モブ令嬢に転生したみたいですが私は推しカプの幸せを見守る以外に興味ありません   作:九ツ森とむ

7 / 7
7/7

「……は?」

 

 だめだ、取り繕えない。

 思わず素が出た。

 えっ。今どういう話の流れだった? 何が起こって、どうしてそういう結論になった? 

 だいぶ話の内容がすっ飛ばなかった?

 

 私が、ハルトムート王子殿下の、妃?

 

 いや、無理です。無理でしょう。

 王太子妃、ゆくゆくは王妃だよ!? 身分的にも、能力的にも……!

 

「……ダメかな?」

 

「あっ、あの……わたくしには、実はもう想い合う相手がおりまして……!」

 

 あまりに驚いて咄嗟に嘘ついてしまった……! 

 そんな相手、いないんだけどね!

 

「もしかして、クランツのことかい?」

 

「そ、そうです!」

 

 クランツっていうのは、私とテストのたびに学年1位を争っているイケメン天才眼鏡だ。

 まあ確かに、私の最推しはリカルド君だけど攻略対象の中ではクランツは結構好きだったんだよね……。

 うん、殿下、あなたなかなかいい線行ってるよ。

 

「そうだね……確かに君たち二人はいつも試験の結果で切磋琢磨しているしね」

 

「そうなんです、それで……」

 

「でもおかしいな? 彼は先日ヴァルド侯爵令嬢との婚約を発表したところだけれど……」

 

「えっ」

 

 え、まずい。知らないそんなの。

 

「これも学内では結構大きなニュースになっているよ。まあ私のような王族とは違って婚約自体が報道されたりするわけじゃないから、興味がない相手のことであれば知らないこと自体はおかしくないけれど……でも」

 

 ええ。そうですね。想い合うくらいに自分にとって大切な相手の、そんな大きなニュースを把握してない。

 それは、おかしいですよね……?

 

「………………」

 

「……私が言いたいことは伝わったようだね? この件についてはこれ以上追及する気はないから安心してほしい」

 

 あ~嘘がバレてる~。そして見逃されてる~。

 あ~カマかけられたのにひっかかっちゃったよ……。動揺していたとはいえ迂闊だった。

 

 殿下はふう、と一つため息をついた。

 

「……イザベラが僕に彼への想いを打ち明けてきたときは、正直とても驚いた。それでも心から想い合う相手がいること、そしてその相手と一緒になること。それはきっと何事にも代えがたい尊いことなんだろうと、うらやましく思ったものだよ。だから私も、この際自分の気持ちに正直になってみようかな……なんて、そんな欲が出てしまった」

 

 自分の、気持ち……。

 うん、それって、どういうこと? この話の流れだと、まさか私が殿下の想い人っていう話にならない?

 

「…………ミーネ、君のこれまでの功績は本当に素晴らしい。見直しした事務作業や会計処理の仕組みや、君が発案した道具は今やこの生徒会のみならず国を支える文官たちになくてはならないものばかりだ。私はいつも、君のその発想力に驚かされているんだよ」

 

「その……恐縮です…………」

 

 違うのよ……私は推しのリカルド君を闇落ちさせないためだけに、そのために事務作業を効率化してただけなの……! その副産物なんだよ、それも前世知識チートを使ってたわけだし……! 

 でも言われてみればそうだ、私の発想を拾って仕組みを採用したり、道具を作ってくださるよう手配してくださったのはいつもハルトムート殿下だったわ。

 そりゃあ生徒会長だし王子だし……ってあまり深く考えずにずっとお世話になってたんだけど、もしかして……殿下って、ずっと私を特別扱いしてた……?

 

「はじめは、とても面白い発想をする令嬢だなと思っていた。そもそも、女子生徒が自己推薦でわざわざ生徒会の役員として入ってくる時点でかなりの変わり者だ。その上、成績はいつも学年3位以内をキープしている。そしてどんどん仕事を効率化していって、便利な道具を生み出して行って……なのに君はいつも謙虚で、自分よりも周囲の人間のことを考えて皆の仕事がやりやすいように立ち回っている。私はいつの間にか、君を目で追うようになっていたんだよ」

 

 おっと、これはかなりストレートな口説き文句が来たな……!? でも、殿下……本当にごめんなさい……! 

 外見は17歳でも中身がアラサーの私は、高校生くらいの年齢のあなたに愛を囁かれても、…………正直、無理。

 若い子がこんなアラサーの私に言い寄って大丈夫なのかなって心配になるし、もっと若い子と一緒になった方がいいんじゃないのかなっていう罪悪感の方が勝ってしまうんだよね……。

 ……ああでも……殿下ご自身が決して悪いわけじゃないし、ましてや私は中身がアラサーですなんて言えないし……これ、本当にどうしよう。

 

「……そして気づいたんだ。君の、リカルドを見る優しい目に……」

 

「あ、あぁ~……」

 

 まあ、確かにね。優しい目というか、憧れの推しを見る目で、ある意味ではすごく特別な相手として……そういう視線を向けていたとは思う。

 それに実際リカルド君も私にすごく懐いてくれていたしな……それは私が、彼が大好きなユリアの友人だからなんだけど、そんなこと知らなければわからないもんね……。

 

「そして私自身も、政略の相手とはいえイザベラという婚約者がいる身だっただろう? そして君がリカルドを好いているのなら……この気持ちは自分の心だけに秘めておこう。ずっとそう思っていたんだよ」

 

 でも、今や殿下自身はご婚約が円満に解消されてフリー。

 でもって私がリカルド君を好きということも勘違いだとわかった。

 つまり? うん、そういうこと?

 

「ヘルミーネ=ジルバー殿」

 

 椅子から立ち上がった殿下は、混乱して立ち尽くしている私の前に膝をつく。

 

「どうか、私の想いを受け入れてはもらえないだろうか」

 

 殿下が私の手をとり、手の甲にキスをしようとして……そこで私の意識は、ぷつりと途絶えた。

 

***

 

「…………はっ」

 

 頭ががくりと下がり、私の意識は浮上する。

 隣に座っていたスーツの女性が少し身じろぎし、思わずそっちを見ると少し迷惑そうな表情でこちらを見ていた。

 どうも私は彼女の鞄にもたれかかって寝ていたみたい……申し訳ないです。 電車の現在地は私が降りる駅の二つ前。乗り過ごしてしまうほど、長い時間寝ていたわけではないみたい。

 

 ……なんとなく、すご~く長い夢を見ていた気がするんけど、ちゃんと思い出せないな……。

 気分としてはなんだか二年間くらいの生活をしてきたくらいの感覚だ。

 

 はぁ、とため息をついてスマホのロックを解除する。

 最後に開いていたSNSの画面が表示されて、私は手癖ですぐにフィードを更新する。

 神絵師……昔いたジャンルの頃からフォローしっぱなしになっているんだけど、彼女の新規ポストが私の目に飛び込んできた。

 

「えっ」

 

 思わず声をあげてしまい、慌てて口を押さえる。

 

 そこに記されていたのは、昔大好きだった同人ノベルゲームに追加ルート入りのリメイク版が出るというお知らせ。

 発売からもう何年も経ってるけど、ふーん、……うん、追加ルート……えっ、追加ルート!? 

 そこには『攻略対象キャラクターが大幅追加!(既存・新規含め)』っていう文字の下に、何人かのキャラクターのシルエットだけが並んでて…………。

 あぁ~この髪型。知ってる……!! 見間違えるはずない、だって……私の最推しの彼だもんね!? 

 えっ、これ、夢じゃないよね……!?

 

 一度深呼吸して心を落ち着かせてから、もう一度お知らせを読み返す。

 リメイクなので続編や完全新作というわけではなく、お話の大筋自体は変わらない。

 ただ既存ルートも途上のイベントが増えてシナリオもボリュームアップ、スチルや立ち絵も新規追加されて、更に攻略対象も増えて新キャラなんかも出るみたい。

 ……ははーん、なるほどね、理解した。これは、……あれだよ。実質無料(・・・・)ってやつです。

 マジかぁ~生きる希望が生まれた~ありがてぇ~マジで生かされてるわ、私……!!

 

 更にお知らせの続きには、予告として一部の追加新キャラクターの立ち絵が並んでいた。

 興奮していた私は、その中にヒロインの友人という設定の栗色の髪の少女がいることについて気に留めることはなかった。

 

 ーFINー




「モブ令嬢に転生したみたいですが私は推しカプの幸せを見届ける以外には興味ありません」を、ここまで読んでくださってありがとうございました! このお話はこれにて完結です。
今週末から、長編「みんな婚約者のことが好きすぎる」の連載をスタートします。「小説家になろう」など他サイトでは既に完結済みの作品で、この短編はその連載開始に先駆けてお届けした一作でした。
よろしければ、そちらでまたお会いできたら嬉しいです。ご縁があれば、是非よろしくおねいがいいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。