れば三代目は折れる」
そんな具合に、なめ切られていたのもあるかもしれない。実際、原作の三代目火影、猿飛ヒルゼンはこの不当な要求を呑み込み、日向ヒザシの犠牲という形で手打ちにした。
ダンゾウが裏でやらかし続けて、木ノ葉の国際信用を売り払い続け、三代目が外交で泥をかぶり、過剰なまでに譲歩して、そのツケを払う。そうしなければ、話し合いの席にすらついてもらえないから。
そんな負のループを、木ノ葉はずっと繰り返していたのだろう。
そしてそのパターンを諸外国は、少なくとも雲の国は読みきっていた。それゆえの無茶ブリだ。
日向ヒザシは犠牲になったのだ。
古くから続く木ノ葉のヒルゼンとダンゾウの因縁。
その
なおダンゾウ本人は、三代目の苦渋の決断を「ヒルゼンは甘い」と苛立たしく見下している模様。
自分のツケを全て三代目に回し、尻拭いしてもらいながら、それに一切気づかず「俺こそが裏で里を支えている」と強烈に思い込んでいる。
親の金で気ままに振る舞う、勘違い息子の方がまだマシか。
三代目、本当にもっと早くヤツを叱り飛ばしてやってほしかった。あとホムラとコハルの相談役コンビ、お前らも影の薄いイエスマンやってないで少しは働け。ダンゾウを止めろ。
ともあれ、この時空ではうちは一族が堂々と独立し、その不当な待遇とダンゾウの嫌がらせの数々を世間にフルオープンにした結果。
ダンゾウは夜逃げした。
自分が呪印で縛り上げた『根』の部下たちを引き連れ、闇夜に紛れていずこかへと姿を消したのだ。
とうとう「木ノ葉を守る」という彼自身の唯一の大義名分すら、ダンゾウは放り投げたらしい。
まあ、当の木ノ葉の忍や住民たちからも冷ややかな視線を向けられるようになり、自分を認めない里を見限ったのかもしれない。
九尾襲来の時や、木ノ葉崩しの時など、里が大変な時に絶対に表に出てこないくせに「里のため」とか言っちゃうお爺ちゃんは、ソンケイされるかというと、うん。
そんな感じで、元々好感度が低かった人物の、アレなウワサが世間に流れちゃって大炎上したら、ねえ?
そら木ノ葉隠れの里の住人たちからの目も、冷たくなるよ。あそこの人たち、冷たい目をするのは得意だし。ソースはそれを向けられていた原作の幼少期のナルトと、カカシの父親。
あるいは、このままでは里の幹部としての地位を失い、部下や財産も無くして完全に孤立すると悟って、逃げ出したのかもしれない。
どちらにせよ、ダンゾウ本人のプライドからすれば「恩知らずの愚か者どもめ、後悔させてやる」と逆恨みを募らせていることだろう。
集団で木ノ葉を離れたという点だけを見れば我がうちは一族と同じだが、こちらは正当な手続きで退職届を提出して独立したベンチャー。
向こうは背任と横領の末に、無断欠勤からの失踪をキメた犯罪組織。
まったく似ても似つかないものだとハッキリと主張しておく。
「クックック…… 『忍びの闇』が闇に消えおったわ」
うちはの里のあちらこちらで、そう言って酒や珈琲を片手に嘲笑う社員(一族)が多かった。
だが、経営に携わる側の俺としては、行方が掴めない以上笑ってもいられない。
放っておいたら、あの老害は絶対にロクでもないテロ行為や、嫌がらせを仕掛けてくる。その標的は木ノ葉の可能性も高いが、ウチに来る可能性もまた高い。ヤツはやらかす。絶対にやる。
だってダンゾウだぞ?
己の正義を信じて疑わない、勘違いした働き者ほどタチの悪いものは存在しない。
とは言え、姿をくらましたダンゾウを今すぐ探す手段もない以上、仕方が無い。警戒レベルを上げて備えておくくらいしか、対策も無い。
あとは里のみんなに周知徹底して、用心を呼びかけるくらいか。
ついでなので、三人目の黒幕の大蛇丸についても話しておこう。
大蛇丸とは、我が『うちはの里』が立ち上がる前後の時期から、なぜか非常に深く親密な関係を築いてきた。
今ではもう、互いの強みを活かした立派なビジネス・アライアンス(同盟関係)である。
なにしろ、かつて一緒に木ノ葉隠れの里へ『強制差し押さえ』という名の電撃訪問を行った仲なのだから。
まあ、死人はどの陣営からも、一人だって出なかったけども。
あの時の木ノ葉からの強制資産差し押さえは、本当に助かったものだ。
見切り発車で立ち上げたせいで、実は資金繰りがかなり厳しかった里の初期財政を、一気に潤してくれた恵みの雨だった。
「おい! 早く今回の回収資産がどれだけの利益を生んだか、試算して帳面に起こせ!」
そうせっついてくる長老衆の焦りや興奮の気持ちだけは、俺も痛いほど解かっていた。
気持ちだけは。
(そう思うなら、指示ばかり出してないで、お前らもソロバンでも電卓でも叩いて手伝えよ!)
そんな現場の愚痴的な反発の方が、遥かに強かったが。
まあ、何もない原野を一から開拓し、インフラを整えて新たな忍びの隠れ里(現 本社所在意)を建設していた時期だ。
誰も彼もがブラック上等で働いており、決定的に人手が足りていなかった。
あの時の猫の手も借りたいほど忙しいという痛切な体験があったからこそだろう。
一族の血継限界の極みであり誇りでもある『スサノオ』を「建設作業や土木工事に使いましょう」という俺の提案が、あっさりと受け入れられたのは。
今振り返ればだが。
「スサノオを便利使いしようぜ」というのは、普通のうちは一族の感覚や常識ではない。
それを提案した俺は転生者だからまだいいが、即座に採用したうちの一族は、大丈夫なんだろうか。こう、この世界の常識的に。
だが実際、重機として現場に投入されたスサノオは、信じられないほど優秀で高効率だった。
その巨躯による整地能力、圧倒的なパワー、意外と精密に動かせる、印だって組めちゃう手による資材運搬。
作動テスト中に俺の頭の中を『レイバー』とか『建設用メック』とか『ザクタンク』とか、前世のサブカル単語がいくつか脳裏をよぎったが、まあ機能と役割的にはどれも同じようなものだ。
資本主義社会におけるスサノオは、もはや人型重機なのである。
「よし、スサノオ・建築モードと名付けよう」
俺の少しふざけた名付けは、いつの間には広まっていた。
脱線していたが、大蛇丸の話に戻ろう。 ともあれ、そうしてうちはの血と汗の労働時間で発展させてきた我が里を守るため、俺は大蛇丸という危険な天才科学者との関係維持には、並々ならぬ神経を擦り減らしてきた。
「大蛇丸さま、クローンを育成するにしても、遺伝子操作がしやすい万能細胞というものが存在しましてね……」
「STAP細胞的なサムシングは、あります! 本物ではないですが、極めて近い万能多能性細胞が!」(※マジである)
「雷遁のチャクラで高速電子を金属ターゲットに衝突させると、内殻電離が起きてX線が発生します。これを細胞に照射すると突然変異のコントロールが……」
「初代火影の木遁細胞と、我がうちはの万華鏡写輪眼保持者の細胞を融合させた場合……」
「うちの引っ越しでも活躍したんですが、時空間忍術の術式を刻んだ巻物に物体を封入して運ぶ技術、便利ですよね。これを一般人でも扱えるようにすれば、物流市場に革命を起こせますよ?」
「自己再生、自己増殖、自己進化という『3つの自己』をクリアしたナノ細胞を構築できれば、倫理観を別にすれば真の不老不死が……」
「ところで大蛇丸さま、そもそも貴方が『死にたくない』『不老不死になりたい』と願った原点って何でしたっけ?」
……等々、思いつくありったけの前世の科学知識や架空のアイデア、魅力的な研究課題という名のエサを常に彼の目の前にチラつかせてきた。
「そうだ、ヒマだし『うちはの里』に行きましょうか。襲撃して眼を根こそぎにしちゃいましょう」
などという物騒な考えを起こさせないよう、頭の中の引き出しを片っ端からひっくり返して、知恵を絞ってきたのだ。
まあ、一族の幹部たちには「またあの怪しげな男と、良からぬ密談をしている」と、全く評価されなかったが。実際、その通りでもあるから困る。
しかし、何事にも限度はあったようだ。少しばかり、やりすぎてしまった。
俺が自分の保身と里の平和のためにと、必死にエサを与えすぎた結果、とんでもない副作用が生じてしまった。
大蛇丸の研究は俺の与えた知識によって異常なスピードで加速。その結果、イタチのクローン体に『永遠の万華鏡写輪眼』を移植し、さらに腕には十数個の写輪眼をびっしりと並べた、文字通りのバケモノが誕生してしまったのだ。
『パーフェクト大蛇丸マークII』
俺は密かそう呼んでいる。マークIIIとか、Zに進化しないことを、切実に祈る。
さすがに黙っていられず上層部に報告したが、評価されないどころか怒られた。それはそうなる。
もう、ぐうの音も出ないレベルの過失である。
言い訳をさせてもらえれば、俺だって渡せるネタのストックが尽きかけていたのだ。
大蛇丸の興味を惹きつけ続けるためには、徐々にネタのレベルを上げて危険な領域に踏み込まざるを得ない。だから、仕方がなかった。
そろそろ、大蛇丸に対して究極の精神書き換え幻術『イザナミ』の発動を本格的に検討すべき段階なのかもしれない。
だが、あれにも大きな問題がある。イザナミは対象が己の過ちを受け入れて改心するまで無限ループにハメ込む術だが、改心して社会復帰してくるまでに、いったいどれだけの時間がかかるか分からないのだ。
その間、トップである大蛇丸がフリーズ(精神機能停止)状態になれば、統制を失った音の隠れ里の危険分子たちが一斉に暴走するリスクがある。
特に、原作知識で予見していたとはいえ、一人とんでもなくヤバい男が健在なのだ。カグヤ一族の生き残りの、君麻呂である。
君麻呂は原作だと、カグヤ一族特有の血継限界『屍骨脈』の影響で、血中カルシウム濃度の異常上昇により内臓や血管が詰まり、若くして病死する宿命にあった。
しかし、現在の技術革新を果たした『パーフェクト大蛇丸マークII』が、そんな優秀な手駒の欠陥を放置しておくかと言えば、そんなわけは無く。
クローン技術を用いた、臓器の完全移植と定期的な透析、さらには「ついでだから」と腕にイザナギ用の写輪眼を移植して、いざという時の残機も確保。
病を完全に克服した『パーフェクト君麻呂』が誕生してしまった。
しかも彼、我が社のスサノオ部隊の戦闘映像を見て何か変なインスピレーションを受けたらしく、屍骨脈の状態2(呪印解放)の際に、自身の骨を限界まで増殖・肥大化させて巨大な骨の巨人を形成して動かすという、ワケの分からない大技まで修得している。
まあ、正面からぶつかれば、我が『うちは建設 警備事業部』が誇るスサノオ軍団の圧倒的物量で勝利できることは間違いない。
しかし、もし彼のような狂信的な個体に都市型テロでも起こされたら、いくら勝てたとしてもこちらのインフラや社員に甚大な被害が出る。そうなればビジネス的には完全な「負け」なのだ。
さらに言えば、知能が制限されているとはいえ、大蛇丸側に配備されたクローン万華鏡写輪眼部隊がどう運用されるかも読めない。
結論として、今後も適度に魅力的な研究テーマ(エサ)を与えて時間を稼ぎつつ、大蛇丸が原作どおりに、いつの間にか改心してキレイな大蛇丸になってくれるのを期待する。
それが現在取り得る、唯一の大蛇丸対応策になる。
まあ最悪、月に大筒木一族の生き残りだか末裔だかと、その施設だか遺跡だか遺産だかがあるはずなんで、そっちの探索と探求に誘導して、宇宙に目を向けてもらう方向に誘導するか。
うーん、なんとも解決がズルズルと先延ばしになりそうだ。ヘビだけに。
ああ、誰かこのエサやり、代わってくれないかなあ。